追跡
なぜカリルは異世界へ転移したのか?
そして、どうやってそこへ辿り着いたのか?
そもそも、異世界というものが存在することは本当にただの偶然なのだろうか?
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X:@khamassiyassin
作品を見てくださった皆さん、本当にありがとうございます。
少しでも皆さんの興味を引くことができていたら嬉しいです。
これからもこの物語を楽しんでいただけるよう、頑張っていきます。
長い追跡の末……
……
もう、足の感覚がない。
……
そして最悪なのは?
あの化け物が、まだ後ろにいる。
「……よし」
……
今になって、ようやく分かった気がする。
異世界ものでは……
主人公は新しい世界へやって来る。
謎の力を手に入れる。
自分の運命を知る。
そして、壮大な冒険が始まる。
……
じゃあ、俺は?
目を覚ました。
そして、食われそうになっている。
……
「……最高だ」
「どうやら俺の運命は、死ぬことらしい」
……
待て。
木々の間に、何か光っている。
俺は一瞬足を止め、その光を見つめた。
「……あれ、村か?」
……
これが希望の始まりなのか?
……
でも……
待てよ。
もし村だったら……
どうなる?
俺は叫びながら村に入るのか?
その後ろには、家ほどもある巨大な化け物。
……
「……ああ」
「最高のアイデアだな、ハリール」
『こんにちは。巨大な災害を連れてきた謎の男です』
……
くそ。
やめよう。
そんなの、絶対にうまくいかない。
……
「……最悪の場合」
「主人公が来て、こいつを倒してくれるだろ」
……
頼むから……
主人公の村じゃありませんように。
……
「よし!」
「村じゃない!」
……
待て。
何かがおかしい。
足元に何も感じない。
「……え?」
下を見る。
……
崖。
……
俺は地面に立っていない。
……
「……」
……
「よし」
そろそろパニックになる時間だ。
……
「くそおおおおお!」
「なんで……」
「主人公の村じゃないんだよおおおおお!」
---
風が激しく顔を叩く。
「……待て」
ここで一つ、面白いことを教えてやろう。
俺は飛行スキルなんて手に入れていない。
俺はただ……
……
高い場所から落ちているだけだ。
……
「これは偉業じゃない」
「地理的な馬鹿だ」
---
そして……
……
水。
周囲のすべてが消えた。
凄まじい冷たさが全身を包む。
……
「母さん……」
「エアコン消して……」
---
耳に鋭い痛みが走った。
「いっ……てえええええ!」
慌てて水面から顔を出す。
「何だ!?」
「ここ、どこだ!?」
だが、痛みはさらに強くなった。
耳に手を伸ばす。
……
魚。
……
巨大な魚が、俺の耳に食らいついていた。
……
「……」
魚を見つめる。
「……ふざけてるのか?」
巨大な化け物から逃げた。
崖から落ちた。
そして今度は?
……
魚に殺される?
「本当に?」
「今の俺の敵って、このレベルなのか?」
「うわああああああああっ!」
---
しばらくして……
「はぁ……」
つまり……
夢じゃなかった。
「……ハックション!」
……
「最高だな」
巨大な化け物。
崖から転落。
無料ダイビング。
そして今度は寒さ。
……
「早く……休める場所を見つけないとな」
……いや。
「少なくとも……」
「あの化け物からは逃げ切れた」
つまり……
モブの俺がするべきことは?
……
「逃げる」
……
そして、それを実行した。
---
そのとき。
ドォォォン!
俺は足を止めた。
「……ああ」
「この展開、知ってる」
これは、モブがようやく助かったと思う場面だ。
……
だが。
どうやら作者には別の考えがあるらしい。
「……う……おお……」
「何だよ、これ……」
ゆっくりと顔を上げる。
「……あいつ、まだ諦めてないのか?」
そして叫んだ。
「おい!」
「俺はただのモブだぞ!」
「完全なる脇役だ!」
「お前、相手を間違えてないか!?」
……
「主人公なら、あっちだ!」
---
俺は立ち止まった。
……待て。
あいつの身体……
ボロボロじゃないか?
