ランクアップ
「鑑定と買い取りお願いします」
ランクカードを出すと、買い取りカウンターで待つように指示された。買い取りをお願いすると、鑑定用の青い札は必要ないらしい。
「お待たせしました。では、ランクカードと品物を見せてください。このカウンターよりも大きな品をお持ちでしたら場所を移動しますから、遠慮なくおっしゃってくださいね」
リュック1つの俺に不思議な案内をするもんだと思ったけど、アイテムボックス的なものが存在する世界なら、見た目より大きなものを持ち込む人もいるんだろうと納得した。
「まずはこれなんですけど……」
紫石のペンダントをリュックから取り出し、カウンターの上に置く。
「鑑定する品が複数ある場合は、1度に全てお出しください。カウンターに出し切れない場合も移動します」
「はい。多分全部出せると思います」
俺と鑑定士さんの間にあるカウンター幅は50センチくらいはあるし、長さは1メートルくらいはありそうだ。今日のドロップアイテムなら全部並ぶだろう。
リュックから青い石と鳥の羽とスキルオーブと剣を出す。
カウンターの上に余裕で並べることができた。
「おや、これは」
「え?」
鑑定士さんが真っ先に手を出したのは、鳥の羽。
俺はスキルオーブが今日のメインだと思ってたのに。
「それ、どんな効果があるアイテムですか? チワーワから落ちたんですけど」
「これはですね、乱獲によって数を減らし、絶滅したとまで言われる魔鳥の羽ですよ」
「へぇー……そんなのも出るんですね」
すごい効果を秘めたマジックアイテムかと思ったら、希少価値の高い鳥の抜け羽だった。
使い道としては、防腐処理して装飾品や装身具に加工するとか、観賞用に飾るとからしい……俺には必要ないので売り1択。
「いくらになりますか?」
「金貨5枚です」
「え。そんなに? 売ります!」
「最近はダンジョンでしか手に入らない品ですから」
「なるほど」
全体的に黒い鳥なのに1枚だけ7色に彩られた羽を持っていた魔物の鳥は、そのド派手な羽が弱点だった。ド派手で美しい尾羽と魔石を狙われ、あっという間に数を減らしていったらしい。
ダンジョンでモンスターとしてなら沢山現れるけど、倒したところで尾羽も粒子になって消えてしまう。
「それは売り確定として、次はこれお願いします」
めちゃくちゃ気になってるスキルオーブをずずいと鑑定士さんの前に押し出す。
「スキルオーブですね」
「はい」
「では、見てみましょう」
「お願いします」
じらす。鑑定士さん、めちゃくちゃじらすじゃん。鑑定スキルあってもそんなにじっくり眺める必要あるの?
「わかりましたよ。これは≪錬金術≫のスキルオーブです。買い取り額は金貨15枚です」
「錬金術!」
剣で倒したから≪剣術≫が出てもおかしくないところで、まさかの錬金術! ギュードンもアルファもこのスキルをゲットしていてうらやましかったけど、俺は自力で手に入れた! これは売らない。絶対に売らない。
「売りません」
「……そうですか、残念です。ですが錬金術はかなり扱いの難しいスキルですよ? オーブで覚えたところで、基礎から学ばなくては使い物になりません。道具も必要ですし、それなりの知力が求められます」
「それでも売りません」
俺の拒絶を受けて営業トークをやめた鑑定士さんは、次の品を見ることにしたようだ。
「こちらはマジックアイテムですね。身に付けていると軽い嘔吐やしびれ、軽い眠気などを無効化します」
「おぉ! チワーワの毒とかもですか?」
「チワーワ程度の毒なら無効化できますが、異常耐性のアイテムとしての効果は中の下くらいでしょうか? 即死や重度の麻痺などの猛毒に対しては無力ですから、信頼しすぎると危険です。買い取り価格は銀貨30枚ですね」
使えそうなアイテムだし、あとでマジックアイテムを扱うショップに行ってみて、そこの商品を確認してから売るのも手だろう。どうせ今日は鑑定に銀貨1枚とられるのが確定してるし、無理に売る必要はない。
「これはターコイズですね。装飾品としても人気ですし、錬金術の材料にもなっているはずですよ。このサイズですと銀貨10枚ですね」
青い石はターコイズというらしい。
マジックアイテムじゃないけど、宝石とかパワーストーンとかそっち系。錬金術の材料になるっていうのが気になるので、これも売らずに持っておこう。
「じゃ、最後にこの剣お願いします」
「はい」
まず剣の外見を見て、次に鞘から引き抜いた刀身を裏表ひっくり返しながらじっくり眺めている。
「これは魔法剣ですね。氷の属性がついています」
「おぉ」
氷属性の魔法剣、さすが宝箱産! これはかなりすごいやつだ。絶対売らない!
