主人公を救ったモブ
「はぁ……」
「ゴホッ……ゴホッ……」
「最高だな……」
「朝は俺を食おうとしてくる魔物に襲われて……」
「そして一日の終わりには、負傷した女の子を抱えてダンジョンの中を歩いている。」
……
「本当に……」
「モブの人生って、何が起こるか分からないな。」
……
「でも……」
「ここ、どこだ?」
……
「……待て。」
「契約!」
……
「くそっ!」
「宿に戻るのが遅れたら……」
「大変なことになる!」
【通知】
【対象者ハリールが規定の時刻までに宿へ戻らなかった場合、アサミ宿の主人との契約に違反する可能性があります。】
……
「分かってる!」
「わざわざ思い出させるな!」
……
「お前が本当に俺を助けたいなら……」
「出口までの道を教えろ!」
……
……
……
「はぁ……」
「やっぱりな。」
「こういう時に限って黙るんだよな、お前……」
……
「ゴホッ……」
……
「おーい……」
「起きてるか?」
少女:
「……ん?」
「ここ……どこ?」
……
「ああ……」
「やっと起きたか。」
「ゴホッ……」
「体は大丈夫か?」
少女:
「ここ……」
「私がいた場所じゃない……」
……
「ああ。」
「俺がここまで運んできた。」
少女:
「あなた……」
「あなたが私を助けたの?」
……
「まあ……」
「そんな大したことじゃない。」
「俺はただ……」
……
「……ん?」
少女:
「これ……何?」
……
「何って……?」
少女:
「どうして……」
「どうして私を抱えてるの!?」
……
「ああ。」
「その質問か……」
……
「頼むから、誤解しないでくれ!」
少女:
「変態!!」
……
「はぁ!?」
「おい! 待て!」
「俺は何もしてないぞ!」
……
「聖なる魂よ……」
「この手に慈悲を与えたまえ……」
……
「おい、おい、おい……待て、待て……」
少女:
「《マヌス・フォルティス》」
……
「うわああああっ……!」
ドォン!!
「ぐはっ……!!」
「いってぇぇぇ!!」
「腹が……!!」
「待て……」
「俺……」
「飛んでる!?」
……
「はぁ……」
「思い出した……」
「目を覚ましたヒロインが、最初に目にした男を殴り飛ばすシナリオ……」
……
「でも……」
「これって……」
「主人公専用じゃないのか!?」
バキィッ!!
……
「ぐはっ……!」
「壁までシナリオに参加してるじゃないか……」
……
「はぁ……」
「今なら、どうしてこのシーンを忘れてたのか思い出せる。」
……
「だって……」
「この場面、そもそもモブのために書かれてないんだから。」
……
【通知】
【対象者ハリールは現在、移動することができません。】
……
「うん……」
「見れば分かる。」
【通知】
【回復魔法を使用してください。】
……
「最高だな。」
「ついでに空も飛べって言ってくれ。」
【通知】
【医療施設へ移動してください。】
……
「ここに病院があるように見えるか!?」
【通知】
……
「おい……」
「それ、もう言うなよ。」
【通知】
……
「お前の声まで……」
「遠くなってきた気がする……」
……
「このポンコツ……」
「役立たず……」
……
「ん……?」
「なんだ……?」
「なんで……こんなに温かいんだ……?」
……
「この感覚……知ってる……」
……
「母さん……?」
……
「本当に……母さんなのか……?」
……
「会いたかった……」
……
「俺は……」
ドォン!!
……
「うわああああっ!!」
……
「誰だ!?」
「誰が俺の夢を邪魔した!?」
……
「起きなさい、この変態!」
……
「母さん……?」
「もう……行ったのか……?」
ドォン!!
