私が探していたもの…
「人の人生は……短い。」
「もうこの世にいない人に、いつまでも縋っていても……意味なんてない。」
「だって……私たちは、まだ生きているんだから。」
……
「これが……お母さんの言いたかったことなの?」
「過去に囚われたままじゃなくて……自分の人生を生きてほしかったの?」
……
「たぶん……」
「だから私は……母が亡くなってから失ってしまったものを、ずっと探していた。」
「家族の中で……それを見つけようとした。」
……
「でも……何も見つからなかった。」
……
「見つかったのは……あの言葉だけ。」
「お前は……役立たずだ。」
……
「どれだけ探しても……」
「どれだけ頑張っても……」
「いつも、その言葉が戻ってきた。」
……
「兄が……もしかしたら、その人なのかもしれないと思い始めた時でさえ……」
……
あの日のことを思い出す。
……
私は、兄に近づこうとしていた。
優しく接しようとしていた。
もしかしたら……
失ってしまったものに似た何かを、探していたのかもしれない。
……
でも、私が見つけたのは……
兄の言葉だけだった。
兄:
「お前は……もう俺の妹じゃない。」
「俺だって……お前に優しくしようとしていた。」
「だが……お前の犯した罪は、許されるものじゃない。」
……
「違う……お兄様。」
「信じて……」
「私は……やっていない。」
……
「黙れ。」
「この家に生まれたことを……ありがたく思え。」
「たとえ……何の役にも立たない人間だったとしてもな。」
……
「父上……」
「もし、お前が我が家の人間でなかったら……」
「今頃、お前は絞首台に吊るされていただろう。」
……
「そう……」
「あの時も……また、その感覚が消えていった。」
……
「私にとって……最も身近な人の一人でさえ……」
「私を信じてくれなかった。」
……
「そして私は……考え始めた。」
「お母さんの言葉は……本当に正しかったの?」
「私は……お母さんが言っていたような生き方を、本当にできるの?」
……
「私は……公爵令嬢。」
「それ以外の何かに……なれるの?」
……
「何年もの間……」
「私は、探していたものを見つけられなかった。」
……
「一日が過ぎるたびに……」
「希望が少しずつ消えていった。」
……
「私は……私を一人の人間として感じさせてくれる誰かを探していた。」
「ただの公爵令嬢ではなく。」
「強くなければならない人間でもなく。」
「家名を証明するための道具でもない。」
……
「でも……見つからなかった。」
……
「そして……時間が経つにつれて……」
「心の中が、空っぽになっていった。」
……
「そして……あの言葉が、また戻ってきた。」
……
「役立たず。」
……
「一日が過ぎるたびに……」
「人生は、少しずつ色を失っていった。」
……
「残酷さ。」
「身分。」
「自分の価値を証明すること。」
「他人の前で強くあること。」
……
「それが……私の知っているすべてになった。」
……
「そして……」
「いつの間にか、それらが私自身を変えていった。」
……
「私は……知りたかった。」
「優しさがあれば……人は幸せに生きられるの?」
……
「本当に……?」
……
私は後ろへ下がろうとした。
その暗闇から離れようとした。
……
でも……
足が動かなかった。
……
「毎日……」
「訓練。」
「勉強。」
「学習。」
「訓練。」
「勉強。」
「学習。」
……
「命令に従う。」
……
「それが……私の人生だった。」
……
「そして……」
「私は、完全に空っぽになった。」
……
「もう……あの少女だった頃の自分に……」
「戻れる気がしなかった。」
「幸せを探していた少女。」
「ずっと昔に……失ってしまった少女。」
……
そして――
長い年月が過ぎた後。
私は、何かが変わり始めたことに気づいた。
……
私は強くなった。
四大属性を扱えるようになった。
地位も手に入れた。
……
そして……
家族も、私の存在を受け入れ始めた。
……
「でも……」
「これが……本当に私が望んでいたものなの?」
……
「私は……少しの関心を得るためだけに、こんな道を歩かなければならなかったの?」
……
私は、暗闇へ向かって手を伸ばした。
……
「彼らが望んだものを……すべて手に入れた後でさえ……」
「私は……その関心を感じることができなかった。」
……
「目の前に……確かにあったのに。」
……
「どうして……?」
……
「たぶん……」
「私はもう……誰かに大切にされるということを知らなくなっていた。」
……
「誰かにとって大切な存在になるということを……忘れていた。」
