この感覚は…何?
どこかで……
すべてが闇に包まれていた。
……
「……え?」
「ここは……どこ?」
「この場所は……何?」
……
静寂。
……
「さっきまで……あの少年と戦っていたはずなのに……」
……
再び、静寂。
そして――
「……あぁ。」
「思い出した。」
……
「あの光る塊……」
「小さなあの子を守ろうとしていた時に……私に当たったんだ。」
……
「あぁ……」
「その区域は、完全に避難させたと思っていた。」
「まさか……あそこに、もう一人子供がいるなんて……」
……
「……あの子、大丈夫かな?」
……
「いや……」
「もしかしたら……」
……
「はは……」
「こんなことを考えても……答えなんて分からないか。」
……
カツ……
……
「……何、この音?」
……
カツ……
……
水面に何かが落ちたような音だった。
……
そして、再び静寂が戻る。
……
「あの少年……」
「本当に強かった。」
……
「私が今まで戦ってきた中でも……あれほどの強さを持つ相手は初めてだった。」
……
「たぶん……」
「私が負けた理由は、それね。」
……
「はは……」
「情けないな、私。」
……
「自分より年下の相手に……負けるなんて。」
……
胸に手を当てる。
……
「屈辱だ……」
「本当に。」
……
「何年も……」
「苦しい訓練を続けてきた。」
「強くなるために……」
「自分自身の力で……」
「私自身の力で、強くなりたかった。」
……
「私が……」
「私であるために。」
……
「それなのに……」
「こんな形で負けるなんて……」
「悔しい。」
……
「もっと強くなれると思っていた。」
……
「なのに……」
「結局……」
「何も変わらなかった。」
……
私は静かに立ち上がった。
けれど、周囲には何も見えない。
……
「今までの自分より、もっと強くなろうと……」
「私は何度も足掻いてきた。」
「必要なことは、すべてやった。」
……
カツ……
……
「魔物と戦った。」
「あのダンジョンにも入った。」
「何度も……何度も、自分の限界を超えようとした。」
……
カツ……
……
「あの時は……」
「本当に、もう一つ上の領域へ行けると思っていた。」
……
「一度できたのなら……」
「次もできる。」
……
「そう思っていた。」
……
「身体が耐えられなくなるほど……」
「自分を追い込んだ。」
……
「そして……」
「幼い頃から浴び続けてきた、あの視線も……」
「あの言葉も……」
「全部、耐えてきた。」
……
「役立たず。」
……
「偉大な公爵家の娘でありながら……」
「私にとって家族の目に映る私は……ただのゴミだった。」
……
「力のない娘なんて……」
「公爵の娘と呼ぶ価値すらない。」
……
「どうして……」
「本当に、あの子が公爵の娘なの?」
……
「もしかして……養子なんじゃない?」
……
「ヒソ……ヒソ……」
「そんなこと、本人に聞こえるように言うなよ。」
……
「そう……」
「それが……私の周りで交わされていた言葉だった。」
……
「みんなが小声で話していた。」
「その中に……私もいた。」
……
「そして私は……」
「いつも同じ疑問を抱いていた。」
……
「私は本当に……」
「この家族の一員でいる資格があるのだろうか?」
……
カツ……
……
私は、その暗闇の中を歩き続けた。
……
「本当に……自分を変えようとした。」
「この家にふさわしい娘になろうと……」
……
「何度失敗しても。」
……
「その時……」
「私が一番、そばにいてほしいと思っていたのは……父だった。」
……
けれど、父の声はいつも私の耳に届いた。
「お前の名を聞くたびに、恥ずかしくなる。」
「お前のような娘を、私の娘だとは認められない。」
……
「私が顔を合わせるたびに……」
「父から聞かされたのは、それだけだった。」
……
「もしかしたら……」
「あの時、消えてしまえばよかったのかもしれない。」
……
「死んでしまえば……」
「そのほうが、弱さを知らない由緒ある家に……」
「恥をかかせずに済んだのかもしれない。」
……
けれど――
あの頃。
私のそばに立ってくれた人が、一人だけいた。
……
兄だった。
……
私がこの世界から消えようとしていた時……
兄は、私が必要としていた支えになってくれた。
……
「イラリア……」
「お前は優しい子だ。」
「努力家でもある。」
「何があっても、俺はお前の味方だ。」
