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0.5%の恋  作者: まんぷくねこ


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第16話 紫陽花

花火大会のあとも

僕らは変わらない連絡を取って、

時間が合えば変わらずに会って、

何も変わらない、

きっと何も変わっていない関係を

確かめ合っていた。


2学期が始まる。

僕は去年懲りず、

終わっていない夏の課題を持って学校に行く。


2学期になり、大きく変わることはないが、

月末の体育大会に向けて忙しくなる。

出場種目決めに始まり、

実行委員や部行進の練習。

毎日、体育大会に関する何かがある。


部行進練習のために各部が順番に呼ばれる。

女子の運動部、外の運動部が呼ばれ、

次に中の運動部、そして男子の運動部も呼ばれる。

僕たちは最後だった。


バスケ部も同じだったので、

シゲと顔を合わせる。

シゲが隙を見てこっちに話しに来る。


「ワタルくんってどんな子なの?」

僕が聞くと、シゲは少し考えてから言った。


「あー、面白いしバスケも上手でいい子だよ。

あと負けず嫌いかな」


「ふーん、いい子そうだなー」


「どうした、なんかあった?」

シゲが聞くので、


「いや、花菜の後輩らしいからさ」


「そうなんだ」


その瞬間、噂を聞いたのか、

ワタルくんがこっちを見た気がした。


「シゲ先輩ー、始まりますー!」


呼ばれたシゲは

「じゃあ、また」

とだけ言って戻っていった。


まぁ、そりゃ引きずるよな……。


僕は自分の経験の少なさが嫌になった。


あっという間に体育大会。


部活を辞めた3年生に比べて、

2年生のほうが運動能力も高い時期なこともあってか、

2年生の席は比較的中央寄りにセッティングされている。


夏を過ぎたとはいえ、

1日中外というのは暑い。


ましてや、僕は最低限の種目にしか参加しないので、

席に座って応援しているだけだ。


花菜が走っている時だけ、

前に座って、小さくだけど力強く

「頑張れ」と応援した。


昼を過ぎて、

部活動行進もなんなくこなし、

完全に出番を終えた。


席もまばらになっていたり、

みんな準備もあったりで、

自分のクラスがガランとしていたので、

僕は花菜のいる隣のクラスに顔を出す。


花菜もそれに気づいたものの、

女の子で固まっていたので、

軽く手を振るだけにした。


そのとき、

花菜の笑顔がほんの一瞬だけ揺れた気がした。

僕は気のせいだと思った。


後ろの方にタカヤや他の男子がいたので、

そっちに座る。


「暑いな」

「みんな頑張ってんなー」


そんなモチベーションの低い会話をしながら、

応援と一生懸命走る同級生を眺めていた。


次は借り物競争です。


アナウンスとともに出場者が入場する。


シンタロウの登場に僕らは笑いながら

「頑張れ」と応援した。


その少し後ろにワタルくんの姿もあった。


シンタロウが出るということで、

僕らは少し前の席を陣取る。


第一走にシンタロウが出るようだ。


走っていき、

ちょうど僕らの前あたりにお題の札が設置してある。


シンタロウが札を取る。


「メガネ、メガネ」と焦るシンタロウに、

タカヤのクラスの橋本くんがメガネを貸してあげた。

そのおかげでシンタロウは2位という好成績に終わる。


シンタロウの番が終わり、

何となくみんな飽きてしまっている中、

僕はワタルくんの出番を待っていた。


数回レースが流れたあと、

遠くの1年生が盛り上がっている気がした。

ワタルくんがいた。


僕は花菜を見ないようにした。


スタートのパンッという音と同時に、

みんな走り出す。


周りに飲まれたのか、

自分のせいか分からないが、

ワタルくんは出遅れていた。


それでも足が速く、

最下位から3番目くらいに持ち直し、

札を取る。


札を取ると同時に1年生のほうを見る。

ほんの数秒悩んだあと、

2年生のブースを見る。


僕の2、3メートル隣で視線を留める。


声こそ聞こえなかったが、

ワタルくんの口は確かに「花菜」と言っていた。


ワタルくんの伸ばした手を、

花菜は迷いなく握って立ち上がった。


手は離れ、

二人ともゴールに向かって走っていく。


僕の耳は、

周りの盛り上がっている女子の声も通り抜けていく。


僕の目の前を走っていく二人が、

あまりにもスローモーションに見えて、

次第に周りが真っ暗になっていく。


真っ暗な景色の中で、

ゴールしたであろう花菜とワタルくんが

笑っている姿だけが脳裏に焼き付いた。


花菜が戻ってくる前に、

僕は席を離れた。


タカヤが「おい」と声をかけてくれたが、

大丈夫というジェスチャーだけして、

一足先に教室に戻った。


教室には数人、暑さに負けたクラスメイトがいる。

僕もその一人に紛れて、

教室から体育大会の賑わいを聞いていた。


体育大会が終わり、

シンタロウをはじめクラスの友達が

