チャッ友とダンジョン10階
山フィールドの7階を走り回り、湿地帯の8階を泥にまみれてクリアし、9階の砂漠で1泊して、ついにボス戦の10階層に到着したのは先週のこと。
今日はついに10階のボスに挑戦する。
攻撃用の妖精石、回復ポーションを可能な限り用意し、5階の周回で手に入れた新しいワイバーン装備を身に付け、気合十分。
10階のボス部屋の扉に手をかける。
「ん? 開かない」
押しても引いてもビクともしない。
「誰か挑戦中なのかな」
扉に耳を当ててみるけど、防音対策ばっちりなのか、中からの音は聞こえない。
現在誰かがボス戦の真っただ中なのか、すでに倒されて10分間の休息タイムなのか、外からは判断できない。
戦闘中ならもしかしたら外でかなり待つことになるかもしれない。けど、今ここを離れて順番待ちの人数が増えるのは困る。
8階や9階で足止めされている冒険者は多い。
ダンジョン内で冒険者と鉢合わせることはもう、珍しくもなんともない。
「大人しく待つか」
廊下の壁に背を預けて床に座り込み、タブレットを手元に呼んでチャットタイム。
アルファは最近3人目の恋人ができて大変らしい。
他の2人と違って、3人目は1番じゃないと満足できないようだ。ハーレム野郎とからかって遊んでいるが、ハーレム主人公としては恋人のチョイスミスったなぁという印象。
4人の中で1番会話が弾むのがアルファなので、元々気配り上手なんだろう。
ロージーは聖女ちゃんとの純愛路線をしっかり歩いている。
レベルが上がったら世界を巡礼して回る旅に出る予定でいるので、そのまま結婚できるといいね、と思わずコメントしちゃうくらい微笑ましい。
ギュードンはついに奴隷の女の子を2人手に入れた。
周囲の人々が用意してくれた奴隷から選ばず、自分の足で町を探しまわった謎の情熱に拍手を送りたい。奴隷が1人誰かに連れ去られて焦っているけど、真実は多分……逃げられたんだと思うなぁ……言わないけど。
グレンは村長の奥さんと不倫中。
村にはナナリーちゃんがいるじゃないかと全員がツッコミを入れたら、グレンにとって10代のナナリーちゃんは若すぎる、とかいう回答が。
いやあんたも今10代だから! と指摘したけど、結局泥沼の三角関係に発展した。
村長の奥さん30代後半から40代前半らしいけど、18歳の成人したばかりの青年を食っちゃう現役の肉食女豹だし、早く逃げた方がいいと皆で説得しているけど、効果はいまひとつ。
今日も俺はダンジョンに挑戦中だと書き込むと、数分もしないうちにギュードンから応援メッセージが届いた。丁度ギュードンもチャットを見ているようだ。
【ギュードンは今なにしてんの?】
【俺の奴隷を取り戻しにきたところ】
【どこにいたの?】
【近くの山。山小屋の中にいるのはわかってる。絶対に連れて帰る】
怖い。
どうやって見つけたのか知らないけど、ギュードンの情熱が怖い。
【ダンジョン攻略に戻る】
【おう! 気を付けて~】
タブレットを放り投げ、もう1度ボスの扉の確認。
10分以上経過したけど、まだ開かない。
チャットに戻る気もしなかったので、本を読んで時間を潰すことにした。といっても、小説のような物語は数が少ないので、ストーリー性のある楽しい読み物じゃない。でもまあぼんやり眺めて読む分にはいい暇つぶしになる。
また10分くらいしたら扉を開いてみようと思って本を読んでいたら、ボス部屋から人が転がりでてきた。
「全員出たか!? 閉めるぞ!?」
「あぁ大丈夫だ、閉めろ!」
剣士2人と魔法使い1人、弓使い1人と盾持ちの片手剣使い1人の5人パーティーのようだ。
「く、魔力が……」
「ポーションは!?」
「もうない!」
光魔法の回復が使えるようで、魔法使いは剣士に魔法をかけているけど、魔力切れのようだ。床に座り込んでぽけーっと眺めていた俺に、片手剣使いが気付いた。
「なあ、あんた! 回復ポーション1本売ってくれねぇか?」
「え? いいけど」
リュックをガサゴソ漁り、予備の魔力回復薬と体力回復薬を取り出す。
どちらも錬金術師の店で買ったもので、俺が作ったやつじゃないから販売したことにはならないし、錬金術師のポーションの転売は法外な値段設定にしない限り、法律でも許されている。
「体力と回復どっち?」
「いいのか! 助かる! なあ、どっちのポーションが必要だ!?」
魔法使いが「良ければ魔力回復ポーションを売ってくれ」と言ったので、魔力回復ポーションを片手剣使いに渡す。
「あんがとよ。あ、金は、あっちの剣士から受け取ってくれ」
一刻を争うっぽい状況なので、頷いて支払いを待つことにした。
回復魔法をかけられている剣士は、腕がおかしな方向にねじれてしまっている。体力回復ポーションで多少の切り傷は治るけど、酷い状態の怪我は回復ポーションの上位、エリクサーを使わないと無理だ。
エリクサーは1本で金貨何十枚もするらしいから、まだ実物を見たことはないけど。
