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真っ直ぐに見つめてくる久保田の瞳から逃げられず、蓮はキュッと唇をかみ締めた。
頭の中はパニックで、顔は火が出そうなほど熱い。けれど、このまま「部屋に戻る」と言って逃げてしまえば、久保田のこの温かい手も、自分に向けられた熱い眼差しも遠のいてしまう。
(嫌なわけない……。久保田さんのこと、好きなんだから……)
胸の奥で溢れそうな想いを必死に言葉にしようとする。
キスされたときの、胸がキュッとなるような甘い痺れは忘れられない。もう一度、あの温かい唇に触れたいと自分でも思っている。
でも――明るくなった部屋で、久保田の大きな体に抱きすくめられていると、どうしても「その先」のことが頭をよぎり、背中に心地よい緊張と恐怖が走った。
「あの……僕、久保田さんのこと……す、好きです……っ」
消え入るような声だったが、蓮は久保田のシャツの裾をギュッと握りしめ、覚悟を決めて言葉を紡いだ。
「だから……キス、されるのは……すごく嬉しいです。でも……っ、その……その先は……まだ、心の準備が……」
最後まで言い切ると、あまりの恥ずかしさに耐えきれず、蓮はそのまま久保田の胸元に額を押し付けて縮こまった。
耳まで真っ赤にして本音を打ち明けてくれた蓮の言葉に、久保田は一瞬だけ目を見開いた。
そして次の瞬間、胸の奥から込み上げる愛おしさに耐えかねたように、ふっと柔らかく目を細める。
「……そっか」
ポン、と優しく蓮の後頭部に手を添え、久保田はゆっくりと身体を引き寄せた。
「わかった。うん」
耳元で囁かれた低く優しい声に蓮が体を強張らせる隙も与えず、久保田は顎をそっと持ち上げると、蓮の求めるままに、優しく甘いキスを重ねたのだった。
優しく甘いキスをひとしきり堪能した後、久保田は満足そうに蓮の唇から離れた。
「……ん、っ……」
離れ際の名残惜しげな音に蓮が頬を染めていると、久保田がふと壁の時計に目をやった。
「もうこんな時間か。……榛名、明日朝早いんじゃなかったか?」
その言葉にハッと息をのんだ蓮は、急いで自分のスマートフォンの画面を点灯させた。液晶に表示された時刻を見て、思わず目が丸くなる。
「っ……! ほんとだ、もうこんな時間……! 明日の朝、早いのにすっかり忘れてました……!」
焦って乱れた服のシワを伸ばそうとする蓮の慌てぶりに、久保田は可笑しそうに口元をほころばせた。さきほどまでの色っぽい雰囲気はすっかり影を潜め、蓮を優しく見守る大人の顔に戻っている。
「ほら、無理させないって言ったろ。今日はもう自分の部屋に戻って、しっかり寝ろ」
久保田は蓮の頬をもう一度撫でると、部屋の鍵を開けてドアを少しだけ開けた。廊下に人影がないのを確認してから、蓮を外へと促す。
「久保田さん……あの、今日……ありがとうございました」
名残惜しさと恥ずかしさが混ざった表情で蓮が深々と頭を下げると、久保田は目を細めて短く笑った。
「お休み、蓮。……また明日な。」
「はい! おやすみなさい」
そっと扉が閉まり、自分の部屋への廊下を歩きながら、蓮は火照った頬を両手で包み込んだ。
「その先」に進むのは焦らずでいいと言ってくれた安心感と、唇に残る久保田の温もり。胸いっぱいの幸福感に包まれながら、蓮は明日の朝に備えて自分の部屋へと戻っていった。




