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王太子が暗殺されるまであと7日  作者: 星降る夜


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20/22

20 呪いの条件

 

 リゼット様のお屋敷からの帰り道、俺とランスロット団長はしばらく無言だった。


 手を汚さずに暗殺なんて、本当に出来るのか。毒以外で……。


 いったい、どうやって防ぐんだ? 


 しかも、今夜だろう……?


 リゼット様が着々と手を打っている。子供だましにしか見えないが、大丈夫なのか? 


 次々と浮かぶ疑問。だいたい呪いの防ぎ方なんて教わっていない。


 前を行くランスロット団長に声を掛けた。


 「殿下にはなんと報告しますか?」


 ランスロット団長は大きく一つ息をついた。


 「リゼット様が今夜王宮に来られて、お父上の発明品を試したいそうだ。違うか?」


 やはり、言わないんだな。


 「はい」


 俺は短く頷いた。


 言えるわけがないな。今夜夜這いが来ますなんてね。おまけに暗殺まで……。


 リゼット様、男の寝室に夜中に忍び込むとは……。


 「そんなことより、リゼット様がおっしゃっていたことが気になる。一度身辺を洗わなければな」


 確かに、伴侶はわかるとしても付き合っている相手まで調べるとは考えていなかった。そこまで身元を徹底的に調べるとは一仕事だな。


 頭が痛い。俺は書類仕事は苦手なんだ。


 考えに沈んでいると、ランスロット団長がポンと俺の肩に手を置いた。顔を上げると、意味ありげに口角を上げていた。


 「まだ侍女との一件聞いていなかったな」


 うわっ、あの夜を思い出せば、一気に悪寒が……。


 「思い出させないで下さいよ」

 「楽しんだようだな」


 ランスロット団長が笑いながら言った。


 「とんでもない、拷問でしたよ」


 いやぁ~あの侍女の相手は大変だったんだ。恨みがましくランスロット団長を睨んだ。


 見かけと違って、とんだあばずれだった。しゃべり出したら止まらない。最近は人使いが荒いだとか、金払いが悪いだとか不満爆発で、愚痴を一晩付き合わされたんだ。参った。酒癖も悪かったな。


 ああ、そういえば一つ気になることを言われた。


 「もうすぐ臨時収入が入るからおごってくれるそうです。旅行に誘われました」

 「臨時収入?」


 ランスロット団長は呟きながら、俺と目を合わせた。


 「怪しいな」

 「ええ、怪しいですね」


 俺も深く頷いた。本当に今日は何かが起こりそうな予感がする。


 ランスロット団長がちらっと俺の顔を眺めた。


 んっ? なんだ。まだ何かあるのか?


 「行くのか、旅行に」

 「はぁ? 行きませんよ!」


 行くわけないだろう!



      ♢      ♢      ♢


 ランスロットとアルベルトが帰るともう午後になっていた。私はもっと祈祷について知りたかった。まだそれを防ぐ方法がわからなかったから。


 テントの祈祷は機能しないにしても他の可能性があるのよね……。


 遅く起きたお父様が食堂に現れたので、教えてもらわなきゃ。


 「お父様、おはよう。もうお昼ですよ」

 「ああ、そうだな」


 寝ぼけまなこをこすっている。


 「ねぇ、お父様。この間言ってたポコ族の祈祷の話詳しく教えてくれる?」

 「祈祷か? 興味あるのか?」


 私は頷く。


 お父様が言うには祈祷は主に未来を占うものだった。


 なんだ、ただの占いじゃない。


 「だが、邪悪な使い方もある。君は知らなくていい事だがな」


 えっ? 邪悪な!?


 それよ、それだわ!


 私はお父様の手に両手を添える。


 「お父様、何が危険かがわからないと、避けられないんです。教えてください」


 じっと、お父様の目を見つめた。

 お父様はふっと笑うと私の両手を軽く握る。


 「穴も知らなければ落ちてしまうということか。君は知らぬ間に、大きくなったんだね」


 そう言って私の頭をなでる。それからお父様の教えてくれたことは、今日、まさにこれから起ころうとしている事だった。


 人に邪気をぶつける祈祷。ぶつけられた人は、邪気の大きさにもよるが、病気になったり亡くなってしまうこともあるらしい。

 ただ、そんな恐ろしい祈祷にも弱点はある。呪いは直接相手の姿を見て襲うわけではないそうだ。対象の『特徴』を感知して向かっていくという。


 特徴を感知する!?


 特徴って何かしら……。


 つまり呪いは相手を直接見ることは出来ない。

 何か特定の特徴を手がかりに対象を絞り込むということ?


 だとしたら——王太子殿下の特徴を私は知らない。名前はわかる。でも名前だけで呪いが届くなら怖すぎる。もっと具体的な何か、顔とか、声とか、あるいは魔力の質とか?


 あのベッドで苦しんでいた少年の映像が浮かぶ。

 ぎゅうっと握った手。力なく落ちていく瞬間を思い出すと胸が締め付けられた。


 夜、部屋でベッドを整えているマーサに聞いてみた。


 「ねえ、マーサ。王太子殿下の特徴って何か知っている?」


 マーサは持ってきた水差しをサイドテーブルに置いた。


 「それは、何と言っても深淵の青と呼ばれる瞳です。じっと見ていると星が流れるそうですよ」


 マーサは得意げに言う。


 「マーサ、見たの?」

 「見なくてもわかります」

 「あ、そう」


 聞く人を間違えたわね。


 瞳か……。


 夢では固く目をつむっていたから見られなかったのよね。


 マーサが部屋を出ていくと、私は一つため息をついた。その時部屋の窓をノックする音がして、私は猫の鳴き声をまねた。


 「ニャァー」


 窓の外からは鳥の鳴きまねが聞こえる。今朝決めた合図だ。


 「コッコッコッ」


 んっ? にわとり? 


 アルベルト! にわとりは夜に鳴かないんだからね……もう!


 急いで窓を開けた。


 「お嬢様お待たせしました」


 悪気のない顔でアルベルトが現れる。


 「アルベルトさん。夜はにわとりじゃなくてフクロウとかですよね?」

 「フクロウ? ですか……」


 「何がまずかったのかな……」と、不思議そうな顔でつぶやくアルベルト。話にならないわね。


 私は諦めてさっさとカバンを肩にかけると、空気清浄機をアルベルトに渡す。今日はそんなことにかまっていられないわ。


 アルベルトは空気清浄機の袋を肩にかけるなり、ひょいっと私を抱き上げ、そのまま窓から飛び降りたのだ。


 「……っ!」


 私は両手で必死に口を塞ぎ、悲鳴を噛み殺した。


 ……し、死ぬかと思ったわ。


 私は、思いっきりアルベルトを睨んだ。


 アルベルトは何事もなかったかのように涼しい顔をして私を下におろす。


 ……やめてよね、本当に……。


 膝ががくがくしている。


 私は足が震えているのをごまかすように、走り出した。上手く歩けなかったから。


 「お、お待ちください」


 アルベルトが声を掛けてきた。それには答えなかった。


 知らないもん。


 あなたは、どなた?



 



 

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