「自分に価値があると感じることも……忘れていた。」
……
「私は……誰かを求めていた。」
「私に何かを押しつけようとしない人を。」
……
「誰か……」
「私に……自分が一人の人間なんだと感じさせてくれる人。」
……
「でも……」
「そんな人を……どう呼べばいいの?」
……
「私は……知らなかった。」
……
そして――
一つの記憶が、浮かび上がった。
……
古い記憶ではない。
むしろ……
ごく最近の記憶だった。
一人の記憶が浮かんだ……
本来なら、私の記憶の中に居場所などあるはずのなかった人。
私よりも身分の低い人。
知り合ってから、まだ数ヶ月しか経っていない人。
……
「フィン。」
……
あの日のことを思い出した。
生徒会長室でのこと。
……
あの出来事から……一週間ほど経った頃だった。
……
私は、あの時の彼を見て……奇妙な感覚を覚えた。
言葉では、うまく表せない何か。
……
「フィン……」
「どうして……あの時、私が原因だったって、学園側に言わなかったの?」
……
私は、いつだって彼が何を考えているのか分からなかった。
……
ダンジョンで出会った。
私を助けようとしてくれた……
自分自身が弱かったにもかかわらず。
貧しかったにもかかわらず。
……
それに……
彼が奴隷だったのではないかと疑ったこともあった。
でも……私は、そのことを深く追及しなかった。
……
彼の考え方は、私とは違っていた。
たぶん……
他の誰とも。
……
人の注目を浴びることを望まない人。
それなのに……
なぜかいつも、騒ぎの中心にいる。
人々の視線の真ん中にいる。
……
あの日……
彼がほとんど裸の状態で女子更衣室に入ったと聞いた時も……
私は、それが完全に彼のせいではないことを知っていた。
……
私のところから出る前に起きたことが原因だったから。
……
彼に起きたことを思うと……胸が痛んだ。
……
でも……
もう一つ、どうしても理解できないことがあった。
……
どうして、謝罪を求めなかったの?
どうして、誰にも真実を話さなかったの?
……
それに……
私自身も、どうして彼に謝れなかったのか分からなかった。
言葉が……
喉から出てこなかった。
……
どれだけ馬鹿げた出来事だったとしても……
彼が教師や女子生徒たちに捕まり……
校長のところへ連れて行かれた後も……
彼は、私が彼の立場なら当然するだろうと思っていたことを……しなかった。
……
私のせいだと言うことはできたはずなのに。
……
たとえ誰にも信じてもらえなかったとしても……
私は彼のために証言した。
私自身の評判が傷つくことになったとしても。
……
でも……
彼は何もしなかった。
……
ただ、私にこう答えた。
フィン:
「実際……」
「あなたが原因だったって言ったところで、俺には何の得もないから。」
……
理解できなかった。
……
彼は……
何を言っているの?
……
そして、彼は続けた。
「起きたことは……もう起きたことだ。」
「自分の問題を、他人に押しつけるのは好きじゃない。」
……
「結局……」
「あなたが原因だったってみんなに話したところで、俺が幸せになるとは思えない。」
「だから……」
「これは俺に起きたことだって、受け入れた。」
「誰かに押しつけるより……そのほうがいい。」
……
「……」
……
そんな言葉……
私は今まで聞いたことがなかった。
……
そして……
母が亡くなってから、感じたことのなかった感覚だった。
……
「私は……その感覚に、名前すらつけられなかった。」
……
「この感覚は……何?」
……
「何と呼べばいいの?」
……
私は目を閉じた。
……
「もしかしたら……」
「これが……お母さんの言っていたことなのかもしれない。」
……
「自分の生き方を……」
「私に押しつけようとしない人を見つけること。」
……
「自分自身で選ぶ人。」
……
「自分に起きたことを受け止めて……」
「その苦しみを、他の誰かまで傷つけるために使おうとしない人。」
……
「フィンは……私に優しくしようとしていたわけじゃない。」
「私を喜ばせようとしていたわけでもない。」
……
「ただ……」
「自分が正しいと思ったことを……」
「そのまま選んでいただけだった。」
……
静寂。
……
「そして……」
「それが私に、何年も感じることのできなかった何かを感じさせた。」
……
「尊敬じゃない。」
「同情でもない。」
「愛でもない。」
……
「じゃあ……」
……
思考が止まった。
……
「目の前にいるのが……一人の人間なんだと感じること。」
……
