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ギルドのクエスト

 冷たい目をした受付嬢の説明を聞いてみると、役割的にここはゲームのアーチェスで利用していた冒険者ギルドだった。クエストを受注し、目的を達成したら相応の報酬が貰える場所。


 運営元は領主なので、町の人々の個人的な依頼から騎士団と共に働く大規模な魔物討伐作戦まで、扱っている仕事は幅広い。


 駆け出しの俺は、騎士と共闘するような大事とか、高額な報酬がある高レベル限定の依頼は受けられないけど。


「レベル3で受けられる討伐の依頼を見せてください」


 クエストは壁にベタベタ貼ってある依頼書と、レベルごとにまとめられている依頼ファイルの中から選べるようだ。


 部屋の壁に貼ってあるのは、誰にも選ばれなくって期限ギリギリとか、場所が遠いとか、求められてる仕事内容に対して報酬が低い、とかなにかしらの訳ありクエスト。


 この訳ありクエストは、期限内に冒険者が請け負わなかった場合、管理事務所を通して騎士団の誰かに公務として振り分けられるシステムなので、壁の飾りのようにスルーされてるらしい。


「お待たせしました」

「ありがとうございます。あ、初心者におすすめとかありますか?」

「少々お待ちください」


 依頼ファイル……といっても、ただ依頼書をひとくくりにしただけの簡単なモノだけど、受付嬢は持ってきたファイルを自分で見始めた。


 事務的なのは変化なしだけど、Eランクのカードを出した当初よりは喋りかけやすい雰囲気になったと思う。


 なんとこのギルドの利用説明、本来なら実技指導担当のダンさんが行うものだった。


 俺が「ダンジョンの中でさらっと聞いたし一応ダンさんは俺にここの存在を教えてくれた」とダンさんのフォローを入れると氷の目で見てきたので「実は基本的なルール説明すら危うく聞きそびれる所だったのだ」と、困ったアピールをしたことで俺への不信感は多少和らいだ。


 俺の推理では、この美人受付嬢はダンさんのことが大嫌いだ。


 坊主憎けりゃ袈裟まで憎いって感じで、ダンさんの教え子である俺のこともカードを見た瞬間から嫌いになったようだが、根はいい人なんだろう。多分。真剣に初心者向けのクエスト選んでくれているし。


「レベル上げが目的なら、報酬は少ないですがスライム狩りが良いかと」

「なるほど」


 スライムなら戦い方を教えてもらったばっかりだし、負ける気はしない。


「じゃあ、そのクエストで」

「かしこまりました。他の依頼にも目を通してみますか?」

「んー」

 

 ダンさんの教え子ってことで、まずスタート地点がマイナスな俺。

 ここでせっかく選んでくれたクエストをキープに回して、自分でもう1度選ぶ……なんて真似したら、やっぱりダンの関係者は好きにはなれない、なんて評価になるかもしれない。


「いえ、このままこのクエストを受けます」

「そうですか」

「はい!」


 俺は貴女を信用してますので! と目で訴えてみるが、効果はわからん。


 受付嬢がクエスト受注の手続きを開始すると同時にリュックからタブレットが勝手に飛び出してきたけど、今はそれどころじゃない。まだ話の途中だ。


「基本報酬は少ないですが、スライムは魔石が確実に入手できる魔物です。小さな魔石なので買い取りは1つにつき銅貨5枚となりますが、買い取り個数に制限はございません」

「はい」


 受付嬢を優先した俺の選択は間違ってなかった!

 微笑みを浮かべて俺に魔石売却による追加報酬のアドバイスしてくれたってことは、少しは俺のこと気に入ってくれたって思っていいよね? いいよね?


「行ってきます」

「お気をつけて」

 

 冷たい印象を受けたのは彼女の水色の瞳が目力強い感じだからそう見えるだけの気がしてきたし、仕事ができるオトナな雰囲気!


