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18/58

ついに奴隷生活が終わった


一週間後――


「おーい、みんなー!」


「本日採れたて、新鮮な野菜だよー!」


「耐性を上げる魔石はいかがー!」


「最新流行の服はこちらー!」


……


「ふぅ……」


「一つ……」


「二つ……」


「三つ……」


ドンッ!


「次!」


「一つ……」


「二つ……」


「三つ……」


ドンッ!


……


「はぁ……」


「袋を運ぶのって、こんなに楽しかったんだな」


……


「……いや」


「やってない奴にとっては、って意味だけど」


……


「今日は日差しが強いな……」


「汗も止まらないし」


……


「……なんて思ってたのが、一週間前か」


「でも今は……」


「少しは慣れてきた気がする」


……


「変だな」


「これってつまり……俺、本物の労働者になったってことか?」


……


「いや」


「こんな現実、認められるか」


……


「俺はハリール」


「中身は立派な成人男性」


「年齢は二十三歳」


……


「こんなところにいるはずじゃないんだよ……」


「一日中、荷物を運ぶなんて……」


……


「まあ……」


「少なくとも、一つ変わったことはある」


……


「この馬だ」


……


「おお……」


「マストの爺さんの古い馬より、ずっといいじゃないか」


「俺がそう言ってたって、あいつには絶対言うなよ」


……


「まあ、こいつも数日後には逃げ出す気がするけどな……」


「爺さんの強欲さに気づいたら」


……


「どうやら、この馬は前の馬より強いみたいですね、旦那……」


「へへへ……」


「……いや」


「マストの爺さん」


マスト:


「おい!」


「誰が爺さんだ!」


……


「ん?」


「お前の意見なんて、俺が気にすると思うか?」


マスト:


「このクソガキ!」


「少し金を持ったくらいで調子に乗るな!」


……


「ほぉ……」


「今、なんて言った? 爺さん」


「悪い、よく聞こえなかった」


「なんだか、ずっと寝てない気がするんだよな……」


「さて……誰のせいだろう?」


マスト:


「おお……」


「誰のせいだったか、教えてやろうか?」


……


「いや……」


「無理しなくていい」


「仕事を続けるために、その貴重な息を取っておけ」


……


「そうだ」


「この馬、大事に扱えよ」


「お前の前の馬より高いんだからな」


……


「へへへ……」


「まあ、こいつも数日後には逃げ出すだろうけど」


「お前の強欲さに気づいたらな」


マスト:


「お前……」


……


「その時になって泣きついてくるなよ」


「まあ、今度飯でも持ってきてやる」


「期待するなよ?」


「せいぜい……硬いパン一個と」


「水の入った壺くらいだ」


……


「俺からのご褒美だ」


「俺って優しいからな」


マスト:


「優しい!?」


……


「アハハハハ!」


「毎日俺に感謝しろよ」


「お前が俺にしたことと同じことを、俺はしてないんだからな」


……


「じゃあな、爺さん」


マスト:


「だから爺さんと呼ぶなと言ってるだろ!」


……


「アハハハハ!」



---


「おーい……」


「どうやら、みんな俺のことを覚え始めたみたいだな」


女:


「あ、見て……フィンよ」


男:


「一週間前まで奴隷だったっていう、あの子か」


少女:


「最近、いつも新しい服を買ってるらしいよ」


別の少女:


