人生で二番目に最悪な始まり方
【注記】
ハリールは、特殊な尺度――**「リヒター・スケール」**を用いている。
この尺度には、主要な十段階しか存在しない。
しかし、その本当の意味や正体については……いまだ謎に包まれている。
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「うう……」
なんだ、この感覚……。
俺は……死んだのか?
「……ん?」
これ……。
俺の……記憶?
幼い頃。
学校。
家。
旅行。
そして、できることなら忘れてしまいたかった失敗の数々。
「そうか……」
「俺、本当に死んだんだな……」
ため息が漏れる。
「俺の人生……終わったのか……」
「何も、たいしたことを成し遂げないまま……」
家族……。
故郷……。
友達……。
みんなを置いてきてしまった。
「……いや!」
待て。
「くそっ!」
「まだ読んでないマンガがあるんだぞ!」
あの旅行には大金を使ったんだ!
しかも……。
あのスライムの映画だって、まだ観てない!
「考えてみろ……」
「スライムにすら、俺よりマシな異世界転生を与えられてるじゃないか!」
それに比べて俺は……。
この世界に来てからというもの、ずっと魔物から逃げ回っている。
そのたびに、あと少しで魔物の餌になるところまで追い詰められている。
「先に金を返してくれ!」
そこで、ふと何かを思い出した。
「……ん?」
「スマホ!」
待て……。
もし、あの店主が俺のファイルを開いたら……?
「……」
いや。
考えるのはやめよう。
あいつ、そもそも端末の中のプログラムまでいじってたんだぞ。
「プログラム……」
俺はふと、何かを思い出しかけた。
「プログラム……」
待て。
何かを思い出したような……。
目を見開く。
「……ガイド!」
そうだ!
俺にはガイドがいる!
つまり……。
俺には特殊なスキルがある!
「よっしゃあああ!」
ついに!
モブ時代の終わりだ!
俺は拳を握りしめた。
「聞け、このシナリオ!」
「お前の負けだ!」
「俺が主人公になる!」
……
沈黙。
「……」
「コホン」
まあ、当然か。
こんなことを言っても、拍手してくれる人間なんているわけがない。
……だが、待て。
そもそも、俺はどうしてここにいるんだ?
そういえば、ガイドは俺が休眠状態に入ると言っていた。
三日間。
それから……。
俺が死ぬ確率は九十パーセントとも言っていた。
「……あ」
まさか……。
スキルを手に入れた直後に死んだのか?
「いや」
俺は首を振った。
「いやいやいや……」
「なんでいつも俺なんだよ!」
そして、ふと気づく。
「……待て」
もし俺が死んでいるなら……。
どうして、まだ考えられる?
そうだ。
身体の感覚はない。
だが、意識ははっきりしている。
なら……。
まだ希望はある。
俺は小さく笑った。
そして、話を戻そう。
何より重要なのは……。
「俺には特殊スキルがある!」
「アハハハハハ!」
高笑いが響く。
……
俺は笑うのをやめた。
「……コホン」
落ち着け、ハリール。
未来の主人公は、そんな笑い方をしない。
深く息を吸う。
「よし……ガイドさん」
起きてるなら、出てきてくれ。
俺は何が起きているのか、何も分からないんだから。
待つ。
……
「ガイドさん?」
何も起こらない。
「恥ずかしがらなくていいぞ」
「俺はただの新しい相棒だからな」
返事はない。
「よし……ガイドさん!」
声を張り上げる。
「返事してくれ!」
……
何もない。
「おーい……」
まさか、さっきは俺の声を聞いていたくせに、今になって無視してるんじゃないだろうな。
いや。
そんなはずはない。
何か理由があるはずだ。
もしかして、合言葉が必要なのか?
それとも、特定の動作?
……あるいは、もっと大声で叫ぶべきなのか?
俺は大きく息を吸った。
「ガイドさあああああん!!」
……
静寂。
俺は虚空を見つめた。
「はは……」
素晴らしい。
ここまで色々あったというのに……。
俺が手に入れたスキルは、人見知りだった。
いや、もしかすると……。
「……自動発動型のスキルなのか?」
うーん……。
いや。
その可能性は考えたくない。
「落ち着け、ハリール」
お前は冷静な男だ。
分析しろ。
推理しろ。
慌てる必要はない。
……
「くそっ!」
いや、めちゃくちゃ慌てる必要がある!
