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王太子が暗殺されるまであと7日  作者: 星降る夜


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18/21

18 それぞれの夜


 僕は王宮に戻るとギルバートとランスロットを呼ぶ。


 何か言いたそうなギルバートを遮った。僕がふらふらと外へ出るのが気に入らないんだな。


 「明日の夜、こちらには誰も近づけるな。侍女もだ」


 ギルバートは訝しげに眉根を寄せた。少し考えるようにしてから、口を開いた。


 「では、後で侍女長の方へ言いましょう」

 「待て、それはダメだ」

 「ダメ? では当日急に立ち入り禁止にすると?」


 明らかに、納得がいっていなさそうなギルバートに続けて言う。


 「ああ、それがいい。ランスロット、信用のおける者だけを手配するように」

 「明日は、何が……」


 ランスロットが遠慮がちに尋ねてくる。僕もそれを知りたいんだ。


 「わからない。いつでも動けるようにしておくんだ」


 僕はギルバートに念を押す。


 「ギルバート、周りに気づかれないように上手く動くんだ。いいな」


 それだけ言うと2人を下がらせた。まだ、僕の中で考えがまとまらない。


 明日王宮で何かが起こる。これは確かだ。だが、それは何なんだ。


 リゼの様子を見ていれば何かが起こることは明白だった。


 いや、それは以前から感じていた。不穏な動きはもうすでにあった。僕の周りの不審な紛失事件や、ペットの死。頻繁に入れ替わる王宮の人事。


 僕が子供だから、周りが、見てみないふりをしていた。


 それなのに、リゼはあの小さな手で必死に止めようとしている。


 リゼは気付いていないだろう。強い決意を秘めたとき、彼女の瞳は淡い桃色に染まる。


 以前も目にした覚えがある。あの瞳の色の変化は魔力のせいか?


 ゆるぎない決意。覚悟を決めたその姿は、僕にはないものだ。


 リゼ、君がそうまでして守ろうとしているものは何なんだ。


 教えてはくれないのか……。


 胸がチクリと痛む。僕はそっと心にふたをした。


 今は、明日に備えなければな。



      ♢     ♢     ♢



 騎士団の宿舎に戻ると、ランスロットがアルベルトを呼びつけていた。


 「団長、お呼びですか」

 「お前に聞きたいことがある」

 「リゼット様の事ですか?」

 「ああ、彼女は何をしようとしているかわかるか」

 「はい、聞いたので」


 ランスロットはあきれた眼差しをアルベルトに向ける。


 「なぜ、殿下に言わないのだ」

 「言えますか? あなたの暗殺を止めようとしていますなんて」


 そう言うとアルベルトは視線を窓の外にやる。


 ランスロットはバンっと机に手をつくと立ち上がった。その拍子に椅子が後ろに倒れた。


 「お、お前、そ、それは本当か……」

 「暗殺が本当かどうかはわかりません。でもリゼット様はそのために動いておられます」

 「その情報はどこからだ」

 「それについては教えてもらえませんでした。どうします」


 アルベルトは「お前はどうするんだ」とでも言いたげな視線をランスロットに向けた。


 「証拠は?」

 「ありません」

 「犯人は?」

 「俺が知るわけないでしょう?」

 「何もなしか……」

 「リゼット様がそう思っておられるだけです」


 ランスロットは倒れた椅子を起こすこともなく、机に両手をついて頭を抱えた。


 「どうする……いや、何の証拠もない話を本人には言えん」

 「ですよね」

 「……だな……しかし……」


 めずらしく歯切れの悪い団長の言葉に、アルベルトは少し口角を上げた。ほら見ろ、言えるわけがない。


 狙われているのが本人でなければ相談のしようもあるが、ターゲットが王太子殿下その人だというのだ。殿下とは言え、まだ14歳の少年であられる。


 アルベルトもまた小さくため息をつく。


 ランスロットとアルベルトは顔を見合わせて、共に頭を抱えた。


 2人の長い夜が始まった。



      ♢     ♢     ♢




 今日は、マーサがチキンを焼いてくれた。建国祭のお祝いだって。


 「ねえ、マーサ、王太子殿下ってどんな方なの? 見たことがある?」

 「今回初めてのお披露目で凄い人だかりでしたね。見には行かなかったんですよ」


 マーサは残念そうに言う。見たことがないんだ。


 王太子殿下は亡き王妃様にそっくりの青い瞳に国王陛下と同じ黒に近い紺の髪。遠くからでも高貴なオーラが出ていたというからすごい。


 「お嬢様はパレードはご覧にならなかったのですか?」

 「夢中で魔石を選んでいたから、見られなかったの」


 パレードには間に合わなかった。もっとも見るつもりはなかったんだけどね。夢で見た少年と重なれば胸が苦しくなるもの。すべてが終わった後ならまだしもね。


 私の言葉にマーサは頷く。「あんなにたくさん買ってしまいましたものねぇ」と呟いていた。まずいわ、これ以上この話題は避けるべきね。


 「国王陛下は他には奥様はいないの?」

 「そうなんですよ、とても王妃様を愛していらしたんですよ」


 と、うっとりと目を細めた。何でも語り継がれている物語があるそうだ。意外に乙女なマーサ。


 その後、ひたすらうんうんと相槌を打ちながらマーサの話を聞いていた。頭の中は明日の事でいっぱいだったから、何も頭には入っていかなかったんだけどね。マーサごめんね。


 部屋に帰ると明日の準備に取り掛かる。明日の朝でも良かったんだ。けどなんだか落ち着かなかったの。


 夜中に紛れるなら黒い服が良いわね。白だとお化けに間違われるから。それから、この間のトンカチとお父様の三種の神器を入れて、ポケットには守りの石と、骨ね。見れば骨はもう少しで全体が透明になりそうだ。


 私は骨をそっとなでると、キスを落とした。「おやすみなさい」


 明日はどうやって王太子殿下の寝室にもぐりこむかよね。問題はそこだ。早めに行ってずっと部屋にいるか、暗くなってから行くかはアルベルトと打ち合わせしないといけないわね。


 空気清浄機も持ってもらわないといけないからアルベルト次第だわ。


 私は大きな布で空気清浄機を包むと、昔の大泥棒みたいにそれを背負しょうアルベルトの姿を想像した。赤い髪は目立つからほっかむりも必要よね。


 2人分のほっかむり。気分はすっかり大泥棒。明日の成功間違いなしだわ。


 いつの間にか夢の中に入っていった。


 明日、自分の運命も大きく動くとも知らずに。




 

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