しばらく見つめる。
そして、ようやく理解した。
「ああ……」
「これ、あいつが馬鹿みたいに飛び降りたせいか」
……
沈黙。
化け物は動かない。
……
「……なるほど」
「落下記録を更新した勝者が決まったな」
---
ということは……
……
俺の勝ち?
モブの勝利ってやつか?
確かに、俺は何もしていない。
俺の貢献といえば、ひたすら逃げただけ。
それでも……
……
生き残ったことだって、立派な成果だ。
俺は誇らしげに顔を上げた。
「脇役代表として宣言する!」
「視聴者を満足させることより、生き残ることのほうが大切だ!」
「これが今日、俺が学んだ一番大事な教訓だ!」
……
よし。
さようなら。
……
あ。
そういえば、気になる人もいるだろう。
なぜ俺は近づかないのか?
簡単だ。
俺はこの展開を千回くらい見てきた。
近づく。
死んでいると思う。
目を開ける。
俺が死ぬ。
終わり。
……
「いやいや」
「今日は勘弁してくれ」
---
一歩。
……
二歩。
……
三歩。
……
いや。
やめよう。
俺はそこまで馬鹿じゃない。
……
だが!
もし本当に死んでいたら?
何かを落としているかもしれない。
宝物とか。
武器とか。
特殊能力とか。
あるいは……
俺のモブ度を少しでも下げてくれる何かとか。
……
俺は立ち止まった。
もう一度、化け物を見る。
「……よし」
「少しだけ近づこう」
……
くそ。
「モブの本能が働き始めている」
「耐えろ、ハリール」
「お前は生きたいんだろ」
そして主人公は……
……
「まず、生き残る」
……
よし。
決めた。
---
数分後……
俺は化け物から数メートル離れた場所に立っていた。
化け物を見つめる。
そして唾を飲み込む。
「なあ……」
「たまに思うんだけどさ」
「どうしていつも、敵が死んでいるか確認する役はモブなんだ?」
少し考える。
「まず一つ」
「モブは危険な選択をするようにプログラムされている」
「二つ」
「モブは、自分こそがこの仕事に最適な人間だと思っている」
「そして三つ……」
……
「もし化け物が突然起き上がったら……」
「死ぬのはモブだ」
「主人公じゃない」
「主人公にはハーレムがあるからな」
俺は止まった。
「……それに」
「物語がある」
「未来もある」
自分を見る。
「でもモブには……」
……
「生まれる前から書かれていた死亡届しかない」
……
沈黙。
「……自分で自分を傷つけた気がする」
ため息を吐く。
「ごめんなさい」
「今まで笑ってきたすべての脇役キャラに謝る」
「俺は何も分かってなかった」
拳を握る。
「くそっ!」
「モブをここまで弱くした作者、出てこい!」
---
まあ……
それはさておき。
俺を甘く見るな。
俺はもう普通のモブじゃない。
まず……
シャツを脱ぐ。
次に……
石を詰める。
そして……
原始的な武器を作る。
石でパンパンになったシャツを見る。
「はは……」
「これが経験ってやつだ」
俺は伝説級のスキルを持っていない。
だが、俺にはシャツがある。
そして、そのシャツには石が詰まっている。
……
「少なくとも、これは実在する武器だ」
俺は少し黙った。
「……まあ」
「自分にそう言い聞かせているだけだけどな」
---
よし。
まずは遠くからだ。
……
かなり遠くから。
石を拾う。
化け物を見る。
「もしお前が死んでるなら……」
手を振る。
「……えいっ!」
……
何も起こらない。
「よし」
二個目。
「えいっ!」
「まだ信用できない」
三個目。
「えいっ!」
四個目。
「えいっ!」
五個目。
「えいっ!」
十個目。
「えいっ!」
二十個目。
「えいっ!」
三十五個目。
「えいっ!」
五十個目。
「えいっ!」
俺は手を止めた。
「……なあ」
「これってさ」
「最初からモブはこうするべきだったんじゃないか?」
「化け物に近づいて……」
『お前、死んでるのか?』
なんて言って……
その直後に爆発する。
「……へへ」
「俺は違う」
シャツに手を伸ばす。
「もう一個」
「えいっ!」
「これは念のため」
「えいっ!」
「これは念のための念のため」
「えいっ!」
「そしてこれは……」
俺は止まった。
「……作者を信用してないからだ」
---
さて……
どれくらい経った?
