時間は過ぎる…そして、まだ実行されていない計画。
逃げながら……
地面を走ったり……
また空中を飛んだり……
……
「うわぁ……」
「本当に……恥ずかしいな。」
……
「アハハハハ……」
「……どこまで話したっけ?」
……
「そうだ。」
「もし、こいつから俺を助けられないなら……」
「俺の名前を呼ぶな。」
……
ドォォォン!!
……
俺は地面を転がった。
ガシャァン!!
時計塔に激突する。
……
「ぐあっ!」
……
全身が打撲だらけだ。
「はぁ……」
「はぁ……」
……
「自分の部屋に帰りたい。」
「そして、寝たい。」
「こんなの……俺みたいなモブがやるべき展開じゃないだろ。」
……
【通知:
〈対象・オリンへの接近を検知しました。〉】
……
目を見開いた。
「オォォォリン!」
「気をつけろ!」
「上だ!」
……
ヒュンッ!
オリンは間一髪で後ろへ飛び退いた。
だが――
何かが、その身体を直撃した。
……
「ぐっ!」
……
そして――
ドォォォン!!
再び地面が爆発した。
……
「くそ……」
「いったい、あのゴリラはいつまでやってるんだ?」
「頼んだ仕事は一つだけだぞ……」
「あの操ってる奴を、支配範囲から引きずり出すだけだ。」
……
ほんの数秒もしないうちに――
建物の向こうから、爆発音が響き渡った。
ドォォン!!
ドォォン!!
……
砂煙が空へと舞い上がる。
……
サムラカンが、爆発の起きた方向を見る。
サムラリス:
「フィン……あれは、侯爵令嬢のいる方向じゃないか……?」
……
「おい……」
「おいおいおい……」
「これ……絶対にロクなことにならないぞ。」
……
「ゴリラ……」
「本当に忘れないでくれよ。」
「俺の命は、お前にかかってるんだからな。」
「だから……」
「死ぬなよ。」
……
ドォォン!!
再びオリンの周囲の地面が爆発した。
ガァァン!!
オリンの身体が遠くへ吹き飛ばされる。
その身体は傷だらけだった。
……
「くそ……」
「どんどん状況が悪くなってる。」
……
「このまま、あとどれだけ続けられる?」
……
「あの勇者は……もう危険な状態だ。」
……
「それに、俺には戦う資格なんてない。」
「というか……」
「結局、俺は脇役なんだ。」
「俺の目的は、生き残ること。」
……
俺はサムラカンを見る。
……
「それに、こいつ……」
「戦いが始まってから、もう何の役にも立ってない。」
……
「くそ、ポンコツ……」
「まだキューブの解析は終わらないのか?」
「もう、あのお坊ちゃんにはうんざりだ。」
「なんであいつだけ隠れてていいんだ……」
「俺はダメなんだよ?」
……
【通知:
〈対象・サムラリスは、現在マナが不足しています。〉】
……
俺は深く息を吐いた。
……
「そりゃそうだ。」
「……心の中だけで言わせてもらうぞ。」
「この錆びたポンコツが。」
「マナが切れたからって、あいつだけ隠れてていいのか?」
……
「じゃあ、俺は?」
「俺はモブだぞ……」
「そもそも、俺には最初からマナなんてない。」
……
【通知:
〈対象・フィンが戦闘に参加しなかった場合、生存成功率はゼロです。〉】
……
「……」
……
「……なるほど。」
……
「お前、本当に容赦ないな。」
……
「俺が生き残ったら……」
「この錆びた塊、捨ててもいいか?」
……
【通知:
〈キューブの解析が完了に近づいています。〉】
【〈顕現機構への配置を開始します。〉】
……
俺は空を見上げた。
太陽は、さらに夕暮れへと傾いている。
……
「時間だけが……過ぎていく。」
「そして、状況はどんどん悪くなっていく。」
……
「それなのに……」
「俺の目的は変わらない。」
……
「消えたい。」
「ただ、それだけだ。」
---
俺は、地面から立ち上がろうとしているオリンを見る。
……
「くそ……」
「確かに、俺は勇者ってやつが嫌いだ。」
「まだ勇者候補にすぎないオリンでさえ……」
……
「でも、今は死んでほしくない。」
「少なくとも……」
「俺が生き残るまでは。」
……
「……」
「分かってる。」
「ちょっと言い方がひどいよな。」
「いや……」
「かなりひどいか。」
……
「でも、俺は自由な人間だ。」
「自分の意見を正直に言う権利くらいある。」
……
「はいはい。」
「勇者についての話は、この辺にしておこう。」
「今は、この戦いに集中しないと。」
……
「現実的に考えて……」
「俺も、もう長くは持たない。」
「というか……」
「自分の身体が、まだ壊れてないことに驚いてる。」
……
俺は少し距離を取った。
……
「くそ……」
何かが、こちらへ近づいてくる気配がした。
……
「来る。」
「くそっ!」
ヒュンッ!
