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久保田の温かい唇が重ねられ、熱い吐息が交じり合ったその瞬間――パッと眩しい光が室内に戻り、同時に部屋のドアが激しくノックされた。
「お客様! 停電が復旧いたしました。お怪我や不具合などはございませんでしょうか!?」
部屋を包んでいた濃密な暗闇が一瞬で吹き飛び、無機質な照明の光が二人の姿をあからさまに照らし出す。あまりのタイミングの悪さに、蓮は心臓が口から飛び出そうになり、弾かれたように久保田の胸を押し開けて跳び退いた。
「っ……! く、久保田さん……!」
顔を真っ赤にしてパニックになる蓮に対し、久保田は深く息を吐き、わずかに眉をひそめた。せっかくの甘い時間を完璧に邪魔された男の、隠しきれない苦々しい顔がある。
久保田はゆっくりと立ち上がると、乱れた髪を指先で軽く整え、何事もなかったかのように冷静な声でドアを開け応えた。
「――問題ない。心配ありがとう」
「左様でございますか! 大変ご不便をおかけいたしました。何かございましたらフロントまでお申し付けください」
足音が遠ざかり、再び静まり返る室内に、白日のもとに晒された気まずい空気が流れる。蓮はあまりの恥ずかしさに俯いたまま、耳まで真っ赤にして身を縮めていた。
すると、久保田が静かな足取りで歩み寄ってきた。
「……たく、邪魔が入ったな」
低く呆れたような声とともに、久保田の手が再び蓮の腰を引き寄せ、逃げ場をなくすように密着させる。
「く、久保田さん、電気つきましたし、部屋に戻った方が……」
焦る蓮の言葉を遮るように、久保田の親指が蓮の熱を持った唇をそっとなぞった。その瞳には、先ほどよりも一層深い熱が宿っている。
「明かりがついたから何だ? カギはちゃんとかかっている」
「っ……」
「俺はまだ、途中だったんだが」
「っ……あ……」
逃さないと言わんばかりの強い力で抱き寄せられた腰から伝わる熱さと、白日のもとに晒されている恥ずかしさで、蓮の息が激しく乱れる。
久保田の胸元を押し返そうとする指先は小さく震えており、固く閉じられた瞳からは、明らかな戸惑いとキャパシティオーバーのサインが漏れ出ていた。
暗闇の中なら勢いに任せられたかもしれない。だが、視界が鮮明になった今、蓮にとってはこの状況を受け止めるにはあまりにも刺激が強すぎたのだ。
その拒絶とは違う、切羽詰まった震えに触れ、久保田の身体からふっと力が抜けた。
「……あー、わるい。焦りすぎた」
久保田は深くため息を吐くと、回していた腕をゆっくりと解き、少しだけ距離を取った。
腕の中の熱が離れ、蓮がおずおずと視線を上げると、そこには先ほどまでの強引な熱を消し去り、申し訳なさそうに苦笑いを浮かべる久保田の姿があった。
「電気もついたし、急にこんな明るいところで迫られたら……驚くよな。榛名の気持ちを置き去りにしてた。ごめん」
そう言って久保田は、蓮の手握った。
素直な謝罪といつもの穏やかな声に、蓮のピンと張り詰めていた緊張の糸がほろりと解けていく。
「い、いえ…あの…ドキドキして…」
赤くなった顔を隠すように俯きながら、小さく呟く蓮。
そんな蓮の反応に、久保田は困ったような、けれど愛おしさを隠しきれない眼差しを向けた。
「……たく、そんな顔されたら、余計に引き下がれなくなるんだが」
低く漏らした言葉とは裏腹に、蓮の赤くなった頬を包み込む。指先から伝わる体温に、蓮は思わず肩を跳ねさせた。
久保田は視線を蓮の瞳と同じ高さまで落とすと、真っ直ぐにじっと見つめてくる。そこには先ほどのような強引な熱はなく、蓮の意思を尊重しようとする深い慈しみが宿っていた。
「……蓮。ちゃんと顔、見せてくれ」
言われておずおずと顔を上げると、至近距離で久保田と目が合った。心臓が跳ね上がるのを止められない。
「驚かせて悪かった。……でも、俺の気持ちはさっきと変わってない」
久保田の親指が、蓮の頬を優しく撫でる。
「嫌なら今すぐ部屋に返すし、ここでやめる。……けど、本当はどうしたい? 蓮の口から聞かせてほしい」
逃げ道を作りつつも、決して自分への好意をごまかさせない、どこかズルい問いかけ。
試すような、けれどどこか真摯な久保田の瞳に見つめられ、蓮は再び言葉を詰まらせながらも、自分の本当の気持ちと向き合わざるを得なくなった。