十分?
二十分?
いや……
「……たぶん、三十分くらい石を投げ続けてるな」
それでも……
化け物は動かない。
「……良い知らせだと思うことにしよう」
目を細める。
「それとも……」
「ものすごく精巧な死んだふりか?」
「はぁ……」
よし。
近づこう。
でも、もし目を開けるなら……
頼む。
せめて俺が逃げる時間をくれ。
---
一歩。
何もない。
二歩目。
まだ動かない。
三歩目。
「……うわ」
「俺、本当にやってるよ」
さっきまで化け物から逃げていた俺が……
今度は自分から近づいている。
……
「……モブの本能って、思った以上に危険だな」
---
よし。
ここまで来た。
巨大な化け物の前に立つ。
しばらく見つめる。
「ああ……」
「なんで今になって怖くなってきたんだ?」
「落ち着け、ハリール」
「大丈夫だ」
「お前は強い男だ」
……
沈黙。
「……そうだった」
「俺、モブだった」
……
「でも、それでも……」
「こんな化け物を倒したんだ」
……
待て。
「俺、本当に倒したのか?」
少し考える。
「まあ……」
「一番大きな功績は、崖から落ちたことだと思うけど」
笑う。
「でも、いいだろ」
「精神的な貢献も大事だ」
---
そうだ。
俺はハリール。
本来なら、モブになるはずだった男。
……
そして今。
俺は敗れた巨大な化け物の前に立っている!
「ははははははは!」
---
……待て。
なんで急に寒くなった?
俺の笑顔が消える。
「いや」
「これは嫌な感じだ」
周囲を見る。
「怖い」
「ものすごく怖い」
唾を飲み込む。
「よし」
「英雄タイムは終了だ」
一歩下がる。
「これ以上は近づきたくない」
さらに一歩。
「今日の勇気は、この辺で十分だ」
……
だが……
待て。
何か残しているかもしれない。
宝物……
武器……
金……
俺は止まった。
「……よし」
「現実的に考えよう」
俺は無一文。
腹も減っている。
汚れている。
そして、十数分おきに死の危険に晒されている。
さらに、夜が近づいている。
脇役の俺は、なんとか昼を生き延びた。
では、夜になったらどうなる?
「行け、ハリール」
「お前ならできる」
---
よし。
「……近づこう」
ゆっくり。
慎重に。
何が怖いのか、自分でも分からない。
それでも、あいつを見るだけで肌が粟立つ。
……
「もし別の人間なら……」
「たぶん逃げるだろうな」
俺は止まった。
「……待て」
「俺も人間だ」
「つまり、俺も逃げるべきだ」
……
化け物を見る。
そしてため息を吐く。
「……でも、ここまで来たんだ」
「モブの馬鹿さに戻ろう」
---
「はは……」
「見てくれよ」
「俺、自分から化け物に近づいてるぞ」
これは……
「キャラクター成長ってやつだ」
「俺、ちょっと誇らしい」
---
「……」
待て。
「何だ?」
あれは鳥か?
まさか……
化け物をつついてる?
しかも……
何食わぬ顔で?