「銀貨30枚ですね」
「は?」
剣に吸い寄せられていた視線を上げ、鑑定士さんの顔を見る。
熟練の鑑定士って感じのシブいおじさんは、真面目な顔で言っていた。
「え、魔法剣なのに銀貨30枚ですか?」
「ええ」
なんの属性もついてない俺の剣が銀貨30枚だった。
販売価格と買い取り額の差はあって当然だけど、それでも、魔法剣が銀貨30枚って……鳥の羽が金貨5枚だったのに。
キョトン状態の俺を見て、鑑定士さんは訳知り顔でうなずいた。
「魔法剣を1から作るというのは、高レベルの鍛冶職人でないとできません。ですが、ダンジョンでは比較的入手しやすいものなのです」
ダンジョンに挑戦している冒険者たちは、自分の武器をダンジョンで入手して強くなっていくらしい。
ダンジョンの商店街で売っている武器はほとんど観光客や初心者向け。あとは地元住民がたまに護身用に購入する程度。
そのため、この町の鍛冶職人たちは武器や防具を作るよりも調理用の包丁や鍋など、生活用品に特化しているという。
「じゃあ、こっちをお願いします」
「はい。銅貨20枚です」
数日使っていた俺の剣は銅貨20枚で売れた。
「では、コペッカの飾り羽金貨5枚、鉄の剣銅貨20枚で買い取らせていただきますね」
「はい」
カウンターに出していたターコイズとスキルオーブ、紫石のペンダントと氷属性の剣をしまうと、鑑定士さんが銀のトレーを取り出し、その上に金貨5枚と銅貨20枚を置いたのでそれを受け取る。
「鑑定料として銀貨1枚頂戴いたします」
「はい」
トレーに銀貨1枚を置くと、鑑定士さんがトレーごと引き下げた。
「ランクカードをお返しいたします。トーヤ様のランクはCになりました」
「ありがとうございます……あれ? Cランク?」
Dランクをすっ飛ばしているけど、これ合ってる? 凡ミスとかやめてくれよ?
「累計で金貨5枚以上になると、Cランクになります。今回の買い取り額が金貨5枚と銅貨20枚でしたので、Cランクになりました」
「なるほど、ギリギリですね。Bまでだと累計いくら必要なんですか?」
「Bランクは白金貨5枚です」
それってつまりいくらですか? っていうね。
反応に困ってぽけーっと鑑定士さんを見ていたら、鑑定士さんがちょっと笑った。
「……白金貨を使ったことはありますか?」
「ないです」
食い気味に即答。
白金貨についてレクチャーしてくださって良いのですよ。鑑定士さん!
「金貨100枚で白金貨1枚になります……白金貨の実物をご覧になったことは?」
「ありません」
即答。
鑑定士さんがカウンターに身を乗り出し、小声で俺にささやいた。
「見てみますか?」
「え、いいんですか? まじっすか」
「本当はダメです。でもまあ、たまにはそういうサービスもいいでしょう」
「ありがとうございます」
1度カウンターを離れた鑑定士さんが、白金貨を持って戻って来た。
「見るだけですからね」
「はい!」
白金というから、プラチナとかの素材でできた硬貨かと思ったら、ただの白い金属だった。でも、金貨と同じ模様が入っている。色が白いバージョンの金貨。
「金貨100枚が、これ1枚なんですね」
「ええ。日常生活ではほとんど見ることはありません。私もここでこの仕事をしてなければ拝むことはないでしょう」
「はー。お高いお金ですね」
ついでに金貨1枚は銀貨何枚なのか聞いてみた。
この流れなら聞けると思った。
「金貨1枚で銀貨100枚ですよ」
「じゃあ、半分に加工された金貨は?」
もうこの人に対してなら何でも聞ける気がしたから勢いで言ってみた。後悔はない。
「半金貨は銀貨50枚です」
「半分に加工された銀貨は銅貨何枚ですか?」
「それは無価値ですね。ゴミですよ」
「マジか……」
半分に加工された銀貨は贋金扱いか。
あぶねぇ、知らなかったら普通に受け取るところだった。
「では、次の取引をお待ちしております」
「ありがとうございました」
思わぬところで常識をゲットした俺は、宿に戻って錬金術スキルを覚えた。