俺はその場から飛び退いた。
次の瞬間――
ドォォン!!
さっきまで俺が立っていた場所が、跡形もなく吹き飛んだ。
……
「おい……」
「あと一秒遅れてたら……」
……
「このままじゃ……」
「長くは持たない。」
「こいつが何者なのかは知らないけど……」
……
俺はサムラカンを見る。
相変わらず、遠くで隠れている。
……
「そして、あのお坊ちゃん……」
「戦いが始まってから、ずっと隠れてやがる。」
「くそ……」
「本当に腹が立つ。」
……
「ふぅ……」
「落ち着け、フィン。」
「まずは……何が起きているのか理解しろ。」
……
「今のところ分かっているのは……」
「この隠れている何かには、意識があるということ。」
「そして……ようやく、その存在をかすかに感じ取れるようになった。」
……
「〈認識〉のおかげで……」
「空気の動き……」
「マナの流れ……」
「今まで気づくことすらできなかったものまで感じられる。」
……
「でも、集中すればするほど……」
「ぐっ……」
俺は頭を押さえた。
……
「負担が大きくなる。」
「まるで、脳が自分の処理能力を超えたものを処理しようとしているみたいだ。」
……
「それだけじゃない。」
「この魔物を操っている奴がいる。」
「だから……」
「たとえ感覚が強くなったとしても……」
「自分の意思だけで動いていないものの動きを予測するのは難しい。」
……
ドォォォン!!
再び地面が爆発した。
俺は横へ飛び退き、そのまま走り出す。
……
「オリン!」
「そこにいるな!」
「動け!」
……
オリンは走ろうとしていた。
だが、その足取りは重い。
……
「はぁ……」
「はぁ……」
オリン:
「僕は……もう、まともに動けない。」
……
「チッ……」
「弱い勇者め。」
……
「……いや、待て。」
「重要なことがある。」
……
「この魔物……」
「サムラカンには、そこまで意識を向けていない。」
……
「俺が、ほとんど全部のマナを奪ったからだ。」
「だから……」
「俺を追うときほど、あいつを追ってはいない。」
……
「だったら……」
【通知:
〈背後です。〉】
……
「はぁ!?」
---
ドォォォン!!
背後から、強烈な一撃を受けた。
……
「ぐああっ!!」
ガァァン!!
俺は吹き飛ばされ、崩れた建物へ叩きつけられた。
……
【通知:
〈スキル『痛覚適応』が発動しました。〉】
……
……
遠くから、オリンの声が聞こえる。
オリン:
「フィン!」
「まずい!」
……
オリンは、ふらつきながら立ち上がった。
……
「分かってる!」
「見えない相手なんて……どうやって戦えばいいんだ!」
……
彼は両手で剣を握り直した。
……
その表情には、明らかな緊張が浮かんでいた。
---
オリン:
僕は、ずっと相手の動きを読むことに頼ってきた。
……
手首の動き。
脚の動き。
肩の向き。
視線。
呼吸の仕方まで……
あらゆる細かな変化が、相手の次の行動を教えてくれた。
……
でも、今は……
何もない。
……
オリンは周囲を見回す。
砂煙。
瓦礫。
風。
……
「どこにいる……?」
……
「見えない相手を……どうやって戦えばいい?」
……
オリンは剣を強く握りしめた。
「何年もかけて、この技術を磨いてきた。」
「相手の動きを読む。」
「攻撃を予測する。」
「攻撃する瞬間を見極める。」
……
「でも……」
「読むべき身体そのものが存在しない相手に……」
「僕は、どう戦えばいい?」
……
かすかな気配を感じた。
……
オリンの目が見開かれる。
「そこだ……!」
……
だが、遅かった。
……
「はあっ!!」
攻撃が、真正面から襲いかかる。
オリンは咄嗟に剣を掲げた。
ガキィィィン!!