……
「うわあああっ!!」
「誰が母さんよ、この変態!!」
……
「ぐっ……」
「くそ……」
「この野郎……」
「姿を見せろ! 男なら堂々と出てこい!」
……
「ああ……」
「戻ってきたのか……」
……
「誰……?」
……
「ああ……」
「ゴリラだ……」
……
「美人の。」
……
「……何ですって?」
……
「聖なる魂よ……」
……
「おい!!」
「待て!」
「待てって!」
「待ってくれ!」
「もう、ただの出会い頭の勘違いってレベルを遥かに超えてるぞ!?」
イラリア:
「……あなたなんて、死なせておけばよかったのかもしれませんね。」
……
「くそ……」
「男の本能に従うべきだった……」
「モブの本能じゃなくて……」
……
「よし……」
「俺の最強スキルを使う時が来た。」
……
「土下座だ。」
……
「尊きお嬢様!」
「どうか、この哀れな奴隷めに慈悲を!」
……
「さて……」
「一応、説明しておこう。」
「俺はこの十五分間、ずっとこのゴリラに命乞いをしていた。」
……
「コホン……」
「訂正する。」
「この美しいお嬢様にな。」
……
「そして……」
「そろそろ自己紹介の時間だ。」
イラリア:
「私はイラリア・コンティ・ヴラン。」
……
「イラリア……」
「綺麗な名前だな。」
……
「うん……」
「ゴリラの名前にしては、ずいぶん可愛い響きだ。」
……
「お会いできて光栄です、お嬢様。」
イラリア:
「あなたは?」
……
「ああ……」
「俺はヴィン・レイモス。」
イラリア:
「そう……」
「たぶん、あなたと出会えたことを嬉しいとは思わないわ。」
……
「そうか……」
「その気持ちは、俺もだいたい同じだ。」
イラリア:
「それで……」
「どうして私をここまで運んだの?」
……
「ああ……」
「それは危険な質問だな……」
……
「まずい。」
「モブの本能に従って助けたなんて、口が裂けても言えない。」
【通知】
【対象者ハリールには、周辺の探索を完了することで外へ出られる経路があります。】
……
「おお……」
「我が偉大なる案内役よ……」
「心の底から感謝する。」
……
「よし……」
「どうやら出口への道はあるらしい。」
イラリア:
「本当に?」
……
「五十パーセント。」
……
「まあ……」
「このポンコツと長く付き合ってきたからな。」
「百パーセント信じるなんて、もう無理だ。」
イラリア:
「でも、出口なんてどこにも見えないわ。」
「ここはボスフロアの一つじゃないの?」
「どうして出口があると分かったの?」
……
「ああ……」
「錆びついたプログラムに教えてもらったなんて、言えるわけがない。」
……
「よし、ヴィン……」
「ここからはアドリブだ。」
……
「イラリアお嬢様……」
「天井の水滴に気づかないか?」
イラリア:
「水滴……?」
……
「くそ……」
「今、禁句でも言ったか?」
イラリア:
「どういう意味?」
「水が落ちているってこと?」
……
「何……?」
「『水滴』って言葉も知らないのか?」
……
「よし……」
「どうやらアドリブはまだ通用するらしい。」
……
「天井を見てくれ。」
「それから、あの岩も。」
「この水滴が見えるか?」
イラリア:
「ええ。」
……
「よし。」
「これは湿気によるものだ。」
イラリア:
「湿気……?」
「それは何?」
……
「うーん……」
「どう説明すればいいんだ……?」
……
「湿気っていうのは……」
「つまり……」
……
「まあ……」
「外の空気が……」
「洞窟の空気と……」
「ぶつかると……」
……
「……何かが起きる。」
……
「それで……」
「水滴が現れる。」
……
「分かったか?」
……
……
「くそ……」
「俺自身、何を言ってるのか分からなくなってきた。」
【通知】
……
「あっ!」
……
「俺が言いたいのは……」
「外の空気は暖かい。」
「洞窟の中は冷たい。」
「だから、外に近づけば近づくほど……」
「壁に水分が結露する。」
「つまり……」
「俺たちは正しい方向に進んでるってことだ。」
