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0.5%の恋  作者: まんぷくねこ


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第37話 SOHI


冷房の効いた部屋の中から見える

窓の外の景色はアスファルトの熱で

じんわり世界が揺れていて

聴きたくない蝉の声が脳内で再生される。


いつも向けることができない受験勉強も

今日はよりいっそうに集中することができなかった。


暑さのせいなのか分からないが

町中を歩く人が少なく感じる。

町も人も僕と同じで浮かれてしまっているのかもしれない。


力いっぱいに生きたセミが地面に転がっている。

気分の良い僕は軽く挨拶をする。

最後の力を振り絞って彼は

「ジジジ…」と 返事をするので

僕は驚いてしまった。


夏休みは夕方まで勉強としている予定も

今日は午後そこそこに切り上げる。

花菜から来るメールも今日だけは少し楽しそうだ。


去年は花菜だけが浴衣を着ていた。

今年は僕も浴衣ではないが甚平を着て祭りに挑む。

ただそれだけなのに嬉しくなる。


受験勉強だと1時間潰すのに途方もない時間がかかるのに

準備の2時間はあっという間に過ぎて

待ち合わせの時間がすぐそこに近づいていた。


いつも人の多い中央駅だが今日はその倍人が多い。 

待ち合わせに使っていた銀行の看板も

誰かを待つ別の誰かが使っていた。

僕は少し離れた所にある花壇のヘリに腰掛ける。


花菜が浴衣姿で現れる。

去年のインパクトは薄れた分

今年は愛おしさが強かった。


「お待たせ。」


「いや、いま来たとこ。」


「うそ、十分前にメールくれてたじゃん。」


「花菜の事ならいつまでも待てるよ。なんてね。」

「じゃあ、行こっか」


ふと思う。

当たり前に手を取れるようになったのは

手を繋ぐことが恋のためじゃなく

「危ないから」「はぐれないように」と

愛のための行動に変わったのは。


2人同じ歩幅で会場に向かう。


「花火大会が終われば、二学期始まるね」


「そうだね、今年の夏休みは長すぎた。」


「勉強ばっかりだと、長く感じちゃうよね。」


「勉強してるけど、身についている気もしないし。」


受験の夏にくだを巻いてると

かき氷の出店を見つける。


「あ、かき氷あるよ!」


「2人で1つでいいよね。おなか痛くなっちゃうし」

「買ってくるから待っててね」


当たり前にブルーハワイを選ぶ

結局なんの味が今でもわかってないけど

お互い舌を真っ青にしながら、

花火大会を楽しむ。

花菜の手にはいつの間にかベビーカステラがある


「ホルモン焼きそばだ!」


「うどんじゃないね」


「うどんかそばどっちが上か決める?」


「決める!」


僕が焼きそばを持って

たまに花菜の口に届ける。

とても美味しかったが

去年のうどんの方が食べ応えがあった気はする。

焼きそばもあと一口という所で

「せーので言おっか」と投げかける。


「せーの!」


「うどん!」「そば!」


「違ったねー」

そう言って笑う花菜の口に

最後の一口を持っていく手が一瞬止まる。

笑顔で待っている花菜のもとへ

ごまかすように僕も笑い、手を動かす。


「そば派の花菜さん、どうぞ」


「えー、ありがとー。」

そう言って美味しそうに食べる。


「ごちそうさまでした。」


「でもそばもうどんも美味しかったね

 好みはちょっと違ったけど」


「でもさ、好みが違ったら

 喧嘩しなくてすむね!」


そういう花菜を見て、

常々発想が素敵だな。

前向きな考えが自然にできる花菜を尊敬していた。


「たしかに、取り合いにならないね

 好み違いすぎるとどこ行くかで揉めちゃうかもだけど」


「そこは譲り合いしよ?」


「そうだね、でも僕は花菜の行きたいところに行きたいな」


そんな話をしていたら、

いつの間にか空は暗くなって

花火大会のアナウンスが響く。


会場に何万人いるのか分からないが静まりかえる。

遠くの出店のお兄さんの声がかすかに聞こえる。

空に一筋の線が伸びて、消える

息を呑む間もなく、大きな花が空に開く。

共に静まりかえった会場が息を吹き返すように

「おぉー」という歓声があがる


途端に複数の線が空に放たれ

休む暇もなく花を咲かせは散っていった。


僕は花菜の手を握り

花火と花菜の顔を交互に見ていた。

花菜は時々そんな僕に気づき

笑顔の花を咲かせる。


勉強ばかりの夏だった僕には

とても鮮烈な風景だった。

悩みも吹き飛ばしてくれそうな。


クライマックスの花火は

何発も連続で放たれたあと

大きな花火で終わった。


余韻を残す会場から駅へと向かう

人混みの中に僕と花菜は紛れた。

お互い余韻を感じてなのか

交わす言葉は少なかった。


「花火きれいだったねー。」


「うん、めっちゃ綺麗だった。」


「すごく息抜きになったー。」


「息抜きじゃなくちゃんと見に来たいな

 これからも何回も十年後も!」


「フフッ、まずは来年だね!」


「そうだね」


「残りの夏休みはまだ勉強頑張らなきゃだね」


「うー、がんばるしかないか。」


こうして夏休みが終わる。

花菜は近い未来を見ていて

僕は漠然とした未来しか考えられていなかった。

そんな事に気付かされた夏だった。

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