住民登録と妖精召喚
トーエンさんの息子さんの店に行き、借りている家の話をすると、それならいっそ住民登録をして自宅を購入したらいいという話になった。
今の俺は旅人扱いで住民税はとられない立場だけど、住民登録をしてしまうと賃貸でも持ち家でも、宿暮らしであっても年に1度、成人1人につき銀貨5枚の税金を納めないといけない。
その代わり、住民登録をした者しか入れない場所に行くことができるようになる。
妖精紹介所とか、騎士育成学校とか。さすがに貴族が住む地域に無断で入ることはできないけど。
トーエンさんの息子さんが保証人になってくれたので、俺の住民登録は今日のうちに登録可能だと聞いて決心がついた。
親子そろって親切な人たちだ。
何か還元できないかと店内を見渡しタブレットで商品をこっそり鑑定すると、壁に飾られているマジックアイテムの鞄を見つけたので即購入。
白金貨5枚を財布から出したら息子さんが目を見開いて俺を凝視してきた。
どうやら、白金貨を使うような買い物は自宅に商人を呼び出すスタイルらしく、普通は持ち歩かないそうだ。1つ勉強になりました。
まあでも、俺には商人を呼ぶための家が無いんですけどね。
立派な建物の町役場に到着して、住民登録の手続き待ち。
「住民登録でお待ちのトーヤさん、いらっしゃいますか?」
「はい、俺です」
「こちらへどうぞ」
案内された席に座ると、上質な白い紙とペンが用意されていた。紙の表面はコピー用紙くらいサラサラで、ペン先がひっかかるような凹凸はない。
「失礼ですが、文字は書けますか?」
「書けますけど……このペンじゃちょっと難しいです」
筆記用具として準備されていたのは、万年筆タイプのペン。インクをペン先に付けて書くやつ。力加減が難しくて苦手なので普段は炭を練ったクレヨンタイプの物を使って書いている。
「では、私が代筆してもよろしいでしょうか?」
「お願いします」
まずは名前。
「ふたつ名はどのようにしますか?」
「ふたつ名?」
貴族はともかく、平民の場合古くから続く家や、貴族から褒美として苗字をもらったとかしない限り、苗字というものが存在しない。
日常生活では苗字がなくても困らない。
ご近所さんで名前かぶりは極力さけるので、同じ名前の同世代というのは近場に滅多にいないし、別の地域に移動して名前かぶりが発生したとしても、元々いた人物と後から来た人物の区別はつけやすい。
けれど、行政が個人を管理する場合、名前だけでは難しい。だからそれぞれ自分を確立するふたつ名を登録するそうだ。
「ちなみにお姉さんのふたつ名って教えてもらえます? 参考までに」
「私は、ハキルとミセラの娘アイラ、です。両親の名前までまったく同じということはあまりないので」
「なるほど」
俺が定番の両親の名を使ったふたつ名をつけるとしたら、シゲオとエリの息子トーヤになるわけだ。
「あとは、出身地を使う方もいますね」
「ほー」
ニホンのトーヤ。
どっちを使うか悩んでいると、アイラさんが更なる追加案を出してきた。
「ゴブリン殺しの、鳥落としの、全てを焼き尽くす炎の、というように、特技を添える方もいらっしゃいますよ」
「へぇー」
ゴブリン殺しのトーヤ、とか役場の受付で真面目に呼ばれるのはちょっとキツい。
ファミレスの受付で悪役の名前書いてゲラゲラ身内で笑ってた俺でもちょっと無理だ。あの時の店員さん、高校生のガキが悪ふざけで迷惑かけてごめんなさい。
「シゲオとエリの息子トーヤ、でお願いします」
「はい。ご出身は?」
「日本です」
「ニホン……に、ほ、ん、で合ってますか?」
「はい」
アイラさんは俺の名前と出身地と年齢を書き込んだ紙を、手が空いている他のスタッフに手渡した。
「彼にトーヤさんの登録を任せました。トーヤさんは保証人がいるので、本日からホヨテルの住人となります。期限までに銀貨5枚を納めてくださいね」
「はい。今日ついでに払うことってできますか?」
「可能ですよ」
「じゃ、手続きお願いします」