……
攻撃の一部しか受け止められなかった。
両腕が震える。
……
「強い……!」
……
衝撃に身体ごと後方へ弾き飛ばされる。
ガァァン!!
石壁に叩きつけられた。
背後の壁に亀裂が走る。
……
「ぐっ……」
……
オリンは一瞬だけ目を閉じた。
そして、ゆっくりと目を開く。
……
「……悔しい。」
「ここまで何もできないなんて……」
……
それでも、剣を強く握り直す。
……
「それでも……」
「僕は……諦めない。」
---
崩れた建物の瓦礫の中。
「……はぁ。」
「ゴホッ……」
「ゴホッ……」
「ゴホッ……」
「はぁ……」
「はぁ……」
……
俺はゆっくりと目を開いた。
「……何が……起きた?」
「ぐっ……」
……
頭の中に、ガイドの声が響く。
【通知:
〈対象・フィンは魔物から直接攻撃を受けました。〉】
……
「直接攻撃……?」
「ゴホッ……」
「ゴホッ……」
……
「俺……まだ原型を保ってる?」
【通知:
〈対象・フィンの肋骨の一本が骨折しました。〉】
〈速やかな治療を推奨します。〉
……
「最高だな。」
「肋骨を一本折ったことを報告して……」
「そのうえで、早く治せって?」
……
「今……そんな余裕があると思うか?」
……
俺は立ち上がろうとした。
ゆっくりと……
瓦礫を身体から押しのける。
まず指を動かす。
次に腕。
そして、身体全体を起こそうとする。
……
「ぐっ……」
……
咳をするたびに、口から血が流れる。
「ゴホッ……」
「ゴホッ……」
……
【通知:
〈治癒術の使用を推奨します。〉】
……
「このポンコツ……」
「はぁ……」
「はぁ……」
……
「前にも……この会話、したよな?」
……
ようやく立ち上がった。
いや……
立とうとした。
頭が揺れる。
身体が、ほとんど言うことを聞かない。
……
「それに……〈認識〉も……」
「俺の体力を……どんどん削っていく。」
……
目の前に差し込む光を見る。
……
……
一歩。
そして、もう一歩。
……
「集中すればするほど……」
「ぐっ……」
俺は再び頭を押さえた。
……
「頭が……爆発しそうだ。」
……
「くそ……」
「なんなんだよ、このスキル……」
「スキルって、普通は持ち主を強くするためのものじゃないのか?」
……
「こいつは、本能に従って動いている。」
「そして、その本能のせいで……」
「標的を変える瞬間だけ、一時的に自分の意識を取り戻しているみたいだ。」
……
「もし魔物が、マナの発生源を追っているのなら……」
「サムラカンが獲物として狙われるのは当然だ。」
……
「でも……」
「こいつは俺を追うときほど、サムラカンを追ってはいない。」
……
「だったら……」
「最後に強いマナを感じ取った相手を狙っているんだ。」
……
「大量のマナを吸収していた……」
「その相手を。」
……
「つまり……」
「あの甘ったれを、危険の輪から一時的に外すことができた。」
……
ドォォォン!!