イラリア:
「……ふーん。」
……
「おい……」
「そんな目で見るな。」
……
「くそ……」
「アドリブ、失敗したか?」
……
「ポンコツ……」
「何でもいいから助け舟を出せ……」
イラリア:
「ずいぶん物知りなのね。」
……
「え……?」
……
「何!?」
「まさか……」
「本当に全部信じたのか!?」
……
「アハハハ……」
「まあ……」
「俺は自慢するのが好きじゃないんだ。」
「だから、このことは秘密にしておいてくれ。」
……
「別に、ポンコツに教えてもらったわけじゃないけどな。」
……
「……ん?」
……
「お嬢様……?」
……
「どうして近づいてくる?」
……
「待て……」
「何をしてる?」
……
「え……?」
……
「どうして俺の顔に触ってるんだ?」
……
「いや……」
「まさか……」
「いやいや……」
……
「まさか……」
……
「これは、もしかして……」
「ヒロインが自分を助けてくれた脇役に恋をする……」
「そんな超レアなシナリオなのか……?」
イラリア:
「あなた……」
「奴隷なの?」
……
「……」
……
「え?」
……
「何?」
……
「俺から奴隷オーラでも出てるのか?」
【回答】
【対象者ハリールは、奴隷契約によって顔の側面に刻印が残っていることを忘れているようです。】
……
「おい……」
「それを思い出させるな。」
「ただでさえ最悪な状況なんだ。」
……
「そして今……」
「俺は人生を左右する質問に直面している。」
……
「よし……」
「イラリアお嬢様……」
「これは……?」
……
「ただの傷跡だ。」
「子供の頃についたんだ。」
イラリア:
「ああ……」
「そういうこと。」
……
「はぁ……」
「なんて純粋な子なんだ。」
「あっさり信じたぞ。」
イラリア:
「あなた、いつも危険な冒険を探しているみたいね。」
……
「アハハハ……」
「バレたか。」
……
「くそ……」
「危険な冒険を探してる狂人って誰だよ。」
「俺は物語の最初から、ずっと危険から逃げてるんだぞ!」
……
「まあ、それはいい。」
……
「イラリアお嬢様……」
「ここに留まるのは、あまり良くないと思う。」
イラリア:
「それじゃ……」
「ヴィン。」
「どうやって出るの?」
……
「くそ……」
「一番答えたくなかった質問が来た。」
……
「まあ……」
……
「俺たちが来た道には……」
「出口がない。」
……
「だから……」
……
「残された道は……」
……
「一つしかない。」
「ひたすら前に進むしかない。」
イラリア:
「そうね……」
「他に選択肢もなさそうだわ。」
……
カツン……カツン……カツン……
……
「神様……」
「この場所、いつまで続くんだよ……」
イラリア:
「まだ少し身体は重いけれど……」
「さっきより体が軽くなってきている気がする。」
「力も少しずつ戻ってきてる。」
「いったい、何があったのかしら……?」
……
イラリア:
「ねえ、ヴィン。」
……
「くそ……」
「まさか、バレたのか?」
……
「はい、お嬢様?」
イラリア:
「その気持ち悪い笑顔は何?」
……
「聖なる魂よ……」
……
「おい!」
「待て!」
「待てって!」
「どうして毎回、暴力に行き着くんだよ!?」
「見ての通り……」
「俺はただの普通の少年だ。」
「一発でも強く殴られたら死ぬぞ。」
イラリア:
「普通の少年が、正気を保ったままこんな迷宮に入るとは思えないけど。」
……
「くそ……」
「傷口に塩を塗るな。」
「自分でも、馬鹿なことをしたのは分かってる。」
「でも、どうしろっていうんだ?」
「綺麗な女の子が、俺を自分のチームに誘ってきたんだぞ。」
「まともなモブなら、誰だって同じ罠に落ちるだろ。」
……
「変に聞こえるかもしれないけど……」
……
「モブの本能に導かれてここまで来たなんて、言えるわけがない。」
「よし……」
「ハリール。」
「モブ最大の武器を使う時だ。」
……
「アドリブ。」
……
「俺は……まあ、それなりに苦労して生きてきた。」
