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道化師のショー



砂煙の中から――


イラリアが姿を現した。


「はぁ……」


「はぁ……」


「はぁ……」


息が荒い。


重い足取りで前へ進む。


その先では、道化師が立ったままこちらを見ていた。


その顔からは、笑みが消えていない。


……


「こいつ……」


「強い。」


「危険なほどに……」


イラリアは、目の前の道化師を注意深く見つめた。


明確なオーラはない。


力の気配すらない。


その力の源を示すものも――何ひとつ。


……


「こんな相手と戦い続けるのは難しい……」


「戦い方そのものが、読めない。」


……


「はぁ……」


「はぁ……」


「こいつは……」


「まだ本気を出していないのに、私を限界まで追い込める。」


……


イラリアは空を見上げた。


そこには、先ほどから宙を漂っている「あれ」がいる。


……


「しかも、あれまで操っている。」


「このままでは……まずい。」


……


道化師が、ゆっくりと腕を上げた。


……


「あの光る塊……」


「さっきから、私に向かって投げつけてくるもの。」


「最初は本当に驚かされたけど……」


……


イラリアは拳を握る。


「でも……その正体は、なんとなく分かってきた。」


思い出す。


あの星。


帽子。


そして――花火。


……


「そう……」


「あの星が空へ飛んで、爆発したとき……」


「あれは、ただの花火じゃなかった。」


……


イラリアは剣を握り直した。


そして――


道化師が指を組み、銃の形を作る。


……


イラリアは目を細めた。


「来た……」


……


ドンッ!


道化師の手が、わずかに後ろへ跳ねる。


まるで銃を撃ったかのように。


フィィィィン!


黄色く輝く光の塊が、凄まじい速度で飛んできた。


……


「聖なる魂よ!」


イラリアは地面に手をつく。


「私を守って!」


ゴゴゴゴゴッ!


地面から巨大な岩塊がせり上がった。


ドォォォン!


光の塊が岩塊へ激突する。


火花が四方へ飛び散った。


……


ピシッ……


岩の表面に亀裂が走る。


イラリアの目が見開かれた。


「なに……?」


……


亀裂がさらに広がる。


バキッ!


……


「くっ……」


「これでも止められない……!」


シュッ!


イラリアは後方へ飛び退く。


だが――


ヒュンッ!


光の塊は岩塊を貫き、そのまま彼女へ向かってくる。


……


「強い……」


「本当に……強い。」


……


イラリアの周囲にマナが集まる。


剣が濃密な光に包まれた。


ドォォン!


光の塊が剣へ激突する。


両腕が激しく震える。


「くぅぅっ!」


身体が横へ弾き飛ばされる。


ドォォォン!


背後の建物が爆発した。


……


イラリアは素早く振り返る。


そして、再び道化師を見る。


……


「さっきより強い。」


「それでも……笑っている。」


……


道化師の肩が小刻みに震える。


押し殺したような笑い声。


……


「本当に……腹が立つ。」


「距離を取っても……」


「遠距離から攻撃してくる。」


……


「ずっと……私を馬鹿にしている。」


……


「ふぅ……」


イラリアは深く息を吸った。


……


「そろそろ、全部出すしかない。」


「この戦い……早く終わらせないと。」


「フィンが、あそこでいつまで持ちこたえられるか分からない……」


……


次の瞬間。


彼女の身体を強烈なオーラが包み込んだ。


ゴォォォォッ!


周囲の空気が激しく揺れる。


……


「もう……これしかない。」


……


イラリアは剣を振るった。


そして――


シュンッ!


凄まじい速度で駆け出した。


その姿が視界から消えかけるほどの速さ。


……


「もっと速く。」


「もっと……!」


「こいつに私の速度を合わせさせてはいけない。」


……


道化師の周囲を回る。


一度。


二度。


三度。


青い閃光が、道化師を取り囲んでいく。


……


だが――


道化師は、その中心に立ったまま。


静かに。


ただ静かに。


……


「さあ……」


「いつまで、その余裕が続くかしら?」


イラリアは突然、動きを止めた。


勢いを殺しながら、姿勢を低くする。


そして――


再び道化師へ突っ込んだ。


「はあああああっ!」


ガキィィィン!


剣が見えない障壁へ激突する。


刃が激しく弾き返された。


……


「くっ!」


イラリアは後退する。


そして、再び駆け出した。


……


「この障壁……」


「本当に厄介ね。」


「破れない。」


「それどころか……見ることすらできない。」


……


「でも……」


「どんなものにも限界はある。」


……


イラリアは叫んだ。


「どれほど強大な力でも……!」


「必ず限界はある!」


「道化師!」


シュッ!


