買い物
Cランクのカードを出して宿のカギをもらおうとしたら、宿泊する部屋が別館から本館に変わった。Eランクは別館、Cランクからは本館に泊まれるようだ。
お値段据え置き銀貨1枚で、風呂も食堂も近くなって部屋の面積も少し広くなったので俺にとってはイイコトずくめ。
広くなった部屋にテントを設置し、その中で俺は小銭を数えている。
「41枚っと」
乗合馬車に乗る時に銀貨を両替したせいで、銅貨が81枚も手元にある。10枚ずつ布で包まれているのが4束、あとはバラで41枚。
今、俺の手元には金貨5枚、半金貨1枚、銀貨17枚、銅貨81枚がある。
まだこの世界の金銭感覚はあやふやだけど、これだけあればしばらく生きていける額だろう。
明日は町に出て、錬金術に関する本がないか探しに行く予定を立てた。ダンジョンもクエストも明日はお休み。
現在時刻は夕方の5時。
これからダンジョン商店街をぶらついて、必要な日用品を購入しようと思っている。なんせ俺、着の身着のまま、下着すら数日同じものをはいてるし……。
「着替えと、シャンプーとボディーソープ、財布……あとは、店で考えるか」
ダンジョン地区の商店街に服や日用品が置いてあるか、まずはそこから確認しないといけない。
テントの中に金貨1枚と短剣と水筒を置いて、食卓カバーに戻してリュックの中にしまう。そうすればリュックの中身は食卓カバーと現金だけになる。
「あー、タオルもあったら買おう」
宿に置いてある風呂用のタオルはとにかく肌触りが悪い。部屋が広くなっても用意されているタオルは同じ素材だった。
商店街について、まずは店の看板を眺める。
防具は剣術スキルに慣れるまで必要ないのでスルー。
剣の絵が武器屋、盾の絵が防具屋だとして、ビンの絵とネックレスの絵がいまいちわからない。予想ではポーションショップとマジックアイテムショップだけど。
「入ってみるか」
ビンの絵の店に入ると、そこは薬屋だった。
「いらっしゃい」
棚には液体の飲み薬や、錠剤、粉薬、塗り薬が置いてあって、それぞれの効能がざっくりと書かれているポップ付き。
「これってポーションですか?」
「そうですよ」
液体の飲み薬を指さして聞いてみると、やっぱりポーションだった。これは買いだろう。値段もポップに書いてある。
初級体力回復薬1本銅貨10枚……安っ!
熱に効く薬が1包銅貨10枚、腹を下した時の薬が1包銅貨5枚、切り傷擦り傷に塗る薬が1ビン銀貨1枚……全体的に安い。
「安いですね」
「まあ、その分効きも弱いですけどね」
「なるほど」
棚に置いてあるのは品質の良くない薬らしい。高価な薬は倉庫で管理しているようだ。
「体力ポーションって、1本飲むとどれくらい回復しますか?」
「ここにあるのは初級なので、健康で若い成人男性だとだいたい10回復しますよ」
「ほぉ」
とりあえず初級の体力回復ポーションを10本購入で、銀貨2枚。解熱剤と腹下しをそれぞれ1包ずつで銅貨15枚の支払い。
「これって錬金術で作ったやつですか?」
「そうです……あぁ、これは違いますね。薬師が調合したものになります」
1回使い切りタイプのポーションや飲み薬と違い、数回利用できるビン入りの塗り薬が薬師の作品らしい。違いは魔力を込めて作る錬金術と魔力を必要としない薬作り。
気になったので、一応塗り薬も追加で購入しておいた。
「さて、次は……」
ネックレスの絵の店は、ざっくり言うとアクセサリーショップ。
指輪やネックレス、ブローチ、ミサンガやブレスレット、アンクレットが置いてある。それから、何も加工されてない天然石。
「全部マジックアイテムですか?」
「いえ。魔法効果のないモノもありますよ」
「違いって俺でもわかりますか?」
「値札に効果が書かれているモノがマジックアイテムになります」
