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王太子が暗殺されるまであと7日  作者: 星降る夜


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13/20

13 建国祭の影


 その日王都では建国祭のパレードが繰り広げられていた。沿道には人が集まり、城の後ろの湖からは花火も打ち上げられる予定だ。


 沿道に群がる人々を私は上空から眺めていた。


 上空? 雲の上! 私もしかして浮かんでいるの?


 街が一望できる。良い眺めだわ。下に広がる街並みを眺めていると、赤い風船に目が留まった。

 前にも見たことのある風船が流れていく。目で追っていくと大通りから離れた路地へと流れていった。


 路地裏にある小さな商店の屋根に引っかかる。その下にフードをかぶった5,6人の集団がいた。怪しい。

 周りを見渡しながらマントを羽織った人が何かの指示を出す。


 人だかりは街道のパレードにくぎ付けだ。気が付く人なんて誰もいない。入り口のドアを斧でたたき割っていた。


 前世の銀行強盗みたいだわ。そう思った瞬間にクローズアップされるみたいに中の映像が目の前に飛び込んできた。


 荒らされた店内。床には砕けた棚と転がる魔石。店主らしき男が倒れている。


 「赤だ! 赤い魔石を探せ」


 赤い魔石? その言葉に胸が詰まったような感じがして、はっとする。


 何だろう、この感覚は……。背筋が寒くなり冷や汗が背中を伝わった。だ、誰か来て……。声を上げようとしたその時、ぱっと目が覚めた。


 部屋の中はまだ暗い。


 ――夢……? 今のは夢なの……。


胸の奥に何かが引っかかっている。赤い魔石、という言葉が頭から離れなかった。


 夢で見た、あの店が襲われる。何故? 誰に?


 祈祷と何か、関係があるんだろうか?


 パレードが行われている王都の片隅で、盗賊が暗躍するなんて……。


 窓から入る月明かりを受けて、この間拾った骨がキラッと光った。


 この骨はどんどん透明度が増してくるような気がした。 


 骨なのに成長するのかしら……。


 骨を手に取り光に透かしてみる。


 透明になった骨の奥に、小さな虹が揺れて見えた。


 きれい……。


 一度起きると、なかなか寝付けなかった。嫌な予感が胸の奥に残っている。


 いつの間にか外は白っぽくなっていて夜明けを告げる鳥たちが鳴きだした。


 アルベルトが来るまでに準備をしなきゃ。そして、アルベルトを巻き込むわけにはいかないわ。


 引き出しから手帳を取り出すと箇条書きに書き込んだ。


 忘れるといけないからね。


 お父様を起こすと、寝ぼけ眼のお父様に魔石屋の場所を聞く。何と顔なじみの店だという。お父様の名前を出せば安くしてくれるらしい。ラッキーなような、アンラッキーなような。だって、襲われちゃうんだもの。


 「お嬢様、お迎えに馬車が、豪華な馬車が来ていますが……」

 「……馬車?」


 まさかアルベルト? お迎えって馬車だったの!


 急いでカバンに昨日持っていたもののほかに、クマのぬいぐるみと、護身用のトンカチ(剣は持っていない)とキッチンから目くらまし用の小麦粉を拝借した。門の所へ行けば立派な馬車が停まっている。


 門の脇には昨日と同じ騎士服に身を包んだアルベルトさんが佇んでいた。


 「すみません。お待たせしました」


 私が言うと、アルベルトは手を差し伸べて、子供の私をちゃんとエスコートして馬車に乗せてくれた。


 「リゼット様、本日はどちらへ」


 王都の街へと馬車を走らせながらアルベルトさんが聞いてくる。クルクルした赤毛が今日はやけにキューピットみたいにみえる。少し冷たい感じの緑の瞳が柔らかく細められた。


 この人もこの国の大切な人だもの。何も知らずに巻き込まれるわけにはいかないわ。


 「あの、今日は街まで送っていただいたら、別れましょう」


 3年目の浮気? そんな歌があった気がする。ふとそんな言葉が頭をよぎる。違うのよ真面目な話。


 「別れる? とは」


 しまった。そういう意味じゃないわ。私は慌てて言葉を繋げた。


 「街を見て回っていてくださいね」


 深い意味はないから。


 「リゼット様はどちらへ?」

 「ちょっと、お父様のお使いがあるので」


 頼まれてはいないけど全く嘘ではないもの。


 「では、ご一緒しましょう」

 

 まずいわ。危ないもの。


 「用事が済んだら合流しましょう。ちょっと色々あるし」


 真っ直ぐ見て来る緑の瞳を避けながら、窓の外へ視線を移した。


 「ロヴィ様が、絶対に別行動をするなと仰せでした」


 えっ、ロヴィがそんなことを言ったの? 3メートル以内に近づくな、じゃなくて?


 「でも、危ないと思うの」

 「危ないとは?」


 興味津々に緑の瞳を輝かせると、ちょっと皮肉げに口角を上げた。


 その瞳を見て後悔した。


 しまった。この人は危険が好きな人だわ。平穏な日常が苦手なタイプね。


 もし一緒に来るなら、危険を知らないままでは対処できないと思う。仕方ないわ。


 「これから私が言うことを信じられるなら一緒に行きましょう」

 「わかりました」


 アルベルトは短く頷いた。


 私はお父様の知り合いの魔石屋に行くこと。そこがこれから襲われること。そして赤い魔石が奪われることを説明した。簡単にね。


 「なぜ、魔石屋が襲われるとわかるのですか?」

 「脅迫があったからよ」

 「なぜ、騎士団に訴えなかったのですか?」

 「取り合ってもらえなかったの」

 「理由は?」

 「建国祭の警備で忙しいって断られたのよ」


 ああ、自分がだんだん嘘つきになっていく。騎士団さんごめんなさい。


 アルベルトは一瞬眉を動かしたように見えたけど、特に疑う様子もなく次の質問をしてくる。


 「だからと言って、なぜ、お一人で? ロヴィ様にも言わずに」


 これには返答に困った。なぜならさっき夢で見たばかりだったから。でも、知っていても誰も巻き込むつもりはなかった。


 「誰も巻き込みたくなかったから」


 あなたもだけど……。


 アルベルトは驚いたように目を見開き、しばし固まった。守る側の人は守られることに慣れていないのかもしれないわね。


 しばらく考え込むように黙っていたアルベルトが口を開いた。


 「襲撃は何人ぐらいと予想されますか?」


 私は夢で見た光景を思い出す。見えていたのは5人か6人。この場合多く見積もった方が良いわね。


 「6人くらいだと思うわ」

 「魔石屋は、『星の雫』の店で合っていますか?」


 私が頷くとアルベルトは腕を組んで考えこむ。馬車は王都の町はずれで停まった。私は一番気になることを聞いて見る。


 「パレードが始まるのは何時から?」

 「後1時間ほどですね。応援を呼びましょう」

 「ダメよ時間がないわ。パレードが始まるときに襲われるの」

 「では、危険回避。逃げるが勝ちです」


 そう来るのね。逃げるならお一人でどうぞ。


 「そうね。じゃあまたね。ロヴィによろしく」


 行こうとした私の腕をアルベルトが掴んだ。私は振り向くとアルベルトを見上げた。


 「3メートル離れるんでしょう?」


 アルベルトは少し口角を上げる。


 「行きましょう」


 短く言うと周りを警戒しながら、私の前に歩き出した。


 一度振り返ると片目をつむる。


 「3メートル離れてください」


 3メートルはもはやどうでも良かった。




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