再び突撃する。


ガキィン!


右から。


剣が弾かれる。


そして、すぐさま反転。


シュッ!


左から。


ガキィン!


また弾かれる。


さらに背後へ回る。


ガキィン!


上から。


ガキィィン!


……


激しい斬撃が、道化師の周囲を駆け巡る。


だが――


結果は変わらない。


剣は弾かれる。


障壁は微動だにしない。


……


「ほら、道化師!」


「いつまでそこで突っ立っているつもり?!」


「それとも……怖くて動けないの?!」


……


「……正直に言えば。」


「こんなふうに、ずっと動かないでいられるのは困る。」


「限界に近づいているのは……私のほうだから。」


……


「まだ完全には回復していない……」


「あのダンジョンでの一件から……」


……


ガキィン!


また一撃。


後退する。


そして――


再び突っ込む。


ガァン!


……


「人が限界を超えようとするとき……」


「その先には、二つの可能性がある。」


……


シュッ!


ガキィン!


……


「ひとつは――成功すること。」


「その場合……待っているのは疲労。」


「凄まじい疲労が……」


「でも、それは一時的なもの。」


……


イラリアは再び後退する。


そして――


また、前へ踏み込んだ。


「はああああっ!」


ガァァン!

……


「……失敗する。」


……


イラリアは後ろへ下がった。


苦しそうに息を吸う。


……


「そして……最悪の場合。」


「命を落とす。」


……


「限界を超えるなんて……簡単にできることじゃない。」


……


シュッ!


ガキィィン!


……


「もし成功して……生き残れたとしても……」


「待っているのは、耐えられないほどの痛み。」


……


けれど――


「おかしい……」


「今、私が感じている痛みは……」


「そこまで強くない。」


……


「どうして……?」


……


「この疑問は、ダンジョンから出て以来ずっと私を追い続けていた。」


……


「あの日から……」


「私は、誰かが何かをしているのを見た気がする。」


「でも……誰だった?」


「そして、何をしたの?」


……


イラリアはオーラをさらに強く放った。


ゴォォォォッ!


空気が激しく揺れる。


……


「走るだけじゃ……何も変わらない。」


「私の力を……全部解放するしかない。」


……


「はあああああああっ!」


イラリアは道化師へ向かって突っ込んだ。


ガァァァン!


剣が見えない障壁へ激突する。


強烈な風が周囲へ吹き荒れ、火花が飛び散った。


……


それでも、止まらない。


「私は……止まらない!」


「目的を果たすまで……!」


……


その瞬間――


ピシッ!


……


道化師の目が、ほんの一瞬だけ見開かれた。


……


「……成功した!?」


……


その直後。


イラリアは、上から何かが迫ってくる気配を感じた。


「これ……前にも……!」


……


イラリアは素早く後方へ飛び退いた。


そして――


ドォォォォォン!!


空に浮かんでいた光の塊の一つが落下した。


地面へ激突する。


ドォォォン!!


周囲が吹き飛び、強烈な衝撃波とともに砂煙と瓦礫が舞い上がった。


……


「くっ!」


「あと少しだったのに……!」


……


イラリアは剣を構える。


「すべてを見通すことのできる風の魂よ……」


「吹き荒れろ!」


「私に周囲を示せ!」


……


剣の周囲に魔法陣が浮かび上がる。


ゴォォォッ!


風が一気に周囲を駆け抜けた。


そして――


イラリアは剣を振り下ろす。


ザァァァン!