「わかりました」
効果が書いてあるものを読んでみると、どれもこれもオマケのような微妙なものばかり。10分で体力が1回復とか、足首に付けるとちょっと早く走れるとか、マジックアイテムとしての質は下の下、って感じ。
「もっといいやつって裏にあるんですか?」
「いえ。うちで扱っているのはここにあるモノと同じようなものばかりですよ」
「そうなんですか……」
店内を見渡した店員は、俺に少し近づいて耳元でささやいた。
「ここは観光客メインの店ですからね。高い効果のアイテムは別の店舗に回されます」
「へー。じゃあ、やっぱり自分で手に入れた方がいいってことか」
「ダンジョン攻略頑張ってください」
「うーい」
アイテムを見て回るのはやめて、天然石の説明を読んでみる。
水の妖精石/銀貨5枚
・真水を呼び出せる。煮沸の必要なく飲める。
火の妖精石/銀貨5枚
・火を呼び出せる。火事に注意。
風の妖精石/銀貨5枚
・風を起こせる。魔力の込め過ぎ注意。
「この妖精石って、妖精が入ってるんですか?」
「いえ。この石があれば妖精と契約しなくても、小さな魔法なら誰でも簡単に使えるんですよ」
「え! 誰でも?」
「数回使うと壊れてしまいますけどね」
「これ買います!」
妖精石を3種類、1つずつ購入で銀貨15枚。
「使い方は?」
「握って魔力を込めたら発動します。ただし、魔力は1から多くても5くらいまでにした方がいいですよ。多すぎると水はともかく火は燃え盛って大変なことになりますから」
「なるほど」
妖精石をリュックに入れて、ついでに店員さんにこの辺に服屋があるかどうか聞いてみた。
「そういった日用品は区画の外の店にありますよ。ここはダンジョンで仕入れた品を売る店ですから」
防具屋に行けば多少はあるかもしれないと言われたので見に来たけど、さすがに下着は置いてなかった。
「もうこの町のダンジョンには何度か挑戦してみましたか?」
「え、えぇ、まあ」
「そうですか。では、普段はどのような装備をお使いで?」
「えーっとぉお……」
防具屋の店員はぐいぐい来るタイプの接客だった。
腰に氷の剣を差して来たせいで、買い物客だと思われてしまったようだ。
「いや、まだ防具はいらないかなぁーっと思ってまして」
「おやおや、お客様。防具1つで命が助かることもあるんですよ?」
「……いや、でも、まだいいかなぁって」
「そうですか? 一応僕のおすすめはこのワイバーンの膝あてなんですけど。ほら、試しに触ってみてください。見た目より柔らかいでしょう? 確かにワイバーンの鱗は干して融液に漬け込むと柔らかくなりますけどね、人の手で作ったものと、ダンジョンで入手できるワンバーンの革装備はもう、別物ですよ。こんなにしなやかな革なのに、防御力はバツグンなんです。ゴブリンの爪程度じゃ傷1つつきませんよ」
試しに触ってみたワイバーンの膝あては、確かに柔らかかった。そして軽い。話のついでに同じ素材の胸当ても見せてもらった。内側はツルツルしていて、付け心地もよかった。
「この胸当てと膝あて、セットでいくらですか?」
「金貨2枚です」
高い。
「胸当てだけだと……?」
「金貨1枚と銀貨15枚ですね」
「あー。んー。いや、でもなぁ」
買えるけど、今必要かと言われたら、そんなに必要だとは思わない。
「また今度にします」
下着も置いてなかったし、物欲に負ける前にさっさと店を出るに限る。
「しかし、魔法! まさかスキルが必要ないなんて!」
いい買い物ができたので、ルンルンで宿に帰る。
宿に帰って、妖精石を眺めながら、使い道を考えるけど思い浮かばない。
「とりあえず飾っておこう」
青、赤、黄緑に色づいた妖精石を並べてニヤニヤ。
これで俺も魔法使いの仲間入りだ。
明日、ついでに魔法入門の本も探してみよう。




