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レベルアップ

「俺、レベル5以上になったのか」


 テーブルの上のスライムを次々と素手で倒し、10個の魔石を見つめながらステータスが見たいと念じてみる。すると、タブレットが家の壁をすり抜けて俺の目の前にきた。


「レベル5で体力90魔力50、ね」


 スライムを21匹倒したことで、レベルが2上がっていた。ゴブリンより生命エネルギーは少ないみたいでレベル上げに不向きな魔物だと感じたけど、危険度がかなり低いって考えると今の俺にはありがたい魔物だと思い直す。


 スライムを素手で倒せる強い体とエサを手に入れ、顔が勝手にニヤニヤしてしまう。魔石を持って物置部屋に戻り、そこに6個の魔石をバラバラに仕掛ける。

 寝室の床の真ん中に2個、リビングは寝室側のドアの前に2個。こっちは同じ場所に2個置いて、部屋に残っているスライムをおびき寄せる罠を設置


 エサを置いた罠は、自分の目で探すより効率いいはず。


 チャットを見るとそっちに集中してしまいそうなので、リュックを家の中に持ち込んだ後、タブレットをリュックの中に入れ、背負う。


 物置部屋に魔石を仕掛けて数分。

 魔石を取り込んでそのまま隠れられたらたまらないので、1度様子を見に行ってみる。

 すると、3匹のスライムが魔石を体内に取り入れ、それぞれ目立つ場所でのんびり食事中だった。いや、分裂の最中かもしれないけど。


「よしよし」


 スライムの体から核と魔石を奪い、同じ場所に増えた魔石と一緒に置く。倒したスライムのせいで棚の上とかびちゃびちゃに濡れてるけど、気にしない。


 掃除は俺の仕事じゃないので、どの部屋も自然乾燥に任せる。今のところ無臭だけど、生乾きの時とかは臭そうだ。俺の家じゃないので拭く気にはならないけど。


 寝室に戻って罠を確認してみるけど、ここにはいないみたいだ。まだ気づいていないだけかもしれないので、そのまま放置してリビングの罠を確認。こっちも釣れてない。


 リビングに10匹、寝室に11匹、物置部屋に3匹。

 リビングと寝室、この2部屋のスライムはエサが豊富だったのかもしれない。キッチンに食材らしきものが見当たらないし、全て食われたんだろう。


 再び物置部屋に戻ってみるけど、魔石は9個全てある。4個ずつまとめて、棚の上と床の2か所に罠を設置し直す。余った1個は寝室の罠に追加。


 リビングの椅子を物置部屋のドア前に持ってきて、椅子に座ってスライムが罠にかかるのを静かに待つ。でも放置しすぎるとエサを持ち逃げされてしまうので、暇つぶしにチャットを見ることはできない。


 だいたい5分間隔で各部屋の罠の状態をチェックするのを繰り返していると、この家にお客さんがやって来た。


 これは、俺、対応したらマズイ……かな?


 外から聞こえてきたのは、多分隣の家のおばちゃんの声。 


「お兄さん、まだいるー?」


 モッコさんじゃなく、俺に用があるらしい。


「はーい。ちょっとお待ちください。今開けますからぁ」


 リビングの罠をチェックして、部屋の中を見渡して魔石に反応して出てきたスライムがいないことを確認してから玄関のドアを開けると、訪問客は予想通り隣のおばちゃんだった。


「どうしました?」

「いえね、外のリュックがなくなってたから、もう帰ったのかと思って」


 あまりにも長い時間リュックが外にあるなら通報しようと思い、ひんぱんに外を確認していてくれたらしい。そして、リュックがなくなったので、討伐が終わったのかどうか、確かめに来たようだ。


「一応、目立つスライムは倒しましたが、今は隠れているスライム探しで時間掛かってます」

「若いのに優秀だねぇ」

「いやぁ」


 ぽすぽす肩を叩かれて、すごいすごいと褒められる。


「じゃあ、もう少しここにいるのかい?」

「まあ、もうしばらくは……」


 ここにスライムが何匹いるのかわからないので、いつ帰ればいいのかさっぱりわからない。でもまあ、帰りの乗合馬車がなくなると困るので、それまでには帰りたいと思っているけど。


「そうかい。ねえ、おばさんが作ったお菓子があるんだけど、食べないかい?」

「お菓子?」

「ほら、あの後、隣でお兄さんがスライムと戦ってるって思うと心配じゃない? だからねえ、久しぶりにお菓子をつくってみたのよ」


 あの後、とは、俺たちがおばさんの家の前で別れた時のことだとして、心配してお菓子作り……。まあ、お菓子作りが心を落ち着かせるならそれもありか。


「甘いお菓子は嫌いかしら?」

「……いえ。いただきます。でも俺、ここから離れられませんよ」

「わかってるわよ。こっちに持ってきてあげるから」

「ありがとうございます」

 

 いいんだろうか? 仕事場になっている家主不在の家でお菓子とか食って。

 でも、仕事を理由に断るほど食べたくないってわけでもない。日本にいた頃なら知らない人が家で作った手作りのお菓子なんて食べる気にならないのに、なぜだろう?


「はい、これどうぞ」


 おばさんが家から持ってきたおぼんを受け取る。おばさんが作ったのは蒸しパンっぽいお菓子で、お茶も用意してくれた。


 これ、食べ終わったら器とか返しにいかないと……ちょっと面倒臭いけど、今までしたことなかった田舎のご近所付き合いっぽくて、1回くらいなら別にいいかと思える。


「久しぶりに作ったけど、上手くできたと思うのよ」

「ありがとうございます美味しそうです」

「うふふ」


 おばさんが帰ったので、各部屋の罠をチェックしてからリビングでおやつタイム。


「蒸しパンだな」


 スーパーで売っている昔ながらの蒸しパンに似ている。記憶にあるよりかなり硬くてパサついていて、甘みも足りないけど。


 今までの俺なら、今日会ったばかりのおばさんの手作りなんて絶対に口にしない。なのに今は普通に食べている。現実なのに現実じゃないみたいな、不思議な感覚があるからなのか……。


 この世界に来て、俺は少し変わった。


 知らない人に声をかけるのが苦痛じゃないし、馴れ馴れしいおばさんを嫌だと感じることもない。普通、出会って数時間の若い男にお菓子を手作りして差し入れるおばさんを受け入れられるとすれば、知り合いの知り合いぐらいまでだ。無関係な出会ったばかりの他人にされても、絶対に受け取らないし、逃げる。


 多分、俺の中で、この世界の人はNPCだと考えてる部分があるんだろう。


 NPCが俺に親切なのも、馴れ馴れしいのも、出会ってすぐプレゼントをくれるのも、当たり前のように受け取ってしまう。


「でも現実なんだよなぁ」


 蒸しパンで小腹を満たした俺は夕方になるまでこの家に罠を仕掛け続けたけれど、この家には合計24匹のスライムしかいなかったようだ。




 スライム討伐の報酬、銀貨1枚。

 スライム魔石売却で、銀貨1枚と銅貨15枚。

 今日の収入、銀貨2枚と銅貨15枚。


 支出が、ダンの実技指導で銀貨5枚、宿泊費銀貨1枚、乗合馬車往復で銅貨6枚。

 

 立派な赤字だけど、今日だけでレベル5になり剣術と回避のスキルを覚えた。


 明日はダンジョン攻略を進めるか、ギルドのクエストを受注してレベル上げを続けるか、非常に悩ましいところだ。



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