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形勢逆転



外では――


あの黒い塊が、何かを吸い込むのをやめていた。


……


カチ……


……


キューブの回転が、完全に止まった。


そして、その面が……


まるで裏返るかのように――


ゆっくりと動き始めた。


さらに……


もっと……


……


激しく揺れる。


パーツ同士が、強く擦れ合う。


……


ギギギギギ……


……


内部から、奇妙な音が響き始めた。


……


やがて――


黒い点へ吸い込まれていた石までもが……


ゆっくりと溶け始めた。


……


そして――


光が生まれた。


淡い光。


小さなキューブの隙間から、ゆっくりと漏れ出している。


……


その瞬間。


俺の奥底で――


何かが動いた。


少しずつ……


その感覚が、はっきりしていく。


……


通知:


〈『発現』のプロセスが開始されました。〉


〈対象・フィンは、最大限の集中を維持してください。〉


〈エネルギーの拡散に伴い、対象・フィンには今後の事象が遅く感じられる可能性があります。〉


……


「どういう意味だ?」


……


「なんか……」


「最初から言っておくべきだった重要なことを、今さら言われた気がするんだけど……」


……


「なんで今なんだよ!」


「俺がまさにやってる最中に!」


……


「このポンコツが……」


……


通知:


〈『暴食』の構成要素をさらに詳細に分析した結果……〉


〈対象・フィンにおける時間の経過速度が低下していると考えられます。〉


……


「時間の流れが遅い?」


……


「どれくらい?」


……


通知:


〈ほぼ停止している可能性があります。〉


……


「じゃあ……」


……


通知:


〈対象・フィンとは異なり、外部に存在する者たちにとって、時間は通常通り経過しています。〉


〈エネルギーが拡散するほど……〉


〈時間の知覚における差は大きくなります。〉


……


「ここまで説明されても……」


「まだ完全には理解できないんだけど。」


……


通知:


〈対象・フィンが集中を維持できず、『発現』の処理が遅れた場合……〉


〈エネルギーは、他者が制御できる速度を超えて都市全体へ拡散する可能性があります。〉


〈その場合……〉


〈彼らは何が起きているのか理解する前に、身体が耐えられなくなる可能性があります。〉


……


「なるほど……」


……


「なるほどな……」


……


「面白いな……」


……


「もちろん、全然面白くないけど。」


……


「これ、普通のことじゃないだろ。」


……


「おい、ポンコツ……」


「なんで全部始まってから教えるんだよ!?」


……


通知:


