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錬金術をやってみた

 火と水が使えるキッチンに、錬金術でガラスのビンを作るために買って来たものを並べる。

 いろいろ購入したので金貨5枚も使ったけど、後悔はない。


 この家はテーブルやベッドの木枠など、必要な家具が初めから備わっている賃貸住宅で、キッチンにも小さな食卓テーブル兼調理台が部屋の中央に置いてあるし、かまどのサイズにぴったりの羽釜の鍋も用意されている。


 まずは買って来た薪を2か所あるかまどの下穴の1つに入れて、火の妖精石で点火。

 その上に羽釜の鍋を設置して、汲んできたきた井戸水でお湯を沸かす。


 お湯になるまで時間があるので、その間に錬金術のレシピを見ながら下準備。


 買ったばかりの天秤の片方の皿に白い石、もう片方に樹液の塊を1つ乗せて、樹液の重さと同じになるまで白い石を増やしていく。石を4つ乗せたあたりで天秤が平行になった。


「まずは石を綺麗に洗う、と」


 売っている場所を探し回って、やっと見つけた白い石を汲んだばかりの冷たい井戸水で丁寧に洗う。これはその辺の川に普通に転がっているらしい。


「次が、石を乾燥させて砕く」


 お日様に干して天日で乾燥、なんてゆったり待ってられないので、外に出て風の妖精石でめちゃくちゃ風を送る。普通の石より軽いので風に巻き込まれて4つの石がグルグル宙を舞っているけど、気にしない。


 10分くらい強風に晒した石は綺麗に乾いているように見えたので、キッチンに戻る。


「うわ、やべっ」


 かまどの下から出る煙が閉めきった部屋の中にたまっていたので、急いでキッチンの窓を開ける。冬場はかなり寒くなりそうなので、この家は冬になる前に解約しようと決めた。


「さぁて、次は……あぁ、石を砕くの忘れてた」


 買って来たばかりの石のすり鉢と石のすりこぎ棒を床に置いて、その中に10センチくらいの白い石を入れ、すりこぎ棒を上から下に振り下ろし石に叩きつけて砕いていく。


 買って来た白い石は元々ランプに加工するために職人さんが仕入れたものだったので、粉々に砕くには大きい。でも、レベル13の腕力と体力と根気が勝利した。


 ある程度細かくなったら本来のすり鉢の使い方で、ゴリゴリぐるぐるスリスリとすりこぎ棒で石を粉末にし、白い石の加工は終了。


「だりぃ」


 ステータスを見ても体力はそんなに減っていない。でも、作業の面倒臭さはレベルなんて関係ないので、疲労感とは別に、だるいものはダルい。


 レベルの高い錬金術師は綺麗な白い石を石のまま使って簡単にビンが作れる。でも錬金術レベル0の俺は、石を粉末にしないと錬金術が発動しないようなので……やってて楽しくない作業をひたすら頑張る。


「えーと次は、熱いお湯で樹液をふやかす」


 甘味として売られていた樹液の塊500グラムを鍋の中に放り込む。

 

 甘い蜜を出す木からとれた樹液が固まったもので、お菓子作りとかに使われるらしい。これも、木さえ見つければ自分で調達できるので、今度またはじまりの森に行こうと思う。近くに川もあるし。


「……ふやかす、って、どうなればいいんだこれ?」


 買ったばかりの木製のお玉でお湯の中の樹液をつついてみると、ちょっとプヨっと弾力が出てきている。これがふやけた状態なんだろうか? それとも、もっとブヨブヨになるまで?


