第30話 SHAREGAKI
この駅に来るのはまだ数度しかない。
前回来た時から時間も経っていて
駅前のカフェはまた別のカフェになっている気がする。
様々な人が改札から出てくるサラリーマンや学生、
僕より少し年上っぽい、
髪の毛を染めている人は大学生なのかな。
その中で相変わらず一際輝く女の子が降りてくる。
その女の子と手で会話をして、
歩幅に合わせてなるべく自然に隣を歩く。
女の子の家までの道を歩く、
その間も会話はない。
家を通り過ぎ、やけに景色のいい広場に腰をかける。
座ってもなお無言の2人。
それに飽きて僕は口を開く。
「花菜、本当にお疲れ様。3年間めちゃくちゃお疲れ様!」
返事よりも先に花菜は静かに涙を流す。
その涙はだんだん大きくなっていく
僕はようやく背中を擦ってあげることができた。
花菜が落ち着くまでいつまでも待つつもりだった。
「部活の皆の前では泣かなかったの。
楽しく終わりたかったから、
でもやっぱり悔しい。」
「うん。」
僕は頷くしかできなかった。
楽しかった気持ちも悔しかった気持ちも
どっちも本当でどちらも正しいと思ったから
なげやりではなく、心から頷いた。
「全部聞くから、いつまでも聞くから
そのために来たから」
「キャプテンとかリーダシップとか苦手だから
最初はすごく嫌だった。」
「同級生の子たちはいいんだけど、
後輩とは気持ちが違うなって思ったし
引っ張っていける自信もなかった。」
「それでも友達もすごく助けてくれた。」
「だから何とか頑張れたし、
最後はチームになったって感じがする」
「正直、今日の相手に勝てる確率は低かったと思う。
ううん、ほぼなかったと思う。」
「それでも本気でやって、負けて、やっぱり悔しかった」
「みんなを見たら何となく清々しい顔してて、
泣いてる子もいたけど、
この試合っていうより引退って事に泣いてるようだった」
「だから我慢したんだ。
キャプテンとして最後の役目なのかなって」
「でも、今溢れてきた。引退だって寂しいけど
今日の試合に対して悔しくて」
花菜はこっちを見る
「一度手を離そうとしちゃったけど、
そばにいてくれるから、私はがんばれたよ。
ありがとう。大好きだよ」
不意打ちの告白に僕の涙は潤んだ。
「何にも本気で挑む花菜は素敵だよ。
1つの試合に本気になれるのがかっこいい
あと、かわいい。僕も大好きだよ。
3年間そしてキャプテンとして1年
本当に頑張ったよね、すごいよ」
「ありがとう。」
花菜は落ち着きを取り戻していった。
「泣いたらお腹減ってきちゃった。
アイスにしようかな、チキンもいいなー」
「どっちも買って、半分こしようか?
僕もお腹減ってるし」
そう言って近くのコンビニに行く。
結局串に刺さった唐揚げと
2つに割れるアイスを買って半分こにした。
時間も時間だし、と
花菜をゆっくり家に送ろうと歩き出していた。
歩くスピードに合わせるように
花菜はゆっくりと口を開く。
「まだ迷ってるんだけど、
夏の新人戦まで残ろうと思ってて、
毎日とか朝練するとかではないんだけど」
「いいと思うよ。
悔いが残らないくらいやるのは
応援する。」
「でも、一緒にいられる時間は少なくなっちゃうかなって」
「別にいいよ!
あ、ちがうよ。一緒にいたいって思ってる。
でも、花菜がやりたくて決めた事は応援する。」
「優しいね。ありがとう。」
一緒にいたいのも本当。
頑張ってほしいのも本当。
時間が少なくなるとは思ってしまった。
でも、それを言って花菜を困らせてしまうのは違う。
そう思った。
「でも忙しくなるね。
文化祭の準備もあるし、
部活もあるしだと」
「そうなの。
それとね有志の方にも出ようって誘われてるの」
「えっ、だれに?」
「アキとかかな」
アキというのは
今、タカヤが仲良くしている吉岡さんの事だ。
「すごいね、めちゃくちゃ忙しいね
何するの?」
「んー、ダンスかなって」
「ーーーいいね。」
少し詰まってしまった。
ダンスとかするとモテてしまうんじゃないかと不安になる。
そう頭によぎり、返事が遅れてしまった。
「大丈夫?
何かするの?」
「うん、有志はないけどお笑いやろうって誘われて」
「めっちゃいいじゃん!すごく楽しみにしてるね。」
花菜に笑わせられるように頑張らなければ。
色んな荷物をおろして
ようやく1つのことに集中できる僕と違って
花菜は部活に有志にと色んな事をやり切ることができて
心から尊敬すると共に何とも言えない焦りも生まれた。
僕も頑張ろう。ひそかに決心して僕は帰宅する。




