ホヨテルの神殿
朝食の芋を2つ食べ、残り1つを葉っぱにくるんでリュックの中に入れる。衛生的によくなさそうだけど、素材の味しかしない芋を1度に3つも食うのはちょっと厳しい。
その辺を歩いている人に適当に声をかけて聞いてみると、神殿は9時から一般開放されるらしい。まだ早いので暇つぶしに町をぶらつきながら神殿の方向へ。
マップで確認すると、俺の現在地から神殿まではかなり距離がありそうだ。
門の近くのキャラバン用宿泊地から朝市の場所まで普通に歩いて20分近くかかったのに、マップ上ではほとんど門から移動していない。町の中の移動に乗り物が必要な広さだ。
「大学の敷地面積くらいでいいじゃねぇか……なんでこんなに広いんだよ」
ふと、この町は東京ドーム何個分だろうか、という考えが頭をよぎる。
まあ、何個分だろうとも、広さはいまいち把握できないけれど。
2時間近くあるし、どうやって神殿の開放時間まで暇をつぶそうかと考えていたけど、神殿到着は9時を過ぎる可能性がでてきた。
昨日、今日と、とんでもない距離を歩いている気がする。これだけ歩いているのに、持久力スキルはなぜ発生しないのか。
途中、休憩できそうなスポットを見つけ、チャットを確認するとアルファが起床していた。それからはちょこちょこチャットをのぞいて、アルファとは後で情報交換することになった。
今まで長距離ウォーキングなんてしたことないのに、足が意外と動くのは、この体の基本スペックが高いからだろう。
かなり歩いてきたけど、マップを縮小するとまだ町の半分にも到達していない。
気が滅入る情報を遮断するため、マップを適度に拡大して調整する。
「この辺なんだけどな……」
自然公園のような場所に到着したけれど、神殿は見当たらない。
「すいません。この辺に神殿があると思うんですけど」
「ん? 他所の人かい? ここはもう神殿の敷地内だけど……わかりにくいよねぇ。ほら、その低い生け垣が神殿の敷地と通路の境界線で、生け垣からこっちが神殿の敷地」
「なるほど。公園だと思ってました」
「似たようなもんだけどね。もう少し奥に行くと塀に囲まれている拝殿があって、本殿はその更に先だよ」
道行く人にたずねて、詳しい行き方を教えてもらう。
等間隔に植樹された木を追っていくと、建物がある場所に着くようだ。
見えた高い塀の切れ目に、神官が立っているのが見えた。
「おはようございます。入っていいですか?」
「ええ。どうぞ」
普通に入れてもらえたので、奥へ進んで建物の中に入る。ここの出入り口にも神官が立っていたけど、軽く会釈されただけで、こっちも軽く頭を下げてそのまま通り過ぎる。
中は教会の礼拝堂みたいな感じだった。
長椅子が沢山並んでいて、天井にはオシャレな彫刻。ステンドグラスの窓、壁には大きな十字架。
長椅子には老若男女が座っていて、指を組んで真剣に祈りを捧げていたり、うっとり恋人と寄り添っていたり、様々だ。神聖な場所なんだろうけど、厳格な規律はないらしい。
俺も長椅子に座ってしばらく見様見真似で祈りを捧げてみるけど、特に変化なし。
ヘルプには、神殿で祈れば神と交信できると書いてあったんだけど……。
他の人の迷惑にならないよう、ゆっくり教会風の建物から外に出る。
「あの、他に祈れる場所ってどこですかね?」
「はい?」
「えーっと、神様を近くに感じられるような場所ってあります?」
教会風の建物の外にいた神官に声をかけてみる。
「……こちらへどうぞ」
案内されたのは、石の柱でできたギリシャ風の神殿だった。
3メートルくらいの石の柱が円形に並んでいて、天井と壁はない。十字架も見当たらない。ただ、柱の1本1本に違う模様が彫られている。
「1柱ごとに祀っている神が異なります。ご自分の信仰する神の柱の前へどうぞ」
柱の模様で祀っている神が分かる仕組みらしいけど、あいにく俺はどの神も信仰してないし、どの絵柄がどういう神なのかも知らない。ヘルプにそんなことは書かれていなかった。
「えーっと、じゃあ」
適当に選んだ柱の前に立ち、手を合わせてみる。
「なっ! これは!?」
背後にいる神官の大きな声が聞こえたので、つむっていた目を開いて振り返ると、金色の光が俺の周囲に広がっていた。どこから光が? と前後左右、最後に上を見ると、真上からだった。空から木漏れ日のように俺の周囲にだけ光が降り注いでいるが、天井のない建物なので光の筋が一か所にだけ発生している時点で不自然なことこの上ない。
