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0.5%の恋  作者: まんぷくねこ


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第14話 スノードロップ

暖かいから暑いに変わり始めた頃、

2度目の文化祭シーズンがやってくる。


花菜と出会った文化祭。

あっという間の1年だったと感じる。


1年生の頃と違い、

2年生や3年生は舞台を使った出し物を行う。

9割が劇だ。


僕のクラスも花菜のクラスも劇をすることになった。

配役決めの時、クラスの流れに任せたままぼーっと眺めていたら、

気づけば主役になってしまっていた。


王子様とお姫様の童話ベースのお話で、

僕は主役のお姫様に抜擢された。

やるからには本気でやる、と意気込みを見せた。


一方、花菜の方は学園恋愛ものらしい。

レギュラーメンバーの一人っぽい位置とのことだった。


「お互い楽しみにしようね」

そう話しながら、準備と練習と部活を繰り返す日々が続いた。


ある土日、部活終わりに2人で遊んでいたら、

花菜が申し訳なさそうな声と表情で話し出した。


「前に学園恋愛ものだって言ったじゃん。

その……私もクラスの1人と結ばれる予定なんだけど、

最後、袖にはける時に肩を抱かれて退場するの。

言っとこうと思って……」


その瞬間、

僕の身体は毛穴が一気に開いたかのように、

ゾワゾワと何かが通っていった。


嫌な気持ちを隠して、

「役なら、しょうがないか」

と呟くように返事した。


花菜は僕の反応に物足りなさを感じたように、

「そっか」とだけ言った。


その後も少し話をしたが、

僕は劇の練習のためにクラスの子の家に行く必要があったので、

早めの解散になった。


帰りの電車で、花菜の劇を想像してみる。

肩を抱くだけかもしれない。

でも胸の奥がざわざわして仕方なかった。


バイバイと送ったメールに来た花菜の返信を見て、

僕は思わず打っていた。


「ダサくてごめん。やっぱ嫌だ!

役だからしょうがないのはわかるんだけど」


電車を降りる頃、ちょうど花菜から着信があった。

すぐに応答すると、


「へへへ、嫌だったんだー」

とニヤけた声で花菜が言う。


「どうなるか分かんないけど、

それとなく台本係に相談するね!

電話代かかっちゃうから切るね、バイバイ」


元気な声でそう言って、電話は切れた。


文化祭当日。

スケジュールも良く、花菜の劇が終わり次第の準備で間に合うので、

僕は花菜の劇を見ていた。


緊張しながらもしっかり声が出ている。

いっぱい練習したんだな、と思った。


クライマックス、例のシーンだ。

花菜と相手役は陽気なカップルって感じで、

「ケーキを食べに行こう! オー!」と走っていく。


別のカップル役が肩を抱いてはけていく。

役割をチェンジしてもらったんだな、と感謝した。


花菜に届くように大きな拍手を送って、

僕は準備に入る。


ガタイが良いと言われるような部類ではないが、

身長もあり、筋肉質な身体でもある僕なので、

母親に探してもらい、できるだけ安く大きいサイズの

コスプレ用衣装を買ってもらった。


それでも5000円近くするのだが、

母親も息子が主役をするのが嬉しいのか、

前のめりで準備してくれた。


カツラは既製品そのままだとカツラっぽさが凄かったので、

女子にお願いして少しすいてもらった。


そんなこんなで衣装に袖を通す。


うん、お姫様衣装の僕でしかなかった。


それでもクラスの皆は「可愛い」「似合ってる」と評判だった。


演劇部の子に教えを乞い、

素人ながら舞台での演技を一生懸命練習した。


大きな手ぶりと、相手ではなく会場に向けてセリフを言うこと。

それだけを意識して練習した。


本番。

後ろ向きでスタンバイしている僕に、ザワザワとした声が届く。

その声すら嬉しかった。

おそらくゾーンに入っていたのだと思う。


緊張は通り越して、ただ楽しく熱演していた。


終わった後の拍手の音圧は、

他のクラスより一段強かった気がした。


控え教室にハケてくると、

クラスの皆がグッジョブと褒め称えてくれた。


もちろん準備してくれた人や、

他の役の皆も熱演してくれたからこそだが、

心が熱くなった。


制服に着替えて控え教室を出ると、

次の準備の子達だろうか、女の子が数人立っていた。


間を抜けて行こうとすると、


「姫先輩ですよね?

劇すごく可愛かったです!」


と囲まれる。


姫先輩?