「くそ……」
「今の雰囲気を壊すなよ」
「チッ、チッ」
鳥を睨む。
「俺がモブなのは分かってる」
「でも、自然界まで俺に思い知らせる必要あるか?」
---
よし。
ようやく到着した。
本当のテストの時間だ。
「はああ!」
「やああ!」
「きゃああ!」
……
俺は止まった。
「……」
「よし」
「ちょっと気合いを入れすぎたな」
まあいい。
戦利品を探そう。
---
何もない。
上にもない。
下にもない。
「……おい」
「何かくれよ」
「何でもいい」
「魔石でも」
「金貨でも」
「パン一枚でもいい」
俺は止まった。
「……欲張るな、ハリール」
「お前はただのモブだ」
---
化け物を見る。
「なあ、化け物」
「一つだけ話し合おう」
「もし生きているなら……」
「起きないでくれ」
「俺はちょっと探し物をしているだけだ」
「お前を邪魔するつもりはない」
「ゆっくり死んでくれ」
「誰も急かしてないからな」
「最後の時間を楽しんでくれ」
そして少し後ろへ下がる。
「俺も、お前を起こさないように努力する」
---
よし。
この長い捜査の結果……
第一。
この化け物は怖い。
第二。
思った以上に臭い。
第三。
戦利品はない。
……
これはおかしい。
俺が読んできた物語では……
魔物は必ず何かを残す。
ということは、可能性は二つ。
こいつが弱い。
あるいは……
まだ生きている。
死んだふりをしている。
……
「……」
「いや」
その可能性については考えない。
そもそも、俺は自分の生存すら保証できない。
---
だが……
待て。
太陽が沈み始めている。
空を見上げる。
「……いや」
「いやいやいや」
「夜!?」
……
最高だ。
俺は死んだ魔物に石を投げ続けて……
こんなに時間を無駄にした。
化け物を見る。
「……自分が誇らしいよ」
そしてため息。
「くそ」
「全然よくない」
ここに残ったら……
今度こそ本当に死ぬ。
---
……ん?
あの光は何だ?
化け物の頭のあたりを見る。
何かが光っている。
「落ち着け、ハリール」
「この世界のものが全部お前を殺したいわけじゃない」
少し考える。
「……まあ」
「ほとんどのものは俺を殺したがってるけどな」
「全部じゃない」
光を見つめる。
「……たぶん」
---
よし。
俺には石の武器がある。
石でいっぱいになったシャツを見る。
「笑うなよ」
「今の俺にとっては最高の装備なんだ」
石を一つ持ち上げる。
「少なくとも、危険そうなふりはできる」
---
あと一歩。
何も問題ない。
俺はただ……
死んだ化け物の頭に近づいているだけだ。
……
こうして口に出してみると……
ものすごく悪い考えに聞こえるな。
---
「よし」
「一……」
「二……」
「三!」
手を化け物の頭の中へ突っ込んだ。
「うおおおおお!」
……
俺は突然止まった。
「……何だこれ!?」
「どうしてこの世界のものは、俺を食おうとするか、気持ち悪い思いをさせるかのどっちかなんだよ!」
自分の手を見る。
「俺の手……」
「洗わないと」
「何度も」
「何度も何度も」
---
待て。
「……何かある」
指で触れる。
硬い。
冷たい。
骨じゃない。
目を細める。
「じゃあ、これは何だ?」
「うーん……」
さらに触ってみる。
「形は……」
「四角?」
もう一度、指先で確かめる。
「いや」
「ただの四角じゃない」
この区切り方……
「まさか……」
さらに探る。
「嘘だろ……」
「これ……」
「キューブ?」
「……ルービックキューブに似てる?」
---
……
「……」
「なんでだ?」
なぜか、これが重要なものに思える。
嫌な予感がする。
---
待て。
どうして急に静かになった?