「うちのお父さんだって、毎週そんなことできないのに」


……


「ふむ……」


「……待て」


「これが、いわゆる『有名になる』ってやつか?」


「ついに俺も、無名のモブから……」


「知名度のあるモブへと進化したのか?」


……


「大きな一歩だな、ハリール」



---


「はぁ……」


「今日は休むにはちょうどいい日だな」


……


「あ……」


……


「待て」


「忘れてた」


……


「俺、そもそも一週間前からずっと休みだったじゃん」


……


「アハハハハ!」


「どうやら俺の頭は、まだ奴隷時代から抜け出せてないらしい」



---


「おお……」


「どうも、視聴者の皆さん」


……


「はい」


「帰ってきました」


……


「みんなに会いたかったよ」


……


「……まあ」


「そこまででもないけど」


「大げさに受け取るなよ」



---


「ん?」


「何があったのか知りたいって?」


……


「仕方ないな」


「説明するしかなさそうだ」


……


「少しだけ時間を巻き戻そう」


……


「……その前に」


「制作費はどうなってる?」


……


「ああ、そうだった」


「まだ言ってなかったな」


……


「人生には、とても大切な哲学がある」


……


「金が喋れば……」


「誰もが黙る」


……


「そう」


「素晴らしい教訓だ」


……


「というわけで……」


「もう制作側には、俺みたいなモブに金をかけない言い訳はない」


「だって俺、金持ちになったからな」



---


【制作チームからのお知らせ】


視聴者の皆様から寄せられた「展開が速すぎる」「一部の出来事が分かりにくい」といった多数のご意見を受け、制作側は不本意ながら、回想および説明シーンを追加するための予算増額を決定しました。


主な原因:


← ハリール



---


「アハハハハ!」


「見たか!」


「ついに制作側まで、俺の重要性を認めたぞ!」


……


「さて……」


「どこまで話したっけ?」


……


「ああ、そうだ」


「ダンジョンから戻ってきた日の夜だ」


……


「ん?」


「なんだ、これ……俺のポケットに入ってる」


「この石……」


……


「そういえば、持って帰ってきたんだった」


……


「覚えてるか?」


「俺を追いかけ回してきた、あの犬の群れ」


「はぁ……」


「どうやら全部、この『案内役』を名乗るポンコツのせいだったらしい」


【通知】


【希少アイテムを検出しました】


【アイテムを回収してください】


……


「……は?」


「待て」


「今、希少って言ったか?」


【通知】


【アイテムの解析に失敗しました……検索を開始します】


……


「だよな」


「当然、分からないよな」


「なんで俺が、別の答えを期待したんだ?」


「石ころ一個のせいで死にかけたっていうのに、最後までその石が何なのかすら分からないのかよ」


……


「でも……」


「本当に希少なアイテムだとしたら……」


「つまり……」


……


「金だ」


「ついに……」


「人生を生きる価値があると思わせてくれる言葉が来た」


……


「よし、ハリール」


「馬鹿なことをするな」


「世界を救おうとするな」


「新しい冒険にも首を突っ込むな」


「石を売って……」


「金を手に入れて……」


「静かに暮らせ」


……


「そうだ」


「この世界に来てから、初めてのまともな作戦だ」


……


「問題は……」


「どこで売るか、だな」


……


「冒険者ギルド?」


「無理だ」


「冒険者カードも持ってない」


「それに、俺みたいなモブの話なんて誰も信じないだろ」


……


「なら……」


「怪しい店だ」


「出所をいちいち聞かずに、変な物でも買い取ってくれるような場所」


……


「よし」


「俺もこの世界に馴染んできたみたいだな」



---


チリン……


「こんにちは」


「おーい、変な爺さん……」


「いるか?」


商人:


「いるぞ」


「何の用だ?」


……


「うん」


「声だけで分かる」


「逃げろって言ってる」


……


「さて……」


「覚えておけ、ハリール」


「お前はモブだ」


「緊張しているところを見せるな」


「こういう時は……」


「自分が持っている物の価値を、最初から知っているように振る舞うんだ」


……


「おじさん」


「変な物でも買ってくれるか?」


商人:


「場合による」


……


「場合による?」


「安心できない答えだな」


商人:


「見せてみろ」


……


「分かった」


「でも笑うなよ」


「それから、価値がないなんて言うな」


「俺だって苦労して手に入れたんだからな」


商人:


「ここに置け」


……


「ふむ……」


……


「この沈黙……」


「嫌な予感しかしない」


商人:


「……」


……


「悪い物か?」


商人:


「いや」


……


「じゃあ、いい物か?」


商人:


「たぶんな」


……


「たぶん?」


「おじさん、買うのか買わないのか、それとも謎かけの講義でも始めるのか?」


商人:


「買おう」


……


「……早っ」


商人:


