俺、本当に聞く必要あるのか?
――おい。
――はいはい。
――まだ生きてます。
――皆さん、ご安心ください。
……
――さて。
――正直に言おう。
――この世界に来てから……
――俺は一つ、とても大事なことを学んだ。
――モブキャラになるということは……
――苦痛だ。
……
――主人公は自信満々に歩き回る。
――重要キャラは、まるで世界の中心みたいな態度で登場する。
――そして俺は……
……
――いや。
――この話はやめよう。
……
――とにかく。
――どうやら今こそ……
――俺の最強の生存技を使う時が来たようだ。
――数え切れないほど俺の命を救ってきた技。
――土下座。
……
――イラリア・コンティ・グラン様!
――あなたの偉大さは、もはや言葉では表せません!
――あなたほど優しく!
――あなたほど美しく!
――あなたほど素晴らしい方は存在しません!
……
――待て。
――言葉選びには気をつけろ。
――これは命が懸かった場面だ。
……
――あなたは……この世の何よりも素晴らしい方です!
――心の底から謝罪いたします!
――本当に申し訳ありませんでした!
――ゴリラなどと呼んでしまい……
---
イラリア:
「それ……本当に心からの謝罪なの?」
---
――え?
――なるほど。
――これは静かな危険段階に入ったな。
――怒鳴る相手より遥かに恐ろしい。
――怒っている人間は、自分の考えを口にする。
――だが、静かな人間は……
――死ぬ直前になって、その答えを教えてくれる。
……
――もちろんです、イラリア様。
――私の謝罪は心の底からのものです。
---
『嘘。』
---
――くそ……
――選択肢があるなら、こんな場所には絶対来ていない。
――俺のモブとしての尊厳はどこへ行った?
――俺の尊厳……
――頼む。
――目を覚ましてくれ。
……
――返事なし?
――最高だ。
――ついに尊厳にまで見捨てられた。
――お願いだ……
――この哀れなモブを助けてくれ。
---
イラリア:
「怒ってないわ。」
---
――え?
――待て。
――怒ってないなら……
――なぜ後ろに魔法陣が浮かんでいる?
……
――一つ……
――二つ……
――……いや、数えるのはやめよう。
……
――そうだ。
――もちろん。
――ただの飾りだ。
――この学園では、生徒の後ろに恐ろしい飾りを浮かべる文化があるんだろう。
……
――普通だ。
――完全に普通だ。
……
――よし。
――ここは主人公らしい演説の時間だ。
――集中しろ、ハリル。
――これは重要なアニメ展開だ。
……
――イラリア様……
――あなたほど尊い方が、私のような存在に時間を使うなんてもったいない。
――ですから……
――どうか、この哀れなモブキャラにあと数日だけ生きる許可をください。
――まだ世界を救っていないので。
---
イラリア:
「……何?」
---
――はい。
――主人公と一緒に。
……
――そんな目で見るな。
――俺にもなぜそんなことを言ったのか分からない。
……
――それに……
――作者が今ここで俺を殺したら困るはずだ。
---
イラリア:
「作者?」
「主人公?」
「世界を救う?」
---
――しまった。
――少し言い過ぎたか。
……
――まあいい。
――重要なのは……
――俺がまだ生きているということだ。
---
イラリア:
「ここ二週間……」
「ずっと我慢してきた怒りがあるのよ。」
---
――素晴らしい。
――つまり俺は……
――感情をぶつけるためのサンドバッグになったわけか。
――光栄だな。
……
コンコン。
……
メイド:
「イラリア様。」
---
イラリア:
「入りなさい。」
……
――待て。
――その声……
――まさか俺の救世主!?
……
――違った。
――ただのメイドだった。
……
――いや待て。
――何を持っている?
……
――まさか……
……
――お菓子?
……
――本物のお菓子だと?
……
――神よ……
――俺はついに幸福を理解した。
……
――まとめると……
――最近の俺は貧しい生活を送っていた。
――そしてこのお菓子は……
――人生を続ける価値があると思わせてくれる。
---
イラリア:
「あなた、毎日食べているでしょう?」
「学園の厨房に普通にあるものよ。」
……
……
――え?
――毎日?
……
――待て。
――これが……
――金持ちの生活なのか?