「だって……俺たちは家族だろ?」
……
「初めて……」
「自分にも価値があるんだと感じた。」
……
「この家族の中で……」
……
「そして……」
「もう一つ、大切なことを知った。」
……
「もし……強くなれなかったとしても……」
「それが……何だというの?」
……
「家族って……」
「強い人間だけで作るものなの?」
……
「家族なら……」
「その人がその人であることを受け入れるものじゃないの?」
……
「どうして……」
「何かを返すことを求めるの?」
……
「家族って……」
「本当に、そういうものなの?」
……
カツ……
……
幼い頃。
街や、その周辺を歩き回っていた時……
私は、二種類の家族を見てきた。
……
「そう……」
「家族を強く、偉大な人間へ育てようとする家族。」
……
「力と、上を目指す意思だけを認める家族。」
「弱さに近づいた者を……」
「容赦なく切り捨てる家族。」
「すべてを持っているのに……」
「幸せに生きるために必要なものを、何もかも持っているのに。」
……
そして私は、別の家族も見てきた。
……
生きていくための最低限のものさえ、満足に持っていない家族。
……
昼も夜も働き続ける父親。
身体がやせ細り、骨が浮き出るほどになっても……
ただ、家族が今日を生きるための食事を手に入れるために働いている。
……
そして母親は……
自分の子供たちに、
「自分は生きていていい人間なんだ」
そう思わせていた。
……
自分らしく生きることを許していた。
「自由に生きる……」
「自分が望むように。」
……
「何も持っていなくても……」
「家族を支え続ける。」
……
「私は、その感覚を理解しようとした。」
……
「何度も……」
「何度も、理解しようとした。」
……
「でも……」
「私には、できなかった。」
……
カツ……
……
「どうして……?」
……
「どうして、こんなにも難しいの?」
「この感覚を理解することが……」
……
静寂。
……
カツ……
……
「……違う。」
「理解すること自体は……難しくないはず。」
……
私は、しばらく立ち止まった。
暗闇の先に……
かすかな光が見えていた。
……
「でも……私は理解できなかった。」
「だって……」
「私は、それを知らなかったから。」
……
「誰かに大切にされる家族の中で生きるということを……」
「どんな自分でも受け入れてもらえるということを……」
「私は知らなかった。」
……
「私が生まれたのは……」
「力。」
「身分。」
「自分の価値を証明すること。」
……
「それだけだった。」
……
「私が与えられたものは……」
「それだけだった。」
……
「本当は……」
「そんな当たり前の生活をしてみたかった。」
「家族に大切にされるということが、どういうものなのか……」
「どんな自分でも受け入れてもらえる家族というものが、どういうものなのか……」
「知りたかった。」
……
「人には……」
「その人自身の人生があっていいはずじゃないの?」
……
私は、さらに歩みを進めた。
……
「家族に決められた道の中で生きる……」
「それは……」
「自分という存在を消してしまうことに近い。」
……
「ただの身体になって……」
「家族が望むものに合わせようとして……」
「ずっと、重圧に耐え続ける。」
……
「そして……」
「あるところまで来てしまえば……」
「もう、人生にあるすべての道が見えなくなる。」
……
「目の前に残るのは……」
「ただ一本の細い道だけ。」
……
「家族が描いた道。」
……
「そこを歩けと言われる。」
「受け入れろと言われる。」
「そして……」
「最後まで歩き切れと言われる。」
……
私は光へ向かって手を伸ばした。
……
「ねえ……」
「その細い道を歩くことが……」
「本当に、私がするべきことなの?」
……
「人が人らしくいられるような……」
「感情や、人とのつながりの中で生きること。」
……
「それこそが……」
「一番大切なことじゃないの?」
……
「優しさや……」
「愛こそが……」
「人を人にするものじゃないの?」
……
カツ……
……
その瞬間。
私は、過去のある出来事を思い出した。
……
その出来事が……
その後、私はそれらの言葉そのものを憎むようになった。
……
「あの人たち……」
「私が優しく接しようとした人たち。」
……
「家族というものが何なのか……」
