疑惑の種
――この章のタイトル。
【神々の教え】
……
「変だな……」
「どの異世界にも……」
「必ず同じ問題がある。」
……
「人々が何かを説明できない時……」
「彼らはそれに名前を付ける。」
「そして……」
「そこで答えを探すのをやめる。」
……
「彼らにとって……」
「それが真実になる。」
……
「でも俺にとっては……」
「説明できないものだからといって……」
「必ず奇跡である必要はない。」
……
「もしかしたら……」
「ただ、まだ誰も見つけていない答えがあるだけなのかもしれない。」
---
エミリア先生:
「だからこそ、勇者は世界を救うために召喚されます。」
「そして聖女は、救われた後の世界を守るために生まれるのです。」
---
……
エミリア先生:
「聖なる精霊よ……」
「私の道を照らしてください。」
---
……
生徒:
「さすが王国所属の魔法使い……」
「美しい魔法だ。」
女子生徒:
「同時に三つの属性を使ってる!」
---
エミリア先生:
「ご覧の通り……」
「私は水、土、風の三属性を同時に扱うことができます。」
「つまり、複数の属性を持つことは勇者や聖女だけに限られたものではありません。」
「生まれつき才能を持つ者もいれば……」
「長い時間をかけて身につける者もいます。」
「特に……」
「三百年災厄と向き合ってきた歴史の中では。」
---
生徒:
「あ……」
「三百年災厄について話しているんだ。」
別の生徒:
「ああ……父さんから昔聞いたことがある。」
……
「三百年災厄……?」
---
歴史の教科書には……
その名前の章が存在していた。
【三百年に一度発生する現象】
……
「三百年?」
「地震……」
「それとも疫病じゃない。」
……
「これは……」
「正確な周期で繰り返される出来事だ。」
---
俺はページをめくった。
【別の項目】
【世界の接近】
……
「世界同士が接近した時……」
「それらを隔てる境界は弱まり……」
「魔力が人間の世界へ流れ込む。」
……
「つまり……」
「世界の衝突みたいなものか?」
---
……
エミリア先生:
「この二つの円を使って説明しましょう。」
「もう一つの世界が、こちらの世界へ近づいた時……」
「その隙間から魔力が流れ込みます。」
---
エミリア先生:
「この二つの円を繋ぐ線で示されているように……」
「しかし、魔力そのものが問題なのではありません。」
「問題は……」
「人間の身体が、これほど巨大な量の魔力に耐えるようには作られていないことです。」
---
生徒:
「だから魔物が現れるのか……」
エミリア先生:
「その通りです。」
「魔物は人間よりも遥かに速く魔力へ適応します。」
「だからこそ……」
「私たちよりも危険な存在へと変化するのです。」
---
彼女は黒板に書いた。
【魔王】
---
俺は再び本へ視線を戻した。
「数え切れないほどの文明が滅びながらも……」
「人類は長い歴史の中で、徐々に魔力へ適応していった。」
……
「ふむ……」
……
「読めば読むほど……」
「ある一つのことを確信していく。」
……
「この歴史は……」
「真実を説明するために書かれたものじゃない。」
……
「誰もが同じ答えを信じるように……」
「作られたものだ。」
---
エミリア先生:
「皆さん、集中してください。」
「もう一つ理解しておくべきことがあります。」
「すべての人間は、生まれながらに体内へ魔力核を持っています。」
---
彼女は黒板に書いた。
【魔力核】
---
エミリア先生:
「しかし……」
「体内へ流れ込む魔力の量が、その限界を超えた場合……」
……
【その結果……】
「身体の内側から崩壊する可能性があります。」
---
その一文で、俺の視線が止まった。
……
「身体の……崩壊?」
……
「つまり……」
「この世界にも限界があるってことか。」
……
「たぶん……」
「あのゴリラの身体にあった封印も、これと同じものなんだろう。」
……
「魔法ですら……」
「代償なしの力じゃない。」
---
この本によれば……
【その影響は、さらに深刻なものになる】
……
「さらに深刻……?」
---
俺はページを閉じた。
……
「変だな。」
……
……
「何かが足りない気がする。」
……
「彼らは何にでも名前を付ける。」
「神。」
「勇者。」
「災厄。」
……
「でも……」
「本当に理解しているのか?」
……
「それとも……」
「未知のものを恐れないために……」
「ただ言葉を作っただけなのか?」
---
エミリア先生:
「さて……少し話が本題から逸れてしまいましたね。」