「……」
「そして俺は……」
「この世界に来てから、すべての値段を計算しながら生活していた。」
……
「まあ……」
「確かに。」
「俺にとっては少し高いけどな。」
……
「おお……」
「紅茶まで美味しいだと!?」
イラリア:
「……あなた、紅茶すら飲んだことなかったの?」
……
「なるほど……」
「理解した。」
「どうやら金持ちの財布には……」
「貧乏モードという機能が存在しないらしい。」
……
「イラリア様。」
「一つ質問があります。」
……
イラリア:
「何?」
……
「結婚について考えたことはありますか?」
……
……
イラリア:
「……は?」
「結婚?」
……
「はい。」
「分かっています。」
「自分でも変な質問をしているとは思っています。」
……
「でも気になるんです。」
「好奇心というものは……」
「時には魔物より危険ですから。」
……
「外見的には……」
「七十点。」
……
「性格的には……」
……
「マイナス五点。」
……
イラリア:
「……どうして私がそんな馬鹿げたことを考えると思うの?」
……
「なるほど。」
「つまりあなたの頭の中も……」
「ゴリ――」
……
「……」
「くそ。」
「まただ。」
……
「頼む……」
「俺の舌……」
……
BOOOOOOM!!
---
親愛なる視聴者の皆様。
どうやら放送中に予期せぬ技術的問題が発生したようです。
大変申し訳ありません。
CMの後に再開いたします……
ただし、スタッフが司会者の残骸を無事発見できた場合に限ります。
その場合、放送を続行いたします。
……
三十分後。
奇妙な沈黙の後……
……
カーテンが動いた。
……
「……」
「待て。」
「いや……」
「まさか……」
「俺……まだ生きてるのか?」
……
「頭も……」
「内臓も……」
「ちゃんと元の場所にある。」
「よしよし。」
「俺はまだ存在している。」
「心配するな、みんな。」
「どうやら制作陣が俺の散らばった破片を集めて……」
「復活させてくれたらしい。」
……
「ゴホン。」
「つまり……」
「今日はなんて素晴らしい日なんだ。」
……
ドォン……
バン!
ゴクッ……カチャ。
---
イラリア:
「今年の祝祭は……」
「去年よりもさらに盛大になりそうね。」
……
「……」
「外では爆発音。」
「祝祭の騒ぎ。」
「完全な混乱状態。」
……
「だが……」
「なぜか俺が集中しているのは……」
「もっと重要なことだった。」
……
サクッ。
サクッ。
……
「ああ……」
「美味しい。」
イラリア:
「……この沈黙はいつまで続くのかしら?」
……
ゴクッ……ゴクッ。
「この紅茶も最高だ。」
「待て……」
「これ、ミントか?」
……
「不思議だ。」
「近くに爆発なし。」
「魔物なし。」
「俺を殺そうとするスキルもなし。」
……
「まさか……」
「この平和な時間……」
「本当に生き残るのか?」
……
「よし。」
「何より大切なのは……」
「この貴重な時間を無駄にしないことだ。」
……
……
「……ん?」
……
「なぜだ?」
「なぜ急に……」
「嫌な予感がする?」
イラリア:
「ヴィン……」
……
「……」
「あなた、私の話を聞いているの?」
……
沈黙。
……
「あ。」
「なるほど。」
「完全に無視していた。」
……
「もぐ。」
「もぐ。」
「もぐもぐ……」
イラリア:
「食べるのをやめて話を聞きなさい、この子供。」
……
俺はすぐに手を上げた。
……
「待って。」
「まず……」
「噛み終わらせる必要がある。」
……
「ふぅ……」
「よし。」
「それで……」
「何を話していましたか?」
「イラリア様。」
イラリア:
「聖霊よ……」
「人の話を聞かずに食べ続ける者たちを……」
「どうかお導きください。」
……
「おい……」
「おいおい……」
「待て。」
……
通知:
【《痛覚適応》を発動します。】
【対象:カリルが受ける予定の――】
……
「は!?」
……
「この役立たずの鉄クズ!!」
「俺が欲しいのは痛みに適応することじゃない!」
「そもそも痛みを受けないようにしてほしいんだよ!!」
……
遅かった。
……
BOOOOOOM!!
BANG!!
……
……
「……」
「あ。」
……
「理解した。」
「またか。」
……
「飛んでる。」
……
外から声が聞こえる。
「何が起きた!?」
「イラリア様の部屋からじゃないか!?」
……
「……」
「不思議だ。」
「飛行スキルを取得したという通知は……」
「一切来ていない。」
「くそ……」
「このゴリラには慈悲という概念が存在しないのか。」
……
待て。
……
俺は……生きている。
……
よし。
これは一つの成果だ。
……
「……ん?」
「この匂いは……?」
……
……
「何か……燃えてる?」
……
……
「いや。」
……
「いやいやいや。」
……
「まさか……」
……
「俺が燃えてる!?」
……
「うわあああああ!!」
「本当に燃えてるんだけど!?」
「誰か助けてくれ!!」
イラリア:
「聖なる精霊よ。」
……
……
水の球体?
