第四話 幼馴染
アウリス・フェリントン侯爵令息は22歳。銀髪に赤紫寄りのアメジスト色の瞳をしている。父である宰相に似て整った顔をしていて、宰相に似て頭脳のほうも明晰である。そんなアウリスには秘密があった。先祖返りにより狼男となってしまう癖があるのだ。
フェリントン侯爵家には獣人の血が流れていて、頭脳明晰かつ体が丈夫だということは有名だったが、バッチリ獣化できるとなると話は変わる。先祖返りのことは秘密だ。絶対に秘密だ。
「でもわたしは知っているのよね。アウリスが狼男に変身してしまうことを」
「もう。よりによって君に知られるなんて。僕は運が悪い」
「ちょっとぉ~、失礼ねっ」
頭を抱えるアウリスにわたしが突っ込みを入れると、彼はヘヘヘッと笑って誤魔化した。
「秘密を知っているのがわたしで運がよかったのよ。貴方は女の子に弱いから」
「だって女の子には優しくしないと」
「貴方のは気弱の類よ。優しさとは違うわ。宰相の息子であり、フェリントン侯爵を継ぐ貴方が隙だらけなのは危ないんだから」
「ん~。女性に弱いからって、危なくはないだろう? いざとなれば僕は強いんだし」
アウリスは細い両腕を上げると肘で曲げて力こぶを作って見せた。
「へなちょこアウリスが生意気よ」
わたしはアウリスの服の襟を持つと軽く投げ飛ばした。上手に受け身をとったアウリスは、軽くうめき声をあげる。
「イブリン。乱暴~」
「貴方が隙だらけなだけよ~。いくら強くても付け込まれてたらダメでしょ? ましてや女性につけ込まれたら、どんな危険があるか分からないじゃない」
「例えば?」
「まぁアウリスはわたしと結婚したから、もう妻の座を狙われることはないけど。愛人になるとか、子どもを押し付けられるとかは普通にあるし。体の関係を持ったと言いがかりをつけられて、国の重要機密を引き出されるとかは普通に考えられるでしょ?」
「はぁ~。イブリンは探偵小説や冒険小説の読みすぎだよ」
「何よ。先祖返りで満月を見ると狼男へ変身しちゃう人に言われたくないわ」
わたしはわざとらしくツーンとした態度でアウリスから顔を背けた。
アウリスには危機感がほぼない。完璧ではないものの獣化できるアウリスは、いざとなれば強い。それに怪我をしたところですぐに治る。だが良い家の令息というものは、狙われるものである。特に女性からは様々な要因により狙われるものだ。しかも銀髪でアメジスト色の瞳を持つアウリスは、見た目が無駄によい。ゆえに無駄にモテる。本人の性格がゆるゆるなのでモテる自覚は皆無だが、腹立つことにモテる。
そんなアウリスのことを、わたしが憎からず思っていることは、周囲にはバレバレだ。知らないのは本人くらいなものである。そのくらいアウリスの性格は緩く隙だらけなのだ。皆が心配するのは当然だ。
「でも僕が狼男になってもイブリンなら安心だね。僕なんて一発でのされるもの」
「確かに!」
わたしにも秘密はある。わたしの一族には怪力というスキル持ちが時々生まれるのだ。そしてわたしは、その時々生まれるスキル持ちである。
「万が一のときには、一発腹に入れて僕を止めて」
「はーい」
いいのか、それで? と思わないでもなかったが、呑気に言われるといい感じの返事をしてしまうのがわたしの悪い癖である。
結局その夜は宿の美味しい食事を食べて、大きなお風呂につかり、廊下だけは繋がっているコネクティングルームの別々のベッドルームで、子どものように眠ったのだった。




