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ホヨテルのダンジョン

 俺がダンジョン初心者なのと、今日は登録だけを目標にしていることは、乗合馬車に乗車している全員にバレている。

 降りる客が適当に選んだ人に対して「ダンジョン近くになったらこの人に教えてあげて」と伝言して去っていく親切の輪が、すでに3人目。

 10人くらいしか乗れない馬車の中でその声が聞こえない人は、熟睡しているか元々聞こえないかのどちらかだろう。


「ここですよ」

「ありがとうございます」


 老婦人から続く親切の輪がついに実を結んだ瞬間だった。ありがとう老婦人。

 御者の人に銅貨3枚を渡して降り、マップでダンジョンがある方向を確認して進む。


 ダンジョンが近い影響なのか、この辺りではほとんどの人が武器を携帯しているようだ。前を歩く人もすれ違う人も、皆武器と防具に身を包んだ冒険者スタイル。

 シャツとチノパンにリュック背負った俺の場違い感がもの凄い。


「初回講習を受けたいんですけど」


 天高くそびえたつ塔の手前にある施設に入り、受付のお姉さんに初心者アピール。

 すっと出された書類に名前と年齢を記入して、赤い札をもらう。


「その札を持って、2階に上がってすぐの赤いドアプレートの講習室でお待ちください」

「はい」


 入り口正面に受付窓口が3つあって、部屋の奥には買い取りカウンターがある。そしてその横にある階段を上がってすぐ、ドアプレートで色分けされた講習室が3つ。

 指定された部屋に入ると、そこには誰もいなかった。部屋に用意されている椅子に座ってひたすら待つ。


 しばらくすると、教材を持った男性が部屋に入って来た。もしかして、この部屋で講習受けるの俺だけ?


「お待たせしました」

「いえ……もしかして俺だけ?」

「そうですね。今の時期はあまり初心者の方はいらっしゃいませんので」

「そうですか」

「ええ。では、改めまして。初回講習担当のジョンです」

「トーヤです。よろしくお願いします」


 俺から赤い札を受け取って、周辺施設のマップを壁に貼り付けたジョンさんは、指し棒を使って1つ1つ施設の説明をしていく。


「今いるこの建物が、ホヨテルダンジョンの管理事務所になります」


 パーティー申請や解除も1階の受付で対応してくれるようだ。それから、ここで買い取りしたダンジョン産のアイテムは、ダンジョン近くの商業施設で販売しているらしい。この店は利用登録不要で、誰でも買い物ができるとか。


「さて、次にダンジョンについてです」


 アルファとヘルプから得た情報と特に違いはないけれど、初めて聞く話もあった。


・初心者はEランクから始まり最高はAランク。

・アイテムを売ることでランクが上がる。 

・ホヨテルダンジョンは現在25階まで確認されている。


 たとえ25階を攻略中であろうとも、アイテムを1つも買い取りに出していない場合、ランクはEのままらしい。逆に低層階で活動している人でも、それなりにアイテムを売却していけばCランクまではいけるとか。


「最後に、宿泊施設についてです」

「はい」


 ダンジョンでモンスター討伐し、アイテムを売り払って生計を立てている人向けに、ホヨテルダンジョン管理事務所が提供している宿屋があるらしい。


「食堂で食べる朝食と夕食が付いて、1泊銀貨1枚です。共同風呂も利用可能です」


 宿に泊まったアルファは1泊銀貨1枚で、朝食を外に食べに行っていた。それを考えれば、朝夕の2食付きで銀貨1枚というのは、結構安いのかもしれない。


「……お得ですね」

「ありがとうございます。食事と風呂付きなのがうちのウリです」

「個室ですか?」

「もちろんです。宿泊ご希望でしたら、このカードを必ず宿の従業員にお見せください」

「はい」


 俺の名前が記入されたEランクのカードを手渡された。

 これで初回講習は終了らしい。


「それでは、トーヤさんの今後の活躍を期待しています」

「ありがとうございました」


 初回講習が終わって部屋を追い出された俺は、管理事務所から1度外に出る。

 そして、ダンジョン産のアイテムを扱っている商店に向かって歩き出す。


 モンスターが無限に沸くダンジョンがあって、そこで得たアイテムを売買している施設があって、すぐ近くには食堂付きの宿泊施設……。

 このダンジョン周辺地区だけでそれなりの生活が出来そうだ。


 扱っている商品の種類に分かれて店が数軒並んでいる区画に着いた。

 外の看板にそれぞれ、剣の絵、盾の絵、ビンの絵、ネックレスの絵が描かれている。


「とりあえず武器が無いとな」


 今現在、俺の所持金は金貨1枚銀貨5枚銅貨5枚。


 今日は宿に泊まってみようと思うので、銀貨1枚は必要。それからダンジョンでの稼ぎは完全に運なので、数日分のお金も残しておかないといけない。

 金貨1枚は銀貨何枚なのか、誰かに聞いてみようか? でも、そんなこと聞くのって、かなり変な感じになるよな……。「1000円は100円玉何枚ですか?」って聞く勇気はない。