……
待て。
……
ついに来た。
まともな解決方法が。
……
……って。
……
「なんで俺、この中に入ってるんだ?」
……
「うわああああ!!」
「待て!」
「息ができない!!」
……
数分後……
……
「はぁ……」
「はぁ……」
……
「爆発そのものより、さらに馬鹿みたいな死に方をするところだった……」
……
「おい、迷惑な女……」
「この可哀想なモブキャラを殺そうとするのはやめてくれないか?」
イラリア:
「え?」
「でも、火は消したわよ?」
……
……
……確かに。
彼女は火を消した。
問題は……
一緒に俺の命まで消しかけたことだ。
……
「ゴホッ……」
「ゴホッ……」
「お前のせいで風邪を引きそうだぞ、この……」
……
ゴリ……
イラリア:
「風よ。」
「我が敵を打ち払う怒りとなれ。」
……
ヒュオオオオオ!!
……
ゴオオオオオ!!
……
「うわあああああああ!!」
……
イラリア:
「ほら。」
「これで風邪は引かないでしょう。」
……
俺は口を開いた。
閉じた。
……
……何を言えばいいんだ?
……
この女には特殊な才能がある。
魔法でもない。
戦闘能力でもない。
……
相手を怒るべきなのか、感謝するべきなのか分からなくさせる才能だ。
……
「貴族がモブキャラをこんな暴力的に扱うことを禁止する法律はないのか?」
……
……
待て。
……
今のは失言だ。
とんでもない失言だ。
……
静寂。
……
イラリア:
「……何か言った?」
……
【警告】
【ハリルの周囲に危険な気配を感知しました。】
……
「……」
「理解した。」
……
即座に土下座。
……
「ありがとうございます、イラリア様。」
「どうかこの無礼をお許しください。」
「そして、この哀れなモブキャラの命だけはお助けください。」
……
くそ。
……
俺の人生は本当に……
このまま続いていくのか?
……
土下座。
謝罪。
生存のための懇願。
……
モブキャラとしての尊厳すら……
消え去った。
イラリア:
「分かったわ。」
「謝罪は受け入れます。」
「もう座っていいわよ。」
……
「ありがとうございます、偉大なるお方。」
……
……
「チッ……」
……
このゴリラ……
……
イラリア:
「ヴィン。」
……
俺は固まった。
……
「はい、何でしょうか?」
……
イラリア:
「祭りはどうだった?」
……
ドン……
バン……
……
「祭り……?」
……
俺は窓の外へ視線を向けた。
……
「ただ……騒がしい祭りだな。」
……
……
まあ……
本当の祭りに参加したことなんて、一度もないけど。
イラリア:
「ふむ……」
「あなたはこの街に来て、どれくらいになるの?」
……
素晴らしい。
たった一つの質問。
それなのに、もう地雷原を歩いている気分だ。
……
「えっと……」
「ここに来てから……二ヶ月くらいです。」
……
イラリア:
「二ヶ月?」
……
これがハリルとして知っていること。
でもヴィンとしては……
この身体について何も知らない。
イラリア:
「どこから来たの?」
「あなたの故郷では、秋の到来を祝ったりしないの?」
……
神よ。
なぜこの世界の質問は……
一つ答えると、必ず次の質問が付いてくるんだ?
……
「俺が来た場所は……」
……
考えろ、ハリル。
短く答えろ。
余計な扉を開くな。
……
「はい……」
「北の遠い田舎の村から来ました。」
「小さな村だったので、あまり多くの行事はありませんでした。」
……
イラリア:
「田舎の村……ね。」
「なるほど。」
「だから秋祭りについて何も知らないの?」
……
「その通りです、イラリア様。」
コンコンコン。
メイド:
「イラリア様。」
「追加のお茶とお菓子をお持ちしました。」
……
お菓子?
……
「イラリア様……」
「あなたの寛大さには本当に限りがありませんね。」
(全部、無料のお菓子目当てだけど……)
イラリア:
「入りなさい。」
……
ふふ……
……
落ち着け、ハリル。
お前は立派な男だ。
少なくとも……
食べ終わるまでは。
サクッ。
……
イラリア:
「本当に不思議ね……」
「この街に来て二ヶ月近く経っているのに、何も知らないなんて。」
……
「モグ……モグ……」
「ムシャ……ムシャ……」
……
ゴクン。
……
「ああ……」
「それで……」
「何を話していましたか、イラリア様?」
……
ああ。
その表情。
分かる。
……
ゴリラの気配が戻ってきた。




