ゴブリン討伐でレベルアップ
討伐ギルドのクエストを探してもはじまりの村からでている依頼はゼロ。そして本日のギルド受付は男性……。報酬付きを諦め、レベル上げだけを目的にしてはじまりの森に行くことにした。
ホヨテルの町出身で魔法使いのヘチナさんに錬金術師のお店を教えてもらい、錬金術でしか作れない魔力回復ポーションを6本、体力回復ポーションを6本購入して、支払いは銀貨12枚。
魔力回復の方は飲めば30ほど魔力が回復。体力回復は50も一気に回復する。ただし、飲み過ぎると副作用で翌日筋肉痛や強い疲労感が発生するので、それぞれ1日3本まで。
銅貨10枚だった初級ポーションと違って、金額はどちらも1本銀貨1枚となっているので高級な薬という印象だ。そのぶん効きもいいらしいけど。
錬金術といえば、スキルオーブで錬金術スキルを覚えたのはいいけど、本を読むとそこから先に進むにはすでに錬金術師として国に登録している誰かの弟子になる必要がある。
まぁ、手元に本がある俺には弟子入りせず錬金術を学ぶ抜け道があるけど、そうすると今度は他人に対して錬成術で作った品を売れない。独学だと、法律で禁止されているモグリの錬金術師になってしまうから。
今日行ったお店の主人は錬金術師ではなく、雇われ店長。
本人は違う場所にいるらしいので、簡単には出会えない。
販売をあきらめて1人で錬金術を練習する場合、火と水が使える場所がないとだめなので、宿屋の部屋やテントでは実行不可能。今のところ錬金術スキルは詰んでいる。
その日のうちに他の店も回って非常食として干物を数点購入し、出店で手に入れた新鮮な果物、蒸した芋と合わせて数日森で過ごせるような量を買い込んだ。
食事事情としてはかなり質素なことになるだろうけど、調理道具もない状況で食材買ってもどうしようもないし。
はじまりの村とか適当に呼んでいるヨセ村に行くには、森を抜けるルートと、村を1つ経由するルートがある。今回は整備された街道を通って行くルートを選んだ。
レベルが上がって体力が上昇したためか、途中で休憩をはさんで4時間弱歩いたのに、それほど疲れていない。まだ日も高いので、今から森に行ってもいいくらいだ。
体調と相談した結果、ヨセ村を通り過ぎて森の中へ。
アーチェスの世界に来て2週間。
初日はなにもせず川の近くで野宿したことを思い出す。
今回は食料も豊富だし、ゴブリンを倒す武器も持っているので、ガンガン行くつもりだ。
「巣はもっと奥か?」
歩けば歩くだけ埋まっていくマップを見て、ずいぶん奥まで来たものだと思う。もうそろそろ、初日に俺が歩いた範囲のマップと現在地が交わることになりそうだ。
すでに日は落ち始めて、木々に囲まれた周囲はどんどん暗くなっていく。この辺で野宿の準備をしないと、真っ暗闇の中でゴブリンと戦うはめになるかもしれない。
夜間の戦闘準備や戦闘訓練はしていないので、テントを張れそうな広い場所を見つけてそこを今日の宿泊地とした。
ヨセ村でずっと生活しているグレンに情報を求めてみるけど、村が襲われた日以降、ゴブリンは姿を見せていないらしく、グレンが倒した3匹はどこか別の場所から偵察に来たんだろう、っていうのが最近村で流れている噂のようだ。
まあ、そうだとしても、俺の世界では残り2匹ゴブリンがどこかにいるわけで、こいつらを倒してレベル上げをしてしまえばいい。
騎士団と一緒にレベル上げをしている面々はすでにレベル15。その辺の魔物を狩ってもレベルが上がらない停滞期に突入している。
領主の騎士団の団長が、俺の実技指導を担当したダンさんと同一人物だというから、驚きだ。そしてダンを嫌う氷の受付嬢が、ダンの実の娘だと聞かされ、更にレベル15になったアルファに交際を迫っているとか聞かされた俺の気持ち。
推しアイドルの熱愛報道とか求めてないんで……。
気持ちを切り替え、久しぶりのテントでの就寝。
最初の頃と比べると、荷物が増えたけどその分寝泊まりしやすい環境になっている。疲れていたからか、すやっと眠りに落ちた。
翌日。
早朝から森を散策しまくり、昼過ぎにゴブリンの巣らしき穴を発見した。地面に掘られた落とし穴は、人間でも簡単に入れるサイズ。奥には横穴が続いているのが上から見てわかる。
中にゴブリンがいるのかどうかは未確認だけど、このまま中に入るのはかなり危険だ。
「失敗した。ランプ買っとくべきだった」
テントの中にはランプが常設されているけど、取り外し不可。穴の中はダンジョンと違って、光が入らない場所は真っ暗になるだろう。
手持ちの道具でなんとかならないかと、少し離れた場所にテントを設置して考える。
木製の食器など、燃えそうなものはいくつかあるけど、それを燃やしたところで周囲が明るくなるほどの光源にはならなさそう。
木の棒に布を巻きつけて燃やすたいまつ方式も、布に含ませる油がないので却下。