 先に剣を買ってみよう。


「そもそも武器は剣でいいのか?」


 投石スキルが芽生えなかった俺は、相変わらずノーコンのまま。

 武器を購入しようとして、剣をイメージしたけど、ゲーム以外で剣を振ったことはない。弓はきっと飛ばすところから練習しないといけないし……。


「いいか、剣で」


 いろいろ考えて結局消去法で剣を購入することにした俺は、剣の看板の店に入る。


「いらっしゃいませ」


 店内には他にも客がいた。店に飾ってある武器は自由に見ていいらしく、柄を握ったり、鞘から抜いたりしている人がいる。店の中にいる客は俺と同じく武器不携帯の一般人ばかりだ。


 ぐるっと店内を見渡し、触れないように壁の高い場所に飾ってある剣をなんとなく眺めていると、店員が寄ってきて「白金貨100枚の値がついた、ダンジョン24階層にて出現した火炎ドラゴンの牙の剣ですよ」と教えてくれた。

 俺に商品を売りに来たというより、この店の目玉商品なので是非見て行ってくれって雰囲気だ。 


「初心者なんですけど、初心者におすすめの剣ってありますか?」

「そうですねぇ……こちらの商品は比較的扱いやすい部類ですよ。刀身は長くも短くもなく、幅も程よいので、ダンジョン内でも振りやすいはずです」

「なるほど」


 おすすめを持ってみると野球の金属バッドより少し重いけど、長さは同じような感じなので距離感は掴みやすそうだ。似たような長さの剣をいくつか持ってみて、一番軽いやつを選ぶ。


「ちなみに、これはおいくらですか」

「銀貨30枚ですね。属性はついてないですが、丈夫で長持ちすると思いますよ」

「じゃあ、これで」

「かしこまりました。ベルトも用意してありますが、購入されますか?」

「あー。ください」

「銅貨3枚のものから、いくつか種類がございますが……」

「一番安い銅貨3枚でいいです」


 金貨1枚と銅貨3枚を出し、おつりはきっちり半分に加工された半金貨1枚と銀貨20枚。


「研磨のご依頼も受け付けておりますので、必要になりましたら管理事務所1階の受付で手続きをお願いします」

「はい」


 皮のベルトを腰にまいて、買ったばかりの剣の鞘をベルトに固定する。

 これで俺も冒険者っぽくなった気がする。


 残りのお金を確認すると、半金貨1枚、銀貨25枚、銅貨2枚。


 明日ダンジョンの1階を探索してみて、必要そうなら防具を買おう。

 

 商店の並ぶ区画を通り過ぎ、宿屋の中に入る。


「1泊お願いします」


 銀貨1枚とEランクのカードを渡す。


「はい。確認しました。ではこちらへどうぞ」


 かなり歩いて、到着したのはこじんまりとした小さな部屋だった。でも、天井は高いし、ベッドもある。


「こちらは別館になります。本館の2階に食堂がございます。食堂利用の際はこの札をお忘れなく」


 手渡されたのは木でできた2枚の白い札。


「それが宿泊者の証明になります」

「わかりました」

「共同風呂は本館にあります。お手洗いは黒い扉の部屋になります」

「はい」


 トイレも共同で、部屋の外にあるのか。


 1人になって天井の高さを目算した俺は、リュックから食卓カバーを取り出し、部屋の中にテントを設置してみた。


「ちょっと狭いけど、まあこれでいいか」


 テントとベッドで部屋がほとんど埋まった。

 歩けるところは扉の前からベッドまでと、扉の前からテントまでの限られたスペースだけ。


 リュックと剣をテントの中に置いて、ベッドに横になってタブレットを確認する。


 しばらく見ていない間に、チャットにいろいろ書き込みがあった。

 どうやらロージーとギュードンもこのホヨテルの町を目指して移動開始したようだ。


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