「ですが、この例で魔法の性質について理解できたと思います。」
---
……
生徒:
「エミリア先生……」
「つまり、誰でも限界を超えて複数の属性を使えるようになるんですか?」
---
……
エミリア先生:
「正確には違います。」
……
エミリア先生:
「生まれ持った限界を超えることができる者も存在します。」
「しかし、それには何年もの鍛錬……」
「あるいは、並外れた才能が必要になります。」
---
彼女は黒板に名前を書いた。
【アラリア・コンティ・グラン】
---
エミリア先生:
「例えば……アラリア・コンティ・グランさんです。」
「彼女は何度も自身の限界を超え……」
「現在では四大属性すべてを扱えるまでになりました。」
---
生徒:
「さすがコンティ・グラン家だ。」
女子生徒:
「本当に偉大な家柄ね。」
別の生徒:
「美しい……強い……そして優しい。」
「彼女は他の人とは違う。」
---
……
「ああ……」
……
「たぶん、別の女の子の話だな。」
---
「うん。」
「絶対に別人だ。」
……
「だって……」
「あのゴリラが優しいなんて……」
「そんなことはありえない。」
「これは自然の法則だ。」
---
エミリア先生:
「では、授業に戻りましょう。」
「皆さんも知っている通り、我が国は巨大な魔法障壁の網によって囲まれています。」
「多くの人は、それが魔物の侵入を防ぐためだけのものだと考えています。」
「そして、それも間違いではありません。」
「しかし……」
「それが本来の目的ではありません。」
「三百年に一度……」
「隣接する世界から、膨大な量の魔力が流れ込みます。」
「もし、その魔力が直接人間へ届けば……」
「人の身体は決して耐えられません。」
「だからこそ障壁がその大部分を吸収し……」
「浄化し……」
「そして少しずつ王国内へ放出しているのです。」
---
生徒:
「では……」
「今の私たちが持つ魔法は、過去の危機によって発展したものなんですか?」
エミリア先生:
「その通りです。」
「人類を滅ぼしかけた全ての危機は……」
「同時に、人類を進化させる理由にもなりました。」
「その出来事を通じて、人間は少しずつ魔力を扱う効率を高めていったのです。」
---
……
「おい……」
「オレン。」
オレン:
「うん?」
---
「この魔力効率って……」
「訓練で身につけられるものなのか?」
---
オレン:
「僕が知る限り……無理だと思う。」
「何度も訓練した。」
「覚えていないくらい努力した。」
「でも……」
「一つの魔法すら使えなかった。」
……
「だけど……」
「僕を信じてくれた人が一人だけいた。」
「その人がいたから……」
「僕は今ここにいる。」
……
「でも……」
「日に日に、その人を失望させている気がするんだ。」
---
「ああ……」
「なるほど。」
「つまり……この場面か。」
……
「英雄の物語が始まる瞬間。」
……
「何も持たないところから始まって……」
「それでも前へ進み続ける存在。」
……
「おい作者……」
「まさか俺が隣の席で……」
「新しい英雄の誕生を見届ける展開にする気か?」
「モブキャラはどうなるんだ?」
「俺たちだって……人間だろ?」
……
「言っただろ、友よ。」
「俺たちは……」
「一緒に落ちこぼれでいよう。」
---
オレン:
「はは……」
「ヴィンって、本当に変わった慰め方をするよね。」
---
「でも……」
「効果はある。」
---
オレン:
「よく分からないけど……」
「なんだか、笑えてきたよ。」
---
……
エミリア先生:
「ヴィン。」
---
「はい、先生?」
エミリア先生:
「授業中は静かにしていなさい、と言わなかったかしら?」
---
「申し訳ありません。」
……
「くそ……」
「今日二回目だ。」
「俺の尊厳が破壊された……。」
---
エミリア先生:
「強くなるために、必ずしも四属性すべてを扱う必要はありません。」
「一つの属性だけを極めた魔法使いが……」
「四属性を持つ者を超えることもあります。」
---
生徒:
「先生……」
「では、魔力をまったく使えない人たちはどうなるんですか?」
---
彼女は黒板に書いた。
【変異魔導士】
---
エミリア先生:
「この分類が生まれたのは……」
「三百年に渡る危機の中で蓄積された、遺伝的変化が原因です。」
「彼らは通常の方法で魔力を扱いません。」
「代わりに……」
「世代を重ねる中で身体に進化した能力を利用します。」
「そのため……」
「彼らの戦闘方法は、私たち普通の魔法使いとは比較できません。」
