ダンジョン5階
タブレットで電子書籍が読めるようになって、俺は宿の部屋で読書とチャット漬けの生活を送った。
朝食を食べて本を読み、夕飯を食べたらチャットをして寝る。これを繰り返して、今日は数日ぶりにダンジョンに行くことにした。
到着したダンジョン5階は、エレベーターを出ると石のテーブルと大きな扉があるだけ。扉を開けないと進めないので、開けるしかない。
「ボス戦ぽいな」
ダンジョンの5階だから小ボスだろうけど、一応、準備だけはした方がいいだろう。
テントの中から妖精石3種類とポーション5本を取り出し、リュックやズボンのポケットに入れて、魔法効果のある紫の石のペンダントを着け、今できる最強の装備が完成した。
氷属性の剣を抜き、警戒しながら怪しい扉を開ける。
ものすごく広い空間だけど、敵の姿はない。
注意して部屋を見てみると、床に魔法陣のようなものが書いてある。
扉が完全に閉まったらここからモンスターが現れるのかもしれないので、扉を背にして剣を構える。
「ゴブリンか!」
タブレットが写真を撮ったので素早くそっちに目をやると、種族名ゴブリンメイジと書いてあった。風の魔法を使って攻撃してくるゴブリンの亜種。
見た目は普通のゴブリンとそうかわらない。
「絶対倒す」
氷属性の剣を握り、大きく振りかぶる。
タブレットがステータス画面に切り替わって、俺の魔力が5減った。
俺の剣から白い煙が上がって、刀身全体が銀色に輝く。
「これが氷の魔法剣……かっこいい」
そのままゴブリンメイジに切りかかろうとしたら、ゴブリンメイジの方が先に攻撃を仕掛けてきた。
腕を前に出し、俺に向かって風の攻撃を放ったんだろう。緑色の塊が俺に向かって飛んできた。
「風魔法って、色付き!?」
風に色が付いていたので、しっかり回避。ゴブリンメイジの攻撃は俺にかすりもしないで、背後の壁にぶつかって暴風と共に消えた。
魔法を使える相手と戦うにあたり、接近戦オンリーの俺は不利だと直感した。試しに魔力を使うイメージで剣を振り下ろしてみるけど、氷の斬撃破みたいなものはでなかったし、魔力の数値も減ってない。
「魔法には魔法! くらえ、俺の火の魔法!」
ポケットから取り出した火の妖精石を握り、タブレットを見ながら魔力を10注ぎこんで拳をゴブリンメイジに向けて全力で突き出す。
すると、俺とゴブリンメイジの中間ぐらいに炎が燃え上がって渦を巻いて消滅した。
「なるほど。距離感、そういう感じね」
手の中の妖精石は少し色が薄くなっているけど壊れていないので、今度は距離を詰めて攻撃。相手のゴブリンメイジも今の攻撃で焦ったのか、風の魔法を繰り出して俺を倒そうと必死だ。
「当たらないぜ」
飛んでくる攻撃も、色が付いていれば避けれないことはない。
3発の風の弾丸を回避してゴブリンメイジに近づいたことで、相手が俺の攻撃範囲内になった。
「火炎放射!」
右手の妖精石に魔力を注いで先ほどと同じ攻撃。今度は炎の出現位置にしっかりゴブリンメイジがいたので、悲鳴が部屋に響き渡る。
炎の渦は消え、妖精石は砕け散り、ゴブリンメイジはひん死。
「俺の勝ちだ」
出番のなかった氷の剣でゴブリンメイジにとどめを刺す。
虫の息で横たわるゴブリンメイジの心臓あたりを突き刺すと、剣が刺さった皮膚が急速冷凍されて、そのまま全身が粒子になって宝箱に変化した。
「宝箱?」
フロアボスだったゴブリンメイジの体が宝箱になった。
今まではアイテムがポトッと地面に出現していたので、ボス戦だけは宝箱演出か、レアドロップ確定の特殊演出なのか。開ける前から期待が膨らむ。
「レア、こい!」
宝箱の中身は胸当てだった。
「タブレット、鑑定して!」
鑑定結果はワイバーンの革の胸当て。
ホヨテルダンジョンの5階で手に入るワイバーン装備の1つ。
「あぶねぇ。買わなくてよかったー」
5階で手に入る防具なら、あの店も観光客やダンジョン初心者がメイン客層なんだろう。危うく初期装備を買わされるところだった。
ボス戦をノーダメージでクリア。体力は回避で使ったのか3減っているけど、放っておけば自然回復するのでポーションは飲まない。魔力は回復方法が今のところ自然回復しか選べないので、放置。
ゲットしたばかりの革の胸当てをシャツの上から装着して、リュックを背負い直すと、俺の冒険者っぽさが一段とアップしたように思う。
ボスを倒したことで出現した階段を上り、6階の石のテーブルで情報を更新していると、エレベーターから出てくるパーティーがいた。剣士2人、魔法使い1人の男3人組。
「お? お前、ゴブリンメイジ1人で倒したのか?」
「はい」
「すげぇな。どうだ? 俺たちのパーティーに入らねぇか?」
「え!?」
5階ボスはゴブリンメイジで固定らしく、6階に上がる人は全員ゴブリンメイジを1度は倒している。ソロで5階通過は珍しいことのようだ。
「俺はソイル。こっちはリョーハンとヘチナ。まあ、物は試しってことで、一緒に6階を探索しようじゃねぇか」
ソイルさんとリョーハンさんは剣士。
ヘチナさんは魔法使い。
年齢は3人とも俺より年上だろうけど、20代前半の軽い雰囲気がにじみ出ている。
「ヘチナさん、魔法使えるんですか」
「なんだ、お前も魔法に興味あるのか?」
「そりゃそうだ。ガキの頃から皆魔法に憧れるってもんだろ」