「一緒に理解しようとした人たち。」
……
「奴隷。」
……
「家族にとっては……」
「それだけの存在だった。」
……
「でも、私にとっては……」
「人だった。」
……
「どれだけ厳しい人生を生きていても……」
「彼らは……」
「それらの言葉の意味を知っていた。」
……
「優しさ。」
「家族。」
「誰かを想うこと。」
……
「でも……」
「あの夜の後……」
……
私の中で、すべてが止まった。
……
「私は……」
「偽りの世界で生きているんだと思った。」
……
「……違う。」
「偽りの世界じゃない。」
……
「二つに分かれた世界なんだ。」
……
「教えられた残酷な現実を……」
「受け入れるか。」
……
「それとも……」
「生きることさえ許されない幻想を追いかけ続けるか。」
……
カツ……
……
その時だった。
声が聞こえた。
……
「イラリア……」
……
私は足を止めた。
……
「……誰?」
「この声は……どこから?」
……
カツ……
……
また声が聞こえた。
今度は……もっと近い。
……
頭に……
温かい何かが触れた。
……
胸が、大きく跳ねた。
……
「あなたは……誰なの?」
……
そして、声が答えた。
「あなたは優しい子……」
「今のあなたになるように……運命づけられた子。」
……
私は周囲を見回した。
何もない。
……
それでも……
胸の鼓動は、さらに強くなっていく。
……
「人として生きるということは……」
「本当に、美しいものなのよ。」
……
私は、目の前の光を見つめた。
……
「この光……」
「この声の向こうに……いる。」
……
私は走り出した。
全力で。
……
「待って!」
「あなたは……誰なの?!」
……
「この鼓動……」
「この温かさ……」
「私は……前にも感じたことがある。」
……
「でも……どこで?」
……
「死は……避けられない運命。」
……
私は一瞬、足を止めた。
……
そして、再び声が聞こえた。
「でもね……」
「愛する人と別れることが……」
「必ずしも、私たちの人生の終わりを意味するわけじゃない。」
……
光が、どんどん大きくなっていく。
そして……
声が、はっきりと聞こえるようになっていく。
……
「でもね、あなた。」
「一緒にいて幸せだと思える人たちを見つけること。」
「そして……」
「自分が正しいと思う生き方をすること。」
「それこそが……」
「あなたが探すべきものなのよ。」
……
私は光へ向かって手を伸ばした。
まるで……
その光の向こう側へ、手を届かせようとするように。
そして――
突然。
闇が消えた。
……
温もりを感じる。
……
「そう……」
「この感覚……」
「ほとんど覚えていないはずなのに……」
「知っている。」
……
気づけば、私は静かな部屋にいた。
暖かな風に揺れるカーテン。
窓から差し込む、柔らかな陽射し。
……
そして――
一人の女性が、静かにベッドに腰掛けていた。
……
この匂い……
……
「……いい匂い。」
……
胸が張り裂けそうになった。
……
「そう……」
「この人だ。」
……
彼女は微笑んでいた。
そして――
「私たちは、誰にでもそれぞれの役割があると信じているの。」
……
彼女は手を伸ばした。
そして、優しく私の頭を撫でる。
……
「だから……周りの人が望む生き方の中で、私たちが生きる必要はないのよ。」
……
「……お母さん。」
……
「私たちには、何の意味があるの?」
「生まれてきた意味は……」
「自分が幸せに生きていくために必要なものを探して、努力することにあるんじゃない?」
……
「どんなに難しい選択だったとしても……」
「人生は最後には、その苦労の先で、自分が選んだものの喜びを感じる機会を与えてくれる。」
……
私は彼女を見つめた。
……
何も言えなかった。
……
いや……
あの頃の私は、彼女が言っていることを理解できなかったのかもしれない。
……
私の頭にあったのは、ただ一つ。
……
「こんなにもたくさんの優しさに囲まれているって……」
「こんなにも愛されているって……」
「こんなにも大切にされているって……」
「素敵なことじゃない?」
……
「たった一人からでも……」
……
「それだけで、私は幸せだった。」
……
でも――
母がこの世を去ったとき。
その幸せも、一緒に消えてしまったように感じた。
……
そのとき――
私は、母が教えてくれた言葉を思い出し始めた。




