第三話 ライデー辺境伯領へ
結婚式は無事終わり、わたしとアウリスは馬車に揺られていた。新婚旅行先であるライデー辺境伯領へ向かうためだ。色々な手配は父がしてくれた。興に乗った父はノリノリで用意してくれたのだ。とはいえ四頭立ての馬車はやり過ぎで恥ずかしい。わが父ながら悪い人である。
正面に座るアウリスが不安げに口を開いた。
「イブリン。君の父君は僕たちの結婚が白い結婚だと知っているよね?」
「当たり前でしょ、アウリス。あの長ぁ~い契約書にサインをしたのはお父さまなのよ。知らないわけないじゃない」
「だったらなんでこんな豪華な……」
「あーコレはアレよ。国王陛下直々のお願いだったでしょ? それでお父さまったら嬉しくなっちゃったみたいでね」
「ああ。そっち?」
正面に座ったアウリスはコクコクとうなずいた。
アウリスの疑問も当然なのだ。馬車は四頭立てというだけでなく、内装まで豪華だ。フッカフカのクッションを使った座席はお尻にとっても優しい。馬車の窓も大きくて、外の景色がよく見える。
「うちの父、アウリスも知っているでしょ? なまじお金はあるから、おもしろくなっちゃうと予算のかけ方が半端ないのよ」
「そうかぁ。まぁ僕は得したからいいけど」
アウリスが両手でパフパフと座席のクッションを確認している。そして満足そうな笑みを浮かべた。気に入ったのなら何よりである。
結婚式が終わったわたしたちは、着替えもそこそこにさっそく馬車へと押し込まれた。王命の偽装結婚みたいなものだが、凝り性の父はその気になるとお金はもちろん手間も惜しまない。それはそれで結構なことだが、主役をやらされた立場からすると疲れた。わたしが馬車に酔いやすいのもあり、アウリスが前の席、御者の後ろ側にあたる席へと座り、わたしは進行方向を向いて座っている。それでもウエディングドレスを着ていたせいでわたしは疲れてしまったので、ちょっとぐったりしていた。
「大げさな馬車は恥ずかしいけど、疲れている時には楽よね。もっとも、お父さまがあんな豪華なウエディングドレスを用意しなければ、ここまで疲れる必要はなかったのだけど」
「うんうん。凄かったね。ウエディングドレス。レースはもちろんドレープも凄くて」
「ええ。重かった~」
豪華なウエディングというのは見ごたえもあるし、美しいので着られて嬉しいという気持ちはあったものの、とにかく重いのだ。アウリスは笑いながら、わたしの労をねぎらった。
「はは。お疲れさま」
「本当に疲れたわよ」
精神的に疲れたのはもちろん、物理的にもくるものがある。わたしは溜息を吐いた。アウリスが首を傾げて言う。
「それにしても……急なことだったし、王命の偽装結婚みたいなものなのに、よくあんな豪華なドレスを用意できたね」
「まぁ……お父さまのことだから。お金の力でどうにかしたんでしょ」
我が家はお金だけはある。伯爵家なので地位はそこそこでしかないが、財力はあるので、見せ場があると必要以上に張り切ってしまうところがあるのだ。
「まぁこれだけ豪華な結婚式に、見栄えのよい馬車でライデー辺境伯領へ行くのだから目立つよね。お金持ち狙いの誘拐なら僕たちの餌としての役割はバッチリだ」
「そうね」
辺境伯領は国境あたりにあるのが相場だが、ライデー辺境伯領は王国の端にあり、その向こうにあるのは険しい山脈や魔物が住むと言われる森だ。
「でもさすがに今日はたどり着けないわね」
「ああ。ライデー辺境伯領までは王都から割と近いけど、馬車だと到着は明日の夜かな」
「まぁ新婚旅行に馬で行くわけにもいかないし」
「ドラゴンならすぐだけどな」
この世界にはドラゴンがいる。騎乗できる小型のドラゴンもいれば、大きなゴンドラを運んで飛ぶドラゴンもいるため、旅行の際には利用する者も多い。
「ドラゴンのゴンドラで行くのもいいけど、あっという間に過ぎて目立たないからダメね。お父さま好みではないわ」
「ははは。確かに。ドラゴンのゴンドラは、どちらかといえばお忍び旅向きだものね」
和やかに進んだ馬車の旅も、今日のお宿についたので中断することとなった。
「えっと……同じ部屋?」
アウリスは部屋に入るなり戸惑っている。新婚なんだから同じ部屋なのは当たり前だとわたしは思うのだが、彼は違ったようだ。
「同じ部屋と言っても、コネクティングルームだからベッドルームは別々よ? 何の不都合もないじゃない」
「いやでも……」
アウリスは頬を赤く染めてボソボソ言っている。契約上とはいえ夫婦なのだからコネクティングルームくらい受け入れて欲しいものだとわたしは思った。
「広いほうの部屋を使っていいわよ。わたしは出入口に近いほうの部屋を使うから」
「えーでも……」
「いいじゃないの。今夜は満月よ? あなた、大人しくベッドにいられる?」
「うっ」
アウリスは言葉に詰まった。幼馴染でもあるアウリスには秘密がある。彼は狼男に変身して癖があるのだ。