住民登録前だけど、銀貨5枚をアイラさんに渡して納税手続きをしている途中で、俺の体にキラキラと光のシャワーが降り注いだ。
「え!?」
「住民登録完了の合図です」
「は!?」
「驚きますよね。これは神様が国王陛下の願いを叶えて下さり実現した、住民管理専用のマジックアイテムの力なのです」
この世界の神様は頼まれたら何でもやるサービス精神旺盛な神が多いようだ。青の扉の世界の魔改造は、転生した地球人だけの責任ではない気がしてきた。
「こちら、住人に配布しているものです。あとで読んでくださいね」
「はい」
一通りの手続きが終わったので、役場を出て、妖精紹介所へ向かう。
「すみません、魔法の適性があるか調べたいんですけど」
「どうぞこちらへ。施設の説明は必要ですか?」
「お願いします」
妖精紹介所は、妖精と人間の出会いをあっせんしている国が管理する重要施設のうちのひとつ。ここで妖精と契約できた者は魔法のスキルが芽生えて、魔法使いになる。
「妖精の属性は5つあります。有名なのは火、水、光ですが、風や土の妖精も存在しています。一説によると闇の妖精もいるのではないかと言われていますが、当施設では闇の妖精の召喚はできません」
「はい」
「それから、妖精を召喚するのに必要な魔力は自分で賄う必要がありますので、魔力20以下の場合召喚そのものが成功しません」
「はい」
「召喚が成功しても適性がない場合妖精は帰ってしまいます。そして適性を確認できる機会は1属性に1度だけです。たとえば火の妖精を召喚して適性無しとなった場合、別の火の妖精を召喚することはできません」
妖精は無数に存在しているけど、あっちはあっちで情報交換が盛んらしく、同族が適性無しと判断した相手に姿を見せることはない。
「なにか質問はありますか?」
「いいえ。特に思いつきません」
「では、この魔法陣に魔力を注いでください」
案内されたのは、火の妖精を召喚する魔法陣が床にびっしり書き込まれている部屋だった。
「安全管理のため室内には護衛が2人いますが、情報漏洩の心配はありませんので、ご了承ください」
護衛は召喚の邪魔にならないよう、魔法陣が書かれていない場所に立っている。ここに案内してくれたおじさんは、外に出てしまった。
護衛2人の足元の空白があるだけで、どこに立っても魔法陣の上になる。
「これって、魔法陣に乗っても大丈夫なんですか?」
「問題ない」
問題ないらしいので、魔法陣の上にしゃがんで手から魔力を放出する。
魔法陣がうっすら光って、燃えるハツカネズミが現れた。
「……え?」
何か聞こえた気がしたけど知っている言葉とは少し違う。ネズミの鳴き声とも違うけど、なんとなく頭に音の意味が浮かぶ不思議な感覚。
「俺の名はトーヤ。シゲオとエリの息子トーヤ」
小さなハツカネズミが俺の体に触れて消えた。
「消えた……失敗?」
「スキルを見ろ。火魔法が追加されているはずだ。おめでとう」
タブレットを確認すると、確かに火魔法のスキルが芽生えていた。
「ありがとうございます!」
正真正銘、魔法剣士に俺はなった!
ニヤニヤしながら部屋を出ると、待っていてくれたおじさんからお祝いメッセージを頂いた。
「おや? おめでとうございます」
「あ、バレバレですか?」
「部屋を出てくる方の反応はいつも両極端ですからね」
適性があった人と、なかった人、きっとわかりやすんだろうなぁ。
「あの、他の適性も確認していいですか?」
「かまいませんよ。ただし、ギリギリまで魔力を使って確認するなどの無理は禁物です。人生でたった1度の機会ですから、余力を持って挑んでください」
「大丈夫です。俺、魔力180ありますから」
全属性を今日中に確認しても余裕です、胸を張ってそう宣言したら、おじさんは固まって動かなくなった。
おーい。おじさーん! 戻ってきてー!
なんとかおじさんに案内を続行してもらい、他の属性を確認した結果!!
全ての属性に適性有りの、ハイスペック魔法剣士な俺が誕生した。




