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よし……戦闘を避ける手段が全部なくなった


夜。


クリスタルの光に照らされたその場所に、激しい打撃音が響き渡っていた。


カンッ……


カン、カンッ……。


道化師とリードは、互いに後ろへと下がった。


リードは剣についた血を振り払いながら、笑みを浮かべる。


「これで終わりか、奇妙な奴?」


道化師は切断された腕を押さえたまま立っていた。


血が、ぽたぽたと地面へ落ちていく。


リードはゆっくりと彼へ歩み寄る。


「まさか……怖気づいたわけじゃないだろうな?」


そして、笑った。


「ほら、怖がるなよ。まだ夜は長いんだ。こんなところで俺たちの試合を終わらせるには早すぎる」


剣をわずかに持ち上げる。


「さあ、続けよう。腕一本失ったくらいで、動けなくなるようには見えないぞ」


次の瞬間――


リードは再び、凄まじい速度で彼へと突っ込んでいった。


その顔には、心の底から戦いを楽しんでいるような笑みが浮かんでいた。


---


――今から六時間前。


街の一角。


建物の間を、激しい振動音と爆発音が駆け抜けていた。


大量の砂埃が舞い上がり、空高くへと昇っていく。


そして俺は――


今もなお、全力で走っていた。


「はぁ……はぁ……あはははは! 最高の人生だなぁ!」


荒い息を吐きながら、俺は走り続ける。


「目を覚まして、脇役として静かに生きようとしただけなのに……」


それなのに、どうしてこうなった?


気づけば――


俺はいつの間にか、物語のど真ん中に放り込まれていた。


いやぁ……


こういうのって、本来は主人公の役目じゃないのか?


強くて。


有能で。


周囲から信頼されていて。


自分自身だけでなく、周りにいる人間まで守ることができる。


そして何より――


他人のためなら、自分の命さえ惜しまない。


そう。


それこそが――


俺が必死になって避けようとしている「主人公」という存在だ。


「あはははは!」


そのとき、頭の中にガイドの声が響いた。


<通知。解析の結果、対象の存在を確認しました。>


「……本当?」


おお。


なんだか、ものすごく凄そうじゃないか。


……で?


それを確認できたからといって、何かが変わるのか?


確認できなかった場合と、結果が違うのか?


疑問は明白だった。


そして、その答えはもっと明白だった。


もちろん、俺の運命は変わらない。


相手が何者だろうと。


何が起ころうと。


俺の運命が変わることなんて、どうせない。


俺はサムラ君へ視線を向けた。


彼は見るからに疲れ切っている。


「フィン……これから、どうするんだ?」


……そう。


実は今、かなり重要な質問をされたところだった。


おそらく、彼は俺に期待している。


この状況で出すべき答えは、ただ一つ。


俺は少しだけ顔を上げた。


そして、できる限り真剣な表情を作る。


「サムラ君……」


「今の俺たちにとって重要なのは、周りにいる全員を守ることでも、この世界の何かを守ることでもない」


できるだけ真剣に。


そう。


ものすごく真剣に。


……だが。


「はぁ……はぁ……はぁ……!」


荒い息が漏れる。


その直後――


ドゴォンッ!!


突然、俺たちの足元の地面が激しく崩れた。


「うわっ!」


俺たちは慌てて跳び上がる。


その瞬間、ふと思った。


……なんだか、ゲームの中にいるみたいだ。


巨大なモンスターに追いかけられて。


目の前にある障害物を飛び越えて。


その途中で金貨を集めて。


レベルを上げて……。


そして最後には――


ようやく、求めていた平穏を手に入れる。


……


…………。


沈黙。


うん。


どうでもいい例えだった。


「サムラ君……」


俺は彼を見る。


「俺たちの目的は……」


一瞬、間を置く。


そして、自信満々に言い切った。


「――何があっても、俺が生き残ることだ」


……


沈黙が流れる。


「そして、この状況で君に任せたいのは……それを可能にすることだ」


サムラは黙ったまま、俺を見つめていた。


そして――


「……分かった」


静かにそう答えた。


「ただ……」


少しだけ眉を寄せる。


「俺は、あまりやりたくない」


そして、追ってくる何かへ視線を向けた。


「だって……あれ、ちょっと危険そうだし……」


……うん。


実際のところ。


これはただの――


俺がこの状況から逃げ出すための、失敗した悪あがきだった。


さて……。


予備の作戦も失敗。


となれば――


そろそろ、最初の作戦に戻るしかない。


そう。


俺の最強の作戦。


……


パニックだ。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「くそぉぉぉぉぉ!! どうして俺は普通の人生を送れないんだぁぁぁ!!」