鳥まで、つつくのをやめた。
「……いや」
「この静けさ、嫌いだ」
---
「おい……」
「いや」
「待て、待て、待て」
「まさか……」
化け物を見る。
「まさか、お前……」
「死んだふりしてたんじゃないだろうな?」
---
「なあ、化け物……」
「一つだけ言わせてくれ」
「俺はお前の死を尊重した」
「石を投げたのだって、敬意を込めてだ」
「戦利品も敬意を込めて探した」
「起きるなってお願いしたときだって、ちゃんと礼儀正しく言った」
……
「それなのに……」
「どうして俺にこんなことするんだよ!?」
---
ああ。
分かった。
これがいつもの展開だ。
モブが助かったと思った瞬間……
作者が笑っている。
---
「……よし」
「短い人生だった」
「でも、悪くなかった」
「新しい世界を見た」
「魔物は簡単には死なないと学んだ」
「魚も敵になると学んだ」
……
「……うん」
「今までの人生で、一番奇妙な文章だな」
---
「さようなら」
「さようなら、俺の人生」
「さようなら、モブキャラ人生」
「誰にも気づかれないキャラクターでいられて光栄だった」
……
化け物が目を開いた。
……
「くそっ」
顔が近い。
近すぎる。
あまりにも近くて、一瞬だけ自分が最悪の状況にいることを忘れた。
待て。
どうして俺はこんなに近い?
……
ああ。
そうだった。
俺の手がまだ、こいつの頭の中に入っている。
---
「こんにちは、魔物さん」
「家に勝手に入ったと思わないでくれ」
「俺はただ、人生を少しでもマシにしてくれるものを探していただけだ」
「頭の中に手を入れるつもりなんてなかった」
「信じてくれ……」
「本当に……」
「こんなことになるなんて、俺も思ってなかったんだ」
「でも約束する」
「二度とやらない」
……
「うおおおおおおおおおおおおっ!」
---
「……なるほど」
「謝罪は嫌いらしいな」
手を引っ張る。
「出ろ……」
「出てくれ……」
「……え?」
俺は止まった。
「待て」
「なんで手が抜けない?」
化け物を見る。
それから自分の手を見る。
「まさか……」
「頭が俺の手を返す気がないのか?」
「魔物さん……」
「この手、俺には必要なんだ」
「こいつには未来があるんだぞ」
---
よし。
「必要なことを言うのは嫌なんだが……」
「だから……」
「心からお願いする」
「返してくれ」
……
「うおおおおおおおっ!」
---
「分かった!」
「メッセージは受け取った!」
「怒ってるんだな!」
「分かった!」
「でも、理性的な生物同士として話し合わないか!?」
「俺は平和主義者だ!」
「石を少し投げただけだ!」
「これは完全な攻撃とは言えないだろ!?」
……
「ぐおおおおおおおっ!」
---
「……ああ」
「悪かった」
「魔物に論理を求めるのを忘れてた」
---
待て……
「……何だ?」
何か嫌なことが起きる気がする。
嫌だ。
頼むから……
「爆発する時間じゃないよな?」
……
「くそ」
「ものすごく膨らんでる」
「こんなに早く大惨事になる予定じゃなかったぞ」
---
「うおおおおおおおおおおおおっ!」
---
「うわあああああっ!」
「何だ、この熱!?」
「お前の頭の中、かまどでも入ってるのか!?」
「正式に苦情を申し立てたいんだけど!?」
---
「うおおおおおおおおおおっ!」
---
「……よし」
「最後のメッセージの時間だ」
俺は深く息を吸った。
「視聴者の皆さん……」
「ここで緊急速報です」
「魔物が突然、俺の人生を劇的に終了させることを決定しました」
「ご視聴ありがとうございました」
「こちらはハリール……」
「この世界に来てから、まだ一日も経っていない男でした」
---
すべてが揺れた。
「……ああ」
「何が起きてる?」
……
寒い。
……
水。
「……え?」
「水?」
周囲のすべてが消えた。
そして一瞬……
俺には何が起きたのか理解できなかった。
……
やがて、すべてが静まる。
