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王太子が暗殺されるまであと7日  作者: 星降る夜


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12/20

12 言っていない名前


 入り口に置いてある、黄金の獅子の置物と目があった。透明で深い青い色の石がはめ込まれている。綺麗な色……どこかで見た気がするけれど、思い出せない。


 「その置物がどうかしたのか?」


 ロヴィの声がして顔を上げた。灰がかった青緑の瞳がこちらを見ている。何故か黄金の獅子とその瞳が重なった。


 (瞳の色が違うのに、気のせいかしら……)


 私は首を振った。


 「この部屋、豪華って言うか、趣味が悪いって言うか、変じゃない?」

 「趣味が悪い?」


 ロヴィの片眉が少し上がる。


 「だって、さっきの部屋とは全然違うし、選手控室とは思えないわ」

 「ああ、ここは選手控室ではないからな」

 「違うの? 何の部屋?」


 ロヴィはしばらく置物に目をやってから口を開いた。


 「父が使っていた部屋だ。それより——君はなぜそんな恰好をしている。しかもこんなところに忍び込んで」


 話題が私の方へ向いてきたので、慌てた。


 「あ、なんか色々危ないことが起きるんじゃないかと……」

 「昨日、言えばよかった。違うか?」

 「えっ、ロヴィは試合があるから、忙しいんじゃないかと……」

 

 ロヴィが何か言いかけた時、ふと思い出した。


 「あっ、ロヴィ、試合は?」

 「大きな音がして、一時中断になっている。そして、僕達は棄権した」


 えっ?


 それはお父様の作ったラッパのせいよ。私の目は空中をさまよった。


 私は悪くないわ。


 それに……棄権してよかったわ。


 怪我しなくて済んだし——毒に触れることもないもの。

 

 その時部屋の外から声がかかる。


 「失礼します。いらっしゃいますか?」


 ランスロットが立ち上がり扉の方へ向かう。低い声で誰かと何かを話し合っている。こちらからは扉の陰になって見えなかった。耳を澄ましたけど良く聞こえない。


 ランスロットはカバンを受け取って戻ってきた。ロヴィの耳元で何かをささやく。


 耳を澄ましても、声のトーンしか分からない。ランスロットの表情が少し硬い。


 さっきのことかしら……それともほかに何かあったの?


 ランスロットがこちらに向き直りカバンを差し出した。


 あっ、私のカバンだ。


 「それ私の。ありがとう」


 カバンを受け取ろうと近寄ると、ロヴィがサッとランスロットの手から奪った。


 カバンの中身をそこの机に並べていく。


 子供じみたおもちゃばかり入れてきたから恥ずかしいのに……。


 ロヴィは面白そうに目を輝かせてラッパを手に取った。


 「これか? あの音は……」


 私は頷く。


 「吹いてみて、音が出ないかも」


 私は下を向いてちょろっと舌を出した。


 「確かにあの爆音はまずいな」

 

 ロヴィはラッパを置くと、粘土の入った入れ物を開ける。


 あらっ、面白くないわ。


 「これは?」

 「くっつくと離れない粘土です」


 ランスロットが横から声を上げた。


 「ロヴィ様、これは奴らの剣についていたものでは?」

 「なるほど。ではこれは?」


 ロヴィがペンを手に取った。


 「透明のペン」

 「透明? 見えないということかな?」


 ロヴィが言うとランスロットが口をはさんだ。


 「書けないのと同じでは」


 「暗くすると書いたものが光るの。ボウっとね」


 (役に立たないわよね、まったく)


 「……お父上は発明家なんだね」


 「ランスロット、これは面白いな」


 ロヴィはおかしそうに口角を上げた。


 「明日は建国祭だ。僕達は仕事がある。君は何をする予定かな?」


 明日? 皆の目がパレードに向いていれば動きがあるはず。


 「何を考えている」


 ロヴィの声がしてはっとして顔を上げた。いけない、物思いにふけってしまったわ。


 「ううん、何でもないの。何をするか決めていなくて」

 「普通はパレードを見に行くって答えると思うんだが」


 探るようなロヴィの視線に息をのむ。そうよね。普通はそうなのよね。


 「我が家はお父様も行ったことないと思うわ」

 「なるほどね。では明日は何をする予定かな?」

 「王都の街を見てみるわ」

 「一人じゃ危ないな。ランスロット、お前、いけるか」

 「護衛がありますので、私では難しいかと」

 「私なら大丈夫です。何もしませんから」

 

 ロヴィは私の言葉なんか聞こえなかったようにランスロットと打ち合わせをしていく。そのうちランスロットが部屋を出て、1人の騎士を連れてきた。


 ランスロットと同じくらい背は高いが、ほっそりとした赤毛の青年だ。クルクルとした巻き髪。前世で見た、ギリシャの彫刻みたいだと思った。軽く一礼をするとすっとロヴィの脇による。


 青年はロヴィの顔を見ると口を開こうとした。ロヴィが急いで手で制す。


 「事情は後で説明する。明日はこの子の護衛だ。エルゼヴィア伯爵令嬢だ」


 えっ?私、ロヴィにラストネーム言ったかしら。


 ……言っていないわよね?


 「リゼットです」


 私は慌てて立つとお辞儀した。すると、アルベルトは一瞬怪訝な顔をする。


 あっ、お辞儀じゃだめだった?


 「アルベルトです。明日はお迎えに参ります」


 青年は顔色も変えずに言う。


 お迎え……? 明日は1人で動くつもりだったのに。だいたい護衛って何?


 戸惑う私にロヴィは顔色も変えずに言う。


 「明日は、忙しい。すまない」


 私は急いで首を振った。謝られることなんて何もないもの。


 「明日はアルベルトさんと王都の街を見学しますね」


 なんか、恥ずかしいんですけど……。


 その時ロヴィが私の心を見透かすように言った。


 「3メートル以内に近づくのは禁止だ」

 「3メートルですか?」

 「ロヴィ様。3メートルでは離れすぎかと」


 ランスロットが口を出す。ロヴィはぶつぶつと「やはり、5メートルにするか」と考え込むように呟いている。

 5メートル! それじゃあ尾行だから。護衛じゃないから。


 「3メートル了解しました」


 大きな声でアルベルトが言って部屋を出ていった。


 ……なんでこうなった?





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