……
「家は裕福じゃなかった。」
「でも……」
「俺にとって、家族は何より大切な宝物だった。」
……
「だから、働けるようになってからは……」
「できる限り家族を助けようとした。」
……
「仕事なら何でも探した。」
「少しでも、もっと良い暮らしができるように。」
……
「最初は大変だった。」
「でも……」
「そのうち慣れていった。」
イラリア:
「……うん。」
……
「それでも……」
……
「俺には夢があった。」
イラリア:
「夢……?」
……
「ああ。」
「学校……いや、学院の前を通るたびに……」
「俺は足を止めて、そこを眺めてた。」
「そこで学ぶ生徒たちを見て……」
「自分も、その中の一人になる姿を想像してた。」
……
「俺は学院に入りたかった。」
「家族の期待を背負えるような……」
「そんな人間になりたかった。」
……
「でも……」
「もう、家族はいない。」
……
「よし、ハリール。」
「悲しい話。」
「感動的。」
「自分でも泣きそうになるくらいだ。」
「……俺、何言ってんだ。」
イラリア:
「本当に……大変な人生だったのね。」
「でも、自分の目標を見つけられたのは素敵なことだと思う。」
イラリア:
「もし学院に入っていたら……」
「きっと、学者にだってなれたでしょうね。」
「あるいは、将来はもっと重要な人物になっていたかもしれない。」
……
「ああ……」
「俺も、そんなことを考えてた。」
……
「でも、学費を払えるほどのお金はなかった。」
「だから、人生で初めて冒険に出ることにした。」
「もしかしたら、学院の学費を払えるようなものが見つかるかもしれないと思って。」
……
「よし……」
「ここだけは完全な嘘だ。」
「俺は学院なんて、最初からどうでもよかった。」
「ただ借金を返して……」
「その後は安心して一生眠っていたい。」
……
「アハハハ……」
……
イラリア:
「でも……」
「あなた、家族を養っていたって言ったわよね?」
「それなのに、家族はもういないって……?」
……
「……」
……
「くそ。」
「アドリブしすぎた。」
……
「えっと……」
「それは……」
「つまり……」
「その……」
……
「ああ……」
「疑われてる。」
「頑張れ、ハリール。」
「考えろ。」
「こういう時、普通のモブならどうする?」
……
「……思いついた。」
……
「俺が言いたかったのは……」
「家族が、今は俺のそばにいないってことだ。」
……
「でも……」
「今でも俺の中にいる。」
……
「俺の考えの中に。」
「俺が何かを決めるたびに、その存在を思い出す。」
イラリア:
「……」
……
イラリア:
「本当に……?」
……
イラリア:
「あなたの家族って、素敵な人たちだったのね。」
「いつか、また会えるといいわね。」
……
「ああ……」
「成功した。」
「信じたぞ。」
……
「さあな……」
「いつか、そうなるかもしれない。」
……
「まあ……」
「そもそも、この身体の持ち主に家族がいたのかどうかすら、俺は知らない。」
「でも……」
「今はそれでいい。」
「その問題を調べるのは、未来の俺に任せよう。」
「今はもっと重要な問題がある。」
「……この場所から生きて出ることだ。」
……
「おーい……」
「なんか、前に光が見えるぞ。」
「いや……」
「まさか……」
「これって……」
「非常口か?」
イラリア:
「変ね……」
「ここまで歩いてきたのに、一度も魔物に遭遇しなかった。」
……
「うーん……」
「もし今回は、あのポンコツの言ってることが正しかったなら……」
「さすがに謝らないとな。」
「へへ……」
「いや……」
「ありえない。」
……
「おーい、お嬢様!」
「早く来てくれ!」
「穴を見つけたかもしれない!」
イラリア:
「分かった。」
「何も起こらないっていうのが、一番いい結果なのかもしれないわね。」
……
「うーん……」
「どうやら、登らないといけないらしい。」
イラリア:
「これが出口?」
……
「たぶん。」
……
イラリア:
「たぶん!?」
