第43話 はくめい
勉強意外することもなく年が明ける。
いよいよ試験が始まる。
私立専願の僕にとっては
センター試験はある意味最後の模試だ。
忘れているわけではなく
この瞬間だけは花菜のことを
いつもより少しだけ横において
合格を見据えて
ラストスパートを切っていた。
センター試験も難なくこなし、自己採点をする。
決して自信につながる点数ではなく、
自分を奮い立たせなければならい点数に近かった。
試験前日
大学毎に試験日も違うので
塾の自習室は人もなく
妙な静けさが漂っていた。
数人のうちの1人だけ
顔見知りの人物を発見する。
「メグちゃん」という女の子だ。
メグちゃんとは高校3年間
クラスも違い、会話もほぼなかったが
中学も同じで入っていた委員会などが一緒で
それなりに話もしていた。
僕の席から背中が見える。
メグちゃんは自席で静かに肩を震わせていた。
体調が悪いのかと思って数分見ていたが
泣いていることに気づいた。
この時期だもんな。
さすがの僕でも理由に気づいた。
僕はコンビニに向かった。
ココアと共にお菓子を買う。
お菓子の袋に
「大丈夫。負けるな。」と殴り書いて
メグちゃんの席にソッと置いた。
程なくしてメグちゃんから連絡がくる。
塾の休憩スペースに呼ばれる。
「ありがとう、明日が不安で不安で仕方ないの。」
「僕も自信もなきゃ不安だよ。
なんというか受験だけじゃないんだけど」
そう言うと、横に置いた痛みが少し戻ってきた。
「花菜と別れたんだよね?」
「知ってるよね。花菜とクラス一緒だもんね。」
「うん、今年に入って結構仲良くしてるからさ
同じ中学ってのも知ってるし、直接聞いたよ。」
「ごめんね、受験の前日に変な話して」
「こんな言い方も悪いけど、
不安とか私だけじゃないって思えて安心してる。
それどころじゃないはずなのにありがとう。」
「別にいいんだよ。僕も息抜きになるし」
「花菜のこと、まだ好きなの?」
「うん、まだまだ好き。
ダサいかもだけど、
受験終わったらもう一回告白しようと思ってる。
ま、合格したら、なのかな。」
「いいと思う!私も協力するよ!
お菓子のお礼にね」
会話としてはこれだけだったが
僕もメグちゃんも
この時間に救われたのだと思う。
そして試験当日。
出来は上々だった。
1週間ほどで結果が出る。
メグちゃんからも受かったよ。と連絡が来た。
僕のほしかった合格通知には
惜しくも「不」が枕についていた。
すべり止めは一切受けていない。
大学に行きたいという気持ちの少ない僕には
すべり止めという発想はなかった。
志望していた大学は上位に位置する大学だったので
知り合いの半分以上は落ちていた。
そこに少しだけ安心を覚えるものの、
他の皆は後期受験で
ワンランク下の大学を受ける準備をしていた。
僕は後期試験の願書をいくつか手配したものの
名前を書けずにいた。
塾の先生のもとに向かう。
いやいやでも後期試験の準備のために
相談に行く。
「塾という立場上、後期試験を進めなければならない。」
「はい。」
「だけど、今は一人の先輩として話をさせてもらいたい。」
「はい。」
先生は願書に書いてある大学の名前を指さす。
「行く気ないだろ?」
その言葉と裏腹に優しい顔で言われた
僕は無言で頷いた。
「なら、1年。本気で頑張ってみるほうがいいよ
行きたくない所に4年通うのは辛いと思う。」
「後期受験はやめて、
卒業までの数日を大事にしたら?」
誰に聞いても後期受験の話だった中で
唯一のアドバイスだった。
その日の夜
両親にお願いをした。
浪人には相応のお金がかかるからだ。
「お前がやりたいなら、いいよ。頑張りな」
父はただそれだけだった。
「あんたが自分で決めた。ってだけで内心ホッとしてる
今度は頑張ってみな。」
さすが母だった。
恐らく僕がやる気なかったことを見抜いていた。
僕は親に土下座をしながら、涙を流す。
その日の夜
メグちゃんや他の友達にも浪人すると宣言をした。
学校の担任は
「それもかっこいいよ。期待してる」
そんな言葉を贈ってくれた。
浪人を宣言した後
2人の女の子から連絡が来た
メグちゃんと東さんだ
メグちゃんは
「1年なんてあっという間だよね。
花菜と3人でお疲れ様会をしよう。日程調整するね。」
東さんは
「浪人、大変だと思うけど頑張って
春休みとかに浪人前の息抜きしない?」
とお誘いのメールだった。
3月の頭に予備校の入学試験がある。
そこで点数がいいと特待生として
費用の免除が少しある。
快く背中を押してくれた
親に僕からもできることとして
そこを狙いたいと思い勉強をしていた。
初めて意志を持って机に向かった気がした。
遊ぶのは試験後と2人にお願いをし、
快くOKをもらう。
そして横においていた花菜の事も
僕は再び中心寄りに戻していた。
僕は花菜への告白を迷っていた。
受かったらしようと思った告白。
僕は受からなかったから。