光属性の回復魔法では、使用者の魔力と引き換えにある程度の怪我は治ると本に書いてあった。
欠損部位を治すのは相当なスキルレベルが必要らしいけど、不可能ではないとも。
「ありがとう。助かった。ポーション代はいくらだ?」
「銀貨1枚でいいですよ」
腕がねじれている剣士よりは傷が浅いけど、ボロボロ状態のもう1人の剣士がパーティーの財布係のようだ。
下手に値段釣りあげて恨まれても仕方ないので、店で売ってる価格のまま伝える。
「それだと他のメンバーが納得しないだろう?」
差し出した手のひらに銀貨が3枚置かれた。
「3倍……さすがにもらいすぎなんじゃ?」
俺のことを順番待ちしてる荷物持ちかなにかと勘違いしてるみたいだけど、俺はソロなので銀貨1枚でポーションを売ったことを怒るパーティーメンバーはいない。
緊急時の相場がわからないので、このままもらっていいものかどうか、悩む。
「見せびらかして値段引き上げる奴もいるくらいだ、これくらい安いだろ。なぁ?」
傷ついた他のメンバーも銀貨3枚払って惜しくないようなので、リュックのポケットに入れる。
「大丈夫ですか?」
全員ボロボロのパーティーにかける言葉としては、あまり相応しくなかったかもしれない。皆微妙な顔で笑っている。
「誰も命を落とさなかったし、大丈夫だろ」
「そうだな」
「俺はしばらくは通院か……あー、腕がいてぇ」
「動けなくなる前に家に帰りたい」
エレベーターに向かう途中で、皆が俺にアドバイスをくれた。
「オーガはかなり硬い。剣を落とさないように気をつけろ」
「回復魔法を使うぞ。油断するな」
「威圧感がすごいから、正面にいるとかなりキツい。盾を持つ仲間がいるならそいつを正面に配置して、できるだけ回り込んで攻撃するといい」
「俺たちみたいにギリギリになる前に離脱するってのも大事かもな」
「弓を使う仲間がいるなら、違う武器を持ち込むことをお勧めする」
皆を見送り、俺は10階の廊下にテントを張って、魔力回復ポーションを補充してからボス戦の扉に手をかけた。
「げ、もういるし」
5階のゴブリンメイジと同じように、扉が閉まってから出てくると思っていたら、すでにオーガは魔法陣の中心に仁王立ちして俺を待っていた。
2メートルを超える巨体で、余分な脂肪はついてなさそうな引き締まった肉体。硬いと教えてもらった腕は俺の腕の3倍か4倍の太さだ。
頭から角が生えていて、口に生えている牙は俺の肉も骨も簡単に砕きそうだ。
今まで見たモンスターの中で一番強そうだし、実際に強いだろう。
タブレットの図鑑には、回復魔法と攻撃魔法を使うと書いてある。オーガの握力は岩を砕くので、捕まったら終わりだとも。腕を振り回した時に発生する静電気に触れると感電して麻痺してしまう場合もあるらしい。
ただ今回は1つ俺に有利なことがあった。
「ボロボロ?」
オーガは体中に傷を負った状態で、頭の角も1本折れている。
「連戦?」
オーガから返事はない。
そのかわり、咆哮ともの凄い威圧感。
氷の剣に魔力を流し、両手で構える。
「かなり削れてるじゃん。ラッキー」
さっきのパーティーは戦線離脱したから横入りにはならないし、文句を言われる筋合いもないだろうから遠慮なく狩る!
かなり硬いと言われたので、剣をしっかり握りしめてオーガに向かって走る。
俺の突撃に合わせてオーガが拳を握った状態で腕を振り回したので、後ろに飛びのいて腕を避ける。周囲に発生した静電気に触れた気がするけど、ドアノブを触った時よりも衝撃は弱い。
「ブローチが」
紫色のブローチが淡く光っている。
感電や麻痺の状態異常は、ブローチが軽減してくれるようだ。
「もう1回!」
風の妖精石を使ってオーガの動きをかく乱する。
火の妖精石と違って、風は広範囲に魔法が使えるので便利だ。
「どりゃあ」
懐に入り込み斜めに切り上げた剣は、オーガの腕に当たって勢いを止められてしまった。
氷の刀身が食い込んでいる場所から皮膚が急速に凍っていく。
「ちっ」
無事な右腕をオーガが振り上げたので、剣の柄から手を放しオーガから距離をとる。
俺の氷剣を左腕から無理矢理引き抜こうとしたオーガは、凍った腕を自分で壊してしまった。けど喜んでばかりもいられない。オーガの右手には俺の剣が握られていて、刀身がオーガの魔力で銀色に染まっている。
「浮気者!」
俺の剣のくせに、オーガの魔力で氷パワー発揮するとか何事だ!
魔法剣士を自称する俺の手元から、剣がなくなってしまった。
両手に妖精石を持ち、魔法使いモード全開で迎え撃つのは、俺の剣を構えたオーガ。
「俺の剣、かえせぇぇえ!!!」
オーガの咆哮には劣るけど、それなりの声量で相手をビビらせたと思う。オーガは1歩も動けず、俺の火炎攻撃と爆風攻撃をモロに食らっている。
「まだまだぁ」
最大魔力180を惜しみなく利用し、妖精石をガンガン使い捨て、ふらふらのオーガを蹴りで倒す。
「とどめだ」
倒れたオーガをまたぎ、取り返した氷剣で胸を刺す。
オーガは宝箱に変化した。




