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0.5%の恋  作者: まんぷくねこ


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第20話 青い果実

まだ寒さとお正月ボケの残る3学期。

失恋には時間とは言ったもので、

距離を置くと決めたあの日よりも、痛みは少しだけ薄れてきた。


夕焼けがいつもより綺麗な日。

積もるほどではない雪が降る日。

そんな日には、どうしても君に会いたくなってしまう。


体育はマラソン大会の練習で、持久走ばかり。

楽しみなんて一つもない。


2年生も残すところ2ヶ月ちょっと。

もうすぐ受験生になるということも、

1回1回の部活が大事なことも、

頭では分かっているのに、実感はどこにもない。


気持ちは穏やかになっていく一方で、

自分には何もないような気持ちにもなる。


そんなつまらない日常を、10日ほど過ごした。


未だに悪い連絡も、ましてや良い連絡も、僕には届いていない。

自分で決めたこととはいえ、なかなか辛い時間だった。


3学期最初の席替え。

僕は窓側の端っこになった。


教室史上最高の席だ。


隣は東さんだった。

気心知れた人が隣なのは、少し安心する。


東さんは、いつかプレゼントした消しゴムを見せてくる。

「莉」の文字が半分消えかけていた。


「使いすぎじゃない?」


「早く使い切りたいんだよ」


「せっかくあげたんだから、大事に使ってよ」


「そういう意味じゃないんだよ」


今思えば、僕はずっとバカだった。

そんなところも、君に嫌と思わせてしまったのかな。


今日もつまらない体育が始まった。

せっかくならボールを使った体育がいいのに。


体育は男女分かれる都合上、隣のクラスと合同になる。


僕はシンタロウとダラダラ走っていた。


そこへタカヤが全力で走ってくる。


僕とシンタロウは「一生懸命だな」なんて笑っていたが、


「おい! 上田運ばれてったぞ!」


その一言で、僕の身体は勝手に動いた。


「えっ?」


気づけば全力で走り出していた。

出来るだけ最短で、保健室へ向かう。


保健室に着くやいなや、ノックもせずドアを開けた。


椅子に座る花菜と、足にテーピングをしている保健の先生が、驚いた顔でこちらを見る。


「花菜……」


「あなた! 保健室はノックしなさいって言ってるでしょ!

