第25話 AOTAKE
高校3年生が始まって1ヶ月くらい過ぎた。
始まりたての「お前たちは受験生だ。」というプレッシャーも薄まり、いつもの日常を取り戻してしまっていた。
ただ心の奥底にある3年生という言葉の重荷には、まだ向き合わないようにしていた。
部活は依然として最後の大会に向けての追い込みや調整のフェイズに到達する。
そんな中で大型連休も練習試合や1日練習ばかりになっていた。連休最後の練習の日。
僕は軽い捻挫をする。ブロックした後輩の足がネットを越してしまったので、僕が着地の時に踏んでしまったのだ。
顧問より先に女バスの顧問が駆け寄ってくる。スポーツトレーナーの資格も持っているからである。
僕は体育館の準備室という基本教師しか入れない部屋にいれられた。
アイシングとマッサージを丁寧やってくれていた。花菜の顧問は「これから病院に行くと思う。この程度なら最後の大会に間に合うと思う。」と言ってくれた。
足をひねる方向に倒れて、受け身を取ったので怪我は最小限に抑えられたのだろう。
そうこうしてると顧問が車の準備をしてくれて、シンタロウが僕の荷物を車まで届けてくれた。
結果としては軽い捻挫で、全治も1週間〜2週間弱だった。
最後の最後まで練習をできない悔しさがないといえば嘘になるが、意外と晴れやかに今自分に出来ることと真摯に向かっていた。
花菜からメールが来ていた。
大丈夫かどうかをとにかく心配するメール。
それを見るやいなや電話をした。
2コール掛かるかな位で出た。
少し鼻声というか涙声のような花菜だった。
僕の元気そうな声を聞いて安心したのだと思う。
少しずつ元気な声に戻っていった。
おそらく自分の怪我とも重ねたんだと思う。
花菜との電話もそこそこに、僕は後輩、当の本人にかける。
おそらく一番責任を感じてしまってるからだ。
僕は電話をする。
後輩はかなり不安な声をしていたので「骨にヒビが入ったかも。」と言ってみる。
「えっ……」という反応から無音になったので可哀想に感じて軽い捻挫だと話す。
持論でしかないが、ちょっとした仕返しくらいある方が本人も楽になるのでは、と考えたからだ。
少しやりすぎたかもしれないが 。
本人には、責任を感じる必要は全くないということ。
練習の内に起きてしまったことで、みんな一生懸命やった結果だから、それは責められる内には入らないことだと伝えた。
ただ技術としての反省点はちゃんと反省して次に繋げる事の大切さ、は教えた。
ちゃんと指導してこられた訳でもなかったので、
最後に何か伝える機会があってよかった。そう感じていた。
怪我を抱えつつ日常を送る。
ある日、職員会議かなんかで授業が昼で終わる日があった。
ただ部活はいつもの放課後の時間から、という絶妙に持て余す時間があった。
僕は花菜とお昼を食べて、部活まで一緒にいる約束をした。
学生御用達のハンバーガー屋さんでお昼を済ませて、他愛ない話をする。
授業やクラスの事、部活の事、テストの事。いつまで話をしても話が尽きることはない。
話もそこそこにお店を出て、散歩することにした。
花菜は僕の足を心配するが、花菜の顧問からは「リハビリという意味でも歩きなさい。」と言われていたので、歩きたいと花菜に申し出た。
「じゃあ、補助してあげる。」と言って僕の指に花菜の指を絡ませる。
なんの補助にもならないが、心は支えられている気がした。
散歩のゴールはいつもの変わらぬ公園。
でも、今日は1つだけ違うことがある。
僕はおもむろにカバンを探り、長い筒のような剣のようなものを取り出す。スティック型のシャボン玉だ。小さいよくあるやつもついでに取り出しておいた。
花菜は吹き出す。「何これー」と言いながらシャボン玉を手に取った。
「最近やってないよなーって思って、大きくなってからシャボン玉ってどうなんだろう。花菜となら楽しいのかなー。なんて思ってさ」
「でも、楽しそう。やってもいい?」
「もちろん、いいよ!」
スティック型のシャボン玉を空けて、花菜がタクトのように細長い棒にあるいくつもの小さな穴にシャボン液の膜が張ってある。そこに風を送り込むように花菜は腕を大きくゆっくりと振る。
シャボン玉は大小色んな形に膨れ上がり、空へと舞い上がる。
花菜はそれを見て、まるで5歳児のように無垢な笑顔になる。
僕は思わずカメラにおさめた。
何度も仰いだり、口で吹いたりする花菜がとても無邪気で可愛くて、いつまでも見ていられた。
花菜のためにと思ったが、
自分のためでしかなかったかもしれない。
公園に遊びに来た本当に5歳くらいの子達も「シャボン玉だー!」とはしゃいで回っている。
花菜はそれに気づき、少し照れてる感じもあったが、シャボン玉を続ける。
シャボン玉を作っては、最後の1個が消えたり、見えなくなるまで目で追いかける。そしてシャボン玉をまた作る。それを何度も繰り返す。
目で追う時の花菜。楽しそうで、一生懸命で、時折、何か思いを馳せるような、5歳ではなく17歳の表情を浮かべていた。
僕はそれもまたカメラにおさめた。
可愛いを超えて綺麗な花菜だった。
シャボン玉に夢中になっていた僕達は、遠くに見慣れた制服に気づく。何となくこちらを指差していたり、笑ってる雰囲気を感じ取った。
高校生がシャボン玉は、遠くから見ると面白い光景だと思う。
僕は携帯の時計を見る。「そろそろ部活の時間だね。」と花菜に言うと、名残惜しそうにシャボン玉を片付けていた。
「楽しかった?」
「うん、めっちゃ楽しかった」
花菜は無邪気に笑っている。
「またやろうね。」
「うん!したい!」
そんな他愛もない約束を交わす。
それから数週間、僕の高校のカップル間ではシャボン玉デートが少し流行ったらしい。
まぁ誰がやっても楽しいものだ。
そこから2週間経たずに足は完治を認められた。
病院に行く数日前から軽い運動は始めていた。
テスト期間くらいの長さだったし、その間も部活には参加したりトレーニングは行なっていたので、思ったよりなまっておらず、むしろ休みがあることでキレが増した気がした。
最後の大会までもう間もなく




