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0.5%の恋  作者: まんぷくねこ


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第15話 ヒマワリ

学期末テスト前。

花菜と僕は当たり前にテスト勉強をする。

ドリアが安いで有名のファミレスや、

いつも何食べようか迷って、

結局ホイップたっぷりのものを選ぶドーナツ屋さん。

学校の駅前にある少し高いハンバーガー屋さん。


その日の気分や、歩きながら場所を決めて

僕らは集まって勉強する。

それがテスト前の日常となっていた。

勉強をしなければならないのは理解の上でも、

部活の時よりも長くいられることが

何より嬉しかった。


息抜き中、

「テスト終われば夏休みだね」

なんて話をする。


3年生が抜けて、

部活は新チームになったこと。

お互いレギュラーになっていたこと。

花菜はキャプテンにも選ばれた。

そんな事もあり、

部活が忙しくなるかもという話をしていた。


去年は花菜と付き合う前に夏休みが終わった。

僕は今年は花菜との夏の思い出を作りたいと、

そう心に決めていた。


「忙しいけどさ……は、花火大会!」

「花火大会!」


花菜と言葉が揃って、

どっちから話す?という状況になった。


僕は会話を奪う。


「花火大会は一緒にいきたいな、って」


「私もそれ言おうと思った」

と花菜はクシャッと笑う。


8月の初めにある花火大会。

僕は絶対に風邪を引かないぞと心に誓った。


テストの結果については

なんの進歩も見られないまま、

夏休みに突入する。


僕達はダラダラとメールをするタイプだったが、

なんとなく心機一転、

おはように始まり、おやすみで終わるようにした。


たまにどちらかが寝落ちしてしまっても

おやすみというメールを送っていた。

大体僕が寝落ちするのだが、

ルールとして決めたわけでもないこのやり取りが

僕にはなんとなく嬉しくて、

大事にしたいと思った。


もう一個の変化は、

花菜が僕と同じ電車にしたことだ。

夏休みに入る前のある日、

後ろから声をかけられた時には変な声が出た。


方向こそ違うものの、

同じというだけで嬉しかった。


花菜になんで変えたのって聞いても、

「エヘヘ」と笑うだけで

ちゃんとは言ってくれなかった。


僕はこの時、

花菜の静かな覚悟に気づいてあげられなかった。


夏休みのある日。

夜、花菜から連絡がある。


「明日、部活午後からだよね。

8時に、あの駅で」


花菜の最寄りでも学校の最寄りでもない、

少し離れた駅に呼び出される。


部活よりも早い朝に、

少し頑張らなければと思ってしまったが、

花菜からの呼び出しを無碍にすることはない。

僕は喜んで返事をした。


通勤ラッシュよりも少し早い時間。

世界もまだ寝ぼけてるような、

蝉だけは朝から元気に鳴いている。

そんな時間に電車に乗る。

部活の用意だけ持って。


最寄り駅に着くと花菜はまだいない。

メールでは3分前に1個前の駅だと連絡が入っていた。


花菜が遅いわけじゃない。

僕が早かっただけだ。


僕は「おっけー」と太陽の絵文字だけのメールを返信した。

1つしかない改札口をぼーっと眺めていると、

たくさんの人の中に紛れて花菜が現れた。


背が大きいわけでも、

奇抜な服でも髪型でもないのに、

どうしても僕は花菜をすぐに見つけてしまう。


花菜も僕のことを見つけると、

小走りで駆けてきた。


「ごめん、待ったー?」

「いや、いま来たところ。」

「……先についてたでしょ」


と、よくあるやり取りを模した会話をする。


勘の鈍い僕でも、

ここまで来れば分かる。


「海行くの?」


麦わら帽子のよく似合う花菜に聞いた。


「うん。部活ばっかで遊べないけど、

ここだ!って思ったの、今日。

部活前なのにごめんね」


「全然いいよ。花菜と夏の思い出作りたいと思ってたから」


さっそく花菜と砂浜の方へ向かう。

駅から南に下っていくとわりとすぐに着く。


隣の駅の方がビーチって感じなので、

こちらは比較的人も少なかった。


「今日は部活前だし、遊ぶというより

お散歩したりとかかなー」


僕はその言葉で嫌な予感がした。

嫌な予感というのは大抵当たるものだ。


花菜は、水着を着ていないし

持ってきていなかったのだ。


「花菜、水着……」と呟きながら膝をついた。


花菜には聞こえてなかったようで、

「制服汚れちゃうよ」と心配だけしてくれた。


とりあえず砂浜と道の境にある石段に座り、

海を眺める。


花菜は少し呆れた口調で

「水着楽しみにしてたの、ごめんね」と笑う。

「私のなんか見ても」と謙遜するので、

「そんな事はない!花菜のしか見たくない」と強く言った。


暑さなのか分からないが、

花菜も顔を赤くした。


「でも、海に映える花菜は可愛いよ。

誘ってくれてありがとう。」

花菜といられるのがとにかく幸せだった。


そんな話をしてたら暑くもなったので、

僕は制服のズボンの裾を思い切りまくった。


「足だけでも入らない?」

僕は花菜を誘う。


花菜も海にはいる準備をしてくれた。


思ったよりも海の水は冷たかったが、

なれるまで時間はそうかからなかった。


海風に吹かれてなびく花菜の髪の毛。

海の水が滴る足や手。

光る汗。

花菜の全てが美しくて、

僕は携帯のカメラに花菜を映す。


綺麗だ。


その後はアイスを食べて、

海の家でお昼ご飯を済まして、

部活に行くためにバイバイした。


あっという間だった。


その日の部活の汗拭きタオルは、