周囲の水を見つめる。
「……よし」
「どうやったのかは分からないけど……」
「俺は生き残った」
……
まただ。
ため息を吐く。
「この世界……」
「俺を殺そうとしてるんじゃないか?」
そして皮肉な笑みを浮かべる。
「……でも、下手くそだな」
---
『頭……』
『回る……』
『うっ……』
『今はやめてくれ……』
……
『この声……何だ?』
【通知】
『……え?』
【ガイドが起動しました】
『ガイド?』
『どのガイドだ?』
【手続きを続行しますか?】
『何の手続きだよ?』
……
声が消えた。
『おい……』
『どこ行った?』
返事はない。
そして、別の声が現れた。
【手続きが完了しました】
『……待て』
『俺、まだ同意してないぞ』
沈黙。
『……俺、異世界に来て一日で頭がおかしくなったのか?』
『それとも、この世界ではこれが普通なのか?』
---
『何だ、これ……』
『プログラムか?』
『それとも、さすがに色々ありすぎて俺の頭が新しいものを作り始めたのか?』
【通知】
【対象:ハリール】
【約三日間の睡眠状態に移行します】
『三日間?』
『待て……』
『三日間も!?』
【この期間、身体は無防備な状態になります】
『無防備……?』
……
『最高だな』
『システムまで、俺が一番殺しやすい人間だって理解してるじゃないか』
---
【死亡確率を計算しています】
『待て』
『なんで死亡率を計算してるんだ?』
『普通なら……』
『おめでとう』
『伝説級の力を手に入れました』
……
『とか言うんじゃないのか?』
沈黙。
【生存確率:10%】
【死亡確率:90%】
……
『九十パーセント?』
『はは……』
『最高だな』
『システムですら、俺がモブだって判断するのに一秒もかからなかったぞ』
少し黙る。
『せめて……』
『もう少し……』
『嘘をついてくれてもよかっただろ』
---
【通知】
【スキル具現化:ルービックキューブ】
『……え?』
キューブを見る。
『これ?』
【処理を開始します】
【取得可能なスキルスロットを展開します】
【確認しました】
【使用者に適したスキルを選択します】
『スキル……』
『ついに?』
『今度こそ、俺を少しはマシにしてくれるものが手に入るのか?』
---
【身体を解析しています】
【魂を解析しています】
【解析中】
【解析中】
……
すべてが止まった。
【エラー】
『……え?』
『いや』
『まさか……』
『スキルにまで拒絶されたのか?』
【エラー原因を検索しています】
【検索中】
待つ。
……
【原因を特定しました】
【魂の解析に失敗しました】
……
『魂?』
『どういう意味だ?』
【現在、使用者の魂を解析することはできません】
【一時的に身体情報を基準として処理します】
……
『これは……』
『安心できる情報じゃないな』
『全然』
---
【能力評価に適した測定基準を検索しています】
【検索中】
【失敗】
【再試行】
【失敗】
『……』
『測定基準を選ぶだけで失敗するのか?』
新しい通知が表示された。
【使用者の記憶を検索しています】
『……何?』
【検索中】
【適切な参照情報を発見しました】
……
頭の中で何かが回転した。
『……え?』
『この感覚は何だ?』
『何か……』
『頭の中で……』
『回ってる?』
---
【設定完了】
【採用測定基準:リヒター・スケール】
……
『……リヒター?』
沈黙。
『それって……地震の規模を測るやつじゃないのか?』
……
『なんでだろう』
『俺のスキルが、どれだけ周囲を破壊できるかで測られる気がする』
---
【スキルランクを算出しています】
【しばらくお待ちください】
……
『まだ……』
『この幻覚は終わらないのか?』
目を閉じる。
『三日間……』
『化け物……』
『川……』
『魚……』
『そして変なシステム……』
目を開く。
『……ルービックキューブ』
……
ため息を吐いた。
『……最高の始まりだな』