「自分自身で選ぶ人。」
「たとえ……その選択が馬鹿げていたとしても。」
「たとえ……その選択が自分を地獄へ連れていくとしても。」
「それでも……自分で選ぶ。」
……
「そして私は……」
「最後に自分自身のために何かを選んだのは……いつだった?」
……
「そう……」
「これが……私が探していたものだった。」
……
私は一歩、前へ踏み出した。
……
その暗闇へ。
……
「その答えを知りたいのなら……」
「私は……向き合わなければならないものと、向き合わなければならない。」
……
「フィン……」
……
もう一歩。
そして……また一歩。
……
「あなたは……変な人ね。」
……
「でも……時々、あなたは……」
「無視できない存在だってことを証明する。」
……
「少なくとも……」
「私にとっては。」
……
私は胸に手を当てた。
……
「何かが……私の中で動き始めている。」
「何かが……外へ出ようとしている。」
……
「ねえ……」
「あなたは……本当に、その人なの?」
……
「私が……昔感じていたものに似た何かを……」
「もう一度感じさせてくれる人?」
……
胸元に置いた手に、力を込める。
……
「この熱は……何?」
……
「この感覚は……何なの?」
……
まるで……
私の中で鎖が伸びているようだった。
軋み……
ひび割れ……
そして――
何年もの間、私を縛りつけていた何かから……
解き放たれようとしていた。
……
そして、外では――
道化師が、瓦礫の上に立っていた。
静かに周囲を見回す。
そして、両手を背中へ回した……
まるで、服についてもいない埃を払うかのように。
……
パンッ。
両手を叩いた。
……
そして、フィンたちがいる方向へ向かって歩き始める。
……
だが、その時――
地面に倒れていたイラリアの指が、わずかに動いた。
……
そして、止まる。
……
その心の中では……
彼女はまだ、あの暗闇の前に立っていた。
……
最後に、あることを思い出した。
……
かつて、フィンが彼女に言った言葉。
……
「お嬢さん……」
「俺の命は、あなたに預ける。」
「だから……」
「あなたを頼る。」
……
「ふふ……」
「あなたは……あんなに真剣な顔で言っていたけれど……」
「本当に、その言葉を心から言っていたのかは……分からないわ。」
……
「でも……」
……
彼女は深く息を吸った。
……
「もし、あなたの目的が……ただ生き残ることだったのなら……」
「きっと、それがあなたの言いたかったことだったのね。」
……
「でも、私は……」
「ずっと、自分でも名前の知らない何かを探しながら生きてきた。」
……
「今になってようやく……」
「少しだけ、それが分かってきた。」
……
「私の目的は……」
「変えてはいけない。」
……
「それこそが……」
「私が今までの人生をかけて築いてきたものだから。」
……
だけど……
……
「もしかしたら……」
「もしかしたら、別の道もあるのかもしれない。」
……
それ以上の思考が、頭の中から消えていった。
……
「少なくとも……」
「私が忘れていたものを、思い出し始めてからは……」
……
道化師が、突然立ち止まった。
……
片手を目の上にかざす。
まるで、遠くにある何かを見ようとしているかのように。
……
そして――
背後に何かを感じた。
……
ゆっくりと腕を下ろす。
……
足音。
……
瓦礫の上を歩く、静かな足音。
……
道化師は、わずかに笑った。
そして、振り返る。
……
そこには――
イラリアが立っていた。
……
完全に静かな表情で。
……
身体中に傷が刻まれている。
打撃の跡も残っている。
服の一部も破れていた。
……
それでも――
怒ってはいなかった。
怯えてもいなかった。
……
道化師は両手を握った。
そして――
跳んだ。
……
小さく、一度。
そして、もう一度。
……
まるで……
嬉しそうに。
……
イラリアは深く息を吐いた。
そして、両手を頭の後ろへ回す。
髪を高い位置で、一つに結んだ。
……
「こんにちは……道化師くん。」
……
腕を下ろす。
そして、静かに言った。
「戻ってくるのに……ずいぶん時間がかかってしまって、ごめんなさい。」
……
道化師は、怪訝そうに首を傾げた。
……
イラリアは、彼へ向かって歩き出す。
一歩……
そして、もう一歩。
……
そして――
その目を、完全に見開いた。
……
その瞬間。
道化師は感じた。
……
何かが、変わった。
……
道化師の目が、わずかに見開かれる。
……
そして――
パンッ!
パンッ!
……
まるで――
ショーが、再び始まったかのように。