〈『暴食』の構成要素を分析する前には、この情報を取得できませんでした。〉


〈新たな情報は、分析の継続によって順次取得されます。〉


……


「というわけで、視聴者の皆さん。」


「俺たちは今、あと少しで大災害を引き起こすところまで来ています。」


……


「そう。」


「災害だ。」


……


「でも……」


「これで俺は悪い奴になるのか?」


……


「別に、そんなつもりはなかったのに。」


……


「これは興味深い問いだ。」


「答えを探す価値がある。」


……


「でも、答えは簡単だ。」


……


「ただ、それを言うことは禁止されているから……」


「みんなで考えてみてくれ。」


……


「そして今は……」


「集中する時間だ。」


……


「集中しろ。」


「集中しろ。」


「集中しろ。」


「集中しろ。」


「集中しろ。」


「集中しろ。」


「集中しろ……」


……


「集中しろ。」


「集中しろ。」


「集中しろ。」


……


「集中しろ!」


……


「くそ……」


「集中しろ、俺。」


「そうじゃないと、下手したら都市規模の殺人犯になっちまう。」


……


黒い点の中心から、淡い光が漏れ始めた。


……


光。


……


中心を突き破り……


外へ出ようとしている。


……


「頼む……」


「集中しろ、フィン。」


……


「集中……」


「集中……」


……


全身の筋肉を締め上げるように――


俺は必死に集中した。


……


身体の内側へ、熱が広がっていく。


そして――


何かが変わり始めた。


……


淡かった光が……


強くなる。


……


そして、黒い中心が……


内側からひび割れ始めた。


……


「来い……」


……


「来い……」


……


「開け。」


……


ドクン。


……


脈動を感じた。


……


前よりも強い。


……


それが身体の中で、大きく鳴り響いた。


同時に――


自分という存在そのものが、揺さぶられたような感覚がした。


……


「何だ……?」


……


次の瞬間――


すべてが消えた。


……


目を開く。


……


そこには、白い通路があった。


どこまでも……


果てが見えない。


……


足元から……


奇妙な音が聞こえてくる。


波。


強い波が、どこか遠くで砕けているような音。


……


ドォォン……


ドォォン……


……


「ここ……どこだ?」


……


ゆっくりと顔を上げる。


……


柱。


数十……


いや、数百本。


至るところに立ち並んでいる。


白い。


長い。


あまりにも密集していて、その先端すらほとんど見えない。


……


だが――


それ以上に奇妙だったのは……


扉だった。


……


黒い扉。


一つ。


また一つ。


柱の間から、次々と姿を現している。


……


「なんだ……ここ?」


……


怖い。


今回は……


本物の恐怖だった。


……


「何が起きてるんだ?」


……


柱が動き始めた。


ゆっくりと。


……


そして――


次第に速くなる。


……


通路全体が揺れた。


黒い扉が震える。


……


そのうちの一つが……


開こうとした。


……


カチ……


……


だが、開かない。


……


カチ……


カチ……


カチ……


……


あちこちから音が響き始める。


意味の分からない音。


叫び声なのか?


波なのか?


それとも……


別の何かなのか?


……


「やめろ……」


……


「何が起きてるんだ!?」


……


そして――


轟音!!


……


俺は突然、目を開いた。


……


息を呑む。


ハッ……


ハッ……


ハッ……


……


「何……?」


……


外に戻っていた。


……


周囲を素早く見回す。


サムラくんが目の前にいる。


建物。


砂埃。


兵士たち。


オーリン。


……


すべてが元の場所にある。


……


だが……


……


「待て。」


……


「なんだ……これ?」


……


動いている感覚がない。


……


いや……


動いている。


だが――


遅い。


恐ろしいほどに。


……


目の前に、石の欠片が落ちてきた。


……


だが、落ちていない。


……


ゆっくりと……


宙を移動している。


……


空中に浮かぶ砂埃も……


目の前で、ゆっくりと広がっている。


……


オーリンも……


動いている。


だが、その動きはまるで……


スローモーションの夢の中にいるようだった。


……


兵士たちも。


すべてが。


……


「一体、何が起きてるんだ……?」


……


俺は上を見た。


……


キューブ。


……


カチ。


……


上へ回る。


……


カチ。


……


下へ。


……


カチ。


……


後ろへ。


……


カチ。


……


横へ。


……


そして――


止まった。


……


完全に。


……


「……」


……


何も起きない。


……


一秒。


……


二秒。


……


時間が動いているのかどうかすら、分からなくなってきた。


……


そして――


バキッ……


……


最初の亀裂が入った。


……


キューブの表面に。


……


そして、もう一つ。


……


やがて、キューブの面が……


分離し始めた。


……


一つ。


……


また一つ。


……


さらに一つ。


……


パーツが空中で互いに離れていく。


だが、遠くまでは離れない。


……


何かが……


まだそれらを中心へ引っ張っている。


……


あの黒い点へ。


……


「これが……」


……


「『暴食』なのか?」


通知:


〈はい。〉


〈キューブが『発現』状態へ移行し始めました。〉


……


散らばったパーツに、太陽の光が反射する。


……


だが、跳ね返るはずの光は……


逆に、それらへ吸い込まれているように見えた。


……


一本。


……


そして、もう一本。


……


さらに、もう一本。


……


光の糸がパーツの内部へ集まり始める。


そして、ゆっくりと……


黒い中心へ移動していく。


……


「こいつ……何をしてるんだ?」


……


黒さが、さらに濃くなる。


……


そして――


止まった。


……


すべてが止まった。


……


光も。


……


砂埃も。


……


俺の呼吸さえも。


……


「……」


……


何をすればいいのか、分からなかった。


……


そして、最初の音がした。


……


ピシッ……


……


黒い核の中に、細い白い亀裂が現れた。


……


そこから光が漏れたわけではない。


……


まるで――


闇そのものが……


開いたようだった。


……


ピシッ……


……


亀裂が広がる。


……


そして、もう一つ。


……


さらに、もう一つ。


……


核が縮み始める。


……


もっと。


……


さらに。


……


縮むほど……


亀裂が広がっていく。


……


「いや……」


……


「これは爆発じゃない。」


……


「これは……」


……


「反転だ。」


……


そして突然――


ドォォォォォォン!!


……


核が弾けた。


……


炎ではない。


……


煙でもない。


……


白だった。


……


巨大な白い光が、その中心から噴き出した。


……


ヴォォォォォォッ!!


