逃げ場がなくなったとき
……
数瞬後。
俺はエラリアに、自分がどうにか把握できたことを説明した。
俺たちが相手にしているものが何なのか。
そして、それを操っている者の居場所も。
……
短い話し合いの末、俺たちはそれぞれの役割に分かれた。
エラリアは操っている奴のもとへ向かう。
そして俺たちは……。
この化け物を相手にしながら、街の残りの場所へ向かわせないようにする。
……
もちろん……。
俺は、こんなことに関わりたくなんてなかった。
だが、実際には……。
こいつは、俺を狙って追ってきている。
だから、結果的に俺がこいつを引きつけることになっている。
だから、そのことを兵士たちの前で口にしたくはなかった。
下手をすれば、テロリスト扱いされかねない。
……
結局、俺にはこいつを相手にする以外の選択肢なんてなかった。
……
そして今……。
俺はここに立っている。
最後の逃げ道まで塞がれた、この場所に。
……
「ったく……」
「どうして、いつもこの世界は俺ばかり酷い目に遭わせるんだ?」
……
目の前では、兵士たちの叫び声が響き渡っていた。
彼らは必死になって戦っている。
目で見ることもできないものと。
気配すら感じ取ることのできないものと。
……
ドォォォォン!!
俺たちの目の前で、地面が爆発した。
オーレンが間一髪で後方へ飛び退く。
その頭上を、砕けた石の破片が飛び越えていった。
――おいっ!
俺は素早く身を低くする。
ヒュオッ!!
何かが、俺の顔のすぐ目の前を通り過ぎた。
見えなかった。
だが……感じた。
……
「くそ……」
「あとほんの一瞬でも遅れていたら……」
「俺の頭は、今頃どこかを転がっていたな。」
オーレン:
――どこから攻撃してくる?!
……
俺は素早く振り返った。
何もない。
ただ、地面から砂埃が舞い上がっているだけだ。
そのとき……。
何かを感じた。
動きじゃない。
音でもない。
ただ……。
奇妙な感覚。
通知:
<対象の意識に乱れを検知。>
……
「……は?」
「意識に……乱れ?」
ヒュオッ!!
――オーレン! 右だ!
オーレンは即座に動いた。
ドォォン!!
ほんの一瞬前まで彼が立っていた場所が、爆発した。
……
「今、未来を見たのか?」
「いや……」
「正確には違う。」
「俺は未来を見たんじゃない。」
「ただ……あいつが動く前に、化け物の存在を感じたんだ。」
オーレンは剣を握る手に力を込めた。
――どうやったのかは分からない……。
――だが、そのまま俺に指示を出してくれ。
……
「そのまま……?」
「まるで俺の頭の中に、こいつの地図でもあるみたいに言うなよ!」
通知:
<「知覚」スキルは、対象の動きを直接特定するものではありません。>
<対象内部に断続的な意識を検知。>
<第三者による支配の影響により、対象は完全な意識を保持していません。>
……
「おい……」
「じゃあ、これがさっき感じたものなのか!」
通知:
<対象に残された意識は、一部の行動を実行する直前に、一時的に現れます。>
<その瞬間を、フィンは感知することが可能です。>
……
「そういうことか……」
「俺は攻撃の未来を見ているわけじゃない。」
「化け物自身を感じ取っているんだ……」
「攻撃する直前に残った、わずかな意識を通して。」
ヒュオッ!!
再び、その感覚が走った。
――オーレン!
――伏せろ!
オーレンは迷うことなく身を低くした。
ヒュンッ!!
巨大な何かが、彼の頭上を通り過ぎた。
まるで、その周囲の空気そのものが押し潰されたかのようだった。
そして――。
ドォン!!
それが、彼の背後の地面に激突する。
石があちこちへ飛び散った。
オーレン:
――なるほど……分かった。
――お前には、攻撃する前のあいつを感じ取れるんだな。
……
「これ以上、理解されなきゃいいんだが……。」
――アハハハハ……。
――お前、本当に頭がいいな!
