第27話 KOHAKU
事実とは無情なもので
無名校が怒涛の快進撃というわけでも
接戦の末ということもなく
初戦敗退で最後の大会を終える。
スコアは接戦に見えるかもしれないが
気持ちとしては
その一点が、その一本が
あと一歩を踏み出すことが出来なかった時点で
完敗だった。
次の試合の準備をボーッと眺める
自分の3年間が呼び起こされる。
全国に行くやつ、
有望選手と記事やニュースに取り上げられるやつ、
今の日本代表の高校時代だと特集が組まれる。
そういう人たちが主人公というなら
僕は脇役にすらなれてないだろうな。
有名選手と対峙することすら叶わない存在。
友達に誘われ何となく始めたバレーボール
使ったことない筋肉が最初は悲鳴をあげていた
休みがないことに怒りを覚えた。
それでも、いつからか、いつの間にか
僕のなかで部活が、バレーボールが当たり前になっていた。
だから3年間頑張りきれた。
後悔も未練も沢山ある。
それでもやり切った。
そう思えるからだろうか。
僕は小さく人知れず涙を流した。
僕は部活を引退した。
試合後のミーティングの頃には
一波終えたのか清々しく
和やかに終わった。
これから当分の間
部活が終わった喪失感と
部活のない解放感に挟まれる事になる。
僕は花菜に連絡しようと思ったけど
まだ終わっていないかもと思い
連絡するのをやめた。
解散したあとは各々家路につく。
シンタロウの家でお泊り会をするので
その準備のためということもあり自然とそうなった。
家につき母親に報告する。
驚くほどあっさりとしていたものの
3年間お疲れ様と労ってくれた。
試合の疲れもあるし、
今日の夜のことを考えて
一度寝たほうがいいと思い
シャワーを浴びたあと眠りにつく。
寝付けないかと思った不安とは裏腹に
泥のように眠った。
夕方にかけていたアラームで目を覚ます。
外は太陽が役目を終えようとしていた。
みんなでファミレスでご飯を食べる予定だ。
僕は外行きの服に着替える。
ケータイが濃いピンクのライトで点滅しているのに気づいた
数分前に花菜から着信があったようだ。
しまったと思いながら、折り返しの電話をかける。
数コールして、花菜が出た。
「もしもし、お疲れ様?なのかな。」
花菜が尋ねて来た。
「もしもし、ごめんね電話出れなくて、寝てたんだ。」
「そっか、私は今終わったところだよ」
どう聞いていいか考えてるのかな。と思い
「初戦で負けちゃった。正直すごく悔しい。
でも、やりきった!花菜はどうだった?」
そう明るく振る舞って話を振った。
「そう、なんだね。負けるのは悔しいよね。
でも本当にお疲れ様。3年間お疲れ様。
私はね、今日何とか勝ったよ。明日もあるの。」
「勝ったんだ!めっちゃすごいね!
おめでとう?でいいのかな。おめでとう!
いやー、うれしいよ!ほんとにうれしい!」
「喜びすぎだよ、でもありがとう」
本当に嬉しかった。
この一瞬は自分の負けがどうでもよくなった。
「明日もかー、きっとたくさん疲れてるだろうから
ゆっくり休んで、明日もがん、明日もファイト!」
「じゃあ今日はお泊り会?」
「うん、これからご飯食べに行くよ。
会場、うちの高校だよね。明日行こうかな」
「えっ!本当?そうだったらうれしいな。
でも無理しないでね」
「あ、でも制服じゃなきゃダメか、
こっそり行くかも、、、」
「ほんと無理しないでね。
気持ちだけでも嬉しい」
「だって花菜の頑張ってる姿みたいもん」
「あ、そうだ、いっつもさーーーーーー」
と数分のつもりで電話したら
10分を超えそうだったので
電話もそこそこにバイバイした。
僕は待ち合わせ場所に向かう。
シンタロウの家でのお泊り会については
またどこかで話したいと思う。
夜のお散歩や夜食ラーメン
恋と進路 いろんな話をした。
男子高校生が沢山いれば夜ふかしもする。
僕は花菜の試合開始時間とともに目が覚めた。
慌てて準備をする。
寝ているシンタロウに一応声をかけて
シンタロウの家を後にする。
高校まで急ごうにも夜更かしの反動で
気持ちが追いついていなかった。
何とか高校に着く。
知り合いの先生がいないかとキョロキョロしながら
慣れた道を歩く。
制服を着ずに来る高校に
何となくソワソワしてしまう。
体育館が近づき、歓声や応援の声が聞こえる
バッシュの音とボール打ちつける音も
体育館に着くといつものようにフロアに行くのではなく
脇の階段からギャラリーに向かう。
丁度ハーフタイムが終わる頃だった
バスケットのルールも流れも漫画でしか見ていないが
おそらくワンゴール差と言われる点差で負けている
かなり接戦だと感じた。