「どこ行ってたのか」と心配してくれた。


「少し熱くなって教室で涼んでた」

そう伝えた。


体育大会の次の日、

僕は初めて部活をサボった。


体育大会のあとも

花菜は思った以上に普通だった。

いや、普通よりも普通で。

僕が疑っているからなのか、

無理しているのか分からない。


変わらない笑顔を僕にくれた。

その笑顔が、どこか遠く見えた。


ありがたいことに練習試合や小さい大会もあり、

花菜に会わない言い訳を作って、

会うのを週に1回か、多くても2回にした。


花菜は「大丈夫?」と聞いてくる。

僕は「珍しく部活が忙しい」と言い訳をした。


「もうすぐ誕生日だね。今欲しいものはある?」

僕が聞くと、花菜は少し考えてから言った。


「一緒にいる時間、かな」


その言葉だけで、

僕の心はまた嬉しくなった。


でもその笑顔の奥に、

ほんの少しだけ影が見えた気がした。

僕は自分に気づかせなかった。


花菜の誕生日が今年は平日だったので、

部活終わりに公園で待ち合わせた。


僕が着いてから五分も経たないうちに、

花菜がやってきた。


「お待たせ」

「いや、待ってないよ」


そんな他愛ない会話から始まる。


花菜はいつも通りの笑顔だった。

でも、どこか少しだけ疲れているようにも見えた。

部活の気合もはいってるからだろう。

それとも僕がそう見たいだけなのかもしれない。


僕はあまり話す気になれなくて、

花菜の話を聞く方にまわる。


卒業生が新しいコーチとして顔を出していて、

その結果、男女バスケ部での合同練習が増えたこと。

男子の力強いプレーが勉強になること。

男子は真面目だが、基本面白いということ。


花菜は楽しそうに話す。

その楽しそうが、

僕には少しだけ遠く感じた。


僕はウンウンと相槌を打ちながら、

内心、心地よくはなかった。


「みんなから誕生日プレゼントもらったの」


花菜が袋を見せる。

花菜の好きなチョコに、寄せ書き。

知らない名前もあった。

後輩も書いているらしい。


僕がそのチョコを眺めていると、

「あ」と目が止まった。


ワタルくんの字だった。


この前はありがとう。おめでとう。


花菜も僕の視線に気づいたのか、

少し慌てたように言う。


「ショウがね、ワタルくんにも書けって言ってて。

その場で書いてくれたんだけど、

この前はって何これって聞いたら、

体育大会のことだったんだよ。

意味深な書き方しないでよって言ったの」


花菜は笑っていた。

でもその笑顔は、

ほんの一瞬だけ揺れた。


僕はそうなんだと愛想笑いをする。

上手く笑えていなかったと思う。


「ワタルくんの借り物競争のお題って、何だったの?」


僕は聞いてしまった。


花菜は少しだけ目を伏せて、

「うーん、それは全然教えてくれなかったんだ。

でも……」


そこで言葉を切った。


「何でもない」


優しい顔で、遠くを見た。


僕はこれ以上聞かなかった。

聞けなかった。

いや、聞きたくなかった。


思い出したように、 、、

本当は話を変えたくて言った。


「そうだ。いつもありがとう。

誕生日おめでとう」


プレゼントを渡す。


いつもなら「好きだよ」も一緒に伝えるのに、

伝えたいのに、出来なかった。


花菜は「わー、ありがとう」と言って受け取る。


「開けてもいい?」

「いいよ」


「香水だ!」と花菜が言う。

蓋を開けて匂いを嗅ぐ。


「あ、これ……私の制汗剤と似てる?かな」


「うん。好きな匂いかなって思って」


「そっか、嬉しいな」


花菜は少しだけ目を細めた。

その表情が、どこか懐かしさを含んでいるように見えた。


「いつもその香り使ってるけど、ずっとなの?」


僕が聞くと、花菜は少し間を置いてから言った。


「あ、うん。

最初は違うの使ってたんだけど……

この香りがいいっていう人がいて。

一回使ってみたら気に入っちゃって。

今は私がただ好きなだけ」


「その人」が誰かなんて、

聞かなくても分かってしまった。


胸が締め付けられた。


嫌な予感は当たる。

僕は後悔した。


いつもはもう少し一緒にいるのに、

今日は耐えられなくて、

「もう暗いし帰ろうか」と言った。


駅までの道。

いつもなら手を繋ぐ。

でも今日は出来なかった。


花菜も何かを察しているのか、

何も言わなかった。


喧嘩したわけじゃないのに、

何となく気まずい空気のまま駅に着く。


今日は花菜の誕生日だ。

そう思い出して、ハッとした。


「バイバイ」と言って去ろうとする花菜を、

僕は後ろから抱きしめた。


「最後、なんかちょっとごめんね。

大好きだよ。

誕生日おめでとう」


精一杯の気持ちを振り絞って伝えた。


花菜は振り向かずに

「うん、ありがとう」と言った。


バイバイと手を振る花菜は笑顔だった。

その笑顔が、少しだけ滲んで見えた。


僕は電車を二本見送って、

ようやく帰った。


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