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ダンジョン4階

 朝食を食べ終わって、からっぽの水筒に食堂の水を補給したあとは、受付に行って宿泊延長の手続き。


「今日も泊まりでお願いします」


 カードと銀貨1枚と部屋のカギを同時に渡し、同じ部屋をキープできた。


「いってらっしゃいませ」


 受付の人に送り出されて、宿を出る。


 今日はダンジョンでドロップアイテムを狙ってモンスターを狩りまくる予定。


 目標金額は銀貨5枚。


 ダンジョンの入り口に並び、何人もいる係員のうちの1人にEランクのカードを手渡す。


「お気をつけて」

「どもっす」


 返却されたカードをリュックにしまい、エレベーターの中へ入る。


「4階かな」


 登録だけして帰った4階のボタンを押す。ここに出るモンスターの種類は知らないけど、レベル5の俺なら楽勝だろう。根拠はないけど。


 4階に到着し、石畳の通路を歩いて進む。


 2階と同じ迷路タイプで、2階よりも分かれ道が多く、石を組んで作ったような通路は、1階や2階よりも薄暗く少し肌寒い。


「しまった。紙持ってくればよかった」


 紙があれば簡易的な地図が作れる。自分がどの道を選んで進んだのか記録できるから、行き止まりになった時にしっかり戻れて、4階のエレベーターから帰ることだってできたのに。


「あー。だめだ。戻ろうかな……ん? マッピング……そうだ!」


 ステータスが見たい、と念じて、リュックから自動でタブレットを呼び出す。


「マップ、マップ……よっしゃぁ、あったぁ!」


 タブレットの中に、ダンジョン攻略に使えるマッピング機能があった。町の外と同じく、歩いて埋めていくタイプのマップだけど、書き込む手間が無いだけありがたい。


「よし、今日は君をお供に決めた!」


 けっこう大きい声でタブレットに向かって声をかけてしまい、あわてて周囲を確認。幸い、見える範囲にモンスターも人もいなかった。


 最近独り言が増えた気がする。多分気のせいだろうけど。


 タブレットを浮遊させ、剣を鞘から引き抜いて警戒態勢のまま前に進む。

 石壁を剣で軽く叩いて硬さを確認した結果、本気で振りきった剣先が石に当たると相当手にダメージがきそうだという事が分かった。モンスターと戦う時は左右の壁にも注意しないといけない。

 

「んー。いないもんだなー」


 分かれ道は勘で選んで今のところ順調に進んでいる。しかしモンスターがいない。


「誰か先歩いてる感じか?」


 3階でも同じような状況になったし、もしかしたら俺よりちょっと先に4階に来た人がいるのかもしれない。今回はこのまま適当に前に進むしかないけど。


 何度目かの分かれ道で、右と左と前方という選択肢だった今までと違い、右に2か所、左に2か所、そして前方の直進コースという、5差路にぶつかった。


 どの道を行こうか悩んでいると、分かれ道の入り口に剣で付けた傷を見つけた。


「これは……印、か?」


 手に持った棒で壁をガーーっと傷つけて無邪気に遊ぶ小学生がいるならともかく、この壁に付いた傷は明らかに故意につけられている。


 それはなぜか。

 この道を選んで、失敗して戻って来たからじゃないだろうか?


「いや逆に、この道が正解の可能性もあるか?」


 4階を周回しているパーティーがいるなら、正解の道筋を刻んでいる可能性もある。


 少し悩んだけど、自分の直感を信じることにした。

 印の付いていない道を選び、進んでいく。

 すると、タブレットのマップに赤い光が1つ出現した。


「モンスターの位置まで教えてくれるとか、君、優秀じゃないか!」


 赤い光に近づいていくと、チワワがいた。


「チワワ、だと!?」


 いや、よく見ると別の生き物に……残念ながらどう見ても白いチワワ。


「ぅぅうーぐるるぅ」

 

 威嚇している。

 ものすごく俺に対して威嚇してうなっている。

 しかし、かわいい。


「え、これ、モンスター? あの、君、モンスターなの?」


 俺の問いかけなど無視してうなっている。

 姿勢を低くして、いつでも飛びかかってやるぜっという気合を見せつつ、牙をむいて威嚇している。でもかわいい。


「無理。これは無理だ」


 ゾンビちっくな見た目ならチワワでも普通に倒せる。

 でも、真っ白なミニボディのチワワは俺、倒せないよ。


「くそぉ、まさかここで殺すカクゴがどーとか、そんな罠があるなんて」


 ダンジョン4階、出現モンスターはチワワ。正式名称は知らんけど、見た目チワワ。


「あぁ、種族名チワーワ。ってそのままじゃねぇか!」 


 タブレットが勝手にチワワの写真を撮り、画面に名前と情報が表示された。

 なにこの機能。ヘルプに書いてなかったけど!?


「待って、情報が多すぎて脳が追い付かないわ。とりあえず、チワワどうにかしないと」


 浮遊しているタブレットを手で追い払い、剣を構えてチワワと対峙する。

 隙だらけの俺に飛びかかってこないなんて、待ての出来る偉い子だ。


「えー、君どうだろう? ここは休戦しないかい?」

「がぅー!」

「ですよね」


 ここはダンジョン。生きるか死ぬかのサバイバル。

 敵が可愛いから殺せない、なんて言ってたら殺される。


「すまん!」


 右足でチワーワの腹部を蹴り上げ、後ろに飛ばす。

 これで逃げてくれないかなーと、淡い希望にすがってみる。


「ひえぇっ火に油」


 壁にぶつかったチワーワは、体勢を立て直して俺に猛ダッシュで向かってきた。


「あいつはモンスター。犬じゃない」

 