「ごきげんよう」
「フランス人形!」
光の中から現れたのは神々しい神様じゃなく、金髪縦ロール、ド派手な赤いドレスを着た小さな人形だった。
「はじめまして、わたくし、リーと申します」
「はじめまして?」
「えぇ。えぇ。わたくしたちは初対面でございます。なぜなら、わたくしは無数に存在しているからなのです。あなた様が出会ったわたくしは、わたくしであって、わたくしではない。でもやはりそれはわたくしなのです」
「は?」
「さて、本来なら直接お話になりたかったようですが、あいにくこの場に神が降臨することは叶いませんでした」
フランス人形は俺を置いてけぼりにして本題に入る。
「世界を1から創り上げることはできなくとも、残された神々の力でも世界を写すことはできました。求められるままに並行世界を増やしたことで、神々は全ての世界を均等に平等に見守ることが難しくなりました」
「あー。うん。赤い扉に沢山群がってたからかな?」
「そうです。予想よりも多くの世界を求められ、それを与えたことで、管理が難しくなったのです」
作成しまくってから後処理に困るとか、無計画すぎるといえばそれまでだけど、やってることのスケールのデカさは流石は神様って感じがする。
「そこで派遣されたのがこのわたくし。あなた様の担当はリーにございます……ところで、あなた様のお名前は?」
「トーヤだ……トーヤです」
神様代理だし、今後付き合いもあるっぽいので、ちょっと丁寧に言い直してみた。フランス人形はあまり気にしていないようだけど。
「トーヤ様ですね。認識しました。この世界をよろしくお願いします」
「あ、はい。こちらこそ」
「それではまず、神殿に神託を下します。トーヤ様は神殿内部の聖職者を連れて行くことが可能になります」
「聖職者? あ、回復サポート的な?」
「そうです。回復、解毒、浄化などの技術を持つ聖職者が仲間にいると、旅の道中なにかと役立つことでしょう」
「おぉ! ……あ、ちょっと待って」
「はい」
「それってさ、その聖職者の生活費とか旅費ってどうなるの? 神殿持ち?」
「……生活費? ……旅費?」
光をまとって浮遊するフランス人形には、生活費も旅費もかかりそうにないし、少し難しい質問だったみたいだ。
「あーいいや。神託に追加ってできる?」
「どのような?」
「生活費と旅費を神殿が工面するようにって」
「かしこまりました。トーヤ様の追加条件として報告します」
「報告!? どこに」
「情報統括担当のわたくしに、でございます。無数の世界を繋ぐわたくしの1人に報告し、最終的に別のわたくしが無数の世界の情報をまとめたものを神々に報告致します」
フランス人形の仕事は多岐にわたるようだ。
「あ、あと連れて行く聖職者って俺が選べるようにできる?」
「可能です」
「じゃあ、俺が自分で選びたい」
「かしこまりました」
青の扉の世界では、この役割を神々が担当しているらしい。
そしてプレイヤーは神々の加護をもらい、加護を与えた神はプレイヤーの様子を見守る。
残念ながらコピー世界にいる赤い扉組の俺たちは、神の加護をもらえないようだ。
「あ、なあ。この世界のダンジョンってどうなってる? 神がいないってことは、モンスターを倒してもアイテムドロップしないってことか?」
「いいえ。双子神は多くのダンジョンを見守ることに特化していますので、元々ダンジョンに存在している必要はありませんでした。その状態で写されたダンジョンは正常に機能しております。ただし、双子神がこちらのダンジョンを直接操作することはありません」
ダンジョンを管理しているのは、幸運と不運の双子神。
ドロップアイテムは運が良ければ大当たり。運が悪ければ何もでない。
青の扉の世界より確率はシビアかもしれないけど、こっちの世界でもダンジョン産のドロップアイテムが手に入るなら文句はない。
「また君と連絡とりたくなったら、ここに来ればいいの?」
「はい。どの町の神殿でも大丈夫です。トーヤ様の案件はこのリーが全て担当いたします」
「了解」
「それでは、世界の崩壊の原因をどうか突き止めてくださいませ」
フランス人形が姿を消して、俺の周囲の光の帯も消える。
「ん?」
後ろにいたはずの神官の姿も消えていた。