---
生徒:
「完全に役立たずじゃん。」
別の生徒:
「なんであいつはまだ強くなれると思ってるんだ?」
三人目の生徒:
「一人目の落ちこぼれは魔法が使えない。」
「二人目の落ちこぼれも魔法が使えない。」
「ケケケ……」
---
「……。」
「なるほど。」
「ついに完成したか。」
……
「落ちこぼれ同好会。」
……
「そしてその会長は……」
「俺の隣に座っている。」
……
「本来なら……」
「あいつは主人公のはずなのに。」
「なんだか少し可哀想になってきた。」
……
「でも……」
「モブキャラとしての俺のプライドが……」
「あいつを慰めることを許さない。」
---
Ding dang dong
エミリア先生:
「今日の授業はここまでです。」
「次の授業では……」
「魔法使用の実践訓練を始めます。」
---
「実践訓練……」
「おお……」
「どうやら作者は次の災害を準備しているらしい。」
……
「魔法……」
「本当に不思議なものだ。」
---
オレン:
「そう思わない?ヴィン。」
「僕たちにとっては特に興味深い分野だと思う。」
「だって……」
「僕たちは少し似ているから。」
……
「くそ……」
「今、魂に直接ダメージを受けた気がする。」
「どうしてこの純粋な笑顔で……」
「モブキャラの心をここまで傷つけられるんだ?」
「お前……」
「恐ろしい主人公だな。」
---
オレン:
「また変なことを言ってるね。」
……
「本当に……」
「モブキャラの傷つけ方をよく分かっている。」
---
オレン:
「ははは……」
「ヴィンって本当に面白いね。」
---
少女:
「こんにちは。」
……
「ん?」
「あれ……?」
「ちょっと待って。」
「近すぎないか?」
「距離感という概念はどこへ行った?」
……
「彼女の匂い……」
「いい香りがする……。」
---
バンッ!
「くそっ、カリル!」
「脳筋モブみたいな反応をするな!」
「前回の失敗から何も学んでないのか!?」
---
「えっと……」
「すみません。」
「もう少しだけ離れてもらえますか?」
「この世界には……」
「どうやらパーソナルスペースという概念が存在しないらしいので。」
---
少女:
「やっぱり面白い人ね、ヴィン。」
「私はエレノア。」
「よろしく。」
---
エレノアは横を向いた。
エレノア:
「オレン。」
オレン:
「はい?」
エレノア:
「エミリア先生があなたを探しているわ。」
オレン:
「え、本当?」
「ごめん、ヴィン。」
「僕、行かないと。」
---
「オレン……」
「俺たち友達だよな?」
オレン:
「もちろん。」
---
「なら……」
「そんなに早く戻ってくるな。」
オレン:
「え?」
---
「その……」
「先生との時間を大切にしろ。」
「待たせるのは失礼だからな。」
「主人公として、それは良くない。」
---
オレン:
「ははは……分かったよ。」
「最高だ……。」
「危うく……」
「あの展開を目撃するところだった。」
……
「だが……」
「残念ながら……」
「この世界には、こういう展開を何度も経験してきた俺の知識を理解できる奴はいない。」
……
「そして今……」
「作者がまた俺を別の展開へ引きずり込む前に……」
「逃げなければ。」
---
……
「……。」
「なんでまだいるんだ?」
エレノア:
「話がしたいの……。」
「二人きりで。」
……
ドクン。
……
ドクン。
---
【警告】
【恋愛イベント発生確率:98%】
---
「くそ……。」
「くそ……。」
「くそ……。」
---
「あの……お嬢さん。」
エレノア:
「エレノアって呼んで。」
---
「分かった……」
「エリア……」
「いや。」
「お嬢さん。」
「通してもらえませんか?」
「大事な用事があるので。」
エレノア:
「言ったでしょ……。」
「エレノアって。」
……
「本当に……。」
「この世界にはパーソナルスペースという概念が存在しないらしい。」
---
「まあ、それはともかく……」
「俺には重要な予定があるんだ。」
エレノア:
「オレンと?」
「違う。」
「クラスメイト?」
「違う。」
「先生?」
「違う。」
エレノア:
「じゃあ……」
「誰と?」
……
「……。」
……
「よし、カリル。」
「即興の時間だ。」
……
「実は……」
「個人的な約束がある。」
エレノア:
「女の子と?」
……
イラリア:
「ヴィィィィン……。」
「授業はもう終わったのかしら……?」
……
「俺が今呼んでいる相手は……」
「ゴリラ。」
……
「くそおおおお!!」