 念じながら剣を構える。

 牙をむき出しにして走ってくるチワーワの顔は、愛玩犬とは思えない凶悪な面構え。その顔を見つめながら剣を振り下ろすまで、10秒ほどの出来事だった。


 サラッと粒子になって消えたチワーワの代わりに、石畳にコツンと落ちたのは紫の石が付いているペンダント。


「ドロップアイテムが出たってことはやっぱりモンスターだったんだよな」


 犬愛好家ってわけじゃないけど、チワワそっくりのモンスターを倒すのはかなりストレスを感じた。相手がモンスターだとしっかり認識しないと、心のバランスが保てなさそうだ。


「って、そういや、タブレット! お前、ちょっとこっち来なさい!」


 呼ぶと素直にやってくるタブレットを捕まえ、さっきのページを探す。


「あれ? ちょ、どこ? さっきのチワーワの画像は?」


 指で探しても見つからないので、問いかけてみる。

 すると画面にチワーワの画像が表示された。音声認識のみ、対応しているようだ。


「なんだこの機能。ヘルプにはなかったぞ?」


 さっきのチワワは種族名チワーワ。

 爪に微弱な毒があり、引っかかれると痒くなって腫れる。ほっといても1晩で治るけれど、1時間に体力が1ずつ減るので、レベルが低いうちは要注意……とのこと。


「まさかこれ鑑定機能!?」


 ゲットしたばかりのペンダントをタブレットに見せて、これを鑑定するように念じる。念じてダメだったので命令してみる。


「鑑定!……鑑定してくれ……鑑定お願いします。タブレット、これなに? タブレットこれはなに? タブレットこれはなんですか?」


 下手に出てみてもダメだった。

 なんでも鑑定してくれる機能ではなく、魔物やモンスターに出会うと記録する図鑑かもしれない。


 そして俺は気付いた。

 タブレットはリュックに入れるんじゃなく、空中に浮かばせて放置しておくのが正しい使い方なのだと。


「これからも頼むぜ相棒」


 4階はチワーワ地獄。

 出会う敵皆白いチワーワ。俺のメンタルがゴリゴリ削れる音がする。

 でも、ドロップ率はかなり高い。


「ははは! くらえっ」


 スパンっとチワーワの首が飛んで、飛びながら光の粒に変わり、胴体があった場所には小さな飴玉が1つ……違ったスキルオーブだった。


「スキルオーブ! マジか。え、飴玉?」


 じっくり見ても2階で手に入る飴玉とそっくりすぎてわからない。

 魔石とは見た目が完全に違うけど、スキルオーブとダンジョンで手に入る飴玉の区別は俺にはわからない。


「舐めてみるか? いや、でも落ちたしなぁ」


 飴玉だったら消えるだろうし、リュックに放り込んで前に進むことにした。

 できるだけ早くこの階層を抜けないと、俺、マジでヤバい気がする。心が。


「ふっざけんなよ! 行き止まりとか先に言っとけよマジでさぁ!」


 ただの行き止まりに当たり散らし、来た道を戻ろうとしたら、タブレットのマップ画面が偶然目に入った。


「……行き止まりだぜ?」


 マップ上ではこの先に小部屋がある。そして、モンスターとは違う黄色い光の反応。


「隠し部屋? え、ここ宝箱とかある系のダンジョンなの?」


 すさんだ心に一筋の希望。

 ちょっと元気が出てきた。


 壁の石を剣で叩き、異常なさそうなら素手で触って調べてみる。1つ1つ時間はかかるけど、コツコツと地道に。


「おっ!」


 ジェンガで引き抜けるパーツのように、1つだけ動く石を発見した。

 しっかりはめ込まれていて引き抜くのはちょっと難しいので、とりあえず押してみる。


 すると、目の前の壁が消えて、マップ上の小部屋とつながった。


「すげぇ、隠し部屋だ。宝箱もある」


 中に入ってみると、背後にまた石の壁が出現して、俺は小部屋に閉じ込められた。

 でも、マップ上では奥につながる道が新たに書き込まれたので、焦りはない。


 期待して開けたらモンスターで油断して大けが、なんてオチにならないよう、剣を片手に持って注意して宝箱を開ける。


「当たりだ!」


 今使っている長剣とほぼ同じ長さの剣が入っていた。でも見た目的に宝箱産の剣の方が強そうで高そう。

 そして宝箱を開けたことで、この部屋から出る新たな道が現れた。


 新しい剣をリュックに入れるとランドセルからリコーダー出てる小学生状態になったけど、チワーワで傷つきすり減った心が満たされた。


「相棒。俺、もう少し頑張るよ」


 素敵な出会いを演出してくれたタブレットに感謝と今後の意気込みを語り、出口に向かって歩き出す。


 隠し部屋から続く秘密の通路は細い1本道。

 歩いていくと、タブレットの右端に表示されているコンパスが狂い始めた。


「え。こっちのコンパスも階段に影響される仕組み?」


 細い道の出口は階段の真ん前で、広い通路に俺が出たら背後の細道は消えてしまった。


「これでチワーワから解放されるっ」


 階段を上がって、5階で情報を更新。

 石のテーブルがぴかっと光ったあとは、エレベーターで1階ロビーに戻る。


 4階で手に入れたのは、紫石のペンダントと、青い石、鳥の羽、スキルオーブっぽいものと、銀色の装飾が綺麗な長剣。


 ロビーで消えるのが、チワーワからドロップした謎の肉とジャガイモ。あと、スキルオーブが飴玉だった場合は、これも消える。



 時計を見たら、ダンジョンに入ってから脱出するまで6時間もかかっていた。


 道理で疲れているわけだ。


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