「こっちにも書いてないし」


 タブレットで他の本に書いてある初級錬金術のビン作成レシピを探してみるけど、ふやかし具合はどこにも書いてない。


 数冊あさっているうちに、鍋の中でグツグツ煮立った樹液はとろーんと溶けてきた。


「あっつ!」


 急いで鍋から取り出し、買ったばかりのまな板の上に置く。その時一緒にお玉に入ったお湯が飛び散って熱い思いをしたけど、なんとかまだ樹液は完全な液状にはなっていない。薄い膜のようなものでギリギリ守られている状態だからかなり危ないけど。


「次に、魔法陣の上に用意した材料を置き、魔力を流してスキルの発動を促す」


 高度な錬金術になると読めない、書けない、真似できない謎の言語の魔法陣を使うみたいだけど、初級のビンは丸と三角と四角を組み合わせた簡単な魔法陣。俺でもすぐ描ける。


 とりあえず材料をキッチンに置いて、庭の土に木の棒でできるだけ綺麗な丸を描く。サイズは直径20センチくらい。タブレットの魔法陣を確認しながら、その中に三角や四角を描きこみ、魔法陣はあっという間に完成。


 キッチンに戻ってまな板の樹液を持ってきたら、地面に描いた魔法陣の上に丁寧にゆっくり落とす。そして、すり鉢の中に入っている白い粉末を樹液の上にドサドサ落とす。風に舞って多少減ったけど、そもそも材料の細かい分量なんてレシピに書いてなかったから、どうにかなるだろう。


「これで魔法陣に魔力を流す……ん? スキルの発動を促すってどうやるんだ?」


 剣術スキルや回避スキルは、わざわざ発動させて使うようなものじゃない。いや、俺が気付いてないだけで、実は毎回発動していたのかもしれないけど。


 とりあえず魔法陣に手を乗せてみると勝手に魔力が5吸いだされたので、急いで発動を促さないといけなくなった。でもそれがよくわからないので、スキルを覚える時みたいに、ひたすらスキル名を呟く。


「錬金術、錬金術、錬金術」


 呟いていると更に魔力が5吸いだされて、魔法陣の上にガラスのビンが5本出現した。


「おぉぉぉぉ!」


 10センチくらいのガラスのビンは、全部フタが付いてない。このビンを素材に入れてポーションを錬成すると、ビン入りのポーションがふた付きで完成するらしい。


「実際やると感動するわ」


 キッチンに戻って、買って来た薬草を煮立った湯で茹でる。それを刻んでビンの中に小さなスプーン1杯分を入れたら、井戸水をビンにたっぷり入れて、初級体力回復ポーションの素が完成。


 庭にまた丸と三角、四角で魔法陣を描いたら、その上にビンと両手を置いて魔力が5流れていく。


「錬金術、錬金術、錬金術」


 再び魔力が勝手に吸われたら、初級体力回復ポーションの出来上がり!


「初級ポーションを5本作るのに魔力が20必要なのか……これ、売り物の初級ポーションって利益ゼロどころかマイナス食いこんでるじゃん」


 魔力は自然回復に任せたとしても、石や薬草、樹液などの素材費だけで銀貨20枚程度は使っている。

 俺の場合は無理矢理原石を購入したりしたから余分な費用が掛かっているけど、今作った初級体力回復ポーションを1本銅貨10枚で売った場合、5本で銀貨1枚の売り上げになり、マイナス銀貨19枚の大赤字。


 

 錬金術と無縁の者が錬金術を学ぼうと思ったら、まず国に登録されている錬金術師を探し、弟子入りする。これが一般的な錬金術入門の第一歩。


 法律で決められているからだとばかり思っていたけど、最初のうちは利益にならず商売が成り立たないから、弟子入り制度ができたのかもしれない。



 俺はこの工程(弟子入り)をすっ飛ばして錬金術スキルを手に入れたけど、この行為自体に罪はない。スキルがあるから錬金術を学ぼうと考えるのも、スキルを放置するのも、個人の自由。


 罪になるのは、きちんと国の検査を受けていない錬成商品を売る行為。


 じいちゃんが漬けていた梅酒を自分たちで楽しむ分にはセーフだけど、それを売ったらアウトっていうのと似てる。


 ただ、無許可の錬金術師だとバレると、正式な錬金術師の資格試験への案内だとか、販売経歴がないかの身辺調査とか面倒なことになるので、知人に無償提供なんて行為はしない方がいいだろう。


 人選ミスって脅されて、たかられるなんてなったら大変だ。



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