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ホヨテルの町

 空腹を感じながら町の中を歩いていると、お腹のリュックの布地をすり抜けてタブレットが外に飛び出した。

 驚いて立ち止った俺の目の前に、ステータス画面を表示したタブレット。


「は? なに? どういうこと? 毒?」


 はぐれゴブリン討伐後、増えたはずの体力が今現在かなりすり減って残り10を表示していた。あの後から今まで誰かに攻撃されたりはしていない。


 考えられるとすれば、森の中でなにか毒の植物に触れてしまったとか……。


「体力残り10って、結構ヤバい感じ?」


 レベル1の時、体力の最大値は50だった。

 レベル3になって最大値は70に増え、そこから、いつの間にか体力を60も消費している。


「えぇっと、体力回復……体力回復……」


 浮遊していたタブレットを捕まえて、ヘルプの回復関係の項目を開く。


「おしゃべりが長ぇ! もっと簡潔に!」


 フランス人形のアンサーにイラつきながら失われた体力の回復方法を調べると、いくつかの方法が見つかった。


 その1.その場で動かず自然回復するのを待つ。

 その2.寝る。

 その3.何か食べる。

 その4.癒しの魔法/アイテムを使う。


 今すぐ実行できるのは、動かず自然回復を待つこと。

 俺は道の端っこに移動し、建物の壁に背を預けて、そのままずるずると座り込んだ。


「歩きすぎか? でもアルファは森を駆け抜けて体力が少し減ったくらいだったって……持久力スキルの効果で体力が消耗しなかったのかな?」


 残念ながら歩いて森を抜けた俺に持久力スキルはつかなかった。その差がこの激しい体力消耗だとしたら、持久力スキルはかなり使えるスキルだと思う。


 体力回復の間暇なのでチャットを読みながら過ごしていると、突然ステータス画面に切り替わって表示されたのは『体力 9/70』


 回復どころか体力を消耗している。


「チャットを見るのも、動いてるって判断か?」


 大人しく、浮遊しているタブレットのステータス画面を見続けること体感5分。


「なんでだよ!」


 目の前で残りの体力が1減った。


 体力回復方法その1「その場で動かず自然回復」は完全に失敗。こうなると、その2「寝る」は、体力消耗に気付かずデスしそうだから怖くて無理。


 その3「何か食べる」が空腹を満たしながら一時的に体力も回復できる一石二鳥の方法だと考えた俺は、のっそりと立ち上がって食べ物を売っている店を探す。


 タブレットは、捕まえてリュックの中に戻しても勝手に出てきてしまうので、しばらく自由にさせることにした。持ち主の緊急事態なので、空中で常にステータス画面を表示して注意喚起しているらしい。


 なにか焼いている匂い、スパイス的な匂い、かすかな匂いをたどって歩いていくと、屋台が密集している区画に到着した。外にテーブルもあるし、買い食いできる夜店の集まりのようだ。


