第五話 いざライデー辺境伯領へ
「昨日は獣化しなかったわね」
「ああ。イブリンに腹へ一発入れられることもなくグッスリ眠れてスッキリした」
わたしとアウリスが馬車のなかでくだらない世間話をしている間に、馬車はライデー辺境伯領へ到着した。
窓の外には辺境伯領独特の開放的な景色がある。辺境の地へ来る者の目的。それは冒険だ。交易の要所ではあるものの、ライデー辺境伯領は切り立った山脈と魔物が闊歩する森を抱えているせいで、陽気で愛想のよい商人の姿は少ない。冒険者のような荒くれ者と、観光気分でやってくる金持ち、来客から金をせしめようという地元の住民たちの熱気で満ちている。わたしはワクワクした気持ちで馬車を降りた。
「馬車は宿のほうへ回しておきますので」
「ええ。よろしくね」
すべてを心得た御者が、馬車を器用に操って走っていくのを見送りながら、わたしはアウリスにこれからの計画について話した。
「ねーねー。この後はどうする? ドラゴンに乗っちゃう?」
この世界でドラゴンは馬の次によく使われる生き物だ。王都でも珍しくはないが、空が混み合うのを避けるために竜騎士団優先で、個人で利用できるのはゴンドラドラゴンがせいぜいだ。辺境の地では道が整備されていないので馬代わりにドラゴンへ乗るとは聞いていたが、様々な種類のドラゴンが客待ちをしているところを見て、わたしは興奮した。だがアウリスは違うようだ。気乗りしない様子でアウリスは言う。
「んー。ここは、先に宿屋へ行って情報収集するべきじゃないか?」
「もう、アウリスは真面目ね。新婚旅行で辺境伯領へ来て、いきなり宿屋へ行く新婚夫婦なんていないわよ」
「えっ⁉ そうなの⁉」
もちろん、わたしがテキトーに作った話である。普通の新婚旅行がどんなものなのか、わたしは知らない。なんといっても初めての結婚なのだ。テキトーでも仕方ない。わたしは誤魔化すように深呼吸した。
「ああ。冒険の香りがするわぁ~」
「え~。ホコリとドラゴンの糞の匂いじゃない?」
「アウリスったら辛辣~」
辺境の地には、王都からやってくる上品な人々が金を出したくなるようなアトラクションが用意されていた。切り立った山脈や魔の森を眺めて空の旅ができるドラゴンのゴンドラや、個人で乗っていくことが出来る鞍を括りつけた小型ドラゴン。馬はもちろんロバもいる。ロバは可愛らしい織物や花で飾られていて、子どもたちやご婦人の人気を集めていた。
「ああ、ドラゴンに乗って上空を散歩したいっ」
「まずは情報収集しようよ。ロバにしときなよ、ロバに」
「もう、アウリスったらっ。いつまでもわたしのことを子ども扱いしてっ」
「子どもだろう~?」
呆れてひとりでズンズン先に行ってしまったアウリスの後を、わたしは慌てて追いかけた。




