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契約が無事に決まり、プロジェクトの進捗は順風満帆だった。
クライアントからの評価も高く、社内での久保田と蓮のコンビは「優秀な若手と頼れる上司」として誰もが認める存在になっていく。
けれど、仕事が順調であればあるほど、蓮の心はすり減っていた。
オフィスの自席で、蓮はパソコンの画面を見つめながら小さく息を吐く。数日前の取引先での一件以来、久保田に対するモヤモヤは晴れるどころか、日増しに膨れ上がっていた。
(……また、今日もだ)
視線の先では、フロアの端で久保田が他の部署の女性社員と談笑している。
誰に対しても平等に優しく、スマートで、聞き上手。
「榛名、少し良いか?」
ふと声をかけられ、蓮は慌てて顔を上げた。そこには、いつもの穏やかな笑みをたたえた久保田が立っている。
「……はい、何でしょうか」
「次の資料、ここデータの傾向をもう少し分かりやすくまとめ直してもらえるか? 例の如く、君の分析は的確だから期待しているよ」
信頼を込めたその言葉は、上司として当然のものであり、後輩を育てるための温かい配慮だ。
頭では分かっている。分かっているのに、蓮の胸の奥で冷たい黒い感情が疼いた。
(僕だけを見てよ……なんて、言えるわけないのに)
「……分かりました。すぐに修正します」
「無理はするなよ。今夜は少し残業になりそうだが、終わったら……」
「大丈夫です。仕事なんで」
冷たく突っぱねるような蓮の返事と感情が消された表情に、久保田はわずかに目を丸くした。
しかし、すぐに「そうか、頼むよ」と困ったような、どこか寂しげな笑みを浮かべて自分のデスクへと戻ってしまう。
その背中を見送りながら、小さくため息を吐いた。
仕事は順調。けれど、二人の心の距離は、静かに、そして確実にすれ違っていく――。




