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チャッ友と聖女ちゃん

 さて、これからどうするか……。

 まだ朝の11時前なので、これから神殿に行ってもいいし、もう1度ダンジョンに入ってドロップアイテムを狙ってもいい。


 少しだけ悩んだ結果、管理事務所を出て宿に向かう。

 疲れたので1度ゆっくり休憩したい。


「すみませーん。連泊のトーヤです。鍵をください」

「おや。朝から頑張ってきたんですね。お疲れ様です」


 Eランクのカードを宿の受付に渡すと、鍵と食堂用の白い札とカードが戻って来た。

 朝もいた受付の人は俺を覚えてたのか、カードを見てにっこり笑う。

 カードに刻まれた印を見て、俺がダンの実技指導を受けたと分かったからだろう。


「どもっす」


 今朝までは客と利用者の完全にドライなビジネス関係だったのに、カードに印が刻まれただけで俺の好感度が一気に上がったみたいな対応で、なんか照れくさい。


 部屋に戻り、テントを設置。

 

 俺しかいない空間だけど、トイレ中の目隠し用のついたてが欲しいなぁと思ったり。あと、テントの中に食材とか入れるなら、衛生面的な関係で食材専用の箱が欲しいなぁとか。


 ぼーっとテントの中を眺めて、そんなことを考える。金がないと何も始まらないから、しばらくは無理だけど。


 テントを出て、ベッドに横になりながらタブレットで未読チャットを確認。


 ロージーとギュードンはホヨテル神殿に到着し、無事にフランス人形に出会えたようだ。それから2人が聖職者の女の子を選ぶ段階で、アルファから1つの提案があった。


 それは、選んだ女の子の名前を書き込まない、という共通ルール。


 ゴブリンにさらわれた村娘のように、同一人物が皆の世界に存在している以上、連れて行く聖職者候補たちは同じ面子の中から選ぶ可能性が高い。


 俺たち全員が同一人物を引き当てることはなくても、人選がかぶることはある。


 もし、恋人関係とかになっちゃったら、確実にテンションが下がる。

 だからチャットでは、神殿で選んだ聖職者の呼び名は「聖女ちゃん」に統一しよう……と。


 男を選ぶ可能性がまったく考えられていない呼び名だけど、まあ、多分俺も女の子選ぶので俺的には問題ない。ロージーとギュードンもそれでいいらしい。グレンも特に文句はないみたいだ。


 領主と面会する予定のアルファは、領主の予定に合わせて昼前に領主の屋敷に移動するらしい。その間、神殿でいろいろ礼儀作法だなんだと付け焼刃の練習が面倒だったようで、アルファはダンジョンに行きたいと現在進行形で嘆いている。


 アルファ、ロージー、ギュードンの3人は神殿で聖職者を選ぶまではだいたい同じ流れだったけど、その後、神殿上層部との会話の中でギュードンが爆弾を投下した。


 フランス人形が下した神託は『神に選ばれし青年の旅を手助けする聖職者を青年に選ばせよ。旅費と生活費は工面するように……』というもので、アルファとロージーは「自分もよくわからないけれど、とりあえず旅にでる」と世界の崩壊の原因を探る使命をぼかしたようだが、ギュードンは神から与えられた使命のことを喋り、自分が異世界から召喚され今の体に転生したと暴露。


 チャット内に表示されるギュードンの職業が『異世界から来た救世主』になっているのを見て、俺たちのステータスに表示される職業は、現地の人から見た俺たちのジョブじゃないかと、アルファの推測が書いてあった。


 明日領主に合う予定が組まれたロージーと違い、ギュードンは今からすぐ領主の屋敷に神殿長と共に行くようで、ギュードンがいる世界の人たち、100年で世界が崩壊するとか聞かされてパニックだろうなぁと、ギュードンの書き込みを読みながら同情心が湧く。


 さて、俺はこれからどうするか……。


 とりあえず、全部暴露したギュードンがどうなるのかを確認してから神殿に行こうと決めたけど、アルファとロージーに対する領主の反応も気になるっちゃ気になる。


 ロージーの結果が出るのが明日の昼過ぎ……。


 ただ待つだけで3パターンの現地人の反応を見られるのはいいけど、俺は俺で、初日に神託から逃げるっていう別ルート開拓しちゃってるんだよなぁ。


「悩ましいな」


 今日行けば、多分ロージーと同じように明日領主の屋敷コースだろう。ギュードンのところの反応次第では考え直すかもしれないけど、俺は異世界だ崩壊だって話を誰かにする気はないし。 

 

 だけど、今から神殿に行くと、アルファの話を聞く前に、明日領主の屋敷に行くことが決定してしまう。

  

「うぅー」


 ベッドでゴロゴロしながらチャットを見ていても、リアルタイムでは誰も書き込んでいないから新たな情報は手に入らない。

 スキルオーブや実技指導の事を書き込み終わっても、誰もチャットに帰ってこない。


 部屋にいてもチャットが気になって仕方がないので、外に出ることにした。

 悩みに悩んで、神殿は今日もパス。

 ごめんね俺の聖女ちゃん、もう少し待っててくれ。


 ダンジョン管理事務所1階の受付に戻って来た俺は、魔物討伐に挑戦したいむねを伝える。すると、2階の奥の受付に行くように案内された。


「2階の奥、2階の奥」


 2階に上がってすぐにある色分けされた講習室のドアを3つ通り過ぎると、ドアに2階受付と書いてある部屋があった。中に入ってみると1階と同じように冒険者がたむろしていたが、1階と違って、ここには丸テーブルとイスが数多く用意されていて、そこに座って本を読んでいる人やおしゃべりしている人など様々。


 ざっと広い部屋を見渡し、スーツっぽい制服を着ている管理事務所側の人がいる方へ向かうと、俺に気付いた女性がカウンターの反対側で俺を待っていてくれた。


「カードの提示をお願いします」

「はい」


 手元に準備していたカードを受付のカウンターに置く。


「本日はどのようなご用件でしょうか?」

「えっと、レベル上げをしたくて、ですね……」


 近づいてみると、受付の女性はかなり美人だった。女優さんのように整った顔をしているけど、その顔に笑顔はなく、事務的な態度を崩さない。


「かしこまりました。ご希望はありますか?」

「あー。すみません、初めてでよくわかってないです」

「……では、一通り説明いたします」

「お願いします」


 ごめんねぇ、手間かけさせて!


 思わず謝りたくなるくらい冷たい目で見られた。でも待って、これって君の仕事だよね? めちゃくちゃ初歩的な仕事内容だよね! 俺、悪くないじゃん!


 気を取り直して、受付の無愛想美人の説明に耳を傾ける。


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