俺は叫びながら、走り続ける。


そのとき――


<通知……>


「黙れぇぇぇ! このポンコツぅぅぅ!!」


俺は走るのを止めることなく叫んだ。


「ここから脱出する方法がないなら、黙ってろぉぉぉ!」


すると、いつも通り冷静な声が返ってきた。


<通知。>


<フィンを追跡している脅威の解析が完了しました。>


<対象は、特殊な領域内に封印された魔物である可能性が高いと推測されます。>


「おお……本当か?」


俺の返事は、それだけだった。


だが、ガイドは俺の反応など気にする様子もなく、淡々と説明を続ける。


<この領域は、遠隔操作によって制御される特殊な技能によって形成されています。>


<そして、その人物が今もこの領域を制御している限り、この魔物を打ち破ることはできません。>


ガイドは続けた。


<さらに、対象の魔力は、それを閉じ込めている結界の内部に封じられています。>


……


そして――


その言葉を最後に。


ポンコツは説明を終えた。


で?


正直なところ……


俺には、この説明のどこに役立つ情報があるのか分からなかった。


さて……。


ここは心を広く持って、ゆっくり深呼吸でもしよう。


「それじゃあ、素晴らしいガイドさん……」


「もっと重要な質問に移ろうか」


「――結局、俺はどうやってあれから生き残ればいい?」


返事は、ほとんど間を置かずに返ってきた。


<通知。>


<フィンは以前、この魔物が膨大な魔力に引き寄せられ、それを糧としていると推測しています。>


……


正直。


俺は衝撃を受けた。


「……あ、ははは……」


思考が、一瞬停止する。


え……?


まさか……


俺が以前ついた嘘が、いつの間にか本当になっていることを喜ぶべきなのか?


……


そんな哲学的な問題に答えを出す前に――


ヒュンッ!


一個の岩が俺のすぐ横を通り過ぎた。


続いて、もう一つ。


そして――


そのうちの一つが、俺の美しい顔をかすめた。


「いってぇぇぇ!」


俺は反射的に顔を押さえた。


「俺の美しい顔がぁぁぁ!」


「傷ついたぁぁぁ!」


「くそっ! どうして怪我する場所が、いつも俺の美しい顔なんだよぉぉぉ!」


俺は空へ向かって叫んだ。


「ふざけんな、このクソみたいなシナリオぉぉぉ!」


「俺はいつか結婚して、子供を作って……そんな未来をちゃんと考えてるんだぞ!」


「なのに、お前はそのささやかな人生設計を台無しにするつもりかぁぁぁ!」


……


そして、いつも通り。


誰も答えてくれなかった。


だから、俺は一つの結論にたどり着いた。


……


どうやら俺は――


ついに頭がおかしくなり始めたらしい。


<通知。>


<対象者フィンの負傷は軽微です。>


<しかし、この魔物を打ち破れなければ、生存確率は低いと推測されます。>


……


「この錆びたポンコツめ……」


「どうすれば、この状況から生き残れるんだよ!?」


「俺はずっと、それを考えて走ってるんだぞ!」


……


だが。


待て。


ふと、思考が止まった。


もし、さっき俺が言ったことが本当なら――


もし、この魔物が高い魔力に引き寄せられるのなら。


ということは……


こいつが狙っているのは――


俺の後ろにいる、あの馬鹿じゃないのか?


俺はサムラ君を見る。


次に、俺たちを追いかけてくる魔物を見る。


そして――


ある、とても重要な事実を思い出した。


俺には魔力がない。


魔法も使えない。


……


ということは。


「……ちょっと待て」


俺はゆっくりと顔を上げた。


「これってつまり……」


「この場で一番、あいつにとって魅力のない存在って――俺じゃないか?」


だが……


一つだけ問題があった。


そう。


確かに問題がある。


それが小さな問題なのか、それとも大きな問題なのか。


それについては、後で考えることにしよう。


問題は――


どうやって、この男に俺から離れてもらうかだ。


だから、俺は覚悟を決めた。


これを簡単に伝える方法なんてない。


なら――


真正面からいくしかない。


「サムラ君」


彼が俺を見る。


「さっき、とても重要なことに気づいた」


「本当? 何?」


短い返事。


……そうだな。


俺の数少ない友人――


いや。


「友人」なんて言葉を使うには、俺たちの関係はまだ浅すぎる。


そもそも、ほとんど一緒に過ごした時間すらない。


だから、もっと正確に言おう。


これから俺が言うことで、君が俺に抱いている素晴らしいイメージが崩れてしまうかもしれない。


それでも――


俺は、はっきりと言った。


「どうやら……あれは本当に魔物らしい」


「そして、強い魔力に引き寄せられるみたいだ」


「……それで?」


彼は少しだけ首を傾げた。


「それ、前にも言ってなかった?」


そして続ける。


「だからこそ、あの人たちを助けるための作戦が上手くいったんだろ?」


……


痛い。


本当に痛い。


どうやら彼は、俺のことを――


自分を犠牲にしてでも他人を助けるような人間だと思っているらしい。


いったい誰が、彼にそんな素晴らしい俺のイメージを植え付けたんだ!?