「さっき、出口があるって確信してるみたいに言ってなかった?」
……
「くそ……」
「忘れてた。」
……
「あは……」
「あははは……」
「もちろん。」
「もちろん、ここが出口だ。」
……
「頼む……」
「頼むぞ、シナリオ……」
「これを出口にしてくれ。」
「約束する……」
「俺はちゃんとモブの役割に徹する。」
「だから……」
「俺をまた中に戻さないでくれ。」
……
「おお……」
「風を感じる……」
……
「待て……」
……
「いや……」
……
「まさか……」
……
「これは……」
……
「空……?」
……
「うわぁ……」
……
「やっと……」
……
「外の空気……」
……
「太陽……」
……
「なんて素晴らしいんだ……」
……
「まさか……」
「ただ穴から出ただけで……」
「こんなに幸せを感じる日が来るなんて……」
……
「やっと……」
……
「奴隷……」
……
「……」
「なんで今、その言葉が出てくるんだよ。」
……
「また痛くなってきた。」
「生きて出られたっていうのに……」
イラリア:
「奴隷って……どういう意味?」
……
「くそ……」
「なんでいつも……」
「最高の瞬間に邪魔してくるんだよ……?」
……
「ああ……」
「違う。」
「そういう意味じゃない。」
イラリア:
「あなた、本当に……奴隷なの?」
……
「よし、ハリール。」
「考えろ。」
……
「……ああ。」
……
「俺も……」
「それに、お前も……」
「奴隷だ。」
イラリア:
「……何ですって?」
……
「うわっ!」
「待て待て待て!」
「聖なる魂を呼ぶな!」
「頼む!」
「一つくらい、魔法陣なしで会話を終わらせられないのか!?」
……
「くそ……」
「このゴリラ、他に言葉を知らないのか?」
「『聖なる魂よ……』しか言えないのかよ。」
……
「コホン……」
「お嬢様。」
……
「言い方を変えよう。」
イラリア:
「言葉には気をつけて。」
「はい……」
「はい……」
……
「俺が言いたかったのは……」
「人間はみんな……」
「もちろん、お嬢様は別として……」
「みんな……」
「何かの奴隷なんだ。」
イラリア:
「どういう意味?」
……
「くそ……」
「どうして哲学って、必要な時ほど役に立たないんだ?」
……
「よし……」
「アニメ哲学でいこう。」
……
「人は誰でも……」
「何かの奴隷なんだ。」
……
「ある人は……」
「金の奴隷。」
……
「別の人は……」
「野心の奴隷。」
……
「そしてまた別の人は……」
「夢の奴隷。」
……
「だから……」
「俺が『みんな奴隷だ』って言ったのは……」
「鎖につながれてるって意味じゃない。」
「自分の人生を動かしているものに縛られている、ってことだ。」
イラリア:
「あなたって、本当に変な人ね……」
「どうしてそんな考えが次々と出てくるの?」
イラリア:
「でも……」
「その考えは、たぶん正しいと思う。」
「私も……」
「結局は……」
「何かの奴隷なのかもしれない。」
……
「おお……」
「本当に納得したのか!?」
……
「くそっ、このゴリラめ……」
「『奴隷』って言っただけで、あと少しで殺されるところだったのに……」
「今度は自分から納得したのかよ!?」
……
「ああ……」
「女ってやつは……」
「本当に人間のルールが通用しないな。」
……
「さて……」
「偉大なる哲学者の皆さん……」
「心の底から感謝するよ。」
……
「あなたたちがいなかったら……」
「俺は今頃……」
「焼き肉になっていた。」
……
「おい、脇役キャラ……!」
……
「何!?」
「今の誰だ!?」
……
『ふざけるな、モブ!』
……
『俺たちの哲学を、まるで自分のものみたいに使うな!』
……
『訴えるぞ!』
……
「おい……」
「なんで急に怒ってるんだよ!?」
「俺はただ……」
「ちょっと借りただけだろ!」
……
「分かった……」
「分かったって。」
「じゃあ、哲学の無料宣伝をしてやったってことでいいだろ。」
……
「くそ……」