……


散らばったパーツの間を突き抜ける。


パーツが激しく震える。


……


そして――


その隙間から光が溢れ出した。


……


ヴォォォォォォッ!!


……


白い光の糸が、あらゆる方向へ走る。


……


あまりにも眩しくて……


俺は目を開けていられなかった。


……


すべてを飲み込んでいた黒い点が……


消え始める。


……


少しずつ。


……


少しずつ。


……


やがて残ったのは……


小さな一点だけ。


……


そして、それすら消えた。


……


その場所を……


白が埋め尽くした。


……


その瞬間――


何かが俺の身体を通り抜けた。


……


熱。


……


そして、圧力。


……


そして――


静寂。


……


何も見えなくなった。


……


だが、俺には分かっていた。


……


「成功した……?」


……


「『発現』……」


……


そして――


周囲のすべてが、再び動き始めた。


……


実際……


あの光は、ただ地平線に反射しているだけの光ではなかった。


もっと深い何かがある。


何かが動いている。


何かが、俺が何かをするのを待っている。


……


通知:


〈対象・フィンは、直ちに集中してください。〉


〈発現したエネルギーと、それを送りたい対象を繋ぐ「トンネル」として、自分自身を想像してください。〉


……


「くそ。」


「一回くらい……」


「立ち止まって、これを見て感動する時間をくれてもいいだろ。」


……


「行け、フィン。」


「集中しろ。」


……


だが……


『発現』そのものを想像するよりは、簡単な気がした。


……


「二つのものを繋ぐ門みたいなものなら……」


……


俺はサムラくんの背中へ手を伸ばした。


深く息を吸う。


……


――ふぅ……


……


通知:


〈エネルギーが反応を開始しました。〉


……


突然――


エネルギーが一気に膨れ上がった。


凄まじい速度で空へ駆け上がる。


建物も道路も突き抜けていく。


だが、何にも触れない。


まるで……


そもそも物質世界に属していないかのように。


……


そして、集まり始めた。


……


すべてのエネルギー。


すべての光。


一つの場所へ向かう。


……


俺へ。


……


次の瞬間――


背後から、俺の身体へ流れ込んできた。


……


ドォォォォン!!


……


全身が震えた。


強烈な衝撃。


温かい何か。


巨大な何かが、一気に身体を駆け抜ける。


……


血管。


神経。


すべてが限界まで引き伸ばされているようだった。


……


「ぐぁっ……」


……


奇妙なことに……


痛みはなかった。


……


それが良いことなのかは分からない。


だが……


考えている暇はなかった。


……


「このエネルギーをサムラくんへ送るなら……」


「特定の場所まで届かせる必要がある。」


……


「魔力核。」


……


「俺、マジでとんでもないことしてるな……」


「たった一人に魔力を戻すためだけに。」


……


「全部、こいつにこの戦いで役割を果たしてもらうためだ。」


……


「別に、こいつの勇敢さに感心したとか、そういうんじゃない。」


「……うん。」


……


「ただ、こいつは戦いが始まってからずっと、何の恐怖もなく隠れてただけだ。」


……


「というか……」


「俺だって隠れたい。」


……


さらに集中する。


……


「魔力核……」


「前にあのダンジョンのゴリラで見たものと同じなのか?」


……


通知:


〈対象・サムラリスの魔力核を特定しました。〉


……


目の前に何かが現れた。


淡い塊。


それを鎖が取り囲んでいる。


……


「……」


……


「なんで鎖なんて付いてるんだよ?」


……


「全員こうなのか?」


……


「それに……」


「なんで俺には、こんなものがあるように感じないんだ?」


……


通知:


〈対象・フィンの身体を分析した結果……〉


〈ルービックキューブが対象・フィンにおける魔力核の役割を果たしていると考えられます。〉


……


「どういう意味だ?」


……


通知:


〈現在取得可能な情報は以上です。〉


……


「分かった。」


「少なくとも一つは理解した。」


……


「こういうことが増えるほど……」


「俺の精神を守る一番いい方法は……」


「自分を案内役だと思い込んでる、この錆びた塊を無視することだ。」


……


「悪いけど……」


「今は声を聞きたくない。」


……


さらに集中する。


……


エネルギーが俺からサムラくんの魔力核へ流れていく。


……


少しずつ……


核の色が変化し始めた。


……


淡い色から……


純白へ。


……


「ふーん……」


……


「これは違うな。」


……


「あのゴリラで見た核は、こんな色じゃなかった。」


……


「なんでだ?」


……


分からない。


……


だが、しばらくすると――


通知:


〈警告。〉


〈魔力核が最大容量に近づいています。〉


〈これ以上のエネルギーを注入することはできません。〉


……


「は?」


……


「じゃあ、どうやってこのトンネルを終わらせるんだ?」


……


「こいつが爆発する前に?」


……


通知:


〈解決策を検索中……〉


〈検索中……〉


〈検索中……〉


……


「おい、ポンコツ……」


「まさか、今になって検索してるんじゃないだろうな。」


……


通知:


〈解決策の発見に失敗しました。〉


……


「……」


……


――はぁ!?


――「解決策の発見に失敗しました」って、どういう意味だよ!?


……


「止められないのか?」


通知:


〈エネルギーの流入が開始された後、処理を停止することはできません。〉


〈残りのエネルギーを完全に放出する必要があります。〉


……


「おい……」


「おいおいおい……」


……


「じゃあ、俺はどうすればいいんだよ!?」


……


通知:


〈利用可能な回答はありません。〉


……


「この役立たずの錆びた塊が!」


「こいつが爆発する前に、何とかしろ!」


……


突然――


あの声が聞こえた。


……


――し……


――ょ……


――し……


――れ……


――しゃ……


……


「は?」


……


「どうした?」


……


「なんで声が途切れてるんだ?」


……


そして――


静寂。


……


「おい。」


……


「おいおい。」


……


「どこ行った?」


……


「今、黙るな!」


……


返事はなかった。


……


そして同時に――


何かが変化した。


……


サムラくんの魔力核を取り囲む鎖が……


締まり始めた。


……


さらに。


……


もっと。


……


「これは……嫌な予感しかしない。」


……


「くそ……」


……


「どうすればいい?」


……


「考えろ、フィン。」


……


「考えろ。」


……


「考えろ!」


……


エネルギーはまだ流れ続けている。


止まることなく。


……


俺は強く目を閉じた。


……


「全部、俺の中にある……」


……


「何か方法があるはずだ。」


……


そして――


一つの考えが浮かんだ。


……


「まさか……」


「うまくいくか?」


……


「前と同じように……」


……


「他に方法はない。」


……


俺は素早く息を吸った。


そして言った。


――「黄昏の停滞。」


……


突然――


ヴォォォッ!!


……


俺の身体から、輝く糸が飛び出した。


魔力核へ向かって走る。


そして、その周囲の鎖へ絡みつく。


……


「これ……」


「あの少女……イラリアに使ったのと同じスキルだ。」


……


「まさか……」


「この鎖の力を弱められるか?」


……


「頼む……」


「このスキル……」


……


「一生に一度か二度くらいしか使う必要のないスキルなんだから……」


……


「だから……」


「何とかしてくれ。」


……


糸が、さらに強く輝き始める。


……


そして、鎖が……


薄くなっていく。


……


一つずつ。


……


また一つ。


……


やがて、魔力核がゆっくりと膨らみ始めた。


……


「よし……」


「成功した。」


……


「これで元通りだ。」


……


だが……


……


エネルギーは止まらない。


……


「……」


……


「なんだ?」


……


「このエネルギー……」


「まだ終わってない。」


……


周囲を見回した。


……


そして、すぐに……


別のものを感じた。


……


「待て……」


……


見え始めた。


……


核。


……


一つ。


……


また一つ。


……


さらに一つ。


……


周囲に無数に存在している。


……


「これって……」


「魔力核か?」


……


俺は素早く立ち上がった。


……


「俺にもできるのか?」


……


「いや。」


……


「選択肢なんてない。」


……


「どうやら俺は……」


「何かを解放してしまったらしい。」


「もう、ここから抜け出すこともできない。」


……


深く息を吸った。


……


「せめて……」


「何も起きないでくれ。」


……


俺は手を空へ向けた。


……


そして、目を閉じる。


……


自分の感知スキルを広げる。


……


もっと。


……


さらに。


……


周囲の空間そのものが、俺の感知範囲へ入ってくるまで。


……


「こんな無茶をするのは、初めてだ。」


……


「しかも、あの錆びた塊が突然消えた直後だ。」


……


「声まで消えた。」


……


「何が起きたのかも分からない。」


……


「でも……」


……


「これで分かる。」


……


「俺が、本当にこの力を使えるのか。」


……


「それとも――」


……


「ここで全部、壊してしまうのか。」

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