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翌朝、ホテルのロビーで待ち合わせた二人は、昨夜の甘い空気を感じさせない引き締まった表情で顔を合わせた。
「おはよう、榛名。昨日はよく眠れたか?」
スーツを着こなし、いつもの仕事モードに戻った久保田が声をかけてくる。言葉遣いは普段の先輩上司としてのものだが、一瞬だけ蓮の唇に視線を走らせた久保田の瞳には、二人だけの秘密を知る者特有の微かな熱が宿っていた。
「は、はい! おかげさまでしっかり休めました。久保田さんも、体調は大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない。――よし、じゃあ行こうか。今日のプレゼン、しっかり頼むぞ」
「はいっ!」
蓮は緊張で背筋を伸ばしながらも、昨夜久保田が自分の気持ちを一番に尊重してくれた安心感が胸の奥にしっかりと残っているのを感じていた。
タクシーに乗り込み、車内で最終の資料確認を行う二人。ビジネスパーソンとしての久保田の手際とアドバイスは的確で、蓮の不安をひとつずつ取り除いていく。
「ここの数値、直前で修正しておいて正解だったな。榛名が気づいてくれて助かった」
「いえ、久保田さんがフォローしてくださったおかげです」
「ふ……まあ、仕事中は頼りになる上司でいさせてくれ」
車内の後部座席で資料を挟んで隣り合う距離。仕事の会話の合間に、久保田の手がそっと蓮の手に触れ、誰にも見えない位置で一瞬だけ指を絡められた。
「っ……!」
蓮が驚いて久保田を見ると、久保田は窓の外を眺めたまま涼しい顔をしている。だが、握られた手からは昨夜と同じ温もりがしっかりと伝わり心地よい勇気が湧いてくるのを感じていた。
「――到着いたしました」
運転手の声で久保田の手がすっと離れ、二人は何事もなかったかのように車を降りた。目の前にそびえ立つ取引先のオフィスビルを見上げ、久保田が蓮の隣に並ぶ。
「行くぞ、榛名」
「はい!」
仕事としての信頼関係と、誰にも言えない秘密の恋心。二つの確かな絆を胸に、蓮は久保田の隣でしっかりと一歩を踏み出した。