濃い砂煙が真っ二つに切り裂かれた。


……


イラリアは笑みを浮かべた。


そして、道化師を見る。


「……何?」


……


一歩。


また一歩。


「今度は……怖くなった?」


……


剣を構え直す。


「まだ……ショーは終わってないわよ。」


……


道化師は静かに彼女を見る。


そして両腕を上げると、首を左右へ振った。


まるで――


「つまらない。」


そう言っているかのように。


……


イラリアの動きが止まった。


「……は?」


……


「どういう意味……?」


……


イラリアは道化師へ向かって駆け出す。


「あなたが何も話さないなら……」


「私は答えを知ることができない!」


「答えが分からなければ……」


「あなたが何を考えているのかすら……推測できないじゃない!」


……


「はぁ……」


……


道化師の口元が、わずかに上がった。


だが――


何かが変わった。


……


「何か……」


「さっきの攻撃のとき……」


「一瞬だけ、こいつが動揺した気がした。」


……


「でも……待って。」


……


「身体が……戻っている。」


……


先ほどまでのような力の抜けた立ち方ではない。


そして――


周囲の空気まで静かになっていた。


……


「何が……起きたの?」


……


イラリアは足を止めた。


目を細める。


……


「最初から……」


「こいつは遊んでいた。」


……


「でも……今は……」


……


「違う。」


……


道化師が右腕を背中へ回した。


……


「何をするつもり……!?」


……


ゆっくりと腕を前へ戻す。


まるで――


背中から何かを引き抜くように。


そして、もう片方の手を上げる。


目の前の何もない空間を掴む。


まるで、見えない何かを持ち上げるように。


……


「こいつ……!」


……


道化師が拳を握る。


腕を少し後ろへ引き――


そして前へ戻した。


カチッ。


短い動き。


まるで――


銃に弾を込めるような動作。


……


道化師は首を傾けた。


そして――


自信に満ちた笑みを浮かべる。


……


「その笑い方……」


「嫌い。」


……


イラリアは素早く剣を構えた。


「高き魂よ!」


マナが彼女の身体を駆け巡る。


そして、剣へと集まっていく。


ゴォォォッ!


……


道化師が指を一本立てた。


イラリアへ向ける。


そして――


カチッ。


指を押し込んだ。


まるで引き金を引くように。


……


「どこから来る……!?」


イラリアは素早く周囲を見回した。


右。


左。


上。


後ろ。


……


何もない。


……


「何をしているの……?」


……


その瞬間――


道化師の身体が震え始めた。


肩。


腕。


そして――


全身。


……


「……は?」


……


まるで――


何度も何度も銃を撃っているかのように。


フオォォォォッ!


フオッ! フオッ! フオッ!


……


次の瞬間。


数十個もの光の塊が、一斉に放たれた。


それぞれが異なる色に輝きながら、凄まじい速度で空気を切り裂いていく。


……


「なっ……!?」


……


ドォォォン!!


ボォォォン!!


ガァァン!!


ドォォォン!!


……


光の塊がイラリアの周囲で次々と爆発する。


塔が激しく揺れる。


瓦礫が空へと舞い上がる。


……


「ありえない……!」


……


その頃――


街の別の場所。


――


街の広場。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


「……この戦い、本当に激しいな。」


「……ああ。」


「今まで……どうにか生き延びてきたけど。」


私は剣を構えたまま――


目の前の存在と向き合っていた。


……


その――


肉体すら持たない怪物と。


……


「さあ……怪物。」


「始めよう。」


……


サムラくんが、私の服にしがみついている。


サムラリス:


「フィン……頼むから助けてくれ!」


「俺は……弱いんだ!」

自信に満ちた笑みを浮かべながら、彼を見た。


「心配するな。」


「英雄は、そんなことを気にしない。」


「俺は、みんなを救うためにここにいるんだ。」


……


恐怖で震えるオリンが、俺を見る。


オリン:


「フィン……」


「頼む……この魔物を倒してくれ。」


「僕には……隠れていることしかできないんだ……」


……


「アハハハ……」


「心配するな、オリン。」


「俺は英雄だ。」


「英雄っていうのは、こういう時のためにいるんだ。」


「すべての弱き者のためなら、この命だって惜しくない。」


「アハハハハ……」


……


「そう。」


「どうだ?」


「実に感動的じゃないか?」


「強くて、カッコよくて、しかもイケメンな英雄になった俺が……」


「弱き者たちを救うんだぞ?」


……


「うわぁ……」


「本当に……最高だろうな。」


「もし……本当にそうだったなら。」


……


【通知:


〈魔物の意識を検知しました。〉】


……


「さて……」


「そろそろ、現実の悲惨な状況に戻ろうか。」


……


ドォォォォン!!


背後の地面が爆発した。


……


「くっそぉぉぉ!!」


「死にたくない!!」


「俺は、ただのモブなんだぞ!!」


オリンが叫んだ。


オリン:


「フィン! 気をつけろ!」


……


「うおお……」


「よりによって……俺が一番聞きたくなかったことを言いやがった。」


……


「くそったれ!」


「前にも言っただろ!?」


「魔物と戦ってる時に、俺の名前を呼ぶな!」


……


ドォォォォン!!


またしても背後で爆発が起こり、大地が激しく揺れた。

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