ソイルさんとリョーハンさんは同じ村の出身で、ヘチナさんはホヨテル出身。ヘチナさんを勧誘した経緯も、魔法に憧れて教えを請うたのが始まりらしい。
「魔法は誰でも使える」
「はー。嫌味」
「はいはい。適性のない俺たちは妖精石で我慢しますよー」
妖精石を使えば誰でも魔法を使えるけど、妖精と契約できる本当の魔法使いはごく一部。
ソイルさんとリョーハンさんは笑いながらヘチナさんのセリフをおちょくっている。
「ふざけてないで進むぞ。今日こそ6階を攻略するんだ」
「おうよ」
「へいへい」
このパーティーのリーダーはヘチナさん。
それがヘチナさんが出したパーティーへの加入条件。
「何度か6階に来てるんですか?」
4階と同じように6階も迷路系。
「泊まったこともあるぜ」
「マジっすか」
「最初来た時な、帰り道見失っちまった」
ソイルさんとリョーハンさんが警戒しながら前を歩き、その後ろを俺が行く。そして、俺の後ろをヘチナさんが歩く。
「無駄話してないで前を見ろ」
ヘチナさんが後ろから俺たちを叱るけど、2人は慣れているのか笑っている。
「1番大変だったのはヘチナの世話だ」
「おいっ!」
「違いない。ヘチナはお坊ちゃんだからな」
「貴様ら黙らないと消し炭にするぞ」
魔法使いが言うとシャレにならない。俺はついさっきゴブリンメイジを魔法で焼いたばかりだし。
「魔法の適性ってどうやって調べるんですか?」
本で読んだので知ってるけど、この雰囲気を変えたいので質問内容はなんだっていい。
「……妖精を召喚して、契約するんだ」
ヘチナさんも俺の思惑に気付いたのか、無理矢理すぎる話題変更についてきた。
「なんか試練とかあるんですか?」
これは本当に知らない。本には契約内容については書いてなかった。適性があれば妖精が契約してくれる、としか書かれていなかった。まあ、妖精を召喚するには妖精紹介所という施設に行く必要があるけど、そのためには住民登録しないといけないので、そもそも俺に契約のチャンスはない。
「ない。名を聞かれて名乗ったら契約完了していた」
「へー。ヘチナさんは何属性使えるんですか?」
「火と水と光の3属性だ」
各妖精ごとに契約して、適性があれば使える魔法も増える。
「光!? じゃあ、ヘチナさん聖職者ですか!」
光魔法は回復系の魔法が使えると本に書いてあった。
ヘチナさんが答える前にソイルさんとリョーハンさんが噴き出した。
「聖職者! ヘチナが! 聖職者!」
「貴様ら……おい! 前を見ろ、来るぞ!」
声を荒げたヘチナさんの言葉通り、前方に2足歩行の豚がいる。初めて見たけどあれがオークだろう。
不自然にならない程度にタブレットに視線をやると、やはり敵はオークだった。
身長は俺とそう変わらないので、180くらいだろう。
顔はイノシシと豚の中間みたいで、体は肥満体系気味。そして棒を手に持っている。
「メスオークか」
「は? メス? メスって、女って意味の雌ですか?」
ソイルさんの呟きに過剰反応した俺に、ソイルさんはシリアスに一言で返して来た。
「その雌だ」
タブレットを見ても、種族名オークとしか表示されていないので性別は不明。
「オークの性別って、どうやって見分けてるんすか?」
「おい、今それどころじゃないだろ。集中しろ!」
「すんません」
後衛のヘチナさんにガチトーンで叱られた。
今のは確かに俺が悪い。
「火を飛ばしてひるませる。隙をついて狙え!」
ヘチナさんの言葉の後に、俺の背後から火の玉が勢いよくオーク目掛けて飛んで行った。顔に火の玉が直撃したオークは、両手で顔を覆ってその場でふらつく。
「今だ!」
ソイルさんの言葉を合図に、前衛の2人がオークに切りかかる。
視界が塞がれていたオークは、更に剣士2人の攻撃を体に受けた。でもオークは倒れない。
「俺も行きます」
氷の剣に魔力が吸われ、銀色になった魔法剣でこん棒を持っている方のオークの腕を切断。
俺の剣が触れた個所にパリパリと氷が広がっていくのを見ながら、今の攻撃で腕ごと落ちたこん棒を遠くへ蹴り転がす。
「さすが、5階をソロで突破しただけはあるな」
「ども」
オークが威嚇の声を上げたので、少し身を引いて剣士2人と同じ位置まで下がる。
「もう1度火を飛ばす!」
「いや、相手はもう手負いだ。魔力を温存しとこうぜ。ここは俺たちがなんとかする」
ヘチナさんの攻撃を遮り、リョーハンさんがオークに再び切りかかる。
「俺たちもいくぞ」
「はい」
リョーハンさんの攻撃を片手でいなしているオークを挟んで、俺とソイルさんで同時攻撃。逃げる場所もなく、攻撃を受け止める腕も足りないオークは、光の粒子となって消えた。
「いやー、剣士3人だとオークが楽に倒せるな」
「だな。ヘチナの魔力も節約できるし、いいことずくめだ」
ドロップした銅貨1枚を拾ったリョーハンさんは、それをヘチナさんに預けながら俺に言った。
「ドロップアイテムは後で分けるから、心配すんなよ」
「はい」
そんなことより、気になっていることがある。
「オークの性別って、どうやって見分けるんですか?」
「あん? そりゃもちろん、おっぱいだ」
「へ?」
オークの姿を思い出す。
たしかに、膨らんだおっぱいはあったけど……おデブ男の垂れた胸との違いが俺にはわからないよ。