「あぶり出す作戦で行くか」
攻撃用に購入した火の妖精石に魔力を1ずつ流し続けたら明かりの役割を果たしてくれるかもしれないけど、妖精石と魔力の無駄遣いになるかもしれないので、これも却下。
テントの外に出て、燃えそうな乾いた枝を大量に集めて穴の中へ次々と落とす。もしこれで中からゴブリンが顔を出せばラッキーだ。
まっすぐ垂直に掘る落とし穴と違って、緩やかな坂道になっている穴の先に枝がいい感じにまとまってきた。周辺に散らばってしまった枝もちらほらあるけど、そこは気にしない。
火の妖精石に魔力を1流して小さな火を枝に送り続けると、1分弱ほどで枝に火が燃え移った。そしてじわじわと煙が上がってくるようになったので、風の妖精石に魔力を1流して風の向きを穴の奥へと変える。
背後に気を配りつつ、風の妖精石へ送り込む魔力を2に増やして待つ。
小さな魔法を維持するのに30秒ほどで新たな魔力を必要とするので、一応魔力回復ポーションをポケットに入れておく。
風を送り続けているのに、穴の中から煙が外に出てくるようになった。
この穴に出口はここしかなく、風が壁にぶつかって煙ごともどってきたのかもしれない。
「ん? なんか聞こえる?」
枝が燃えるパチパチという音のほかに、穴の中から何か聞こえた。
「出てくるか?」
風の魔法をとめて、穴から離れて様子を見る。
「1、2、3、4、5、6、7……いやいや、普通に住んでるじゃん」
クギャクギャ騒ぎながら出てきたゴブリンは全部で7匹。新鮮な空気を吸った後、穴の中に土を落とす作業を開始し始めた。火を消そうとしているようだ。
全員が穴に集中している背後からそっと近づく。
右手には氷の魔法剣、左手には火の妖精石。そして全身ワイバーン装備の完璧な布陣。欠点があるとすれば、靴下が無いからブーツの中が若干蒸れるっていうこと。今度布屋さんで靴下作ってもらおう。
背後からゴブリンの心臓を突き、続けざまに周囲の2匹の首を切り飛ばす。
これで1対4。
ゴブリンの集団戦はまだ未経験だけど、魔法を使える俺ならきっと勝てる。
「勝負だ!」
巣を燃やされ、背後から味方を討たれて混乱気味のゴブリンの集団は、俺という敵を見つけて襲い掛かって来た。けど、全員素手だったので、剣がある分俺の方がリーチが長い。
「うりゃぁ!」
剣を振りぬきゴブリンを1匹切る。すると大きく振りぬいたせいで発生する隙をついて、ゴブリンが飛びかかってくる。
「くらえ、火の玉!」
そんなやつには妖精石で火の攻撃をし、ひるんだところを正面から心臓目掛けて突く。
ダンジョンでモンスターを切る時と感触は変わらない。ただ、血が飛び散り、死体がそのまま残るという、精神的な苦痛が追加されるだけだ。
「これ、思ったよりキツイな」
ダンジョンで敵を倒すことに慣れた気がした俺でも、死体が残っている状況というのはまだ慣れない。本来ならこれから更に死んだゴブリンの体にナイフを入れて解体しないといけないとか……。
生きているゴブリンをただ切るのと、死んだゴブリンの死体を解体するのは、似ているようで全然違う。
解体の方法も知らない俺がやるとすると死体を弄くりまわすことになるのでちょっと狂気的だし、時間もかかりそうだ。
「魔石、諦めるか……」
ゴブリンの魔石の買い取り価格は1つ銅貨20枚。
金貨5枚を常にキープできている今の経済状況なら、まぁ、諦められる額だ。
穴の中でくすぶっている火を水の妖精石を使って完全に消火。風を送り込んで穴の中の空気を綺麗にしたら、ちょっと探険心がくすぐられたので、降りてみる。
「やっぱ暗いなぁ」
入ってすぐに、周囲から光が消えた。このまま歩いていくと、何も見えなくなりそうだ。
レベルを確認すると、レベル5からレベル13にあがっていた。
「ソロだと本当にレベルすぐ上がるんだな」
倒した敵の生命エネルギーが全て手に入るので、複数人でパーティーを組んでいる人よりレベルが上がりやすくなるのはこの世界の常識。それが分かっていてもパーティーを組むのは、その方が安全だから。
「ダンジョン攻略ではソイルさんとこのパーティーに入れてもらおうかな……」
火の妖精石で小さな明かりを灯しながら横穴を進んでいくと、肉の腐った臭いがしてきた。地面には小さな魔物の死骸がころがっている。
「風送り込んでこれか……くさい……」
腐敗しているものもあるのか、鼻が慣れる前に臭いがキツくなっていく。
巣穴の最終地点にたどり着いたけど、珍しいモノはなかった。魔石でも転がってないかなぁと期待したけどそんなものはない。
「帰ろ」
巣穴から出て、散らばっているゴブリンの体を全て穴に落とす。そして穴の近くを適当に壊して土で埋める。
「証拠隠滅完了!」
ゴブリンを複数退治して、魔石を1つも回収できないなんて素人丸出しの行為を、チャットメンバー以外に言うつもりは一切ない。