「ついに架空のキャラクターにまで絡まれ始めた……」
……
「ん……?」
……
「おい……」
「あれ……」
「ハーモニーじゃないか?」
……
「やっと……」
「やっと……」
「生きて帰ってきた……」
……
「奇跡だ……」
……
「これこそ……」
「モブなら誰もが待ち望む瞬間だ。」
……
「無事に帰って……」
「自分の惨めな日常へ戻る。」
……
「……ん?」
……
「お嬢様、来ないのか?」
「もうすぐ日が暮れるぞ。」
……
「まあ……」
「こんなゴリラを外に置いておくほうが、よっぽど危険だけどな。」
……
イラリア:
「そういえば……」
「一つ思い出したわ。」
「やらなければならないことがある。」
……
「よし、ハリール……」
「このシナリオは知ってるぞ。」
……
「さあ……」
「見せてもらおうじゃないか。」
……
「『お嬢様……』」
「『あなたのような女性を、一人で置いていくわけにはいきません。』」
……
「『それが俺の、主人公としての信念に反するからです。』」
……
「『たとえ俺が……』」
「『あなたのそばに残ることになったとしても。』」
……
「『本当に……私と一緒にいてくれるの?』」
……
「『あなたは、私の英雄よ。』」
……
「ハハハ……」
「いや……」
「それは主人公の役目だ。」
……
「俺は……」
……
「プロのモブだからな。」
……
「それじゃ、お嬢様……」
「どうか生き延びてくれ。」
……
「そして、また会おう……」
「……できれば、会いたくないけどな。」
……
「アハハハ……」
……
「よくやった、ハリール。」
「これが正しい行動だ。」
……
イラリア:
「普通は……」
「『あなたのような女性を、一人で置いていくわけにはいかない』って言うんじゃないの?」
……
「アハハハ……」
「そんなの、もう古いシナリオだよ、お嬢様ゴリラ。」
……
「もっと新しいシナリオを探してくれ。」
……
「おい!!」
「戻ってきたぞ!!」
……
兵士:
「おーい!」
「ヴィンだ!」
「やっと戻ってきたぞ!」
……
別の兵士:
「ハハハ!」
「本当に生きて帰ってきたのか?」
「お前の死体すら回収できないと思ってたぞ。」
……
「へへ……」
「モブの生存能力を……」
「絶対に甘く見るなよ。」
兵士:
「ハハハハハ!」
別の兵士:
「相変わらず変な冗談を言ってるな。」
……
「しまった……」
「宿!!」
……
「いや……」
「まさか……」
……
「遅刻した!?」
……
「うわああ……」
「俺、死んだ。」
……
「見える……」
……
「宿の主人……」
……
「ナイフを持ってる……」
……
『やっと戻ってきたな、この野郎……』
『罰を受ける時間だ。』
……
「うわああああああああああ!!」
「嫌だ!」
「嫌だ嫌だ嫌だ!!」
「まだ危険地帯から出てないぞ!!」
……
「おーい!」
「じゃあな!」
「運命が俺を生かしてくれたら、また会おう!」
兵士:
「ハハハ!」
別の兵士:
「なら、さっさと走れ、この馬鹿!」
……
イラリア:
「ふふ……」
……
「本当に……」
「変な人ね。」
……
「まあ……」
「私も戻らないと。」
兵士:
「おい……」
「見ろ。」
別の兵士:
「ん……?」
……
「待て……」
……
「あれは……」
「イラリアお嬢様……」
「コンティ・ヴラン公爵令嬢じゃないか?」
兵士:
「ああ。」
別の兵士:
「まさか……」
……
「公爵令嬢が……」
「あの少年と一緒にいたのか?」
兵士:
「ああ……」
……
「でも……」
「あいつ、奴隷じゃなかったか?」
……
ネフルタニア王都・正門前。
門番:
「イラリアお嬢様!」
「ご無事で何よりです!」
「公爵様も、お嬢様のことを大変心配されていました。」
イラリア:
「そう……?」
……
「それは、自分の目で確かめるわ。」
門番:
「門を開けろ!」
……
「早く!」
……
「公爵令嬢のお通りだ!」
イラリア:
「……ふーん。」
……
「たった一日いなかっただけで……」
「ずいぶん面倒なことになってるみたいね。」




