第42話 よいのくち
【もう好きじゃない】
お互い想い過ぎただけだった。
顔を見たらきっと決断できなかった。
終わりを告げたのは、一通のメールだった。
そういえば始まりもメールだった。
僕はもう続きのないメールを何度も読みかえす。
花菜は真面目で優しくて強いから
このメールを送るのにも
何時間もかけたのだと思う。
メールの文章は短いけどその分誠意があった。
僕は、僕は、それでも花菜が大好きだ。
別れたくなかった。
ずっと変わらずに2人でいられるって思った。
ずっと一緒。
そう書いたプリクラを本気で信じていた。
でも花菜は違ったのかもしれない。
ずっと一緒にいるために、
花菜は変わっていこうとしたのかもしれない。
僕はその変化に気づけなかった。
ねぇ、花菜
悪いことがあるなら直す。
してほしいことは何でもする。
だから、だから、だから、
だから僕は【分かった】とだけ返事をした。
クリスマスが近い。
僕の青春は初雪のように
静かに溶けて消えていった。
翌週学校に行く。
花菜と僕が別れたことは
大きなニュースになるほどではないが
新聞の片隅にあるニュースくらいには知れ渡っていた。
何となく誰も触れてこない
そんな気持ち悪さの中
いつもよりも声のボリュームが大きくなるような
空回りな元気で一日を過ごす。
ふいに一通のメールが届いた。
映画に行かない?という誘いのメール。
【大丈夫、友達としてだから】
と思いやりの1行も添えたメールだった。
今更誰に何の?という罪悪感を持ちつつ、
気が乗らないながらも早く忘れたい
相反する気持ちを持って
【いいよ、行こう。】と
東さんから来たそのメールに返事をする。
複雑な気持ちのまま映画の日が来る
「やっほー、急に誘ったのにありがとう
勉強だってあるのに、、、」
「おはよー、東さんは推薦だっけ?偉いよね
勉強は、休憩も大事じゃん」
「それもそうだよね!今日は楽しも!」
「うん、色々ありがとうね。
チケットとかも先に買ってくれて、いくらだった?」
「その方が安いからね。クリスマスプレゼントだよ。
あと勉強頑張れってことで」
「えー、そんなの悪いよ。」
「いいの、いいの」
そんな会話をしながら
東さんの優しさに甘えつつ
お昼ご飯の時に多めに出そうと心に決めた。
「映画面白かったね。あのアニメやっぱ面白いねー」
「うん、僕も観に行きたいって思ってたけど
中々一人じゃって思ってたし凄く良かった
本当、ありがとう。」
「どういたしまして」
そういって満面の笑みを見せてくれた。
「ここね、美味しいんだけど、安いんだよー
予約しといたの。映画だと時間分かりやすいし」
「何から何まで、ありがとうしかないよ
最近元気なかったから、すごく嬉しいよ」
「そう、だよね。元気出たなら嬉しい。」
パスタとパンが美味しいお店らしく
何もわからない僕は
人気No.1と書かれたトマトソース系のパスタにした。
「うまっ!」
思わず声が出た。
「美味しいよね!よかったー」
「東さんは何でも知ってるし、
準備も完璧ですごいよね、僕なんて」
その先を言うのはやめておいた。
僕なんて、そんな事花菜にしてあげられなかったな。
そう思っても、
それを東さんに言うのは違うと分かっていたから。
「こんなに何でもしてくれるなんて
東さんの彼氏になる人は幸せだね。」
僕の作り出した間を埋めるために
何も考えず口に出してしまった。
東さんは照れつつも少し悲しげな顔をした気がする。
あの頃の僕はそれに気づけるほど賢くなかった。
「この後は塾に行くんだよね。
勉強頑張ってね。」
「頑張るよ、東さんに応援されたら百人力だわ。
なん、、ちゃって。」
誰のものでもない合言葉を
僕は軽々しく使うことはできなかった。
「もし良かったら、また遊んでくれる?」
「うん、受験が終わったら、、、かな」
「うん、待ってる」
僕は言葉を濁した。
見ないふりした気持ちに嘘をつけなかったからだ。
軽い話をしながら駅に向かう。
駅に近くなった所で
電車がと言って僕は走った。
「ごめん、またね!今日は本当にありがとう」
それだけ言い残して走った。
誰かに見られるのを恐れて、
自分でもズルいと思った。
でも気づいてしまった。
僕は当たり前にまだ花菜が好きだ。
東さんとの楽しい時間を過ごす度に
花菜を思い出す。
僕は花菜と数えるほどしかデートはしていない。
公園で会うことのほうが多かった。
それでもその1回1回が僕には大切だった。
僕が、
僕との日々が、
花菜に何を与えてあげられていたのか、
それは分からないけれど
今日、東さんにリードされる自分が、
とても情けなかった。
やっぱり花菜が大好きだ。
僕は静かな決意をする。
大学に受かったらもう一度告白をする。
今度はちゃんと幸せになってもらえるように。
ちゃんと幸せにできるように。
そんな彼氏になれたら。と
そう誓って
クセで買ってしまったココアを
一気に飲み干して机に向かった。