「すいません、これで何本買えます?」

「ん? 銅貨1枚なら串5本買えるが……5本でいいか?」

「はい!」


 手持ちの小銭で一番価値が低そうな銅貨を選んだけど、それでも串焼きが5本手に入った。


「これ、なんの肉です?」

「あー。今日は……鳥だな」

「鳥? 種類は?」

「……鳥は鳥だよ。ほら、あっちで食え」


 焼きたての鳥串を5本手渡された。皿や袋を探したが、置いてない。


「なんか入れ物もらえません?」

「はぁ? どこのお坊ちゃんだお前は!? 買ったらさっさとあっちに行って、あっちで食え! 冷えるだろうが!」

「す、すみません……あ、じゃあ、10秒、10秒だけこれ預かってください」

「はぁぁ?」


 串を手放し、急いでリュックの中から大きな葉っぱを取り出し、そのうちの1枚を折りたたんでそこに串を5本乗せる。


「ありがとうございました」

「チッ」


 迷惑客を見る目で見られたけど、串を5本手で持ちながら食べる芸を披露する気にはならない。めちゃくちゃ食いしん坊じゃねぇか。


 葉っぱの皿に乗せた鳥串から、香ばしい匂いが漂ってくる。

 空いているテーブル席に座って、とりあえず1口。


「……やべぇ、泣きそう」


 コッペパン1本でしのいできた2日間、俺は空腹によく耐えた。


 コッテリした謎のタレで味付けされた謎の鳥肉を口に入れると、甘辛いタレとやわらかい肉の味。

 噛んでじゅわっと広がる肉汁とタレの相性は最高だ。この旨い食べ物がなんの肉かなんて、どうでもいい小さなことだと思う。


 5本目を食べ終わったところでステータス画面を確認すると、体力は40まで回復していた。食い物の力すごい。


 体力回復その4「癒しの魔法かアイテム」をどっかで手に入れようかと思ってたけど、この回復した体力が勝手に減らなければ、その必要はないか。


 歩き疲れて体力消耗したのか、ガチで空腹で死にそうになっていたのか、今の俺には判断つかないけど、今後はちゃんと食事をとれる安定した生活を送りたいと思う。


「今日の夜はどうしようかねぇ」


 食べ終わった後の串を焼き鳥屋の店主に渡すと嫌そうな顔で受け取って、炭火の中に放り込んでいた。


 時刻は午後6時。


 まだ寝るには早い時間だけど、夜店通り以外の道は薄暗くなってきているので、早めに行動しないと夜道を1人で歩くはめになる。


「宿屋……んー」


 串を買ったので、俺の全財産は金貨1枚、銀貨5枚、銅貨9枚になった。

 まだ、現金収入のめどはたっていない中、手持ちの金を減らすのは得策じゃないように思う。


「外の草原にテント張ればいいか」


 来た道を引き返し、広い空き地を抜けて、町の出入り口の門へ戻って来た。


「今から外にいくのか? あぶねぇぞ」

「あー。まあ、ちょっと」

「悪いことは言わねぇ。出発は明日の朝にしな」

「ですよねぇ……」


 門を見張っている男の言うことはもっともだ。

 もう外は暗くなり始めているのに、明かりも持たずに外に行くやつがいたら、普通止める。


 溜息を1つ吐いて宿屋を探しに行こうとした俺に、門番の男がイイコトを教えてくれた。


「あのキャラバン用の宿泊地、今日は誰もいねぇから使っちまえよ」

「え?」

「そこで寝てれば明日の朝、門が開くと同時に外に出れるからよ……まさか今から外に出るつもりなのに、野宿の準備を1つもしてねぇ、なんてことねぇだろ?」

「あ、はい」

「まぁこの辺は巡回も多いから比較的安全だろうが、泥棒対策だけはしとけよ……朝になって荷物がありませんって言われても俺たちはどうしようもねぇからな」

「わかりました」


 門番の男が指さす先にある広い空き地は、町の中だけどテントを張ってもいい場所らしい。


 空き地に着いたので、周囲を確認して人がいないことを確かめてからテントを張る。このテントはフランス人形が俺たちのために用意した「かなりいいテント」らしいので、あまり人に見られない方がいい。


「ふぅ」


 テントの中に入ると、疲れからか眠気が……。

 少しだけ休憩するつもりで寝袋の上に転がる。



 起きたら朝の6時だった。



 柔軟して体のコリをほぐし、水筒の水で喉を潤してから、寝ている間にチャットに書き込まれたコメントを確認する。


「アルファもここに着いたんだな」


 俺より少し遅れて、アルファが到着したらしい。

 アルファは宿を1部屋借り、1晩で銀貨1枚の宿代を払ったようだ。


【おはよう。ごめんごめん。無事北の大きな町についたよ。鳥串食べて熟睡してた】


 町に向かうと言ってから音沙汰のなかった俺を心配しているコメントがあったから、現状報告をしておく。


 マップを確認すると、この町の名前が判明した。ホヨテルというらしい。

 実際に歩いて広げる外のマッピング方法と違って、町の中に入ってしまえば、町の簡易マップが入手できる仕組みだったようだ。


 そのマップ情報によると、この町には神殿とダンジョンの両方が存在している。どちらも早く行っておきたいところだったので、今日は神殿に行って、ダンジョンの様子を見に行く予定を立てた。


「そういや、体力問題は……」


 寝落ちしたのでそのままになってしまったけど、勝手に減る体力の謎がまだ解明されていない。

 ステータスを確認すると、最大値の70に回復していた。


「うーん。やっぱり空腹と歩き過ぎが原因かな?」


 毒の植物の可能性も捨てきれないけど、毒なら毒状態だと、ステータスに表示されるような気がするし。


「まあ、腹が減ったら飯を食う作戦でいこう」


 タブレットをリュックに入れて、テントの外に出る。 

 周囲を確認したらテントの中に素早く入り、ランプを引っ張ってテントを片付ける。

 リュックを背負って、まずは朝食を調達しに朝市が開かれていそうな場所を目指す。


 予想通り、昨日夜店が多かった通りは、今、朝の活気で満ち溢れている。

 生の野菜などが多く並んでいる中、俺は総菜売り場を探す。


「これいくらですか?」

「3つで銅貨1枚さ。買うかい?」

「はい。あ、ちょっと待ってください」


 茹で立てっぽい芋をもらう前に、リュックから大きな葉っぱを取り出す。


「ここにお願いします」

「はいよ」


 ポテトサラダとか豚汁みたいな総菜店もあったけど、どこも自前の食器を持って並んでいる人ばかりで、葉っぱしか持っていない俺は茹でた芋くらいしか買えるものが無かった。


「あっつ!」


 唯一手で直接食っても不自然じゃない芋は、熱々でとてもすぐには食べられない。

 少し冷めるのを待っていた俺は、食材を売っている店でリンゴとかバナナのような朝食代わりになるフルーツを探せばよかったと気付いた。次はそうしよう。



 

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