「簡単なことみたいに言いやがって……。」
「こういう、何でも簡単に理解する主人公タイプって嫌いなんだよな。」
通知:
<警告。>
<対象に残された意識は不安定です。>
<信号が発生した後、対象の行動が変化する可能性があります。>
……
「……は?」
突然……。
感覚が消えた。
……
「……え?」
「どこへ行った?」
背後に何かを感じた。
振り返る。
何もない。
そして――。
通知:
<対象の方向が突然変化しました。>
――オーレン! 後ろだ!
オーレンが振り返る。
ドォォォォン!!
巨大な何かが、彼の剣に激突した。
火花が飛び散る。
オーレンは数メートル後退し、靴が地面に深く食い込んだ。
――くっ……。
……
「くそっ!」
「最後の瞬間で方向を変えやがった!」
通知:
<対象は一定のパターンに従って行動していません。>
<外部からの制御が、対象に残された意識と干渉しています。>
……
「最高だな。」
「姿は見えない。」
「正確な位置も特定できない。」
「それどころか……」
「感じ取れたとしても、攻撃する直前に方向を変えられる。」
……
「こういうときほど、逃げたくなるんだよな……。」
ヒュオッ!!
再び、その感覚が走った。
だが、今度は……。
下からだ。
――サムラ君!
サムラ君がゆっくりと顔を上げる。
――何?
――動け!
――どこへ?
――どこでもいい!!
サムラ君は横へ飛び退いた。
ドォォォォン!!
彼が立っていた場所から、地面の塊が勢いよくせり上がった。
サムラ君:
――おお……。
――危なかった。
……
「この少年……」
「本当に馬鹿になるスイッチでも入ったんじゃないだろうな。」
――オーレンを援護してくれ!
――使える支援魔法は何でもいい!
サムラ君:
――そういえば、何か大事なことを忘れていた気がする。
……
「この言い方……」
サムラ君:
――魔力が切れたって、君に言ったよね。
……
「……」
「ああ。」
「そうだった。」
……
「これだけは、忘れていたかった。」
俺はオーレンを見る。
息を切らしていた。
腕がわずかに震えている。
それでも、剣だけはしっかりと握り続けていた。
次にサムラ君を見る。
そして、化け物が消えた場所へ視線を向ける。
……
「くそ……。」
「何一つ、思い通りに進まない。」
「サムラ君は支援担当。」
「オーレンは戦闘担当。」
「そして俺は……。」
「避けられない運命を迎える脇役みたいに、隠れているだけ。」
……
「だが、ルービックキューブがサムラ君の魔力を全部吸い取った。」
……
「このポンコツが!」
「作戦は成功するって言っただろ?!」
通知:
<全データを分析した結果。>
<生存率は高いと判断されます。>
――どうやって?!
ヒュオッ!!
俺は身を屈めた。
何かが肩のすぐ横を通り過ぎ、髪の毛が数本舞い上がる。
「うおおお……!」
「まるで死神に手を振られたみたいだったぞ!」
……
「どうして生存率が高いなんて言えるんだ……。」
「そもそも、作戦自体が失敗してるだろ?!」
ドォン!!
オーレンが再び攻撃を受け止める。
だが、衝撃の強さに身体ごと後ろへ押し飛ばされた。
靴が地面を滑る。
オーレン:
――気を散らすな!
――生き残ることだけに集中しろ!
――こっちだってそうしてる!