俺は深く息を吸った。


「……ふぅ」


「分かった」


「正直に言う」


「さっきまで俺が言っていたことは、全部嘘だ」


「完全な作り話だ」


「俺が自分だけ助かるための作戦を優先させるためにな」


俺は肩をすくめた。


「……まあ、失敗したみたいだけどな」


その瞬間――


ドゴォンッ!!


背後から、激しい衝突音と破壊音が響き渡った。


それでも。


一つだけ、俺の言葉の中で正しかったことがある。


この魔物は、本当に強い魔力へ引き寄せられる。


だから――


そう。


俺は言わなければならない。


たとえ君を傷つけることになったとしても。


……まあ。


俺が傷つくわけじゃないけどな。

俺は走り続けながら、親指を立てた。


「君は今、俺の生存計画における最大の障害になってる」


「だから……悪いけど、俺から離れてくれない?」


「それに、そもそも俺たちは友達ですらないだろ?」


「それなのに、まるで俺たちの間に大切な絆でもあるみたいに、俺の後ろをついて走ってくるのはやめてくれないか?」


俺は一瞬、立ち止まりそうになりながら、自分たちの関係をどう表現すれば一番正確なのか考えた。


「俺たちの関係を正確に表現するなら……」


「憎しみ、嫉妬、妬み、復讐心、殺意……」


「それから、俺を追いかけ回してくる謎の男」


……


うん。


言葉は慎重に選んだつもりだ。


だが実際――


これ以上、俺たちの状況を正確に表現できる言葉はない。


だから、俺は続けた。


「サムラ君……」


「頼むから、俺から消えてくれないか?」


そして、少し間を置いて付け加える。


「君が無事でいられるよう、祈っておくから」


……


沈黙。


うん。


この沈黙にも、もう慣れた。


まるで嵐の前の静けさだ。


だが、今の彼には――


自分の立場を正当化するための言葉も、俺に返す答えもないはずだ。


だから――


「ほら、もう行ってくれ」


すると、ようやく。


彼の唇が動いた。


「フィン……」


俺はごくりと唾を飲み込んだ。


待て。


こいつ、本当に俺から離れるのか?


それとも――


次の行動を決める上で重要な答えになる。


サムラは、まるで本当に何も問題など起きていないかのように、静かに息を吐いた。


そして、自信に満ちた顔で俺を見る。


「そうだな……一つ問題がある」


「俺の魔力、もうとっくに切れてるんだ」


……


「……は?」


俺の顔が固まった。


だが、彼は何でもないことのように続ける。


「実は、あの人たちと別れてから、ずっと魔力が切れたままなんだ」


俺は前を向いた。


周囲の世界が、ゆっくりと遠ざかっていくような感覚に襲われる。


待て。


何かがおかしくないか?


俺は何か重要なことを見落としているのか?


それとも――


今、俺は何か聞き間違えたのか?


……よし。


考えられる可能性は二つだ。


一つ。


頭の中にいる錆びたポンコツの解析が間違っている。


二つ。


こいつが「魔力が切れた」と嘘をついている。


そして、どちらだったとしても――


最悪だ。


「サムラ君……」


俺は一瞬、言葉に詰まった。


「君……」


「もしかして……実は魔力をほとんど持っていない、ただの弱い奴なのか?」


サムラは少しだけ唸りながら、本気で考えるように首を傾げた。


「うーん……俺は、十分な量の魔力を持っているとは思わないな」


「もし全部解放したとしても……半日か、一日くらいは持つんじゃないか?」


……


それが彼の答えだった。


あまりにも無邪気で。


あまりにも真剣で。


そして――


あまりにも正直だった。


正直なところ……


俺はもう、こいつが正直なのか嘘をついているのかなんて、どうでもよくなっていた。


これが俺の学んだことだ。


誰であろうと、平等に疑う。


そう。


それが俺の哲学だ。


……


いや、待て。


「おおおおおい!」


俺は思いきり叫んだ。


「おおおおおい!」


「ふざけてる場合じゃないぞ、この甘ったれのお坊ちゃんがぁぁぁ!」


「俺たちの命が懸かってるんだぞ!」


「それなのに、お前は自分の魔力がどれだけ膨大なのかを誇らしげに語ってるのか!?」


俺は怒りのまま、彼を指差した。


「そもそも、どこが『強大な魔力』なんだよ!?」


「十分も持たなかったじゃないか!」


「それで『半日か一日は持つ』って、よくそんな顔で言えるなぁぁぁ!?」

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