 あの受付嬢が聖職者なら、俺の聖女ちゃん即決定なのに。


 受付嬢の名前を聞きそびれてしまったけど、逆に今はそれで良かったかもしれない。


 ダンさんがどういう経緯で嫌われたのか不明なので、俺から名前を聞くのはやめた方がいいだろう。

 俺は3時間限定の教え子ってだけで嫌われスタートだったんだから、ダンさんはそれなりの理由があって嫌われているはずだ。


 受付嬢と冒険者、まずはこの関係をゆっくり築いてダンさんとは無関係だと認識してもらわないと、今の状態で何か1つでも失敗したら彼女の中で俺の好感度は地を這うだろう。


 とりあえず、今は女よりも仕事。


 タブレットを確認すると、クエスト受注画面が開いていた。


 自宅でスライムが増殖し、大変なことになっている家があるらしい。


 受付嬢の反応ばかり気にして、肝心のクエスト内容をきちんと確認してなかった。これは反省点だと思う。命がけの魔物討伐なんだし、次からは受注する前にしっかり自分の目で資料を確認しないと。


 ダンジョン近くで馬車に乗り、停車位置からかなり歩いて問題の家へ到着。


「すみませーん。ダンジョン管理事務所のほうから来ましたー」


 俺は管理事務所の職員じゃないけど、冒険者ギルドとか冒険者とかの単語が通じるかわからないし、管理事務所を出発してきたのは本当だから、別に嘘は言ってない。テレビで見た詐欺師の手法。


「すみませーん! モッコさーん」


 家の玄関らしきドアをノックして声を出して呼んでみるけど、中から反応はない。そして俺はここでこれ以上何をどうしたらいいかわからない。


 事前に在宅チェックとか、しとくべきだったのか?

 いや、でも、携帯とか固定電話とかなさそうだし、やっぱり直接お宅訪問しかないよなぁ。


 ダンジョン地区からかなり離れたこの場所に何度も来るのは面倒臭い。

 せっかく来たし、今日でチャチャっと終わらせたいんだが……。

 

 意を決して隣の家に行って聞いてみると、家主はこの時間仕事で工房にいるとのこと。


「ありがとうございました」

「いいのよぉ。お兄さん顔がいいからおばさん若返っちゃった」

「あはは……」


 工房まで隣の家のおばさんが連れて行ってくれた上、家主を呼び出してくれた。俺の事も管理事務所から来たと説明してくれたようで、話はスムーズに進む。


「頼む。部屋中にウヨウヨいて、今じゃもうあの家に住むこともできないんだ」

「マジっすか」

「なんだってぇ!? ちょっと! そんなに危ないのかい!? 冗談じゃない! まったく大の男がスライム相手に何やってんだい!」


 隣の家がスライムハウスになっていると知って、隣人のおばさんはブチ切れた。


 まあ、気持ちはわかる。スライムが家の外壁を食い破って外に出たら、次の標的は間違いなくおばさんの家だ。


 仕事で忙しいモッコさんから家のカギを預かり、おばさんと一緒に戻る。


「大丈夫そうかい?」

「まあ、中を確認して、ダメそうなら1度戻って仲間を連れてきますよ」

「そう? 無理だけはしなさんなよ。スライムは集団になったら厄介だってよく聞くからねぇ」


 やっぱりスライムも集団になると脅威が増すのか……。


 おばさんがいるので顔には出さないようにしつつ、手の中のカギを握りしめる。


 本当に無理そうなら逃げよう。

 ダンジョンでスライムに捕まったのは今朝の話、あの時はダンがいた。助けてくれる仲間がいない時にスライムが両手に絡んだらアウトだ。


「気を付けてね」


 おばさんを家に送り届け、俺は問題の家の周囲を外からじっくり観察する。


「まだどこにも食い破られた形跡はなしっと」


 スライムが肉以外に何を食べるのか俺は知らない。けど、肉を溶かせるなら木とかもイケるんじゃないかと予測。


 とりあえずモッコさん宅にいるスライムたちは、家の中だけで繁殖していると思っていいだろう。


「行くぞ、俺!」


 室内で小回りが利く短剣を抜いて、重くはないけど家の中で動く時に邪魔になりそうなリュックを外し、スライムの討伐準備は万端。


 家のカギを開けてドアノブに手をかけ、ぬぅっと顔を近づけて中をのぞくと、家の中は昼間でも暗い。


 だけど、建築技術の問題で隙間風ならぬ隙間光が家のあちこちから入ってきているので、目が慣れたら十分見える薄暗さだ。


 ハッと気付いて天井を見ると、ドアの真上にはたまたまいなかったけど、天井に近い高い場所にへばりついているスライムが何匹かいた。 


「怖ぇ」


 頭上にはいない。ならば真横はどうか。

 素早くドアの内側なども確認し、出入り口は安全だと判断したので家の中に入る。


 スライムが逃げてしまわないよう、ドアは閉めなければいけない。背後とその頭上の安全をしつこく確認して、ドアを閉め、目が家の薄暗さに慣れるまで周囲を警戒しつつ、無防備な背中をドアにピタリとくっつける。


「しまった。リュックがあれば背中を守れたな」


 背後から飛びかかられ背中に食いつかれた時、スライムがリュックに付けば外して逃げられる。


 どうしよう、1度外に出てリュックを背負ってから挑戦し直すか?