やたらと磯臭かった。


キラキラした夏が終わり、

8月にはいる。


僕のソワソワした夏が始まる。

今日は花火大会だ。


毎年、男子としか行かない花火。

今日は女の子。

大好きな子といく初めての花火大会だ。


部活の後、一度家に帰って用意をする。

それでも時間を持て余した僕は、

少し早く家を出た。


花菜を急かさない温度感でメールを打つ。

花菜の家まで迎えに行くためだ。


「ありがとう」という花菜からのメールに、

気にしないで準備してほしいことを返した。


花菜の家の最寄り駅に着く。

前回来たときは緊張でほとんど記憶がない。


建物やお店、道路。

全てが新鮮だ。

花菜と出会わなければ、

もしかしたら降りることのなかった駅。


僕はありふれた街並みを見ながら

感慨にひたっていた。


待ち合わせよりも少し早い時間、

花菜のマンションの前に着く。


花火大会だからか、

なんとなく人の出入りが多い気がしている。

僕は歩道まで出て、

少し離れた所で待っていた。


ぼーっと、

日の長くなった空を見ながら、

青いようなオレンジのような空に

なんだか泣きそうになりながら待っていると――


僕を呼ぶ女の子の声が聞こえた。


遠くから、水色の浴衣に黄色い帯。

花か金魚か分からない模様が揺れている。

きれい?かわいい?

どちらとも取れる、どちらでもよい。

引っ込んだ涙が、美しさでまた流れそうになる。


「お待たせ」


「好き」


待ってないよとも、

かわいいとも、

似合ってるとも、

迷っていた第一声は、

お腹の底からの本心だった。


「会話になってないよ」と笑う花菜。


あまりにも可愛くて、綺麗で、

夢と疑うという感覚を初めて知った。


僕は深い溜息をついて、

「似合ってる。かわいい」と改めて伝えた。


もし付き合っていない中で

浴衣姿の花菜に出会ったら、

こんなに素直に流暢に

花菜を褒めることはできなかったと思う。


浴衣を着るのは迷っていたらしい。

砂浜に膝をつく僕を見て、

着ることを決めたとのこと。


僕はあの日の僕に拍手を送った。


「花火始まっちゃうから早く行こう」

と僕の手を引っ張る花菜。


僕は花菜の歩幅に合わせて歩いていく。


会場近くは屋台がたくさん出ていて、

人で賑わっている。


花菜に浴衣のお礼と言って

ベビーカステラを買ってあげる。

喜んでくれた。

僕が食べたくて買った串焼きも

おすそ分けする。


「ホルモン焼きうどん美味しそう!」

と花菜が目を輝かせる。


僕を見て少し恥ずかしそうにするが、

僕も食べたいと言うと再び目に輝きが戻る。


ちょうど腰掛けられる塀の近くにいたので、

「買ってくるから待ってて」と言う。


少し心配だったので

買い物が終わるやいなや、

人混みをかき分けつつ早足で戻る。


遠目に見ても、

誰よりも可愛かった。


「お待たせ」と言って花菜に

ホルモン焼きうどんを渡す。

もらった割り箸をちょうど割った時――


「花菜じゃない?」

「花菜だよ!」

「花菜ー!」


と声がする。


声のもとを辿ると、

男女数名らしき集団がいた。


「花菜ー、元気にしてた?」

と駆け寄ってくる女の子。


花菜も、呆気に取られつつ

「久しぶり」と返事をする。


「高校のバスケ部で来ようとしたら

みんな彼氏とかばっかでさー

リカとかトモコしか残ってなくて、

それなら中学バスケ部で暇な子いないかなー

なんて思ったら、うちらの中学暇な人多っ、みたいな……

花菜は彼氏出来たっていうから声かけてなくて、ごめんねー」


とすごい勢いで喋る女の子。


花菜も「そうなんだ」と相槌だけで精一杯のようだった。


その女の子と目が合う。


「もしかして花菜の彼氏さん?

寺島優香です。

今日は中学のさみしい人ら集めて花火大会来てます!」


と元気に挨拶され、

僕も「どうも」くらいしか言えなかった。


「何、何、どうした」

と他の子達も集まってきた。


寺島さんは

「花菜だよ花菜。あと彼氏さん!」

とざっくり紹介してくれた。


久しぶりだなーと

人それぞれに話している。


特に用のない僕は花菜を見る。

花菜は一点を見てじっとしてる。

僕は花菜の視線を辿る。

視線の先にはワタルくんがいた。


ワタルくんも花菜のことを少し見て、

また集団に視線を戻した。


花菜は、

持っていた巾着をギュッと握りしめていた。

その横顔はひどく綺麗だった。


寺島さんは

「ねぇ、よかったら2人も一緒に花火見ない?」

と誘われた。


「え」と戸惑う花菜。


どうするという相談もなく、

僕は


「ごめんなさい。初めての花火大会だから、

2人で見たくて!」


と出来るだけ陽気にポップに、

誘ってくれた空気を壊さないように断った。


周りの子達も

「そんな事したら私達お邪魔だよー」

なんて笑って流してくれた。


寺島さんは

花菜と僕を見て「またね」と言って、

人混みに消えていった。


花火大会が始まる。


花菜が「あ、ありが……」と言いかけた時に、

それをかき消すように


「ごめんね。久しぶりの友達だったのに、

花菜を独り占めしたくて」


と言った。


「うん、ありがと」

小さく呟いた。


「花火綺麗だね」

と続ける花菜に、

「そうだね」と返す。


僕は情けなさで

自分に腹が立っていた。


ワタルくんと一緒にいさせたくないだけだった。

僕は花菜の顔を見れなかった。


「ありがとう」と「花火綺麗だね」と言う花菜は、

笑ってたのだろうか、それとも。

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