「三百枚の金貨だ」


……


「……」


「三百?」


……


「ふぅ……」


「いいか、ハリール」


「忘れるな」


「アニメの商人は、最初から本当の値段を提示したりしない」


……


「なるほど」


「俺を試してるんだな」


商人:


「どうする?」


……


「もちろん断る」


商人:


「なぜだ?」


……


「それは……」


「俺には、その値段が安すぎるように思えるからだ」


商人:


「七百」


……


「……お?」


……


「やっぱり、この石……かなり重要なんだな」


商人:


「これでどうだ?」


……


「まだ安い」


商人:


「千枚」


……


「千枚……」


……


「なるほど」


「ようやく分かった」


「これは普通の石じゃない」


商人:


「どうやら、お前は自分が何を持っているのか分かっていないようだな」


……


「その通りだ」


「だからこそ……」


「安く売るつもりはない」


商人:


「もっと高く買う奴が見つかるとでも?」


……


「いい質問だ」


……


「でも……」


「俺が見てきた物語では……」


「商人がそう言う時は、大抵その直後に『実は自分のほうが間違っていた』って展開になるんだよな」


商人:


「……物語?」


……


「なんでもない」


「個人的な哲学だ」


商人:


「……」


……


「じゃあいい」


「別の人に売ってみる」


商人:


「待て」


……


「……ん?」


……


「もしかして、取引を逃すのが怖くなったか?」


商人:


「違う」


「ただ、自分が価値を理解していない物を安く売ろうとしている奴を見るのが嫌いなだけだ」


……


「おお……」


「なかなか強い返しだな」


「なんだか、騙されてるのは俺のほうなんじゃないかって気がしてきたぞ」


商人:


「それで?」


……


「三千枚の金貨だ」


……


……


商人:


「三千枚?」


……


「そうだ」


商人:


「なぜだ?」


……


「俺が、それが妥当な値段だと決めたからだ」


商人:


「お前は価値を知らないだろう」


……


「そうだ」


「でも……お前は知っている」


……


「だから……」


「嫌なら断ればいい」


「それとも……払え」


商人:


「……」


……


「分かった」


「三千枚だ」


「取引成立だ」


……


「……」


「待て」


……


「こんな簡単に?」


商人:


「それが望みだったんだろう?」


……


「いや……」


「俺はただ……」


「交渉が危険な方向に進んだら逃げる準備をしてただけなんだけどな」



---


数分後――


「アハハハハハ!」


「嘘だろ!」


「金だ!」


「こんなに金がある!」


……


「馬鹿な勇者ども……」


「ありがとう」


「お前たちのおかげで……」


「俺は貧乏から抜け出したぞ!」


……


「さらば、借金!」


「さらば、奴隷生活!」


……


「そして、ようこそ……」


「自由!」


……


「よし、ハリール」


「最初にすることは……」


「誰かを救うことじゃない」


「危険な冒険に出ることでもない」


……


「普通の人間みたいに暮らすんだ」


……


「そして、生き残ることとは何の関係もない物を買う」


……


「そうだ」


「これこそ……」


「本当のモブ人生の始まりだ」



---


こうして俺は、あのマストの爺さんへの借金を返した。


新しい馬車を買い……


前の馬よりずっと良い馬を二頭買い……


さらにはアサミの宿のバルコニーまで、街で一番上等なガラスに取り替えた。


そして――


たった一週間で……


俺はついに、貧乏から抜け出したモブらしい生活を手に入れた。


……


「それと……」


「もう一つ、大事なことに気づいた」


「……ん?」


……


「どうした、お前たち?」


兵士たち:


「これからは、我々がお仕えいたします」


「フィン様」


……


「そうか……」


「はぁ……」


「金って、本当に記憶まで治療するんだな」


チリン……


チリン……


チリン……


「まあ……」


「忠誠には感謝しておく」


「これは、そのお礼だ」


兵士たち:


「ありがとうございます!」


「フィン様!」


……


「はぁ……」


「一週間前まで……」


「お前たちは俺を追いかけてたのにな」


「それが今じゃ……」


「『フィン様』だ」


……


「いいな……」


「実にいい」



---


チリン……


……


「おい……」


「爺さん」


「このドア、いつになったら直すんだ?」


「開けるたびに耳が痛くなるんだけど」


……


「おーい!」


「アサミの爺さん、どこにいる?」


「ここに価値のある客が来てるぞ」


アサミ:


「おや……」


「奴隷じゃないか」


……


「チッ……チッ……チッ……」


「はぁ……」


「俺がもう自由になったってこと、忘れたのか?」


「……爺さん」


アサミ:


「ああ……」


「悪かったな、ガキ」


「ついこの間まで奴隷だったからな」


……


「まあ……」


「気にするな」


「俺がいなくて寂しかったんだろ?」


「でも悪いな……」


「俺は別に、そうでもない」


アサミ:


「ほぉ……」


「自由になっても……」


「お前に対する俺の評価は変わらないらしい」


……


「ああ、そうか?」


「それは残念だな」


「でも、お前が美人の女だったら……」


「話は変わってたかもしれない」


……


「そういえば……」


「前から聞きたかったことが一つある」


アサミ:


「なんだ?」


……


「その筋肉……」


「人前に晒して、恥ずかしくないのか?」


……


「若い男なら、まだ分かるけど……」


「お前……」


……


「爺さんだぞ」


……


「俺なら……」


「仕事を引退して……」


「孫の面倒でも見るけどな」


……


「あ……」


……


「そういえば……」


……


「お前、嫁すらいないんだったな」


……


「ワハハハハハ!」


アサミ:


「……は」


「……は」


「……は」


「少し金を持ったからって、随分と調子に乗ったな」


……


「まあ……」


「俺が変わったと思うか?」


「でも、一つ分かったことがある」


……


「この圧倒的な力が俺の手の中にある限り……」


「そして、それがこの指の間で揺れている限り……」


「俺は法律の一部だ」


……


「そして法律っていうのは……」


「金を持つ者のために存在する」


「公平に……」


「そして、守るためにな」


「爺さん、お前のほうが俺よりよく分かってるんじゃないか?」


ドォォォン!!


アサミ:


「……はぁ」


「お前の言う通りかもしれんな、ガキ」


「それで……」


「素晴らしいお客様」


「今日は何をご注文で?」


……


「は……はい……」


「お……俺は……」


「最新の……」


「お……おすすめ料理を……」


「お……お願い……します……」


「アサミ……」


アサミ:


「……なんだ?」


……


「料理が欲しいのか?」


「……」


アサミ:


「なるほど」


「話すことすら戦いになったらしいな」



---


カチャ。


アサミ:


「では……」


「こちらの特別料理はどうだ?」


……


「は……はい……」


「こ……これは……」


「お……おいしい……」


「あり……がとう……」


「こ……こんな……」


「素晴らしい……」


「料理を……」


アサミ:


「よし」


「少なくとも、食事のありがたみは分かっているようだな」



---


十分後、宿の部屋。


「うああああっ!」


「あの爺、マジでなんなんだよ!」


「くそっ……くそっ……!」


「死ねばいいのに!」


……


「チッ……」


「ゲームのラスボスかよ……」


「何をやっても全然効かないじゃないか」


……


【通知】


【ハリールには復讐を計画しないことを推奨します】


「うるさい、このポンコツ!」


「モブの威厳がかかってるんだぞ!」


【通知】


【ハリールが復讐を望んだ場合――】


【成功する確率は2%を超えません】


……


「……」


「くそっ……」


「このポンコツを停止するボタンはないのか?」


……


「……まあいい」


「忘れよう」


「どうせ、お前はポンコツだ」


【通知】


【私はポンコツではありません】


……


「はいはい」


「分かったよ」


「お前はポンコツじゃない」


「ただ、俺を絶望させるような回答ばかりするプログラムってだけだ」


【通知】


【それは私の目的ではありません】


……


「はぁ……」


「じゃあ……」


「今持ってる金で、お前をアップデートすることはできるか?」


回答:


【不可能です】


……


「だよな」


「どうやら俺は、このポンコツスキルと一生付き合うしかないらしい」

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