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0.5%の恋  作者: まんぷくねこ


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第19話 月下美人

まだ1週間か。

もう何年も、何十年も経った気がした。

花菜から別れを言い渡されてから、まだ間もない。


同級生たちは僕たちが離れたことを驚いていた。

でも、その理由を知っている子はほとんどいないと思う。

僕は誰にも言っていないからだ。


それが花菜にしてあげられる

最後の優しさなのかな。

なんて思ったり、思わなかったりする。


数学の授業終わり、東さんが話しかけてきた。

今は前後の席で、僕が前で東さんが後ろ。

同じクラスなので話す機会はあるものの、

花菜と付き合っていた手前、積極的には話していなかった。

花菜が気にしていたのかは分からない。


「さっきの授業のここ、わかった?」

東さんがノートを指す。

僕に聞かれても、と思いつつ一緒に考える。

これは本腰入れないと分からないなと思って、

身体をちゃんと後ろに向けて座り直した。


――いずみー!


聞き慣れた声がする。花菜だ。

僕の心は、花菜と別れたことをまだ知らないのか、

いつもと変わらない強さで高鳴る。


同じ部活の子に用があったんだと思う。

僕は頑なに教科書を覗き込んだ。


絶対に振り向いてはならない。

そう思ったからだ。


「すごい怖い顔してるよ。そんなに難しい?」

東さんが笑いながら言う。


きっと力みすぎていたのだろう。

僕は「ごめんごめん」と言って表情筋を緩める。

東さんはその姿を見て、フフッと上品に笑った。


部活のメンバーは気を遣って僕を励ましてくれる。

特にタカヤは花菜と同じクラスになってから

花菜とも仲良くしているらしく、余計に気にしてくれていた。

「俺のほうが泣きそうだ」なんて言ってくれていた。


おかげさまで、

クリスマスは部活のメンバーで

さみしく温かいクリスマスパーティをすることになった。

といってもカラオケではしゃぐだけだが。


きっと大人だったら、

やけ酒をしていたくらい辛かった。


高校というのは残酷なもので、

別れたからといって会わなくなるわけでも、

気を遣ってくれるわけでもない。


終業式までに何度もすれ違うし、

授業だって一緒になる。

その度に目を覆いたくなる。


その後、ワタルくんとどんなやり取りをしているのかも分からない。

もしかしてクリスマスデートに行くのかも。

でも、もう僕には関係ない話なんだ。

そんな無駄な自問自答を何度も繰り返す。


花菜を視界の隅でとらえる度に、

頭からつま先まで毛穴が開くような感覚になる。

手のひらは熱くなり、

冬の冷たい雪でも溶かせるんじゃないかと思う。


そして、何度もした後悔をまた繰り返す。


クリスマスイブが終業式なのだが、

東さんが「クリスマスプレゼントあげる」と言って

お菓子をくれた。

「ありがとう」と受け取ると、東さんは澄んだ瞳で僕を見る。


僕もお返しに何かないかと探す。

「じゃあさ、消しゴムが欲しい」と東さんが言う。

「なくさないように私の名前を書いてほしい。苗字じゃなくて名前がいい」と。


僕は慣れない「莉子」という字を書いて、

スリーブに戻し、渡した。

東さんは優しい笑顔で消しゴムを見て、去っていった。


クリスマスはメンバーに慰めてもらい、

冬のリーグ戦は惜敗に終わった。


そんな冬休みも年末に近づく。

練習をしていても、隣のコートが気になってしまうので、

年末の学校に行かない時間がありがたい反面、

何もないことを強く実感してしまう。


年末年始は父親の実家で過ごす。

身体がなまらないように、走り込みだけは欠かさなかった。

祖父母も「こんな時まで偉いね」と言って、

お年玉がいつもより弾んだ。


年越しはぼーっと年末番組を見ていたら、

気づけば新年になっていた。


この日だけはメールがやたら遅く、

センター問い合わせを何度も行う。

ようやく届いたと思ったら数十件。


全員メールで送ってくるやつや、

個人で送ってるんだろうなっていうマメなやつ。

みんな新年に合わせて送ってくるなんて、すごいなと思った。


東さんからは

年内に「来年もよろしくね」というフライングメールが届いていたので、

僕もフライングで「あけてないけど、あけおめ」と返した。


分かっている。

僕が欲しいと思うメールは一通だけ。

その宛先から届くことはなかった。


親たちが初詣に行くと言っていたが、

深い理由もないまま、何となく僕は行かなかった。


年明け。

久しぶりにみんなと会う。

変わってはいないものの、

何となく身が入らないのが新年一発目の部活だ。


午前練習が終わると、見覚えのある女子たちがいた。

女子テニス部だ。

その中に東さんもいた。


うちのメンバーも、同じクラスの女子たちも、

口々に話していた。


僕も東さんとあけおめと言い合い、

年末年始何したか、そんな話をする。


その横を、ふわっと懐かしい匂いが駆け抜けていった。

思わず僕は後ろを振り向いた。

すぐの角を曲がったようで、誰かは分からなかった。


懐かしい匂いだけが残る。

それだけで誰だったのかは分かった。


「どうしたの?」と東さんが聞く。

「虫が飛んできた気がした」と誤魔化した。


「用がないなら早く帰れ」と先生が大きい声を出したので、

それぞれ更衣室に戻ることにした。


部員のみんなはこの後どうする?と話していたが、

僕は行きたいところがあったので、

用があると言って早く帰る。


去年、みんなで行った神社に、

ひとりで来ている。


無駄だと思っていても、

縋りたかった。


僕はお参りをして、おみくじを引く。


待人 ーーーー


僕はおみくじを折りたたみ、

財布にしまって、

神社を後にした。


三学期がもうすぐ始まる。

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