なんだ?

と困惑しつつ対応した。


文化祭エリアに戻ると、

後輩マネージャーがいたので声をかけた。


すると隣にいた同級生っぽい子が、

「姫先輩じゃん!」とテンションを上げている。


僕はマネージャーに「姫先輩って何?」と聞いた。


部活動紹介でうっすらキラキラした先輩となったらしく、

その先輩のお姫様姿が美しいということで、

誰かが姫先輩と言い出したのが急激に流行り出したらしい。


困りつつも、悪い気はしなかった。


長い一日が終わった。

1日目は片付けもなく、部活もないため、

花菜と帰る約束をしていた。


何となく花菜は終始そっけない感じだったが、

僕は「花菜の劇、頑張ってたね。あと僕のためにありがとう」と伝えた。


「うん。良かった」と花菜はそっけなく答える。


「今日楽しかったね」と言うと、


「ずいぶん楽しそうだったもんね! 姫先輩!」

と刺してくる。


「かっこいいところも可愛いところもずっと知ってるのに。」と拗ねた言い方で言う。

花菜の素っ気なさの理由が分かった。


「何笑ってるの!?」と花菜が少し怒ったように言う。


「花菜の嫉妬が可愛くて嬉しくて……

でも、ごめんね。

花菜も考えてくれたんだから、僕も考えてみる」


「僕は花菜だけの姫だから」


「そこは王子様じゃないの?」

と花菜はようやく笑ってくれた。


文化祭2日目。

2年生からはクラスTシャツがある。

絵の上手い子がデザインを作ってくれた。

名前と簡単な似顔絵がひまわりみたいになっている可愛らしいデザインだ。


卒業アルバムのように寄せ書きを書いていくのも醍醐味だ。


僕はシンタロウにお願いして背中に書いてもらった。


今日は花菜と周る予定だ。

花菜をクラスに迎えに行く。


通りすがりの友人たちとも寄せ書きをし合う。

その度に背中の文字を見て笑われる。


花菜のクラスにたどり着くと、

背中を指して笑うクラスの子達を横目に、

「お待たせ。行こうか」と誘った。


校内を歩いて回る。

そんなことも中々ない。


3年生と2年生は同じ棟で、1年生だけ別の棟だ。

展示は少ないが、それでも楽しい。


時々出会う先輩や同級生とも挨拶したり、寄せ書きを書いたりする。


校舎の外に出ると、いい匂いと共に屋台の話題が出ていた。


焼きそばやフランクフルト、様々なものがある。


僕が食べたいと言った焼きそばと、

花菜が食べたいと言ったホットドッグを買った。


中庭のベンチに腰掛け、

お互い味見もし合いながら文化祭を楽しむ。


食べ終わった後、

お互いのTシャツにも寄せ書きをした。


僕は少し控えめに「大好き」と書いた。

花菜も「好きだよ、これからも一緒」と書いてくれた。


花菜の友達が吹奏楽部にいるそうで、

少ししたら演奏があるとのことだった。


その前に1年生の展示を見に行くことになった。


「姫先輩」と花菜が小さく呟く。

僕は「大丈夫」と言って花菜と手をつなぐ。


そのまま1年生の教室棟へ向かう。

1年生のみんなに見せつける。


「姫先輩だ」「隣は彼女さんかな?」「彼女さんも可愛いね」 「背中の文字見て」

そんな声が小さく聞こえる。


花菜は

「さっきから背中って何?」と僕の背中を見た


「花菜 命」シンタロウに大きく書いてもらった


「もう」と言って

花菜は少しうつむき気味に歩く。


「大丈夫って……これ、ちょっと恥ずかしい」

と花菜は言う。


「このくらい見せつけたいんだよ。花菜を。かわいいから」


いよいよ最後のクラスに来た。

「ここ見たら演奏見に行こう」と話す。


このクラスは“将来の自分”というテーマで色々掲載していた。


パティシエや教員など、色んな絵がある。

区役所の絵が描いてあり“公務員”と書いてあるのは面白かった。


花菜はある絵の前で止まる。


バスケのシュートを打つ自分。

“目指せ全国”と書いてある。


「ワタルくんのだ」

と花菜はボソッと言った。


その横顔を見ながら、

僕はそっと手を離してしまった。



その後、吹奏楽部の演奏を聞きながら、

花菜の横顔がフラッシュバックした。


吹奏楽部の優しい演奏が、

何となく僕を慰めてくれている気がした。

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