相棒をアップデート
宿の部屋のテントの中で、今日買ってきたものを並べる。
平たい皿とスープ椀、スプーンとフォークはしばらく使わないだろうから、テントの端に移動。
ビン入りの洗剤とタオル、着替えをひとまとめにして端に寄せる。
そして、木彫りの双子神像をリュックから取り出し、テントの中央に置き、手を合わせて祈りを捧げる。
「ごきげんよう。トーヤ様のリーにございます」
「よっしゃ! 成功!」
テントの中が明るくなって、真っ赤なドレスのフランス人形が現れた。そうそう、俺の担当はリーちゃん。
「実はさ、俺、もう少し1人でやっていこうと思って、神殿に行ってないんだ」
「わたくしはトーヤ様にとって役立たずですか?」
「いや、そういう事じゃなくって。他の世界の人の話を聞いて、ちょっと違うなと思ったんだよ。リーちゃんじゃなくて、この世界の人の問題というか」
基本無表情のフランス人形が悲し気にうつむいたので、そうじゃないと否定する。
「それでさ、神殿に出した神託を取り下げるとか、できる?」
「お待ちください……わたくしに相談したところ、こちらは独立した世界なので可能と判断されました。ですが本来、神託は短期間に何度も下すようなものではございません。取り下げなど、神の意志が疑われてしまいます」
やろうと思えばできるけど、リーちゃん的にはやりたくない、ということだろう。
俺は神官に顔を見られているから神殿に行きたくない。でも、神殿の本は読みたい。
俺たち2人の考えを尊重した解決策として、1番いいのは本が神殿以外で読めること。
「じゃあさ、このタブレットで神殿の本を読めるように……とかできる?」
「お待ちください……可能です」
「え、うそ、マジで!?」
思い付きで提案したら、俺のタブレットが超進化することになった。
「それならさ、ついでに、鑑定機能も付けることできる?」
「鑑定機能ですか?」
「そうそう。ほら、モンスターの写真撮ったら解説してくれる機能ついてるじゃん? それをちょっといじって、こういうのとかも写真撮って解説してくれたら便利なんだけど」
飾ってあった妖精石を1つリーちゃんに見せながら、必死のプレゼン。
「お待ちください」
それからしばらく、リーちゃんは宙に浮いて微動だにせず、無口になってしまった。
「お待たせしました。可能です」
「おぉぉ!」
「すでに本来の世界では実装されていました。ですので、こちらにコピーすることが可能です」
「……は?」
「あちらは神々が直接手を出せますので、要望があれば可能な限り叶えられます。そのうちの1つとして、すでに実装されておりました」
青の扉の世界は、他の転生者たちのせいでかなり改造されていると思っていいだろう。今回はそのおかげで望む力が手に入ったわけだが。今後も定期的にリーちゃんから情報を仕入れる必要があるかもな。
「他も俺のいる世界と違っているところとか、ない?」
「質問が大まか過ぎて絞り込めません」
「ううーん。他の転生者が神様に頼んだお願い事を全て教えてほしい」
「申し訳ございません。情報量が多すぎてわたくし1人では対応しきれません」
こっちから細かい指示を出さないと、青い扉の世界とつながれないようだ。
「本来の世界で転生者たちが連絡してるチャットツールって見れる?」
「不可能です」
「リーちゃんが見ることはできる?」
「不可能です」
「じゃあ、よく登場する言葉とかわかる?」
「お待ちください……全てを調査し報告することは不可能です」
「上位5つの単語でいいから!」
粘ればなにかしら情報が手に入りそうな気配なので、できるだけごねてみる。
「可能です。今現在、使用頻度の高い単語はーーギルドーー転生者狩りーーPK--経験値ーーデスペナーーでございます」
「訂正。上位の単語を10教えて」
「可能です。今現在、使用頻度の高い単語はーーPK--デスペナーー経験値ーー転生者狩りーーギルドーーデスペナルティーー死ぬーー怖いーーダンジョンーー犯人ーーでございます」
上位15の単語は断られてしまったけど、不穏な単語ばかり出てきた。俺は青の扉の世界に行かなくて本当に良かったと思う。
「そういえば、ヘルプにモンスター図鑑のこととか書いてなかったけど、あれなんで?」
「ヘルプを担当したのはわたくしではなく、シーでございます。不備があったこと、シーに代わり深くお詫び申し上げます」
違うフランス人形の凡ミスなのか、ステータス画面のように勝手に発動する機能だからヘルプに書かなかったのかわからないけど、謝罪を受けたのでそれはもう水に流す。
「ご用件はお済でしょうか?」
「うん。またね」
リーちゃんがいなくなったので、タブレットを手にテントの外にでて、ベッドに座ってチャットタイム。
鑑定機能と、青の扉の世界のことを書き込む。
青の扉の世界では、レベル上げの経験値を求めて転生者による転生者狩りが始まっている……かもしれない。赤の扉を通った俺たちには関係ない話だけど。