第3クォーターが始まる。
何となくだが
点差以上に実力差はある気がした。
向こうが点を取ったあとは
なんとか点を取り返す
その応酬だった。
事実は無情といったもので
花菜のチームでミスが出てしまい
2ゴール差にひらいてしまう。
何やらブザーがなった事に気づかず
僕は大きな声で「花菜、頑張れ!」と叫ぶ。
ちょうど静まり返ったタイミングだったので
周りの観客の注目を浴びる。
僕は場所を移動する。
花菜からしたら謎の声援でしかない。
申し訳ないことをした。
昨日の電話を思い返す
「あっ、そうだ!いっつもさ【がんばれ】って言わないようにしてる?」
「うん、頑張ってほしくないわけじゃないけど、
花菜はいつも頑張ってるから頑張れは違うかなって」
「ふーん、その気持ちも嬉しいけど、
ここぞって時には頑張れって言葉が嬉しいんだ。」
僕にとってのここぞはここだったが、少しタイミングが悪かったようだ。
タイムアウト明け
監督の作戦だと思うがさっきよりも動きが良いような感じがする。
花菜のディフェンスも粘り強くなっていた。
そんな花菜の腕がパスの線上に伸びる
ボールが跳ねてコート外に転がっていくのを
花菜のチームメイトが何とか拾う。
いずみさんだ。と心の中で思いつつ
ボールの行方を見守る。
無事ゴールを決めてまた1ゴール差に戻す。
そして第3クォーターが終わり、
いよいよ最終クォーターだった。
僕は人に合わせて応援しつつ
とにかく祈っていた。
なかなかスコア差は変わらないが
花菜のチームが気迫では勝っている気がした。
疲れと緊張、そして会場校との戦いというプレッシャー
そういったものがあったのだと思う。
敵チームが単純なパスミスをする。
花菜のチームはすかさずカウンターにいき、
点を決めた。逆転だ。
そのままリードを守りきり。
試合終了のブザーが鳴る。
花菜達は勝った。
花菜とチームに届けと大きな拍手を贈る。
一生懸命を表すように流れる汗がきらめている。
そんな花菜をまるで主人公のように輝いてると思った。
花菜はきっと汗でぐちゃぐちゃだって恥ずかしがるけど
誰よりも綺麗でかっこいいと思った。
花菜たちの試合は来週別の場所のようで
今日は会場校としての務めをまっとうするのみのようだった。
花菜に話しかけにはいけそうにないので
メールだけ入れて、シンタロウの家に戻る。
2人くらい帰ったようだが
残りのメンバーで映画を見たり
ゲームをして過ごす。
夕方に差し掛かった所で
シンタロウの家をあとにする。
家には帰らず、また学校へ向かう
花菜を持つためだ。
向かいながら
花菜から聞く部活の話や
隣のコートで頑張ってる花菜の姿を思い出していた。
時折自分の部活も思い出し、少し胸が痛む。
ぞろぞろと花菜と同じカバンを持った人たちが学校を出ていく。
おそらく後輩だろう。
少しだけ学校に近づく。
いつもならしない。正門での待ち伏せ。
今日くらいはしてもいいかと言い聞かせるが
実は緊張している。
約束もしていないし、どんな反応をするか分からない。
同級生と共に歩く花菜の姿が見えた。
花菜より先に同級生が気づいたようで
花菜の肩を叩き、僕のほうを指さしているようだった。
花菜は驚いた顔をして、その後は笑ってくれた。
よかった。と安心する。
同級生に何か言ったあと
こちらへかけてくる。
「おめでとう?でいいのかな。
とにかく凄かったよ。感動した!
あと、お疲れ様!」
「途中で頑張れ!って言ってくれたよね?
その応援があって、すごく頑張れたの。
ありがとう!」
「電話の時にその話したの思い出してさ。
そしたらシーンとした時に言っちゃって
すぐ隠れちゃった、、、」
「声で絶対そうだって思って、
ちょっとめげそうだったんだけど
頑張れた!」
「花菜ー!先行っとくねー!」
「分かったー!」
「今からご飯とか行くの?」
「うん、この土日が終わったから一旦ね!
ごめんね、先に約束しちゃって」
「いいよいいよ!
花菜に少しだけでも会いたいって思っただけだから」
「街の方に行くの?」
「うん、そっちでご飯食べるの」
「じゃあ、駅まで一緒でもいい?」
「うん!」
「今日は公園寄る時間はないけどさ
ちょっといい?」
公園の脇に花菜を呼んだ。
そして抱きしめる。
「制汗剤とかしてるけど、くさいよー」
「いい。本当にお疲れ様。本当にかっこよくて綺麗だった
来週もさ頑張ってね!」
そう言って離れる。
「フフ、ありがとう。頑張るね」
駅についてバイバイする。
僕の部活は花菜より少し先に終わった。
あっけなくも濃い日々だった。
僕はこれから幾度となく思い出す。