あと一歩で主人公になれると思ったのに……。
今は自分のスキルすら起動できない!
「この世界を訴えてやる!」
誇大広告で!
『伝説級スキルをゲット!』
そう宣伝しておいて、届いたのは動かない体験版。
俺は落ち込みながら座り込んだ。
「もう……いい……」
本当に、もういい。
俺は魔物から逃げて、命からがら生き延びたばかりなんだ。
頼むから、ガイドまで俺から逃げないでくれ。
お願いだから……。
「俺だって人間なんだぞ……」
……
チン……。
「……ん?」
おお!
ついに!
危うく星一つのレビューを書き始めるところだった。
……だが、待て。
どうしてまた俺の記憶が映っている?
俺の記憶なんて、これしかないんだぞ。
二度も恥をかかせるな。
……待て。
これ、俺だ。
「おい……」
水の上に浮かんでる俺、めちゃくちゃ馬鹿みたいじゃないか。
待て……。
俺、何か言ってたか?
> 『……ガイドは……休眠状態に……入ります……』
『対象者ハリールが……三日間……意識を失うため……』
「俺、こんなこと言ったのか?」
覚えてない。
でも……。
どうやら、本当に言ったらしい。
うーん……。
ということは、ガイドは壊れてるんじゃない。
つまり……。
寝てる?
……
カチッ!
「分かった!」
ようやく分かった!
つまり俺が手に入れたのは、ポンコツプログラムじゃない。
仕事中に寝るプログラムだったんだ。
……待て。
それ、どっちがマシなんだ?
「いや!」
こっちのほうが酷い!
「おい!」
俺はこんなスキルを手に入れるために転生したんじゃないぞ!
俺が欲しかったのは……。
偉大なる賢者!
超高性能な頭脳!
何でもいい!
それなのに……。
「公務員みたいな職員を寄越すとか……!」
これはあんまりだろ!
「この怠け者ガイド! 起きろ!」
働き始めて一分も経ってないだろ!
その瞬間――。
シュウウウウッ!
「うわっ!」
なんだ、この光!?
「おい! 目に入るって!」
そして、静寂が訪れた。
「……ん?」
俺は……。
生きてる?
待て。
痛くない。
血も出ていない。
「よかった……」
ちゃんと五体満足だ。
ということは……。
ここはどこだ?
周囲を見回す。
ベッド。
毛布。
木造の部屋。
「まさか……」
本当に異世界の部屋なのか?
待て。
朝……?
最後に覚えているのは、川の中を、人生に絶望した魚みたいに漂っていたところなんだが……。
それが今はここ?
変だな。
よし。
調査開始だ、ハリール。
ここはどこだ?
誰が俺を助けた?
そして、食べ物はあるか?
……
重要なところから確認しよう。
カタン……。
「おお……」
木の音。
木製のベッド。
木造の部屋。
何もかも木でできている。
「素晴らしい」
ようやく異世界に来た実感が湧いてきた。
俺は窓へ向かった。
「さあ、新しい世界を見てみよう」
窓の外を覗く。
……
「うわあ……」
待て。
これ……。
これこそ俺が待ち望んでいた光景だ!
太陽。
丘。
新しい街。
新しい世界。
「ついに……!」
ついに、主人公の物語が始まった!
俺は目の前の景色に見入った。
「すげえ……」
なんて美しいんだ。
あそこにいる人々。
建物。
何もかもが新鮮だ!
今度こそ、本当の第一章が始まったような気がする。
そして、もしかしたら……。
美少女もいるのでは……。
「……コホン」
いや。
親切な住民。
素晴らしい街。
これから知っていきたい社会。
うん。
さあ、窓を開けて、新しい人生を始めよう。
俺は窓に手をかけた。
カタン……。
「……ん?」
なんだ、この音?
カタン……。
「待て」
いや。
まさか……。
窓まで俺に喧嘩を売ってるのか?
その瞬間――。
ガシャアアアアン!
「うわあああああっ!」
---
「……あ」
大事なことを忘れていた。
この世界は、モブに長く幸せでいることを許してくれない。
……なんで俺、こんな場面を見たことがある気がするんだ?
異世界に転生したモブが目を覚ます。
窓を開ける。
新しい世界を眺める。
そして……。
窓から飛んでいく。
「……素晴らしい」
まさに、伝説の始まりだ。
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