誰か着替えてたらどうするの?」


保健室の先生に怒られる。


「すいません」


「知り合いなのね? 一応病院に行くことになるから職員室に行ってくるわね。

ちょっと待ってて」


先生が出ていき、僕と花菜だけになった。


1ヶ月と少しぶりに見る花菜は、ほんの少し綺麗になっていた。


「痛い?」


「うん、少し。……でも捻挫かな、だって」


「試合前だもんね、嫌だよね」


「仕方ないよ。早く治るように頑張らなきゃ」

「来てくれたんだ」


「タカヤが走って教えてくれて。

それ聞いて、何も考えず走ってきた。

距離置いてたのに、ごめん」


「ううん、ありが——」


「花菜ーーーー! 大丈夫ーーー!?」


花菜の友達が勢いよく入ってきた。


僕に気づき、「あ……」という表情をする女子たち。


「じゃあ、お大事に」


そう言って、僕は保健室を出た。


着替えはトイレで済ませた。

後で先生に少し怒られた。


ケガと聞いて飛び出した自分を恥じた。

あの時、行くべきではなかった。

でも、身体も心も動いてしまった。


その日、花菜は病院に行ったあと帰ってきていないようで、

部活にも姿はなかった。


一度気にしてしまうと、全てがよみがえってくる。


時間をかけて薄れていったのではなく、

時間をかけて気持ちに蓋をしていただけだった。


夢の中にも花菜が出てくる。

いつもの笑顔で。

何を言ったかは覚えていない。


翌日。

僕は気になって、特に用もないのにタカヤのところへ行った。


花菜は学校に来ていた。

紺のソックスで分かりづらいが、おそらくサポーターをしている。


「花菜のケガ、どう?」


そっちが本題だろ?と言いたげな顔でタカヤは言う。


「2週間だって。月末の大会、出れるか出れないかって話してた」


キャプテンという重圧の中で、高三になる前の大会。

そんな中での怪我。

気丈に振る舞っているけど、大丈夫なのだろうか。


「そっか」


そう言って教室を後にする。

花菜と目が合うことはなかった。

合っても、どんな顔をすればいいか分からないが。


授業中、僕は珍しく机に向かっていた。

数学の授業なのに、国語のノートを開いて宿題をしている。


焦っていたせいで、僕は間違えた。


久しぶりに開けた筆箱には、消しゴムがなかった。

隣の席にはあるのだが。

また買えばいいと思って買っていなかった。


「消しゴム貸して」


僕は東さんの筆箱を指差す。


「いいよ」


東さんは筆箱から別の消しゴムを出した。


「これでいいのに」


「これはダメ」


「……そうか、ありがとう」


おかげでなんとか宿題は終わり、消しゴムを返した。


部活終わり。

普通に帰ろうと思ったが、消しゴムがないことを思い出し、

欲しい漫画もあるからと本屋に寄った。


欲しかった漫画と消しゴムを手に歩いていると、

レジ近くにメッセージカードのコーナーがあった。


こんな時でも、僕は花菜をふと思い出す。

無意識に、青リンゴ柄のレターセットを買っていた。

好きでも何でもない柄なのに。

誰に渡す予定もないレターセットを、カバンに突っ込んだ。


それから1週間弱。

花菜は部活には参加せず、玉出しをしたり、

ゲーム練習の時は体育館の二階でトレーニングをしていた。


女バレと女バスが先に体育館を使っていて、交代前に2階でアップを始める。


花菜も2階にいた。

タカヤやシンタロウが軽く声をかけてたが

花菜の笑顔には、少し陰りがあった。


バスケ部の練習を見ている花菜は、

手すりを強く握りしめていた。


僕は、いつかの花火大会を思い出した。


男バスも上に上がってきた。

ショウが花菜に話しかける。

口の動きしか見えなかったが、

「ヤバいかも……」と弱音を吐いているようだった。


こんな時、ワタルくんはどうしているのか。

彼を見ると案外、同級生同士で仲良くしているだけだった。

なぜだか少し腹が立ったが、

まぁ、こんな場所で話すのも難しいよな、なんて思う。


この1ヶ月が嘘だったかのように、

僕は落ち着いて花菜のことを考えられるようにもなった。


これが愛なのかな。

なんて柄にもなく思う。


そう思う反面、

花菜の焦りや悔しさが伝わってくる気がした。


僕にしてあげられることなんてないのに、

と弱気になる自分もいて、

気持ちは時間ごとに入れ替わり続ける。


ある時、シゲとトイレで一緒になった。

久しぶり、なんて話をしながら、


「上田さん、顧問と話してる時に泣いてた」


そう教えてくれた。


僕に言っても仕方ないのに。

それだけ、僕と花菜の関係、その影響力が

この学校にはあったのかな、なんて思う。


話を聞いてしまった以上、仕方がない。

僕はタカヤのところへ行った。

今度はタカヤに用があった。


「花菜とは距離を置いてる状態だけど、

それでも、何かしてあげたい」


そう相談した。


好きな子の涙には勝てない。

ただそれだけだった。


タカヤは言う。


「復縁とかじゃないなら、手紙で励ますとかじゃない?

預けてくれたら渡すよ」


「分かった」


僕は自分の席に戻る。

使っていないノートを破り、そこに書こうとしたが、

ハッと思い出してカバンを漁る。


青リンゴ柄の手紙を取り出した。


その日の授業中、

僕はずっと手紙について考えていた。


今までの手紙みたいに適当に書けないと思って、

悩みに悩んだ。


東さんが聞く。


「何してるの」


「ちょっとね。大したことじゃないけど」


そう返した。


花菜へ。

そう書き始める。

前は「大好きな花菜へ」とか書いていたが、

今は書けない。


書きたい思いは決まっているのに、

伝えたい気持ちはあるのに、 言葉にできない。


励ます難しさを知った。


それでも

花菜が頑張っていることも知っている。

だから「頑張れ」なんて言えない。


大丈夫じゃない時、大丈夫じゃないこともある。

きっと「大丈夫」なんて言えない。


僕はキャプテンじゃないから、

その重圧を分かってあげられないけど、

きっとそのプレッシャーもすごいはずで、

それが余計焦りになっていくのかな。なんて思う。


きっと辛いし、

この先どうなるかも分からない。


たかが一つの大会なのかもしれない。

それは終わって何年か経って言えることだし、

逆にずっと引きずるかもしれない。


だから何も励ましてあげられないけど、

僕はただ、花菜の味方だから。


そんな気持ちを込めて手紙を書いた。


便箋1枚にしかならない短い文章だったが

5枚入っていた便箋は全部書き直しに使った。


厚みのない手紙を、タカヤに託した。


その後は分からない。

読んでくれたかも分からない。


シゲに聞いた話では、

当日の大会は途中交代で出られたらしい。


きっと万全じゃない。

悔いもあるだろうけど、

少し良かったと思った。


そんな1月が終わる。

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