……
近くの地面が爆発した。
俺は爆発が周囲を駆け巡る中、動き続ける。
……
「でも……」
「どうやら操っている奴にとって、最初に排除すべき自然な敵は……」
「オリンらしい。」
……
「つまり……」
「オリンには、何かが関係している。」
……
「なるほど。」
「こいつの作戦も……悪くない。」
……
「そもそも俺の作戦は……」
「オリンの力と、あの剣技に頼っている。」
「俺に必要なのは……」
「ただ、少しでも時間を稼いでもらうこと。」
……
「それに……」
「俺が持っている〈危険感知〉と似ているのかもしれない。」
……
「もしかすると、操っている奴のスキルにも……」
「最初に排除すべき危険を判断する仕組みがあるのかもしれない。」
「たとえ……その相手が、本当に一番危険な存在じゃなかったとしても。」
……
【通知:
〈対象・フィンの推測は、高い確率で正しいと思われます。〉】
……
「やっぱりな。」
……
だが、その直後――
別の通知が表示された。
【通知:
〈重要な事象を検知しました。〉】
……
「ん?」
「なんだよ、ポンコツ。」
【通知:
〈魔物が対象・フィンとの戦闘から、対象・オリンとの戦闘へ移行する際……〉
〈魔物の意識と、制御能力の間に一時的な干渉が発生します。〉
〈この瞬間……〉
〈魔物の攻撃能力は、数秒間だけ低下します。〉】
……
俺は広場を見つめた。
……
「なるほど……」
「これは……使えるかもしれない。」
……
「これなら……使える。」
……
【通知:
〈キューブの解析が完了しました。〉
〈現在、キューブを発現機構へ配置することが可能です。〉】
……
「……は?」
……
「やっとか。」
「ようやく……役に立ちそうな情報が出てきた。」
……
「ぐっ……」
「ゴホッ……」
「ゴホッ……」
……
【通知:
〈対象・フィンの推測に基づき、新たな作戦を構築することが可能です。〉】
……
「マジで!?」
……
「よし……」
「この地獄が始まってから……」
「初めて聞いた、まともな朗報だ。」
……
俺はサムラカンへ目を向ける。
……
あいつは、まだ時計塔の下に座り込んでいた。
……
「おい……」
「お前……」
じっと見つめた。
……
「何してるんだ?」
……
「まさか……」
「寝てるのか?」
……
「こいつ……本当に大丈夫なのか?」
……
「おい、起きろ! この役立たず!」
「こんな時に眠くなってる場合かよ!」
……
「くそ……」
「なんでこいつだけ、俺よりいい人生を送ってるんだ?」
「こんな危険な状況でも……」
「ぐっすり寝てやがる。」
……
「その一方で俺は……」
「平穏に生きるはずだったモブの俺が……」
「こんな奴を助けるために、こんな目に遭ってる。」
……
サムラカンがわずかに動いた。
ゆっくりと目を開ける。
「ん……?」
……
周囲を見回す。
「何……?」
「戦いは終わったのか……?」
……
俺は、その肩に手を置いた。
そして、静かに微笑む。
「お前……」
「一生、許さないからな。」
……
目を見開く。
「えっ!?」
「どういう意味だ……?」
……
「アハハハ……」
「さあ、少し苦しんでもらおうか……」
「俺が苦しんだ分だけな、この甘ったれ。」
……
不安そうに俺を見る。
「……なんだか、嫌な予感がする。」
……
「そりゃそうだ。」
「でも……ほんの少しの間だけかもしれない。」
「死ななければな。」
---
その一方で……
……
道化師は、空中に座っていた。
まるで、そこに見えない椅子でもあるかのように。
……
片足をもう片方の上に乗せる。
リン……
リン……
砂煙の中に、靴に取り付けられた小さな鈴の音が響く。
……
ゆっくりと両手を上げる。
そして、指で小さな四角い枠を作った。
……
その枠越しに見る。
まずは空。
濃い砂煙が、すべてを覆い隠している。
それから、わずかに手を動かす。
視線が、崩れた建物へ移る。
……
そして――地面へ。
……
そこには、イラリアが倒れていた。
ピクリとも動かない。
……
道化師は、何もない空間に指を向ける。
そして、指先をわずかに動かした。
まるで――
写真を撮るかのように。
……
首を傾げる。
……
そして、あの笑みが浮かんだ。
小さな……
嘲るような……
静かな笑み。
……
リン……
リン……