 ただ、1度外に出ると、次は室内に安全に入れるかどうかわからない。もしスライムが俺に気付いてドア前に大量に詰め寄ってきていた場合、下手したら外にスライムが溢れてしまう。


 これがゲームならスライムが逃げても問題ない。

 プレイヤーがノルマ分のスライムを狩ればクリア扱いになり、追加クエストの発生条件でない限りは逃げたスライムたちが悪さをすることはない。


 でもここは現実なので、スライムを外に逃がしたり、数匹倒して残りは放置、なんてやっちゃうとクエスト失敗になるだろう。


「1人でやるなら多少の危険は覚悟しないとな」


 体にスライムが食いついても、すぐ溶かされるわけじゃない。手足の自由さえ確保しておけば、助けを求めることだってできる。


 近くにいたスライムの核を捕まえ、邪魔な部分を短剣で切ると、周囲をビシャビシャに濡らしてスライムは死んだ。


「これが魔石か」


 手のなかに残った魔石は、やっぱりスキルオーブとよく似ていた。でも、ガラスのビー玉に見えたオーブより、魔石の方が少し濁りがある。


 見た目だけならオーブの方が透明で綺麗だ。でも、個人的には魔石の少し色付いた美しさも捨てがたい。


「時間はたっぷりあるし、レベル上げじゃあぁぁぁ!」


 1匹倒してみて、1対1ならスライムは怖がる必要はないと確信した俺は、家中のスライムを時間かけて狩ることにした。


 リュックがないのでゲットした魔石はとりあえずテーブルの上に。


 この家は玄関から入ったキッチン兼リビングと、奥の寝室、物置部屋の3部屋だと聞いている。

 まずは、リビングに隠れているスライムを探しだし、確実に仕留めていく。


「くそ、届かねぇな」


 動かせる棚は遠慮なく移動させた。埃は舞うが、虫の死骸なんかは出てこないので、スライムたちに食われたのかもしれない。


 広さ6畳程のリビングに、スライムが7匹も隠れていた。


 この家の窓はカーテンなんて必要ない木製で、部屋に光を取り込むには窓を開けるしかない。でも窓を開けるとスライムの逃げ道になってしまうので、他の部屋も薄暗いままやるしかないか、と思っていたら。


「ランプみっけ! お借りしまーす」


 家の中のツボは壊さないので、ランプの油を勝手に使うのは許して欲しい。


 思ったより光が弱いランプを持って次の部屋へ。

 家主の許可を得て入った人様の家の寝室で、この世界の一般家庭はキャンピングカーと同じ仕様のトイレだと知り、俺は動揺が隠しきれない。


 ちゃんと四方を壁で囲ってある個室トイレだ。だけど、水洗でもボットンでもない。ならば、考えられるのは、汚物捨てに行くオマルやキャンピングカー、高速バスなんかと同じタイプ。


 短剣を左手に持ち替え、震える手で腰に下げている剣を抜いて、トイレに住んでるスライムたちの核を突いて破壊。


「消臭と完璧なお掃除ありがとうスライム君」


 クローゼットか何かだと思って軽い気持ちで開けた先がトイレだった。スライムが綺麗にしてくれてたので、目と鼻の被害はない。心の動揺もスライムを数えながら倒して落ち着いてきた。


「核2個持ちがいたなぁ……レアか、分裂前かな?」


 スライムの繁殖方法、今度調べておこう。


 その後、寝室にいたスライムは魔石を全て犠牲にして倒した。なんとなく、なんとなくだがこの部屋のスライムは触りたくなかったから。


 最後の物置部屋は隠れる場所が多すぎて、油断して背後から襲われそうで怖かったので、外のリュックを取りに戻る。

 

 外に出るためにリビングに戻ると、テーブルの上にスライムが集まっていた……まだこの部屋に3匹も隠れてたのか。


「魔石狙って出てきた感じ?」


 テーブルの上に置いた魔石を体内に取り込んだ3匹のスライム。食べるためか、分裂するためか。


 スライムの体に手を入れ、魔石と核を両方握る。見た目が同じでどっちが核なのかわからなかったので。


「ん?」


 スライムの体を引き伸ばして短剣で切ろうと思っていたら、そのままプツンとスライムの体から核を握った手がすっぽ抜けた。


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