……
「くそったれ!」
「お前らが全員、役立たずじゃなかったら……。」
「俺は今頃、安全な場所から戦いを眺めていられたのに!」
……
通知:
<ルービックキューブの構造の一部を分析しました。>
<解析結果は不完全です。>
……
「不完全?」
「このポンコツ……。」
「たった一つの仕事すら、まともにできないのか?」
通知:
<ルービックキューブは、特殊な性質を持つ根源化スキルです。>
<その機構は、既知のスキルパターンとは完全には一致しません。>
……
「そういうことか……。」
「つまり、今のところ……。」
「こいつが一体何なのか、正確には分からないってことか。」
通知:
<一部の機能を特定することは可能です。>
<第一:周囲に存在するエネルギーを吸収する。>
<第二:吸収したエネルギーを損失なく蓄積する。>
<第三:蓄積したエネルギーを再放出することができる。>
……
「再放出?」
「じゃあ、どうして今まで教えてくれなかったんだ?」
通知:
<フィンが質問しなかったためです。>
……
「くそ……。」
「わざと俺を苛立たせてるのか?」
「チッ……。」
「それでも、欠陥プログラムと口喧嘩している時間はない。」
……
――それじゃ、ガイド……。
――俺のスキルの一つが原因で、サムラ君の魔力が尽きたんだよな?
――だったら、今の状況からどうやって生き残ればいい?
……
通知:
<ルービックキューブ内部のエネルギーの流れを変更することが可能です。>
……
「……」
「それ、どういう意味だ?」
通知:
<吸収モードから放出モードへ変更できます。>
……
「つまり……。」
「このキューブは魔力を吸収する。」
「そして、それをもう一度放出できる。」
通知:
<その通りです。>
……
「でも……。」
「俺には魔力がない。」
通知:
<保有する必要はありません。>
……
「……」
「この機械……。」
「回答が短すぎるんだよ。」
「こっちは命が懸かってるっていうのに、普通に会話してるみたいに返しやがって。」
通知:
<フィンは、キューブから別の地点へエネルギーを転送するための媒介として機能できます。>
……
「また意味の分からない答えが来た。」
通知:
<蓄積されたエネルギーを、指定した地点へ放出することができます。>
……
「つまり……。」
「キューブが魔力を吸収する。」
「それを蓄える。」
「そして俺が、それを放出して別の場所へ集中させる。」
……
「でも……。」
「それってつまり、俺は……。」
……
「魔力ポンプ?」
……
「自分が役に立てるようになったって知る方法としては、あまりにも屈辱的だな。」
……
その瞬間――。
再び、あの感覚が戻ってきた。
だが、今度は……。
近くじゃない。
遠い。
そして、近づいてくる。
止まった。
それから、横へ移動する。
……
「そこだ。」
俺は顔を上げた。
――オーレン!
――正面から来る!
オーレンは剣を握る手に力を込めた。
――分かった!
ヒュオッ!!
化け物が突進してくる。
見えない。
だが、その存在は感じ取れる。
そして、あいつの意識が一瞬だけ現れた、その瞬間――。
俺は叫んだ。
――今だ!
ドォォォォン!!
オーレンが前へ踏み込む。
その剣が、見えない何かと衝突した。
空中で火花が弾ける。
だが、今回は……。
オーレンは後退しなかった。
両足をしっかりと地面に踏みしめる。
オーレン:
――見つけたぞ!
「見つけた?」
「いや……。」
「むしろ、お前は死にかけていた。」
「俺はただ……。」
「お前を死から遠ざけただけだ。」
「だから、俺に感謝しろ。」
通知:
<「知覚」と危険察知能力の間に同調を確認。>
<対象に残された意識が、より明確になりました。>
……
「化け物が意識の一部を残している限り……。」
「俺には、あいつを感じ取ることができる。」
「だが、その意識が消えてしまえば……。」
「俺には、あいつの動きを予測できなくなる。」
……
「つまり、俺たちは……。」
「残された最後の意識が消える前に……。」
「この戦いを終わらせなければならない。」
通知:
<外部からの制御強度の上昇を検知。>
……
「くそ。」
「どうやら、操っている奴がさらに深く介入し始めたらしい。」
ドォォォォン!!
オーレンが後方へ弾き飛ばされる。
……
――オーレン!
彼は苦しそうに剣を持ち上げた。
――俺は大丈夫だ!
……
「いや。」
「大丈夫じゃない。」
「そして、この戦いは……。」
「俺が思っていた以上に、悪い方向へ進み始めている。」




